ワクチン「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の嘘」の検証(3)HPV検査は子宮頸がんを調べていない?

<2011. 11. 3追記>
検証の内容を、専門用語少なめでわかりやすくまとめたバージョンを作りました。
難しいのがイヤな方、概要を知りたい方はこちらをどうぞ。
「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の嘘」の検証をわかりやすく



シリーズ3回目。下記もあわせてどうぞ。


前回、前々回に引き続き、マイク・アダムスの「特別レポート HPV(子宮頸癌)ワクチンの大インチキを暴く」( h ttp://ja.naturalnews.com/?p=237#more-237)を検証する。


今回は、HiFi DNA TechがFDAに提出した請願書RECLASSIFICATION PETITION FOR Human Papillomavirus (HPV) DNA Nested Polymerase Chain Reaction (PCR) Detectionについて検証する。


その前に、2つほど注意点を。
まず、この請願書は、HiFi DNA Techという一企業が、「医療機器のクラス分類の見直しをして欲しいとFDAに訴える」ために提出した書類であるということだ。書かれた目的からしても、この文書については、内容が科学的に妥当であるという保証はない。そのため、この文書の内容については、参考程度に留めるべきであろう。そういう意味では前回、前々回紹介したFDAの公式文書とは性質が異なる。ここでは、あくまで「この文書が主張していることはなんなのか」という検証を主体としている。


それから、これは前回のエントリーの前にはっきり書いておくべきだったと思っていること。
HPVが子宮頸がんの原因となることについては、疫学から分子生物学まで、色々な証拠が蓄積されてきていて、「ほぼ間違いない」と今では世界中の医師や研究者が認識している、ということである。HPV感染が、どのようにがんを起こすかの具体的なメカニズムも解明されつつあるようだ。


日本語の総説として、日本ウイルス学会の学会誌「ウイルス」の会報をいくつか挙げておく。

HPVの特集で、「ヒトパピローマウイルスによる発がんの分子機構」「HPVワクチンによる子宮頸癌予防」収録。

子宮頸癌発症機構における Human papillomavirus (HPV)の役割と抗HPVワクチン療法の開発

「発がんのリスクを決めるのは持続感染」、持続感染を起こすのはHPV

さて、マイク・アダムスレポートの以下の部分を検証してみよう。

ワクチンがなくともHPV感染は消散する


分類見直し請願書が明らかにしたように、HPV感染は自然に終息する。つまり、薬やワクチンによる介入の必要もなく、自然に制御されるということで ある。子宮頸癌を引き起こしているのはHPVウィルスそのものではなく、患者の側の持続的な不健康状態が、持続的な感染に陥りやすい環境を作っているのである。


請願書にはこう書いてある。


過去15年間で新たに公表された科学情報に基づき、HPV感染の特定と類型化*1は、子宮頸癌のリスク階層化と直接の関係 を有しないことが、いまや一般的に合意されている。HPVを原因とする大半の急性感染は、自然に終息する。(略)順次発生する一過性のHPV感染の繰り返しは、たとえ「危険性の高い」HPVによって引き起こされた場合であっても、その特性からして、子宮頸癌の前触れである扁平上皮内病変(SIL)を発生させる高いリスクと関連性がない。


何度もHPVの同じ株(遺伝子型)に陽性反応の出る女性は、持続性のHPV感染を患っている可能性が高く、頸部に上皮内前癌病変を発達させるリスクが高いと考えられている。癌のリスクを決定するのは、持続性の感染であって、ウィルスではない。


またしても、結論が飛躍している。

子宮頸癌を引き起こしているのはHPVウィルスそのものではなく、患者の側の持続的な不健康状態が、持続的な感染に陥りやすい環境を作っているのである。

「患者の側の持続的な不健康状態が、持続的な感染に陥りやすい環境を作っている」のが仮に事実だとしても*2、それは持続感染を起こすリスク因子の説明であって、HPV感染が子宮頸がんの原因となることを否定することにはならない (いくら不健康状態でも、HPVに感染しないかぎり、持続感染は起きない)。つまり、「患者の不健康状態」は子宮頸がんのリスク因子の一つであるというだけのことだ。


疾患には複数のリスク因子が存在して当然だ。HPV感染から始まる「子宮頸がんへの道」の途中にある分かれ道の一つに、「患者の健康状態」があったとしても、それは道の始まりがHPV感染であったことを否定することにはならないのだ*3


上記の「(略)」部分には、こう書かれている。

発がんにおいて、腫瘍プロモーター*4として働く可能性があるのは、HPVの持続感染である。HPVの型判定を行うことは、HPVの持続感染をおこしている患者をフォローするための重要な手段である。


RECLASSIFICATION PETITION FOR Human Papillomavirus (HPV) DNA Nested Polymerase Chain Reaction (PCR) Detection, HiFi DNA Tech, MARCH 7, 2007

つまり、HiFi DNA Techの主張は、「HPVに感染しているかどうかを調べることは、子宮頸がんのリスクを調べることにはならない。なぜなら、ほとんどの感染は一過性でがんにつながらないから。ただし、HPVに持続感染している人のフォローには、HPVの型を調べることが重要だ」というものである。
つまり、前回のFDAの文書同様、HPVが子宮頸がんの原因となることは前提として、持続感染者のフォローを行う重要性を述べているのである。

癌のリスクを決定するのは、持続性の感染であって、ウィルスではない。

この部分は、上記をふまえれば、「一過性のHPV感染は自然に消滅するので、HPVの存在だけではがんのリスクが高くなるとは言えない。しかし繰り返し同一のHPVが検出される持続感染は、がんのリスクを上昇させるので、注意をはらうべきだ」という意味であり、ここを引用して「HPVががんの原因ではないと言っている」と主張するのはまったくもって無理があるのだ。
「持続性の感染」を起こすのは、他ならぬHPVなのだから。

