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クラシック名盤・名曲と消費 生活 趣味

SONY WALKMAN NW-ZX300を買った

SONYウォークマンXZシリーズ『NW-ZX300』を買った。


ZXシリーズとしては、後継のZX500、ZX707が販売されたので二世代前の型落ち機種となる。新しい機種ほど音質も向上したのかもしれないが、OSにアンドロイドを採用し音楽配信サービスに対応したZX500とZX707に私はそれほど魅力を感じていなかった。買うならZX300と思っているうちに、新しいものが発売され、買いづらくなっていた。だから型落ちというのは気にならず、というか、元々ZX300を狙っていたところに、amazonに良心的な価格で「ほぼ新品」が出品されていたため、思わず注文していた。


www.sony.jp



ZX300は区分としては高級機なので、エイジング前提で作られている。ある程度の時間鳴らしてみないと本来の音にならないということだ。ソニーによれば、200時間音楽を鳴らすことで本来の音質に到達する、とされている。バランス接続、アンバランス接続、Bluetoothそれぞれについて200時間必要なのかわからないが、かなりの時間鳴らさないといけないことになる。

SONY WALKMAN NW-ZX300


箱から出して音楽を入れて、まず聴いてみたところ、特段悪くない。というか文句ないレベルだ。楽器でいえば、奏者が変わったようだ。ウォークマンA50や、iPod touchと比べると、埋められない差を感じる。車の排気量が違うかのように、低音から高音まで量感もたっぷりだ。ヘッドホンをバランス接続したことも影響しているのだろうが、左右の分離も素晴らしく、今まで聴いていた音楽が別物に感じられる。高級機の力を見せつけられた。これがどのように変化していくのだろうか。


現在は200時間のエージングにはまだ至っていない。ほとんどがバランス接続で、まだ70時間くらいとなっている。しかしそれでも変化を感じている。まず50時間を超えたあたりから、音がまろやかになった。デジタルっぽさが少なくなり、アナログレコードみたいな豊かな諧調を表現するようになってきた。楽器や人の声の生の音に近い方向に進んでいるように思える。


いままで聴いてきた音楽を聴き直してみる。再生装置が変わったことによる新しい発見がある。音楽鑑賞がさらに楽しくなってきた。

ユリアンナ・アヴデーエワとブリュッヘン・18世紀オーケストラのショパン

2012年に録音されたアヴデーエワショパンのCDを聴いている。指揮はフランス・ブリュッヘン、オーケストラは18世紀オーケストラだ。


このCDの特徴を一言で述べるのなら、歴史的なピアノとオリジナル楽器オーケストラの共演でかつ空前絶後の名演ということになる。


Chopin: Piano Concertos Nos. 1

Chopin: Piano Concertos Nos. 1

Amazon


この演奏でアヴデーエワは、スタインウェイヤマハのピアノではなく、ショパン没年の銘器「1849年製のエラール」を使用。楽譜には、ヤン・エキエル校訂のナショナル・エディションを採用している。ショパン国際コンクールの覇者が、モダンピアノを使用して演奏する機会は多いはずだし、ファン(リスナー)からはそういう演奏を望まれているはずだが、アヴデーエワはそういう道を選ばない。私もこのCDが発売されたとき、意外で、もう少し言うと少々、残念に思ったものだった。しかい聴いてみてそんな予想は見事に裏切られた。凄い演奏だった。仮にモダンピアノの録音であれば、ショパンコンクールのライブ録音という素晴らしい演奏が残されている。違ったアプローチからショパンに迫ってみたいという気持ちは一流の演奏家として当然持っているはずのものだ。そしてその結果、この演奏は違ったアプローチからの最高峰の演奏となっている。


収録される1番と2番は、2番から先に演奏される。よく似たタイプの2曲だが、このCDではより大きな規模の一番を後ろに持ってきている。演奏を聴いてまず感じるのが、オーケストラパートの味わい深さだ。ピアノパートに比べ、面白くないといわれることの多いオーケストラパートで、しかも古楽器オーケストラであるのに意外だった。個々のパートが溶けあうのではなく、それぞれの色を主張し合っており、並走する走者が横一線に並ぶようなスリリングな演奏となっている。各パートの競演によるなんとも豊かな響き。密度が濃く、「解像度高め」の演奏となっている。オーディオファンの人があれば、このCDは是非揃えておいてほしい。音がすこぶる良い。


