いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!



飲みの席で、べろんべろんに酔っぱらう人に対して「全能感」を抱いたことはないだろうか? もちろん彼らは単に気持ちが大きくなっているだけで、その「全能感」は偽りのものだが、彼らが放つ大言壮語には不思議な魅力があり、周囲が苦笑まじりながらも聞き入ってしまうのもよくわかる。
ホット・ファズ』『ショーン・オブ・ザ・デッド』に続く、監督エドガー・ライト、サイモン・ペグ、ニック・フロスト共演の三部作完結編である本作は、サブタイトルにあるようにそんな「酔っぱらい」たちが主人公。

高校卒業の日、仲間5人で街のバー12軒をまわるという壮大な梯子酒に挑戦した、ゲイリー(ペグ)。結局最後の店「ワールズ・エンド」にはたどり着けなかったが、人生最高となったその日を頂点とし、彼の人生は下り坂になる。いまやアル中のセラピー通いという冴えない中年に成り果てた彼だったが、アンディ(フロスト)ら他の4人を集め、もう一度12軒の梯子酒への挑戦を計画する……。


イケてない中年男がかつての栄光を取り戻すため、別々の道を歩む旧友を結集させる――これだけでもアツい展開なのだけれど、ペグとフロストのデコボココンビは相変わらず健在。
そんなこんなにゲラゲラ笑っている鑑賞者は、中盤で真横からダンプカーに突っ込まれたかのような衝撃を受ける。『フロム・ダスク・ティル・ドゥ―ン』も真っ青なぐらいに唐突に、ほんと唐突に映画のジャンルが変わってしまう。5人は人間の姿をした謎のアンドロイド(?)たちの強襲に遭い、実は地球が彼らに支配されていることを知るのだ! 


興味深いのは、そうしたことが起きたあともなお、ゲイリーたちの抱える個人的な問題は、世界の危機と平行して語られていく。しかも、その状況に猛スピードで順応し、5人の酔っぱらいはアンドロイド達をやっつけながら、梯子酒を続行するのだ。
その状況はまさに、酔っぱらいの「全能感」が現実の世界で本当に効力をもってしまったかのようだ。邦題のサブタイトルは正しくはこうなるのではないか――「酔っぱらい“の全能感”が世界を救う」。


敵をぶっとばしながら、ゴールのバー「ワールズ・エンド」を目指す一行。終盤の大ピンチで、それまで俺様キャラだったゲイリーがついに酒浸りの自分の弱さと、「何も起きなかった」現実を認め、涙ぐむ場面にはホロリとさせられる。
その直後、ついにゲイリーたちはアンドロイドの親玉という異星人と直接対決に。彼らがアンドロイドを送り込んだ目的は、いわゆる『幼年期の終わり』的なもので、銀河の中でも未熟な人類を善導してやることなのだ。酒を断てずに人生が破滅したゲイリーなどは、まさに「未熟な人類」の標本のようなものだ。
けれど、彼は「俺たち人間は 指図されるのが嫌いなんだよ!」と勇ましく突っぱね、異星人を追い返してしまう。


驚くべきは、クライマックスへの展開。世界は現実という「シラフ」にもどるどころか、酔っぱらいの夢は覚めることなくむしろ現実の側が崩壊していってしまう! なんという結論!
けれど、自己肯定的にも感じられる結論が嫌いになれないのは、ゲイリーが自ら選びとったからだろう。
見終わったあとに狐につままれたような、でも不思議な高揚感が残る映画だ。