晩鮭亭日常

2017-02-22 私のたどりかた 本屋通いのいま・むかし。

私のたどりかた 本屋通いのいま・むかし。


 仕事帰りに改装なった本屋に行ってみた。



 2日間だけの期間で改装できるのだろうかと思っていたが、目に飛び込んできたのは店の左側のスペースだけ白いシートで覆われているこれまで見慣れた本屋の姿だった。ただ、左50坪分がなくなっているわけだから棚に入っている本の配置は結構変わっていた。これまで中央のスペースにデンと構えていた文芸書は一番右奥の壁側に移動させられ、元からあった哲学などの人文書の棚と合体させられている。明らかに文芸書の量は以前より減っている印象だ。このスペースに置かれていた自己啓発やビジネス書はなくなったのかと思ったらその奥にこれまで通りの売り場面積を確保していた。このことから考えると文芸書よりビジネス・自己啓発本の方がこの店では売れているのだ。文庫の棚はほぼ以前の面積を死守しているが、新書は明らかにスペースを狭められていた。新しい新書シリーズが増え続ける中、それに呼応して売り場面積を拡大してきていた新書コーナーもそれに見合う売り上げを実現できていないということなのか。雑誌コミックス、学参は以前のままの場所に以前の姿でそこにあった。全体としては以前と同じレイアウトが残っている分、その棚に挿された本の種類が違うことに脳が混乱してしまい途惑う自分がいる。まだ、この店を気持ちよく回遊するルートが見出せない。


 そんな迷い子のような気持ちを抱きつつ、改装祝いに2冊購入。




 共に発売を知ってはいたがこの間の本屋休業で買えていなかったもの。両者とも題名及び副題の漢字とひらがなの配分に意識をしているなあと思う。戦争に向かって行く時代を背景とした銀座の姿や古書並びに古書業界について硬く書こうと思えばいくらでも硬くなるところを柔らかく読みやすく書こうという著者たちの姿勢が感じられる。

 

2017-02-21 街は文具で溢れてる。

街は文具で溢れてる。


 この2日間、珍しいことに仕事帰りに本屋に寄っていない。それは忙しいからではなく、寄りたくても本屋がやっていないのだ。いつも行く本屋が昨日今日とシャッターを降ろし、店を休んでいる。シャッターに貼られた告知にはそれが改装の為であることが書かれているが、そこに気になる文言が入っている。「文具コーナー50坪増設のための改装」という言葉である。駅ビルに入っているこの本屋の隣にはカフェがあり、この店はつい先月改装を終えたばかりだからここが文具コーナーになることはない。ということはシャッターの向こう、つまり本屋の元々の敷地内に50坪増設されるということだ。なんだよ、それって本屋が50坪小さくなるということではないか。この街唯一の新刊書店が縮小されてしまうのは、日々この店で好きな本や雑誌を買うことを楽しみとも生きがいともしている者にとって残念な状況である。この改装に関して告知の紙にはこんな文言もあった。「お客様のご要望により」である。文具コーナーが50坪増えることが客の要望なのだろうか。この駅ビルにはすでに女性客で賑わう文房具屋が入っているし、同じ階には文具が置いてあるダイソーも無印も出店している。そして駅ビルを出て100メートルも歩けば、天井が高く、余裕のある棚並びで店内を歩いているのが気持ちいい個人的に気に入っている大きめの文具店が20年以上前から既にある。この環境の中でどれだけの客が文具コーナーの増設を希望するだろうか。多分、これは売り上げの少ない書籍部分を縮小するための方便なのだろう。そうか、店が小さくなってしまうのか。もちろん、本屋の魅力は広さと比例するわけではない。他の人のことを考えないのなら、京都三月書房の広さと品揃えがここにあれば正直文句はない。でもここに望まれているのは、セレクトショップ的な本屋ではなく、これまで一般的に捉えられてきた町の本屋なのである。ただ、その中で欲しい本を手に入れたい僕にとってはある程度の広さ(つまり本の量)が必要なのである。マニアックな品揃えがなくても、マイナーな出版社の本がなくても大手出版社単行本新書文庫本雑誌があればいい。ここで手に入らないものは、神保町に買いに行けばいいのだからそれでいい。ただ、仕事帰りに毎日散歩のように棚の間を歩ける店のスペースをなくさないで欲しいのだ。最初に単行本小説本の棚とノンフィクション本の棚に挟まれた通路から歩き始め、文芸誌のコーナー前を通り、文庫新書の棚を左右に見る通路に曲がり、文庫両面の通路を折り返して、コミックスの平台をチェック、学参コーナーの前を通って左折すると雑誌コーナーに出る。そこを突きあたりまで歩いてまた右に折り返すと旅行ガイドと漫画雑誌の通路。そこを過ぎて今度は左に折り返すと映画落語美術の棚と趣味の本の棚の間を通って店の入口前に戻ってくる。ここで終わらず、周回で気になった棚にもう一度足を伸ばす。その頃には最低1冊は手に買うべき本か雑誌を持っている。これが僕の日課である。改装後はもう二度と同じ道を歩くことはないと思われるのでここに記録しておこう。


 明日、本屋部分だけ開店するらしい。増設される文具コーナーはもう少し後になるとのこと。本屋部分を先に開けるのは24日に迫った村上春樹新刊「騎士団長殺し」の発売に間に合わせるためだろう。全国の書店の稼ぎ時を逃してはなるまい。もちろん、僕もこの店でこの本(上下巻)を買うだろう。この街から本屋がなくならないようにこの店で本を買い続けることしかできないから。


