あの夏、いちばん静かな橋。

 恒例(?)となりました、『聲の形』最新話に関してあれこれ考えたり悶えたりしようの回です(ネタバレと私の個人的感情に伴う冷静さを欠いた文章に注意)。


 さて、第52話「静寂」。前回は「こんな形で硝子の笑顔を見せられても、余計悲しいだけだろ!」と全硝子親衛隊員が大今先生に届かぬ怒声を飛ばしたことでしょうが、今回は「もう硝子の泣き顔は見てられない!いい加減、なんとかしてやってください!」とパンを求める民衆の如き悲痛な叫びがあちこちから聞こえてくるかのようです。本当、どうしてこの子ばかりが泣かなければいけないのでしょう。いやまあ、あの黒髪も何度か泣いてはいましたが、今となっては奴の涙にはちっとも私は感情を動かされません。

 それでも硝子の「聲」が届いたのか、将也が目覚めてくれました。復活第一声が「にひみやっ…!」なので(ざまーみろ、黒髪)、硝子に関する記憶を失ってしまったわけではなさそう。少なくとも「西宮」という言葉は覚えている。しかし、ちっともホッとできない。次回が最終回だというなら、もっと安心できたことでしょう。ですが、まだあと一巻分残っているわけです。一巻あれば色々できます。具体的には、硝子と出会う前の将也〜硝子と出会う将也〜高校で硝子と再会する将也まで描けるわけです(『聲の形』第1巻参照)。『木曜日のフルット』(最新刊を今週のマガジンと一緒に購入しました)の白川先生なら、もっと盛りだくさんの内容を詰め込めることでしょう。だから、安心できないのです。なにせ、『聲の形』の作者は鬼……訂正・ラムちゃんな大今先生。どんな「ダーリン、駄目だっちゃ!」な展開を企んでいることか。でも、声を大にして言いたい。

 もう硝子は幸せにしてあげてくれたっていいでしょう!

 正直、将也がこの先も大変な目に遭うのだったら、まだ見ていられます。1巻を読みなおせば、「まあ、こいつはしょうがないか……」という気になってきますから。ですが、硝子は……。どうして、あの黒髪が祭りでも楽しそうにして、病室の将也にも色々やらかしているのに、硝子は見舞いの花すら捨てられてしまっているのか(私の中では、あの黒髪は『マッドマックス』並みに分かりやすい悪役と化しています)。解せない、解せない、解せない……。

聲の形(6) (講談社コミックス)

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聲の形(5) (講談社コミックス)

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 ちょっとクールダウンして、軽く考察モードへ。改めて考えてみると、現時点で将硝、特に将也と今後も良い関係を築いていけそうな感じに描かれているのは、基本的に高校以降の新しい関係である。少し前までは、「ガムシロ組とそれ以外」という予想が多かったのだが、真柴がどうやら「良い関係を築けそうな組」に入ったことによって、「小学組」と「高校組」の線引きの方がしっくりきそうな形となっている。佐原は小学組ではないか、と思うかもしれないが、彼女は不登校になる前から、将也とはほとんど交流はなかったし、硝子との関係だって実質的には築けていない(築く前に不登校に追いやられてしまった)。逆に、小学校から将也と関係が濃かった植野、川井、島田、広瀬は、どうやら「分かり合えない人達」として描かれていきそうだ。大今先生はインタビューで「和解だけが救いの形ではない」と述べていたが、この小学組がそういった形での決着を迎えるのではないかと予想される。

 これは、他の考察ブログや感想などでたまに見られる「過去からの卒業が必要」といった意見にもかかわってきそうな話でもある。前を向いて生きていくための、過去との決別。あるいは、残酷な現実として「壊れたものはもとには戻らない」ということも描こうとしているのかもしれない(劇中においては「壊したもの/奪ったもの」あるいは「壊されたもの/奪われたもの」と語られるが、「硝子の幸せかもしれなかった小学校時代を将也が壊した」というのはともかく、「将也の楽しかった小学校時代」が壊れたのは、前回も書いたが、不寛容な人間たちが勝手に自滅しただけとも言えて、硝子のせいとは言えないはずなのだが、この辺りはどう決着をつけるのだろう。これは、すなわち植野の「西宮さんがいなければみんなハッピーだった」という考えが、この後どう描かれていくかということでもあるわけで、かなり重要な問題だと思う)。

 以前、このブログでも書いた「諦める力」的なものとも無縁ではないだろう。単純な他者への攻撃性などは別として、立場というか、その本質としていちばん弱いのは、ある意味「諦めることも、卒業することもできていない」植野だと思う。そして、厄介なことに、植野自身がどこまで「自分は弱い」と考えているかは怪しいところで、やたらと「甘えだ」と他者を批判する者や健常者差別なんてことを言いだしたりする側の弱さゆえの攻撃性/暴力性という問題を考えれば、この植野の描かれ方は非常に批評的なものだとも感じる。