「がんのリスク階層化」とがんの原因であるということ

それでも、「HPVががんの原因になるのが本当だとしたら、HPV検査は子宮頸がんのリスク階層化ではないというのは納得できない。」と考える人もいるかもしれない。


では、「リスク階層化」とはなにか。
何らかの指標を用いて、個人のがんになるリスクの大きさを分類することである。


前述の文献「子宮頸癌発症機構における Human papillomavirus (HPV)の役割と抗HPVワクチン療法の開発」によれば、米国CDCのデータで、HPV感染例のうち、浸潤癌に進行するのは0.13%以下であるという。これでは、例えば「HPV検査陽性=今HPVに感染している人」を、全員「子宮頸がんのリスクあり」に分類してしまったら、99.8%以上が「空振り」になり、恐ろしく効率が悪い検査となってしまう。
検査というのは、「陽性とされたが本当は陽性でなかった人」(偽陽性)が多過ぎると困るのだ。


そういう意味で、HPV感染の有無を調べる検査を、子宮頸がんの検査として使用することは不適切であるというのが、HiFi DNA Techの主張である。
つまり、HPV感染者のうち、子宮頸がん発症に進行する割合は低いので、がんのリスク階層化に用いるのは不適当、ということだ。


検査として、がんのリスク階層化に用いられるかということと、原因であるかどうかということは、また別の問題なのである。
実際には、現在、HPV検査は細胞診と併用し、より検査精度を高めるために行われているようだ。


子宮頸がんの検査と、HPV DNA検査の関係について詳しく知りたい場合は以下の資料が参考になるだろう。

特にQ13, 14あたり。

HiFi DNA Techの主張とは

そもそもHiFi DNA TechがFDAに提出した請願書が言いたいことはなんなのか。
それを理解するには米国の医療機器の認可制度についての理解が必要だが、マイク・アダムスレポートのこの説明には、かなりの誤りがある。

FDAのルールに基づき、クラスIIIウィルス検査機器は、FDAによって「市販前承認」を得たものとみなされる。つまり、まだ一般に販売できないとい うことだ。こうした機器を一般に販売するためには、クラスII(特別管理状態)に降格させなければならない。
(略)
別の言葉で言えば、クラスII機器は、安全かもしれないし、実は安全でないかもしれないが、一般に流通しても十分安全であるとFDAが判断した機器である。


京都府薬務課の作成したPDFに、海外の薬事制度の概要が記載されている
これによれば、米国での医療機器のクラス分類であるが、クラスは医療機器のリスクに応じてI〜IIIに国が分類している。
クラスIIIは販売できず、クラスIIになったら販売できるというわけではなく、医療機器はすべてI〜IIIのどれかに分類されているのだ。クラスII、IIIはどちらも販売前にFDAによる承認が必要であるが、販売するための手続きや、市販後調査のたいへんさに天と地ほどの違いがある*5

  • クラスIII   臨床試験データが必要、審査期間1年近く、審査料は $281,600 (小企業 $107,000)、 市販後調査は3年間必要。
  • クラスII   臨床試験データは一部を除き不要、審査期間3、4ヶ月、 審査料$4,158 (小企業 $3,326)、市販後調査は不要。


このクラスは、機器ごとに法律で定められていて、通常は変更されることはない。だからこそ、HiFi DNA Techは自社のPCRによるHPV検査キットをクラスIIに下げてほしいと、FDAに請願しているのだ。それで、「HPVのDNAを検出することは、がん自体の診断ではないのだから、リスクは低い。クラスIIが適当だ」と主張しているのである。


さて、今回までで「マイク・アダムスレポート」の検証は終わりである。
じっくり元の資料を読むと、このレポートの内容とはかなり異なることが書かれていることが分かる。
どういう主張をするにせよ、資料の内容をねじ曲げて結論を出したり、都合のいい部分だけ抜き出して引用したり、やたらと衝撃的なフレーズを使って誇張するというのはいただけない。


自分自身の今回の反省としては、一つ一つの項目がかなり長くなり、難解になってしまったことが悔やまれる。
これは私の作文能力の未熟さによるもので、正確な記述を優先したためこうなってしまった。
この「検証」は、そもそも、「こんな記事見たんだけど、HPVワクチンってあぶないの?」って思ってしまった保護者の方に、「こういう情報もありますよ」と提供したくて始めたものだったので、そこからはかなり逸れてしまったと後悔している。
そのため、次回、これまでの3回分の内容を、できるだけわかりやすくまとめることにチャレンジしてみようと思っている。


また、HPVワクチンについては、この他にもまだまだ多くの神話がある。
(例えば、「不妊になる」など。)
これらについても、いずれきちんと検証してみたい。

*1:原文は「identifying and typing HPV」HPVのDNAを調べて、型を特定することを指す。このブログでは、「HPVの型判定」と訳している

*2:前述の参考文献によれば、持続感染成立の可否には、HPVが感染した細胞の種類や患者の免疫応答が関与していると考えられているようだ

*3:ついでに言えば、HPVワクチンは、「持続感染を起こしにくい患者の状態」をあらかじめ作るものに他ならない

*4:腫瘍形成を促進する物質

*5:私はかつて零細医療機器製造販売業社で薬事申請の仕事をしていたので「臨床試験あり」の重みが想像できる。社内で行うにせよ、外注するにせよ、小企業にとっては洒落にならない負担とリスクである。