アヴデーエワのピアノは、テクニックは完璧で、テンポも心地よく、古い楽器の限界を感じさせない。気持ちを持っていかれるような没入感はアヴデーエワならではの長所だ。とりわけ第1番の第2楽章の美しくも儚い旋律。恐るべき表現力。忘我の境地に至るように音楽の流れに身をゆだねる。他の楽章もすべて素晴らしく、全体的には叙事詩のように壮大でロマン溢れる熱演となっている。


また協奏曲の演奏としてもブリュッヘンの音楽作りと完璧に調和し、これ以上注文の付け所のない演奏となっている。


ショパン国際コンクールのライブCD

大阪フィル『大植英次指揮 躍動の第九』ザ・シンフォニーホール

大フィル×大植英次指揮によるベートーヴェン交響曲第9番(以下、「第九」)の演奏会のため、ザ・シンフォニーホールに行ってきた。

ここ数年、仕事が忙しく、また家庭においても子供がまだまだ手がかかり夫婦共働きでもあるのでコンサートに行くことも激減した。しかし子供も小さいなりに大きくなってきたので、今年最後の思い出として、やり繰りして、思い切って行くことにした。行ってみて、やはり行ってよかったと思っている。感動のままにおよそ3年ぶりとなったブログに書いてみる。

www.asahi.co.jp

大植英次指揮 躍動の第九】

2022年12月18日(日) 14:00 開演

[指揮]大植英次
[管弦楽]大阪フィルハーモニー交響楽団
[合唱]大阪フィルハーモニー合唱団
[ソプラノ]秦茂子 [アルト]福原寿美枝
[テノール]清水徹太郎 [バリトン]萩原潤

プログラム:ベートーヴェン交響曲 第9番 ニ短調 「合唱付」 op.125
会場 :ザ・シンフォニーホール

昼は家で済ませ、会場に着いたのは開演10分前だった。会場に向かう人の流れはもう少なくなってきていた。会場の雰囲気を味わうためにももう少し早く来ればよかった。

私は席に着き、周囲を眺めてみると、満員に近い状態だった。稀に空席が見られるが、急な用事や病気などで来られなくなった人なのかもしれない。さすが大植✕第九。人気の一大イベントだ。客層は、ハイソサエティな感じで、オペラほどではないにしても、着物の人も何人かいた。近くの人が付けている腕時計が見えたと思ったらブルガリだった。普段よりもシックな装いでわざわざ出かけて行く催し(クラシック音楽の演奏会など)に私は疎くなっているので、久しぶりにこういう雰囲気を味わうことができてよかった。

開演時間を迎え、オーケストラ、合唱団が登場する。オーケストラの配置は、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンが指揮者を挟んで左右に位置する対向配置だった。そして第一ヴァイオリンから時計回りにチェロ、ヴィオラ。第一ヴァイオリンに奥にコントラバス。弦楽セクションの後ろに、木管セクション、その奥の列、正面左側に金管ティンパニなどの打楽器はステージ後方、右奥という配置だった。

合唱団はパイプオルガン前の2階席(W~Z列)に。合唱団と近すぎるために、ステージ真横の2階のRA席とLA席は空席とされていた。

ステージ最奥には段差が設けられそこに4席、椅子が置かれていた。やがて登場するソリストたちは第3楽章のはじめか第4楽章の途中にあそこに座るのだろう。

やがて指揮者が登場する。まるで同窓会のような温かい雰囲気。現在の大フィルの桂冠指揮者。大阪の聴衆は大フィルにおける大植さんの音楽監督時代を忘れていない。ある人は、20年近く前に抱いた「うちら大フィルの音楽監督の大植さんがバイロイトで振るんやで」という誇らしい気持ちを思い出したことだろう。またある人は、大阪クラシックの熱狂を思い出したことだろう。私は約10年前の音楽監督退任スペシャルコンサートを思い出していた。

第1楽章。無から有へ宇宙の始まりのような冒頭部。情熱的でかつ繊細な音楽づくり。この演奏会は一日限り。迫真のパフォーマンス。

第2楽章。大フィルは尻上がりに調子を上げていく。こういう演奏を、上手いというばかりでなく、気持ちの入った演奏というのだろうか。

第3楽章。あまりにも美しい音色に私は悶絶した。頭蓋骨の中の脳が溶けてチーズになるように音楽に入り込んだ。純粋に音楽というだけならこの美しさは第4楽章を超えている。陶酔的な音楽だった。前の席の人がゆっくり首を振るようにして音楽に聴き浸っていた。

