任侠ヘルパー 第五回感想

既に第六回も放映されているが、今頃「任侠ヘルパー」第五回の感想を。
〈あらすじ〉彦一(草なぎ剛)は、羽鳥(夏川結衣)に刺青を見られたことをりこ(黒木メイサ)に
責められる。そんななか、小澤(上田耕一)という男性が「タイヨウ」に運ばれてくる。
半身麻痺の小澤は、自宅で妻・さくら(倍賞美津子)に介護されていたが、介護疲れからさくらが
自殺を図り病院に搬送されたため、「タイヨウ」にやってきたのだ。
彦一、りこ、和泉(山本裕典)が病院を訪ねると、さくらは小澤の面倒を「タイヨウ」で見て欲しいと
訴える。すると突然、彦一が、その女に他人の世話はできない、と悪態をつく。
さくらは28年前に彦一を捨てた実の母親だったのだ。


今回は、老老介護に彦一の過去が絡んでくる回だった。
これまで彦一の背景は、涼太(加藤清史郎)との会話で家族の縁が薄いということを匂わすくらいで、
あまり語られてはいなかった。ところが、一人の男が入所したことで思いがけずそれが明らかにされる。
男の妻は28年前彦一を捨てた母親・さくらだったのだ。


このさくらの描写がとても巧かったと思う。
「必ず迎えに来る」と言いながら男と姿を消した身勝手な母。
その男の体が不自由になると夫を遺して自殺を図り失敗。
挙句の果てにはその夫の面倒を施設に丸投げしようとする。
この人はいいかげんで自分勝手な女性なのかと思わせる。
しかし、話が進むにつれ状況が変わってくる。
さくらの夫・小澤はわがままで、身の回りのことはなんでも妻がやってくれなければ気が済まない。
リウマチ等を抱える妻を労わることもせず召使のようにこき使う(ように見える)。
そんな夫を献身的に世話するさくら。
その姿は周囲を寄せ付けず、このままでは共倒れになりかねないくらいだ。
なぜそこまで頑ななのかと思ったが、この年代は、介護に人の手を借りることを、他人様に迷惑を
かけると考えてしまう人もいるのではないかと感じた。
さくらは身勝手というよりも、ギリギリまで一人で抱え込む責任感の強い人なのかもしれない。
しかし、そんなさくらを恨みの眼差しで見つめる彦一は彼女に関わるつもりはないと言い放つ。
けれど、小澤にいいようにこき使われる母親の姿にも苛立ちを隠せない。


彦一を心配するりこと晴菜(仲里依紗)が対照的だ。
二人ともさくらの気持ちを察して、彦一に彼女と対話をして欲しいと思っている。
けれど、「家族だから許せない」という彦一の気持も尊重するりこに対し、晴菜は
「家族なのにこんなの間違ってる!」と面と向かって彦一に詰め寄る。
晴菜の気持ちも分かるが、世の中には色々な家族のあり方があるだろうし、それを正しい・正しくないの
基準で判断するのは、少し馴染まないようにも感じる。
ところが、晴菜のそのまっすぐな言葉に、ついに彦一がキレる。
さくらにこれまでのうらみ・つらみ・罵りの言葉をぶつける彦一。親子の対話は最悪の状態で交わされる。


しかし、羽鳥はそんな彦一を「遅れてきた反抗期?」といなし、「親子の絆は断ち切れない」と語る。
この「反抗期」という言葉が妙にしっくりきた。
彦一はまともに親と接したことがなかったのだから、これが初めての反抗期なのかも。
そして「タイヨウ」にきたばかりの彦一だったら、こんなわかりやすい態度(大爆発)をとったかな?
とも思ってしまったのだ。昔の彦一なら完全シカトか復讐をかねて金を搾り取っていたのでないか?
「人なんて信用するな。人間は一人だ。」という想いでずっと生きてきた彦一。
でも「タイヨウ」に来て様々な老人の世話をして、人や家族との関わり方についての考え方が徐々に
変わってきたように感じる。そんな時にさくらが現れて、素直に感情が爆発してしまったようにも思える。
それは、逆に愛情の裏返しでもあるからだ。


その後さくらは看病疲れで倒れ、彦一は彼女を病院に担ぎ込む。
そこで、さくらは、「家を出た日から毎日彦一を迎えに行こうと思っていたこと。でも体を壊し
入退院を繰り返していたため行けなかったこと。小澤はそんな自分を支え続け元気になったら
彦一を迎えに行こうと言ってくれていたこと。」を彦一に打ち明ける。
「辛くて死ぬことばかり考えていた。でも、彦一に会えたから、これからは夫と生きていこうと思える。」
と語るさくら。どんな理由があれ、彼女が子供を捨てたことは事実だし、変えようがないと思う。
それでも子どもに対する深い愛情を感じる。
「あなたがそこにいてくれるから、自分もがんばれる。」
一人で生きてきた彦一にとって、今後の人生にも影響するとても大切な言葉になったのではないかと
感じた。


そして、これまでさくらをこき使っているだけに見えた小澤が、母親を奪ったことを彦一に詫びる。
「立派に育たれて・・・」と感慨深く呟く小澤。もしかしたら、父親になっていたかもしれない男の言葉に、
情愛や贖罪等複雑な男の心情を感じとる彦一。
それと同時にこの夫婦が互いを支えあう心も感じたのではないかと思う。
妻が自殺未遂したと聞いても「あいつが俺を置いて死ぬわけがない」と言い切れるほどの強い絆。
夫婦にも色々な形があるのだなと思わされた。
彦一もそれを感じたからこそ「おふくろを支えてくれてありがとうございます」と素直に言えたのだと思う。


さくらと小澤は一緒に入れる施設が見つかり、「タイヨウ」を出ていく。
夫婦共倒れの危機は去ったように見える。しかし、小澤は相変わらずだ(と思う)し、老老介護の現実は
変わらない。それでも、希望を感じるられる結末になってよかったと感じた。


しかし、羽鳥に「若年性痴呆」の疑いが・・・。第一話・羽鳥初登場シーンの「ヨーグルト二皿」が
まさかここに着地するとは、開始時思ってもみなかった。羽鳥と彦一はどうなってしまうのか?
(クーラン)