フライヤーを、ビルボードへ―想い出のフライヤー展(id:flyer-info)開催によせて



文学フリマに出品しているものとしては、アンビバレントな気分になるのですが、掲題のフライヤー展が本日最終日です。梯子してくださるとうれしい。ってもっと前に言えって感じですが。


フライヤー展に寄せてわたしが書いた随筆を公開します。これ読んで「いいかも!」と思われた方はぜひ足をお運びください。




「想い出のフライヤー展」を開催すると、10年来の友人である細谷さんから聞いて、まず「日本で宣伝チラシをフライヤー(flyer)と呼ぶようになったのはいつからなのだろう」という素朴な疑問が沸いた。おそらくパルコが運営するクラブクアトロが『flyer』という宣伝冊子を無料配布しているから、それが起源ではないかと思うのだが、確証は無い。今手元に無いので心許ないが『flyer』そのものは、1枚の紙でそれを折りたためるようにしていたから、冊子と呼ぶのは適当でないかもしれない。そうか、文字通りflyerだったのか(!?)。


 宣伝チラシにはいろいろある。新聞販売店では日夜新聞の間にスーパーや墓地やパチンコ屋や不動産屋のチラシが挟み込まれている。また、近所の駅前や繁華街で配られているポケットティッシュも、あれはチラシの一種である。チラシにティッシュという付加価値をつけて通りがかる人々になるべく受け取ってもらおうと知恵を凝らしたわけだ。もちろん手渡しするわけだから、flyerというよりはhandbill(文字通り、手渡しするチラシ)の仲間といったほうが正確かもしれない。
駅で電車に乗れば、中吊り広告がある。中吊り広告は、車内の送風機や空調から吹き出る温風や冷風によって揺れる。あー、ふらふらしている。ふらー、いやー、というダジャレを思わず言いたくなりはしないか。そんな愚にもつかないことを考えていると、いつの間にか、ここは新宿だ。駅前には、待ち合わせ場所の目印として使われさえする大きなビルボード(billboard)がある。ビルボードというとなんだかかっこいい。でもビルボードとは、掲示板や広告板のこと。だから、実は新宿区坂町町会が設置している掲示板だって、ビルボードなのだ。ビルボードといえば、米国の音楽週刊誌もBillboard という誌名だった。Billboardはもともとサーカスや移動遊園地の巡業を知らせる雑誌だったから、町の掲示板が出世街道を驀進した成れの果てなのかもしれない。いや、成れの果てというのは失礼か。


きょうここでいろいろなフライヤーに目移りして、うっとりと音楽の響きを思い返したり、一緒に催しに行ったけれど、その後別れてしまった恋人のことを思い出してちょっとブルーになっているあなたも、たぶんビルボードチャートやオリコンチャートのお世話になった時分があるだろう。お世話になった覚えが無いという人もいるだろう。人は自分が溜め込んだ記憶の束を、いろんな風に、基本的には自分に都合よく、美化編集してしまうものだ。また、同時に驚きもあるだろう。この時に、こんな催しがあったんだ、うは、観たかったなあ、いやこれは観たんだけど、ひどかったなあ、あの日はなぜか大雪でさ、これ行けなくなっちゃってさ、云々。ちょっと感傷的で懐古的になってしまうことうけあいだ。
またビルボードの話で恐縮だが、billboardには錨床という意味がある。これは船の甲板に引き上げた錨を据えておく場所のこと。わたしはフライヤーの提供者のひとりとして、この展示が小さくてささやかだけれど確かな錨床になることを祈っている。コレ、ホントヨ!