第4楽章。ここまで困難、闘争、安らぎが描かれてきたが、それらの音楽を「こんな音楽を望んでいるのではない」と、ベートーヴェンは否定するのだ。そして神の王国、あるいは普遍的な愛を説く。音楽的にも最高潮を迎え、熱狂のまま唐突に終わる。しばし呆然。すごいものを聴いた。残響が終わる頃、会場を万雷の拍手が鳴らす。指揮者とソリストは5回も舞台に呼び戻され、観客の称賛に応えた。

演奏会としての満足度は今年一番だった(あまり行っていないが)。私は弦楽器のうっとりするような美しい音色に聴き浸り、金管、打楽器の迫力に、「これだよ、これ」と唸った。一言でいうと、魂のこもった熱演だった。大フィルならではの強みを、思う存分、出し尽くしたような演奏だった。

今日のように素晴らしい演奏で第九を聞くと思うのだが、第九の内容?世界観?は音楽を超えている。

今日は観客のマナーも素晴らしかった。冬定番の咳払いも気になるところはなし。もちろん着信音などのアクシデントもなし。満員に近い状態なのにほとんどの人が集中して一期一会の熱演に接することができたはずだ。

最初に舞台に戻り、指揮台の上で客席の方を向き直した大植さんに対する一層の拍手はとても温かかった。大阪の大フィルファンは温かい。私も数少ない機会、何とかやり繰りして来てよかった。素晴らしい演奏会だった。

神戸西元町・行列の名店『洋食の朝日』

神戸西元町にある洋食店。「行列」というキーワードと切っても切れない『洋食の朝日』。私は混雑や行列が苦手で(誰でもそうかもしれないが)、そうした店は避けていた。しかし先日、全く予定のない休日ができて、並んでみようという気になったのだった。平日の休みということもあり、もしかしたら空いているかもしれない、という淡い期待があった。


(↓お店が紹介されている『あまから手帖』のムック)



この店の行列について、行列が二重になっているとか、朝から混んでいるとか聞く。しかし混んでいる時は開店前を早めて入れてくれるということも何かで読んだ。それなら何時に行けばよいのだろうか。開店の11時に着く位が丁度よいだろうか。11時前に店の前に立つことを目標に私は家を出た。


梅田から阪急電車に乗り、久しぶりの休みで機嫌よくウォークマンで音楽を聴いていた。キンドルで本を読みながら車中、時間を過ごしていたら、阪急花隈駅で降りるはずが、間違って三宮で降りてしまう。次の電車はなかなか来ず、時間をかなりロスしてしまった。


店に向かう途中、すでに遠くで人だかりができていることに気付く。私は目を疑ったが、お店の行列に他ならぬものだった。平日の11時半(土日は営業していないということは後で知った)。店まで着くとすでに行列ができており、私の前には15人くらい。店の中にも待つスペースがあるはずなので一体何人待っているのか。私は最悪のタイミングで行ってしまったのか。


ここまで来て11時半。他の店を探すという選択肢はなかった。私は列の最後に並ぶ。しかしその後も次々に人がやってきて、やがて列は歩道の真ん中を開けて左側と右側の二列になった。列の進行は意外に進まず、時間が過ぎていく。店の前にベンチがあるが、そこまでが遠い。風が強く寒い日だった。ダウンジャケットのファスナーを首まで締めて風の当たる部分を少なくする。先客が少しずつ店に吸い込まれていく。そしてベンチに「昇格」し、ようやく店内に通される。店内にも4人ほど待つスペースがあり、そこからは早かった。中で待っている間に注文を聞かれる。私は朝、家を出た時からビフカツに決めている。1550円。ビフカツはきちんとした店で食べると2000円台が普通。『洋食の朝日』はきちんとした店なのに、これは破格の安さと言ってよい。ようやく順番がやってくる。店内は港町の洋風の食堂という風情で、何となく昔元町にあった『洋食いくた』みたいな感じだった。左手の奥に増築したようなテラス席があり、そこにはカウンター的に使えそうな、6人掛けの大テーブルがある。その席が空いたようで私はそこに通される。ついに席につくことができた。


