uruya’s diary

夏山登山とツーリング。冬は鉄分多め。

中国英傑伝(上) / 海音寺潮五郎

中国英傑伝 (上) (文春文庫)

中国英傑伝 (上) (文春文庫)

英雄総登場

秦末動乱に群雄登場す。

鴻門の会

項羽覇王となり劉邦漢中王となる。

背水の陣

楚漢対立し争い激化す。

垓下の戦い

楚亡び大漢帝国成立す。

功臣大粛清

狡兎死して走狗烹らる。

呂氏一族鏖殺

呂后専横す。

覇者桓公

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史伝シリーズの中国版。史記をベースにした史伝・列伝。

全7編中6編が漢帝国成立までをほぼ時系列で紹介する。1本の長編史伝小説と言っていい。
才気煥発した激情家、天才型の猛将項羽。すべてにおいて項羽に劣るが、たったひとつだけ、能力のある者を信頼する度量のみが勝っていた劉邦。これは古今東西に通用する永遠のライバル像だろう。バトル型フィクションの世界では鉄板のフォーマットである。強大な敵に立ち向かう主人公が、仲間たちと協力しながら成長し、ついに打ち破るというパターン。司馬遷の脚色は多分にあるだろうが、これが史実としてのこっているのだから、現実は小説よりおもしろい。楚漢演義は中国史のなかでも屈指のおもしろさを誇る。

元来劉邦という人物は、単なるゴロツキの親分である。なんら才能はないが、なんとなく人に好かれる長者じみたところがあり、大将にかつぎあげられた。この男が、秦末の動乱に乗って流転していくうちに求心力を発揮し、異能の士がどんどん周囲に集まってくる。策を講じれば百発百中はずれることのない天才軍師張良、股くぐりの故事、背水の陣、半渡の計で知られる天才将軍韓信など、綺羅星のごとき人材だ。才能は、それを如何なく発揮できる場所を求めて集まってくるものだ。天下が項羽ではなく劉邦の手に落ちたのは、ごく自然なことだったろう。

だが、そうして集まってきた人材も、天下が定まれば無用有害のものとなる。声望の高い人物の存在は権力基盤にとって不安材料でしかない。心配のあまり国の柱石たる人物たちを次々に排除していった結果、呂氏による国家簒奪未遂を招く結果になったのは、皮肉なことだ。

残り一編は春秋時代、斉の桓公春秋五覇の一。本人より管仲鮑叔の列伝が有名。