ネブラスカ州の"Safe Haven"Lawの問題

赤ちゃん保護の州法で、十代の子を捨てる親が続出

(CNN) 米ネブラスカ州で今年、望まない妊娠などで生まれた赤ちゃんの保護を目的に、親が匿名のまま医療機関などに子どもを託すことを認める新法が成立した。ところがこの法律の下で、十代の子どもが置き去りにされるケースが相次ぎ、同州は法改正へ動き出している。


子どものための「避難所」法と呼ばれるこの州法は、今年7月に施行された。州福祉当局者によれば、「本来は、事情があって親が育てられない新生児を、安全な場所に保護することが目的」だった。ところが実際には、これまで州内の医療機関に託された子ども17人のうち、13人が11歳以上。州東端に位置するオマハ市の病院では最近、隣接するアイオワ州に住んでいた14歳の少女が保護された。その後、少女を育てていた祖父母が「しつけ」のためにこの制度を利用したことが判明し、本人は自宅に帰されたが、州境を越えた「合法的捨て子」ともいえる例は、これが初めてだったという。


米国ではすでに、同じような法律がすべての州で施行されている。ただ、対象となる子どもの年齢を明記していないのはネブラスカだけ。複数の州が「生後72時間以内の新生児」と限定しているのをはじめ、最も緩やかな州でも「生後1年まで」と条件付けている。ネブラスカ州当局者によれば、同州の法案にも当初は「生後72時間以内」の制限が盛り込まれたが、成立した時点では「子ども」という表現に修正されていたという。 (以下略)
(CNN.co.jp 2008.10.12)

 この翻訳ニュースで初めて知った事態ですが、少々以前から問題視はされていて、9月下旬からメディアが大きく取り上げるようになった模様です。
 検索は Safe Haven Law で行いました。(これが上記記事で「避難所」法と訳されている語です)


 Newborn 'Safe Haven' Laws Questioned
 NPR (National Public Radio)の短信記事、といいますかネットラジオのリード部分の記事です。2003年の7月14日付。

After a spate of high profile baby-abandonment cases in the late 1990s, many states enacted laws designed to protect abandoned infants. The "safe haven" laws allow women to leave their newborns at designated safe places, such as hospitals or firehouses, without the threat of prosecution. But some adoption advocates say the laws are creating problems.

 1990年代の終わりから多くの州が捨てられた子らを保護する法を整備し、それが捨て子事件を発生させている。この避難所法で、起訴(prosecution)される怖れなしに子供を病院や消防署など安全なところに置き去り(leave)できることが問題を生み出している、という内容。


 In Nebraska, Parents Can Leave Their Teens
 NPRでのネブラスカの避難所法についての初出です。2008年の8月18日付。

 Last month, the state of Nebraska enacted a safe haven law. Typically these laws apply to newborn infants; parents can leave their babies at a designated safe place without fear of prosecution for child abandonment. But the Nebraska law actually applies to any child up to 19.

 先月(つまり7月に)ネブラスカ州で制定された避難所法は19歳までのどんな子にも適用され、子捨て(child abandonment)ができるようになっているのでは、ということを報道した内容。


 Neb. Officials: Parents Misusing Infant Drop-Off Law
 NPRでの最新放送。2008年の9月29日付です。

 A new law intended to protect abandoned infants in Nebraska is having an unexpected effect. So far, 14 children ? many preteens or teenagers ? have been dropped off at Nebraska hospitals. State officials say parents fed up with raising unruly older children are misusing the law. Now they're calling on the legislature to change the law to restrict the age to younger children.
 Sarah McCammon reports from NET Radio in Nebraska.

 捨てられた幼児を保護するためのネブラスカの新法が、ティーンエイジの子捨てという予期せぬ事態を引き起こしているという内容です。


 この頃には各所でこのネブラスカの問題を報道し始めるようになっていました。
 Nebraska 'safe haven' law for kids has unintended results
 「ネブラスカの子供たちのための避難所法が予期せぬ結果を生んでいる」
(USATODAY.com 08/09/25)


 Law's Effect: An Iowa Girl Is Abandoned in Nebraska
 「法の影響:アイオワの少女がネブラスカで捨てられる」
(NewYorkTimes.com 08/10/8)


 そしてCNNでも採り上げられ邦訳されて、それを目にするようになったわけです。概ね最初の記事で事態の経緯は言い尽くされているかもしれません。


 さて、こうした事態は日本でも将来的に起こり得ることだと思います。法が捨て子を奨励しているとは断言しませんが、子供たち主体に考えてシェルター(避難所)を公的・準公的に整備していくことは、必ずや子育てに悩みそれを放棄したがる親権者たちの需要とマッチしてしまうところに至るはずです。
 それを「無責任」と捉えて批判すれば、子供たちの境遇にしわ寄せがいくこともきっとあるでしょう。できるだけ多くの子供たちを救うという観点からすれば、あの熊本の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」的取り組みは拡がるべきことになります。
 ただ子供たち優先に考えることで、親の責任放棄のケースが増えるのではないか(頑張ろうとせずに易きに流れる)という観測も(あくまで推測ですが)かなり説得力を持つように感じます。
 そしてなにより刑法には

遺棄罪(狭義)
老年、幼年、身体障害者又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、一年以下の懲役に処する(217条)。


保護責任者遺棄罪・不保護罪
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する(218条)。

 という条文があって、責任放棄に関しては罰するという考えが明確になっているのです。


 これはネブラスカでの避難所法の行方を注視しておかなければならないと思えますね。