わたしはダイバーウォッチをしていったので、ベゼルを回しておいて待ち始めた時間から時間を計っていたが、最終的には50分が経過していた。つまり、こんなに混雑していても50分待てばよいのであった。その価値があるかどうかを決めるのは料理だ。さて、どんな料理が出てくるのか。



既に注文を済ましていたこともあり、10分もかからずに料理が提供される。噂に違わず。これはみんなが「並んで当然」だ。将棋に例えると、洋食というジャンルにおいて、飛車・角クラスのビフカツを、桂馬くらいの価格で食べられるのである。神戸で食べるビフカツは本場なので、たとえ慎ましいビフカツであっても幸せなのに、これは大変豪勢なビフカツである。



ミディアムレアの断面が美しい。洋食の王様、ビフカツを箸を使って食べる贅沢。私は朝を抜いてきており、さらに50分の待ち時間のおかげでかなり空腹だった。そんな状態で人気店のビフカツを食べるときの幸せの度合いは50分の待ち時間を帳消しにするものだった。これが仮に2時間ともなれば決断に迷うが、50分ならば、立って本を読んでいれば我慢できるものである。私は読みかけの本がかなり進んだことを合わせても、納得した。私は食べ終わると、すぐに会計を済ませて店を出る。行列は相変わらず二列のままである。11時半に行っても、12時半に行っても、状況はあまり変わらないのかもしれない。しかしその先に、待ち時間を超えた満足度があることは確かだった。



その後、せっかくこの辺までに来たのだからと、関帝廟に行ったあと、本願寺神戸別院にお参りして、再び花隈駅から阪急電車に乗って大阪に帰った。

【洋食の朝日】

住所:神戸市中央区下山手通8丁目7−7
営業時間:11時00分~15時00分
定休日:土・日曜日

『グリル生研会館』・白沙村荘・糺の森・下鴨神社

2月3月と、新型コロナウイルス肺炎が猛威を振るっており仕事以外の外出を控えていることもあって、カメラを持って出かけることが少なくなってしまった。こういう時期の休日は自転車で近くをサイクリングするか、好きな音楽を聴いて過ごすくらいしかすることがないが、病気が流行る前のことを振り返る良い機会かもしれない。私は秋から冬にかけ、結構いろいろなところに出かけて行った。


◇  ◇  ◇


糺の森下鴨神社の近くに『グリル生研会館』という洋食店がある。


京都の洋食界における有名店であり、ずっと行きたかった店だが、いままで行くチャンスがなかった。過去に京都に住み、その後、大阪に引っ越してからも京都へは数えきれないくらい通ったが、行く機会がなかった。どこかに訪れるついでと考えた時には12時開店で14時閉店というのが意外に都合が悪いのと、人気店なので混んでいた場合に待つのが憂鬱だったということがある。


何年か越しになってしまったが、そろそろ行ってみようかとその日、思った。店に行くことを中心に考え、その前後に予定を組む形にすれば、12時開店はそれほどネックにはならないはずだ。また平日の休みであれば、店もそれほど混まないだろう。私は、周辺の観光スポット、白沙村荘橋本関雪記念館、下鴨神社、旧三井家下鴨別邸あたりを散策しながら、12時過ぎに『グリル生研会館』に到着するプランを立てた。特に早起きしたわけでもないのに、とても簡単なことだった。どうしていままでそんなに簡単なことができなかったのだろうか。



『グリル生研会館』は、やや速足で歩いて出町柳駅より徒歩10分ほど。既に白沙村荘橋本関雪記念館で時間を使い、到着した時には12時を少し回っていた。待っている人はいなかったが、既に店内は満席で、私は店内の椅子でしばらく待つことにした。開店してそれほど時間が経っておらず、皆が食べ始めたか注文を始めるくらいの時間なのですこし待つことになるだろう。少しして、観光客風の50歳くらいの夫婦がやってきて、私の後に待つことになった。その後は、だれもやって来ず、待つ人は出なかった。


