うたたね日和♪読書メモ

本との出会い徒然に

 帰命寺横丁の夏

帰命寺横丁の夏

帰命寺横丁の夏

カズの野球のポジションはサード。ふだんの生活も、サードでじゅうぶんだ、とカズは思っている。ある夜、カズは髪の片方を<真っ赤なふたつのぽっちりした赤い玉>でくくった見知らぬ少女が仏間から出てくるのを見かける。翌日、その少女は、カズのクラスメイトになっていて、カズたちとも幼馴染であるというのだった・・・。

佐竹美穂さんの摩訶不思議なイラストが目をひいた。
この和洋折衷な、ちぐはぐさはなに?
本の側面を見れば、ページの色が二色に分けられている。
答えは読後、すとんと腑に落ちる。
話の中に、もうひとつの物語が真珠のように生きているのだ。

本を開いたとたん、主人公のカズといっしょになって「帰命寺」の謎を夢中になって追っていた。ファンタジーを読んで背中がぞくぞくする感覚はひさしぶりだ。

謎の少女「あかり」を追ううち、次第に「あかり」を守っていく立場になるカズ。カズを強くさせたのは、命の重み、生きることへの思い。失ってはいけない大切なものに気付いたからだ。
登場してくる大人たちは自分たちの考えを押し付けるばかりで、ちっともカズの味方にはなってくれない。むしろカズのじゃまばかりをする存在として立ちはだかってくる。
大人も子供もない。意志と意志の対等なぶつかり合いなのだ。

最後に作中話と本編とのラストが切なくもやさしく重なっていく。ステレオタイプなハッピーエンドで終わらないところが、たまらなくクールだ。
大人にもぜひ読んでもらいたい珠玉の物語。
『つづきの図書館』と同じく再読したい本がまた一冊増えた。