保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』ちくま文庫

ネタバレ特になし。
楯の会事件」を描くノンフィクション。
非常に丹念で、克明で、客観的な、質の高いノンフィクションです。解説の鈴木邦男の言うように、「この一冊を読めば全てが分かる」決定版と言っていいものだと思う。
しかし同時に、いくら読んでも最後の(あるいは最初の)ところは「分からない」んだろうな、とも。これだけの知性が、狂的な天皇絶対視に傾斜し、自衛隊とその体制に絶望し、合理性のまったくない行動に奔らざるを得なかった、その根本のところは。
そしてその行動が社会に何らの変革ももたらさないまま45年を経た現在、三島の知性の一毛にも満たない愚昧の徒が、作家の美意識が決して許さなかっただろう醜悪さで以てそのなぞり書きをしている状況を、彼はどのように見ているだろうかと思うと、感傷を禁じ得ません。
寂寞寂寞。
評価はB。