店内を見渡すと全体的に年齢層は高めで、雰囲気は落ち着いている。店内は豪勢な作りではなく、清潔感はあるがシンプルでややがらんとしていて、普通の洋館の広い部屋のようだ。すべてがテーブル席で、カウンターはない。順番によって、一人でも四人掛けのテーブルに通されるシステムだ。料理がすぐに提供されて食べたらすぐに出ていくタイプの食堂という感じではなく、料理が提供されるまでの時間もそれなりにかかっている。注文を聞くのもそれほどせかせかしていない。しかし待つことになっても、自分の順番ではマイペースの時間を過ごすことができる。私はこういう店が良い。


ようやく席が空いて通される。こういう店で注文するものはだいたい決まっている。定番が正解だ。ハンバーグが有名な店なのでハンバーグは外せない。それにエビフライとカニクリームコロッケがセットされるメニューあった。これが鉄板だと思う。1800円。安くはないが、ここは京都の老舗のレストランなのだ。



私は先にグラスビールを注文して料理が提供されるのを楽しみに待つ。ジョッキでは多い。グラスがちょうどよい。



料理全景。10分くらいで料理が提供される。まだビールは少し残っている。



近景。私は残ったビールを飲み干して、食事に取り掛かる。まずはハンバーグから。牛肉の割合たっぷりで本格的なものだ。今まで食べたハンバーグの中でも最高に近い。私の中の美味しいハンバーグの基準は、それぞれテイストは違うが、心斎橋の『グリルばらの木』、千日前の『重亭』が双璧だが、それに肉薄する。タイプとしては両者の中間のような感じだ。


エビフライは小ぶりだが、たっぷりと身が詰まっている。また、小さなカニクリームコロッケが嬉しい。意外にあっさりしている。衣がサクサクで、これは何個でも食べられる。


私は窓際の席で、ひとり京都の洋食店でゆったりとした時間を過ごしている。窓越し、晩秋から初冬の優しく控えめな日差しが心地よい。隣の席は若い女性客の四人組で、いくつかのメインとなる料理をシェアして食べていた。私が食べ終わることには店も空いてきて、空席ばかりになった。人気店なので混んでいるかもしれないということは杞憂に終わった。


■白沙村荘橋本関雪記念館



白沙村荘は、日本画家の橋本関雪のアトリエ兼別荘として作られた。画家の理想、美学が散りばめられている。池泉回遊式庭園は国の名勝に指定されている。庭園のほかに橋本関雪の作品を収めた美術館が見どころとなっている。白沙村荘橋本関雪美術館も以前から行きたかったが、何故か行くチャンスがなかった。今回、『グリル生研会館』と一緒に訪れることができて良かった。


下鴨神社糺の森



京都市内の森」というと糺の森が真っ先に思い出される。森というほど鬱蒼としているわけではないが、木々の間を抜けたところに下鴨神社がある、というのが良い。糺の森と言えば夏の古本市で、あれはとても風情のあるものだと思い出した。私は下鴨神社の境内の茶店で、さきほど豪華な洋食を食べたにもかかわらず、ぜんざいを食べる。


■旧三井家下鴨別邸



財閥・三井家の別邸として建築され、その後、京都家庭裁判所の所長宿舎として利用されるなどの変遷を経て、現在は一般公開されている。重要文化財


写真を見直してみると、紅葉の最後の頃だった。あの時は、新型コロナウイルスが世界中で大変なことになるなんて想像できなかった。また、あの日のような平穏な日常を取り戻すことができるだろうか。

【グリル生研会館 】

住所:京都市左京区下鴨森本町15 生産開発科学研究所ビル1F
営業時間:12時~14時/17時~20時(30分前ラストオーダー)
定休日:水曜夜・木曜

ピリスのショパン後期作品集

以前にポリーニによる『ショパン後期作品集』について書いた。ショパンの後期作品を取り上げた、同様のコンセプトで、マリア・ジョアン・ピリスによる作品集がある。


ushinabe1980.hatenadiary.jp


曲もほぼ重なっている。発売当時、話題になったので、比較的新しいもののように思っていたが、もう10年以上の前のものとなっていた。時間の経過はとても早く、ピリスは演奏活動の第一線から既に退いてしまった。


■国内盤

後期ショパン作品集

後期ショパン作品集


■輸入盤

Chopin (Dig)

Chopin (Dig)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • 発売日: 2009/06/23
  • メディア: CD


