殺気

この日は特に観に行く映画もなく、オットは前日の休日出勤の疲れが残っているそうなので
家でじっとりと過ごす。夕飯は家呑みした。
ということで今日のつまみ

  • 餃子
  • レバニラ
  • サーモンのマリネ
  • その他  オットはアクアブルー、私は泡盛できめる


寝る前にイヤなことがあり、酒を呑んだにも関わらず、目が冴えて全く眠気をもよおさない。
隣のオットは安らかな(ていうかすげー五月蝿い)寝息をたてている。
思わず殺意が芽生えた瞬間であった(爆)。(クーラン)

トウキョウソナタ

過日、黒沢清監督作品「トウキョウソナタ」を観た。


黒沢清監督…一時期大好きな監督だった。
1997年に撮った「CURE/キュア(主演:役所広司)」が本当に素晴らしい作品でね
CURE キュア [DVD]


謎の連続猟奇殺人事件を追う刑事の話なんだけど、
犯人は捕まっても事件は解決しない…。
あのラストのファミレスのシーン。
新たな伝道者の登場によって「悪意」の感染はこれからもひろがっていく…。
猟奇殺人っていうのは映画的にドラマチックにしてるけど
この、蔓延する「悪意」っていうのは、
90年代末の暗く殺伐とした当時の気分をとても良く捉えていた。
(のちに、このテーマを使って大ヒットしたのがTVの「ケイゾク」)


そんな風に時代の空気を敏感に作品に反映していた黒沢清監督だが
(「キュア」の後も「蛇の道」「蜘蛛の瞳」と充実した作品を連発していた。)
救いようが無いくらいドン詰りになっていく世の中は、自らのホラー的要素の作品群より暗く
絶望的になってしまい、ある時期から作風に混乱が生じてきた。


大いなる幻影」「アカルイミライ」で新機軸を打ち出そうとするも、
恐るべき子供たち」を生んだ世の中と対峙していない気がした。


そして、今更これはないだろうというホラー映画を撮ったのち本作に至った。


トウキョウソナタ」はリストラされたリーマンの父親(香川照之)とその家族のホームドラマ
ホラー映画ではないが、それでも、一方向に無機的に流れていくリーマンズの奇妙な感じや、
同様にリストラされた友人(津田寛治)の娘がイタリア映画「呪いの館」の少女の亡霊みたいに
不気味に描かれていて、かつて培ってきたホラー演出を効果的に活かしている。


しかし、本作で重要なのは、黒沢監督が「キュア」の頃とは大きく変わってしまった現実に向き合って
いるということ。
景気回復の兆しはなく未来に何の展望もない。そして、そんな世の中を作ってしまった大人たちは
家族にも会社にも居場所がない…。やりきれない現実…。
解雇や倒産が日常的に起こる世の中。
職安の受け付けを待つ長い長い行列は、「未来世紀ブラジル」のような虚構の世界の出来事だった
ハズなのに…。


説教しようにも、語るべき言葉を持たない父親に何の期待もしていない子供たち…
80年代バブル期に繁栄の恩恵を受け、なんとなくここまで来てしまった黒沢監督の同世代
(私もその一人)へのアンチテーゼであって、戦中派深作欣二監督が「バトル・ロワイアル」で、
団塊の世代を見捨てた以上に痛切なものがある。


しかし、本作は暗い現実を「今、こんなに世の中駄目になってしまいました。」と言っているだけ
ではない。
そこから先に、何がしかの希望を見出そうとしている。


この映画の大人(親や教師)たちは、何とも滑稽で子供じみていて、しかし、彼らの子供たちは、
自分達が自ら考え何とかしなければ現状が変わらないことを本能的に感じている。
そこに希望を見る。


ラストに奏でられる「月の光」のやさしい旋律は、子供たちの未来へのほのかな希望の光だ。(○)