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2012-05-26

結局日本のがんは増えているのか?

「日本ではがんがどんどん増えている。これは◯◯のせいである」
◯◯の中には添加物ワクチン農薬遺伝子組み換え食品、製薬会社の陰謀等、何を入れてもいいのですが、定番の脅し文句として使われています。では実際のところどうなのでしょうか?


日本におけるがんに関する統計を取りまとめている独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報サービスの中にがんに関する統計のページがあります。その「まとめ」を見ますと、以下のように書いてあります。

  • がんの死亡数と罹患数はともに増加し続けている。
  • がんの死亡数と罹患数の増加の主な要因は人口の高齢化


確かに、日本ではがんが増え続けているようです。同じページには、「2009年のがん死亡数は1975年の約2.5倍」とも書かれています。たいへんな増え方です。やはり、日本はどこかおかしくなっているのではないでしょうか?でも、「増加の主な要因は人口の高齢化」とあります。これはどういうことでしょう?


同じサイトのグラフデータベースで、「全部位のがんによる年齢階級別死亡率(2009年)/同罹患率*1」を見てみます。

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罹患率、死亡率共に、40代から上がり始め、年齢が上がるとともにどんどん上昇する傾向にあります。がんは、老化と密接な関係にあるのです。このグラフを見れば、高齢者の数が増えればがんの罹患数が増えることには納得できます。一方、統計局ホームページを見ますと、1975年に1000万人足らずだった65歳以上の高齢者が、2005年には2500万人以上になっており、確かに高齢化ががんの増加の原因と言えそうです。


さて、ではこの高齢化の影響を除いた場合はどうなるのでしょうか?それには、「年齢調整罹患率/死亡率」を見ます。これは、「もし人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう罹患率/死亡率」で、「集団全体の罹患率/死亡率を、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められ」ます(「がん統計の用語集」より)。

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がんの統計’11図18「がん年齢調整死亡率・罹患率年次推移」より
*片対数グラフになっています。

がん情報サービスの統計情報から、「がん年齢調整死亡率・罹患率年次推移」のグラフです。これを見ますと、死亡率と罹患率で異なる傾向があることが分かります。死亡率はほぼ一貫して減少していますが、罹患率1990年まで上昇し、その後横ばい、2000年から再び上昇しています。年齢調整罹患率が上昇しているのに、死亡率が低下しているということは、がん検診の普及や治療法の進歩により、「がんを治すことができるようになってきている」と言えるでしょう。では、年齢調整罹患率の上昇の原因は何なのでしょうか?

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がんの統計’11図16「がん年齢調整罹患率年次推移(1975〜2006年) 」より
*片対数グラフになっています。

こちらのがんの「部位別年齢調整罹患率の推移」を見ますと、2000年以降、悪性リンパ腫甲状腺がん、女性の乳がん、子宮がんなどが増加傾向にあるのがわかります。また、逆に胃がんなど減少傾向のものもあります。 部位別がんのリスク要因・予防要因では、それぞれのがんのリスク要因や予防要因が紹介されていて、がんの増加や減少がなぜ起こっているのか考えるヒントになりそうです。例えば、乳がんリスク要因として「初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がないこと」が挙げられており、現代日本の女性で乳がんリスクが増加しているのは明らかです。検診に行かなければ、という気持ちになります。また、少しややこしい話になりますが、がん早期発見対策が成功した場合(検診を受ける人が増えた場合など)、一時的にがん罹患率が上昇したあと安定し、死亡率が減少するという傾向が見られます


これまでの結論をまとめておきます。



一言で「がんが増えている」と言っても個別のがんにはそれぞれ異なるリスク要因があり、一概に「がんが増え続けるのは◯◯のせい」とは言えないのです。個別のがんについて、何がリスク要因になりうるかは、疫学調査などで検証してはじめて言えることです。また、罹患率の上昇は、早期発見対策の成功を示すものである可能性もありますから、短期的には判断できません。もちろん、「用心のために怪しいものは避ける」のはアリだと思いますが、万能な脅し文句としての「がんが増えている!」には注意したいものです。たとえば、何万人規模の統計データを見ても「がんの原因なのかどうなのかはっきりしていない」というようなものや、「動物実験で通常摂取する量の何万倍かを投与したら発がん性を示すデータが発表されたが、再現性が確認されていない」ようなものを避けるために、明らかに体に害のあることや、ものすごく手間やお金のかかることをするのは、ナンセンスだと個人的には思います。「がんのリスクがあるかも知れない」ということにだけ着目すると、そのようなことをしてしまうかも知れませんから、ちょっと立ち止まって、少し視野を拡げて考えるようにしたいものです。

*1罹患率とは、1年間に新たにがんになる人の割合(人口10万対)で、がん登録からの推定値です。