ポリーニを聴いた後に、ピリスを聴くと、これが同じショパンなのかと思うほど異なっている。ポリーニはいくつになってもアスリートである。それが美学のようでもあり、ポリーニポリーニであることの証明のようだ。それに対し、ピリスのショパンの特徴を、一言でいえば、「枯淡の境地」だ。一聴するところによると、静かでシンプルで、地味であるとすら感じられる大人しいピアノだ。しかし聴き込んでいくにつれて、良さがじわじわと出てくる。時間のある時に、2枚組のCDを続けて聴いてみると、聴き終わる頃、まだその世界に浸っていたい、終わってほしくないような、質の高い教養小説を一冊読み終えたような時のような充実した気持ちがあった。


あるいはまた、ショパン国際ピアノコンクールのCDと比べてみる。まるで各国代表選手のような有望なピアニストと比較すると、ピリスのショパンは「ワンダフル!」とはならない。ピリスのショパンは驚くほど儚く、素朴である。しかし、この一人、書斎で(ないけど)、ブランデーのグラスを傾けながら、骨董品のようなスピーカー(ないけど)で聴くのがふさわしいように思える。


こういうコンセプトのアルバムにおいて珍しいのが、チェロソナタが収録されていることだ。こちらが素晴らしくて、もちろん他の曲の演奏全てが良いのだが、この曲があることで、世界観の醸成が濃密で、ショパンアルバムとしての質をさらに上げている。


ショパンの晩年の傑出した作品集として、ポリーニの作品集同様、欠かせないものとなっている。ポリーニの演奏との違いを楽しみつつ、好きなショパンの音楽に浸る。

日帰り姫路旅~姫路城と姫路おでん

しばらく休みがなかった中での、久しぶりの休日のこと。


久しぶりの休みをどのように過ごそうか、色々な考えが頭をよぎっては消えた。着替えをして、用意をして、カメラバッグを担いで、私は最終決定を行うことなく、そのまま電車に乗った。そして大阪駅まで来る途中、私はスマートフォンエクスプレス予約のページを開き、姫路と入力していた。なぜ姫路だったのか。距離が絶妙だったからだ。同じか少し遠い場所として、過去には名古屋や岡山には行っていた。その時の記憶は今でも鮮やかだ。ある程度の距離まで行くと、この休みは単なる休日ではなく特別の休みとなるかもしれない。


日帰り伊勢弾丸トラベル - USHINABE SQUARE
日帰り名古屋の旅 - USHINABE SQUARE
岡山の旅(1)『天神そば』・『冨士屋』~岡山ラーメン編 - USHINABE SQUARE
岡山の旅(2)後楽園・岡山城・岡山県立美術館 - USHINABE SQUARE



私は新大阪駅で『近江すえひろ』の弁当を買う。もう少し後の新幹線にすればよいのにギリギリの時間を購入したため休みなのにタイムカードを押さなければならないかのように急いできた。そのためお茶を買い忘れるという失態をおかす。嬉しい気持ちで弁当の包みを開けた時にお茶を買い忘れたことに気付き、悲しい気持ちで食べ始めた。幸運にも半分くらいまで到達したところで車内販売がやってきた。私は温かいお茶を買うことができた。幸先の良いスタートだった。



周りは出張風のサラリーマン。私は仕事でもないのに、何の変哲もない「ド・平日」に山陽新幹線に乗っていることが素面では信じられなかった。これを酔狂と言わずに他に何を酔狂と言うのだろうか。姫路は新幹線で行くほどの距離ではなく、JRの新快速電車でも1時間半もかからない。それほど遠くはない姫路へさらに時間短縮を図ったことになり、山陽新幹線は一瞬で姫路に着いた。朝の段階ではまさか自分が昼過ぎに姫路にいるとは想像もつかないことだった。追いつかない気持ちを抱えたまま、場所だけが異なっている。そうした違和感が面白い。



さらに、姫路まで行って姫路城に行かないというの選択も面白いと思った。例えば駅前で買い物をして、遠くの姫路城を眺めながら、コーヒーを飲んで帰る。わざわざ姫路で。そんな馬鹿馬鹿しい時間の使い方もオツなものかもしれない。しかし姫路城には行かなければならないだろう。行かないほうが後悔する。そんなわけで、私はともかく姫路城を目指す。駅前の大通りからお城が見えているが、歩くと結構遠い。2キロという距離である。




