最近読んだ本

 ここ最近読んだ本の中から印象に残った文章を少々。「書評空間」が終わってから読みっ放しが続いてたんですが、なにかに書いとかないとすぐ忘れちゃうたちなのでメモ代わりに。どれも面白い本でしたよー。


『文体の科学』(山本貴光、新潮社)から

私たちは、紙の本か電子書籍かそれ以外の装置かといった違いを問わず、つねに必ず或る物質を通じて文章を読んでいる。ということは、当然のことながら、そうした書物や装置は、必ずなんらかのすがたかたちをしている。本の大きさ、デザイン、使われている紙、ページ上の文字の配置、使われている書体やその大きさなどなど、私たちがなんらかの文章を手に持ち目を通す場合、物質が不可欠だ。じつは、文体を考えるうえでは、こうした物質的な側面も重要な役割を演じているのではないかと思う。(p. 19)

つまり、作家は文章の内容には細心の注意を払う一方で、文章のすがたにはそこまで意を用いない。書き手が文章のすがたに強く関与するのは、言うなれば改行と句読点を入れる位置である。(p. 30)

いま、脳裡に「刻む」と言った。記憶とは、まさに自分の身体を変化させることに他ならない。(p. 69)


『本屋会議』(本屋図鑑編集部編、夏葉社)から、往来堂書店・笈入建志さんの文章

本屋はよく売れる本を愛してはいけないのである。愛した本を、よく売らなくてはならない。(p. 189)

大人もはっきりと目的を持たずに本屋にやってくる。むしろ、これからの本屋にとって目的のはっきりしない読者が一番重要な顧客となってくるはずである。(p. 194)

本屋はそれぞれ、世界の縮図を目指すべきである。(p. 195)


『岩波ジュニア新書 物語もっと深読み教室』(宮川健郎、岩波書店)から

私の観察からいうと、十歳ぐらいまでの子どもは、どんなに好きな本でも、その作者を意識しないのではないかと思います。(中略)子どもの前では、すべての本が、それぞれが背負っているはずの歴史性をなくして、同じ一線にならんでいるのではないか。(p. 152)

いや、むしろ、「作者」を意識的に、一つの方法として、わすれるといったほうがいいかもしれません。作者と作品を関連づけるのではなく、文章そのものに向き合うという方法ですね。(p. 154)


アドルフ・ロース著作集1. 虚空へ向けて 1897-1900』(アドルフ・ロース加藤淳訳、アセテート)から

それは、古い精神をまといながら、現代のフォルムを表現しようとしているということだ。だがこれでは、現代を語る資格はない。新しい時代精神をまとい古いフォルムを応用するとき、そのときこそ現代芸術に対して敬意を表し、語ることができるのだ。(p. 31)

すべての家具、すべての物が、ある歴史、ある家族の歴史を語っている。(中略)たしかにそこには外国の様式も、バロックロココといった過去の様式もない。しかしその家には独自の様式がある。そこに住むものたちの様式、つまり家族の様式である。(pp. 95-96)