 さて、そう考えていくと、第41話「みんな」で、神視点的にメインキャラクターの姿が描かれた際、「顔が見えているか見えていないかが、今後分かり合える存在となるかどうかを表しているのでは?」(ちなみに、植野のみ横顔で、分かりあえた組の中の数人とは関係が続くのでは? あるいは、双方の橋渡し的な存在になるのでは? といった予想も出ていた)という指摘が割とあって、私自身も「なるほど」と思ったのだが、今になってみると、むしろ単純に「あの花火の下で、楽しそうにしているかしていないか(悩んでいる様子があるかどうか)」ということの方が重要だったのかもしれない。打ち上げ花火、楽しく見るか、悲しく見るか。将也と硝子は言うに及ばず(どちらも笑顔は見せているが、あまりに悲しい空元気と死を決意した作り笑顔なわけで)、佐原と永束は部屋やベランダから寂しそうに花火を眺め、真柴にいたっては、花火を見てすらおらず、一人で夜道を歩いている。対して家族と一緒に花火観覧する川井に、弟たちと祭りの会場にいる、あまり重い時間を過ごしているようには見えない植野。彼女らしき女性まで連れていやがる広瀬(「石田落ちた笑」っていう文章も酷いよなあ)。ただ、島田がちょっと微妙で、屋台で働いている背景などがまだよく分からない以上、なんとも言えない。そもそも島田は、小学生の頃から「心から楽しそうな表情」というものを見せていない。

諦める力?勝てないのは努力が足りないからじゃない

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打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか? [DVD]

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 ところで、『聲の形』に限らず、好きなマンガや小説などに自分なりのテーマソングを決める人というのは結構いて、まあ私もよくやる口ですが、こういうのはそれぞれのセンスがよく現われて面白い反面、大抵他人の選んだものを見ると「うわっ、センスねえな」と思ったりもするわけです。『聲の形』に関しては、私は特にそういう気分を他人の選曲で感じたりしているわけですが、それは『聲の形』に対する思い入れの強さということもありますが、そもそも音楽はいらないのではないか、というのがあるわけです。

 北野武監督作『あの夏、いちばん静かな海。』の久石譲の音楽さえ、一部からは邪魔だとされたわけです。たとえ「歌」としては良い歌でも、『聲の形』という作品に、うるさいくらい(単純に声が大きいという意味ではなく、歌唱法/歌唱の癖的な意味で)の歌声を被せるのは、演出としてどうかと思うわけです。徳永英明桑田佳祐の楽曲をテーマソングにしているファンの方を見かけましたが、私もアーティストとしての徳永さんや桑田さんは結構好きですが、両者とも典型的な「歌声に説得力のあり過ぎるタイプ(度を超すと尾崎紀世彦トム・ジョーンズ的な暑苦しさに発展し兼ねない危うさがあります)」であり、「静寂」とはほど遠いわけです。どうしても「歌」を選ぶ場合、その辺りをもっと考慮すべきなんじゃないかな、と思う。たとえば、映画『誰も知らない』でテーマ曲を担当したタテタカコのような、消え入りそうな声とかの方が良いと個人的には思う。「宝石」は、そのまま『聲の形』のテーマにしてもあまり違和感はない。ただし、Coccoは嫌だ。


タテタカコ/宝石

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あの夏、いちばん静かな海

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誰も知らない [DVD]

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映画「誰も知らない」サウンドトラック

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そら

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以下、遊びネタ。

将硝どうでしょう(水曜どうでしょう×聲の形)第2話
 ※マガジンは水曜発売です。

永束「やーしょー……。やーしょーが寝てる間、色々大変だったんだぞ……」
将也「いいよずっといいよ、なに言ってんだよ。まだ永束君は西宮とか佐原と一緒にいれたんだからいいよ、オレの隣りなんか植野だぞ。最悪だぞ。まあ、永束君も植野となんかあったみたいだけどさあ、まだいいよ、傍にはいっつも西宮に結弦に佐原なんだから。これは全読者が羨ましがるぜ。俺だって、病院来るまではいいよ。西宮と一緒にいれたもん。読者のみんな羨ましいと思うよ。病室じゃ植野だよぉ」
永束「……最悪だな」
将也「最悪だよ。オレは黒髪ヒステリー女と同じ部屋で寝たかないんだよ」
植野「……(カチッ(怒))バチッ!」
将也「叩いたか!お前!」
植野「なにが?」
将也「遂に……お前、この……病み上がりのオレに対し、お前……遂に、暴力を!」
植野「蚊がいたんだ」
(『水曜どうでしょう「リヤカーで喜界島一周」』より)



聲の形』に関することをメインにしたエントリの目次ページ。
 http://d.hatena.ne.jp/uryuu1969/20150208/1423380709