姫路城に向かって歩く大通りは、歩いている人はそれほど多くないのに、お城に到着してみると、かなりの人出である。混雑している、と言ってよい。国宝で、世界遺産でもあるので、日本人ばかりでなく、というか日本人以外の方がずっと多い。私はずいぶん昔に一度来たことがあったが、その頃は、「好きな人が来る」というレベルだった。今では世界各国から空港に降り立ったツアー客が、駐車場までバスで連れて来られ、そこから大量に城内に送り込まれる。ワールドワイドな観光スポットに変貌を遂げていた。


混雑に萎えるが、私自身がその混雑を構成する一要素でもあるので、それは仕方のないことだ。計画的でない私だからこそ、混雑について論評することは避けなければならない。



姫路城が美しいのは、戦国時代ではなく、安定してから作られたということがある。幸運にして、戦災に遭うこともこともなかった。そうした素性と運の良さに加え、平成の大修復を経て、2015年、白亜の名城の姿が蘇った。こうして近くで見てみると、やっぱり良いと思う。凛とした出で立ちを目にすると、やはり来てよかったと思う。




多くの人の流れに乗って、まずは天守を目指す。平日なので混雑はこれでもましなのだろうが、休日などはどんな状態になるのだろうか。姫路城のホームページでは、「現在の混雑」というページがある。恐ろしい。実際、私が行った日も、少し後には天守への入城規制がかかったようだった。



天気に恵まれ、天守閣からの眺めは最高だった。遠くには先ほどの姫路駅。歩いてきた大通りを眼下に見下ろす。



こうやって上から見ると、お城の作りがよくわかる。私は城について詳しくないが、城マニアからすると、こういうところから見る城の構造は堪らないものがあるだろう。



天守閣前の広場から見上げると、巨大さが際立つ。



西の丸、化粧櫓付近より。


姫路城を見終わった後、また歩いて、姫路駅を目指す。朝昼兼用で食べたのも新幹線だったので、姫路らしいものを食べてみたかった。姫路を代表するようなご当地グルメとは何だろうか。穴子とか、播州ラーメン、姫路おでん姫路おでんにしよう。


駅ビル『ピオレ姫路』に「播州うまいもん処」というフードコートがあって、そこで気軽に姫路おでんを食べることができた。他にも加古川かつめし播州ラーメンなどのご当地グルメを手軽な食べられる店が並んでいる。



姫路おでんの特徴は薬味だ。大根や玉子などの具に加え、姫路ゆかりの具材を使用した蒲鉾。それらを生姜醤油に少量付けて食べる。広いお城の中を歩いたので、疲れていた。姫路おでんで生き返った。


帰りは新幹線ではなくJRの新快速電車に乗った。必要に迫られたメールを打っているうちに尼崎を過ぎ、大阪まであとわずかとなった。遠くて近い姫路だった。


京都や神戸では近すぎてそうはならないが、姫路まで行くと特別な休日を過ごした気持ちになった。それが今回の姫路行きの結論だった。



大阪スカイビルの夕焼け。大阪で用事を済ませているうちに、いつのまにか夕方になっていた。




大阪駅の時の広場では冬のイルミネーションが始まっていた。いつもの大阪に戻ってきたことを実感した。

京都『スマート珈琲店』のスマートランチと相国寺・2019立冬


『スマートコーヒー店』でなく『スマート珈琲店』。「コーヒー」を「珈琲」と書くと、とたんに香りが出てくる。『スマート珈琲店』の特徴は、1階は喫茶、2階はランチということだ。老舗珈琲店のランチが人気を呼び、今に至る。そしていつでも混んでいる。4~5年前は今ほど混雑していなかったように思う。ランチは混雑することもあったが、1階は土日でも座ることができた。京都の老舗店らしく、混雑していても、基本的に相席にはしない。一人だろうが二人だろうが、四人だろうが、その時点で空いている席に通し、席についた人の時間を尊重する。そのため店の外の行列は紅葉の時期などはけっこうなものになってくるが、回転率を上げるなどのオペレーションを優先してないことが、顧客ひとりひとりを優先することになっている。結果的には満足度が高い。待ちたくなければ、早く行けば良いし、『スマート珈琲店』ではランチの予約も受け付けている。


