江戸川乱歩『江戸川乱歩全集 第30巻 わが夢と真実』光文社文庫

ネタバレ特になし。
全集最終巻。表題の回想録と、「海外探偵小説作家と作品」という、ポケミスの前文として書かれた作家/作品紹介。
内容的には既視感のあるものがほとんどで、単著としてどうこういう感想には至らない。グレアム・グリーン読んでみたいなってぐらいかな。
これで30巻読み終えました。作家としては、その作品を大きく特徴づける耽美性とエログロ、そして求めて成就しなかった論理性の不得手と、「その呼称」には違和感があったのだけど、評論と後進育成における真摯さ、海外作品渉猟と紹介における熱意の「鬼」ぶり、そして作品の個人的評価は別として少年探偵団シリーズにおける啓蒙と、まさに大乱歩、紛れもなく「日本探偵小説の父」であるなあと実感しました。
そんな「父」の、青春の一幕がじんわり染みます。

その頃私と井上勝喜とは、本郷の団子坂の中ほどに古本屋を開いていて、むろん営業不振で、店はほかの人に任せて、(中略)探偵小説の話ばかりしていたものである。(中略)彼は一種の文学青年で、大人の小説は大抵読んでいたにもかかわらずぞっこん探偵小説に惚れ込んでしまい、私に本の名を聞いては、わざわざ図書館へ読みに行くのである。そしてこの世にわれわれの退屈を慰めてくれるものは探偵小説のほかにはない、まだこういう面白いものが残っていたのか、生きていてよかった、生きていてよかったと云い云いしたものである。
(143-144p)

御大が育ててくれた日本の探偵小説文化の中にいて、時代を経て同じ想いを共有できていることに感謝。
評価はビッグリスペクト。