私が行ったときは、紅葉の時期だったので、混雑を予想し、開店11時より15分ほど前に店の前まで行った。平日にもかかわらず、その時点で5組くらいの列ができていたのに一瞬驚いたが、続いて並んでおいた。私の前に並んでいた西洋の外国人カップルは、開店10分前になって諦めたようだった。あと少しの時間なのだが、何か他の用事を思い出したのだろうか。その10分待つことが困難だったのだろうか。私に続き、さらに二組が並ぶ。そして時間ぴったりに前の人から呼ばれていく。並んでいたすべての人が2階に通された。紅葉の時期ということで身構えていたが、その心配は杞憂に終わる。


メニューを渡されて、見てみると、ハンバーグやエビフライなどの洋食の定番に加え、オムライスやハヤシライスなどの単品もあるようだった。しかし大きく書かれていたのは、定食である「スマートランチ」だった。その、メイン料理を選ぶ仕組みの「スマートランチ」をほとんどの人が注文している。メイン料理は次のとおりである。

下記より2品チョイス

  • クリームコロッケ
  • エビフライ
  • ハンバーグステーキ
  • ベジタブルオムレツ
  • ポークソテー
  • ポークカツ
  • チキングリル(香草風味かトマト味)
  • チキンカツ
  • 本日の1品

※プラス400円で3品目チョイス可


私はまずベジタブルオムレツを食べたかった。しかし加えて、ハンバーグとエビフライも食べたかった。私の隣の席に座っていた老婦人二人組のうちの一人は、ポタージュを注文していた。はっきり覚えていないが、ポタージュは500円くらいと書かれていたはずだ。私はスープを注文する気はなかったので、それに比べると安い400円で3品目を追加できるというのはとても魅力的に映った。私は食べてみたかった3品をすべて選び、料理の到着を待った。



すごいものが来てしてしまった。やはり2品がスタンダードで、3品というのは多すぎただろうか。2品が大人にはちょうど良いのだろうか。3品は学生向きだろうか。しかし私はこの3品から2品に減らす自信がなかった。どれも食べたかったものだ。気を取り直して、私は食べ始める。ベジタブルオムレツは外側はこんがり、中はふわふわという、熟練の技を感じさせるものだ。中身はもやし、玉ねぎなどの野菜がしっかり入っており、かなりのボリュームとなっている。こんなにオムレツらしいオムレツを食べるのは久しぶりだった。エビフライは小ぶりだが身の詰まったエビが使われている。そんな中、他との違いを感じさせたのはハンバーグである。よくあるハンバーグとは一線を画した、洋食店らしいハンバーグで、牛肉をたっぷり使用し、つなぎを感じさせないハンバーグに、濃厚なソースがかかっている。



私が期待していたのは、まずベジタブルオムレツで、続いてエビフライ、最後にハンバーグだった。しかし、結果は、ハンバーグ、ベジタブルオムレツ、エビフライの順だった。エビフライは大きさがやや弱い。しかしこの大きさは意外にちょうどよく、トマトソースのチキングリルなどと組み合わせると、また違った嬉しさをもたらしてくれるかもしれない。


私はたっぷりのランチを堪能し、席で会計を済ませ(2階の会計は席で行う)、階段を下りる。そして店を出ると、ランチ待ちの列ができており、5~6組が並んでいた。やはり混雑する店なのだ。





その後、食後の軽い運動に烏丸御池まで歩いた。季節はすっかり秋で、木々の葉の黄色や赤が鮮やかだった。烏丸御池から地下鉄に乗り、今出川で降りた。グルメの後は名所である。食事と観光は切り離せない。今出川から近い相国寺で秋の特別拝観が行われていることを知っていた。今出川キャンパスがあるため同志社大学の学生がたくさん降りた。平日、勉強する学生に混じって、社会人である私が今日は仕事もせずに京都で遊んでいるのは不思議な感じがした。


相国寺は、庭園や仏像は特別拝観のシーズンしか鑑賞することはできないが、境内の『承天閣美術館』に素晴らしいコレクションを持っており、過去に私は時々訪れていたが、最近はまったく行っていなかった。




観光的に言うと、京都が一番混雑する紅葉の時期なのに相国寺は穴場だ。空いている。きっと土日でも混んではいないだろう。アクセスも容易で駅から近い。外国人をはじめとして観光で訪れる人の流れが、こういうところまで行き渡るようになることはまだ先だろう。しかしそんな状況は別にして、相国寺の特別拝観は素晴らしかった。季節は立冬を過ぎていたが、紅葉は見頃。秋の京都を堪能した。