 とりあえず、これからドラマカルテット」(TBS)を見て、明日は改装なった店に本を買いに行こうと思う。

2017-02-19 詩とシフォンケーキ。

詩とシフォンケーキ




 日曜だが、休日出張のため7時過ぎの電車に乗って神保町へ。


 車中の友は、池上彰・竹内政明「書く力」(朝日新書)。読売新聞の名物コラム編集手帳」を書いている竹内氏を迎えて池上さんが文章(コラム)を書くテクニックについて話す対談本。「編集手帳」を半年分まとめた中公新書ラクレを買っている読者としては読んでいて面白いのだが、読売新聞論説委員朝日新聞社から本を出して大丈夫なのかがちょっと心配になる。



 人影もまばらな神保町に出て本日の出張先まで歩く。今日の出張はいわば支社に勤めている僕が、本社のからの依頼を受けて本社の仕事をチェックして意見を言うというようなもの。案内された7階のガラス張りの部屋からはよく晴れた休日のオフィス街の空がよく見渡せる。しかし、目の前のディスプレイにはデジタルの時間表示が刻々と時の過ぎるのを伝えており、時間に縛られた仕事であることをこちらに告げている。休日返上のぼやけた頭をコーヒーで起こしてなんとか与えられた仕事を完了する。お偉いさんの挨拶を受け、その後は別室に用意された昼食の弁当を食べ、帰りには手土産の菓子折りまで渡される。さすが支店に当たるわが職場とは予算規模が違うなあ。弁当菓子折りもいらないからその分を他の必要な予算に回せばいいものをと思う。まあ、ゆるい糖質制限をしている身に白米のみっしり詰まったトンカツ弁当はちょっと重いのと、これから神保町で買い物をしていこうとしている身には菓子折りの紙袋は手ふさがりであると言うのが本当のところだけれど。




 歩いて神保町へ戻り、東京堂書店この街で手に入れようと思っていた1冊を購入。



http://natsuhasha.com


 ツイッター書影は見ていたが判型は思っていたよりも小ぶり。それがまさに“詩集”そのものの姿であるという感じでなんともよい風情である。早起きと緊張からの解放による眠気に襲われまたコーヒーが飲みたくなる。神田伯剌西爾コーヒーシフォンケーキ。「美しい街」を手に取り、ページをめくり、数編の詩を読んでみる。1頁に収まってしまう小さな詩と重さを感じさせないシフォンケーキの取り合わせが丁度よいように感じる。


 疲労感が強いのでそそくさと店を出て電車に乗って帰る。車中で「美しい街」の巻末に添えられたエッセイ、能町みね子「明るい部屋にて」を読む。この人の文章をちゃんと読むのは初めてかもしれない。いい文章だな。


しかし、詩というのものはたいがい短く、亀之助のものは特にそうである。そのため、詩集は散漫に読むのがいい、と私は決めつけました。一篇を読むこと自体は一瞬で終わってしまうできごとで、次から次へと読んでしまうとひとつひとつがあまりに軽くなり、申し訳ない。》



 なるほど、と思ったので「美しい街」の詩は少しずつ、折に触れて読んでいこうと思う。ただ、「明るい部屋にて」で言及されていた散文「泉ちゃんと猟坊へ」は探して読んだ。尾形亀之助についても能町みね子についても自分がほとんど何も知らないことに気づかされる文章だ。最後の一文に気持ちが軽くなる人がいるだろうことは僕にも想像できる。




 帰宅して、録画しておいたTVドラマ「バイプレーヤーズ」を観て(主役の6人プラス竹中直人が1つの画面にいる濃さったらない)、その後30分ほど仮眠をしてから起き出し、昨日届いた熊本野菜の詰め合わせから、里芋とごぼうを選び、土井善晴レシピを見ながら“里芋のバター焼き”と“ごぼうのきんぴら”を作った。里芋は量が多すぎて食べきれなかった。きんぴらの方はジップロックのタッパーに詰めて明日職場の昼食のサイドメニューにするつもり。

2017-02-12 Blue Kaba in Book Cover。

Blue Kaba in Book Cover。



 昼過ぎに家を出る。


 陽射しはあるが、風が少し冷たい。部屋でレコードでも聴きながら、本でも読んでいたい気持ちもあるが、せっかくの日曜だから出かけることにした。最近できた本屋で行ってみたいところがいくつかある。今日はそこへ行くつもり。


 まずは駒込にある“BOOKS青いカバ”。店の隣にまだ行ったことのない東洋文庫があるのも魅力的だ。ネット検索すると地下鉄三田線千石駅地下鉄南北線駒込駅のどちらからでもほぼ同じ時間で行ける場所にあることがわかる。三田線南北線のどちらも乗り入れている駅が地元駅なのでどちらでも一本で行けるのはありがたい。駅についたら最初に出るのが三田線だったのでこちらに乗った。


 車内では多胡吉郎「漱石ホームズロンドン」(現代書館)を読む。書きあぐねている別ブログ漱石倫敦ホームズLONDON。」に景気をつけるための読書。題名がかぶっている感じだが、こちらも20年前から考えていた題なので気にしないことにする。ホームズの作品世界を補助線として漱石ロンドンにおける“南北問題”(リッチな北側と貧しい南側)を論じているのが面白い。






 千石駅で下車して、都立小石川中等教育学校の前を通り、駒込警察署横の東洋文庫へ寄り道。ランチタイムが2時半までだったので、まずは施設内のカフェに入り、昼食をとる。このカフェ小岩井農場と提携しているらしく、肉や乳製品が売りらしい。それではとハンバーグランチを食べてみる。つなぎのない100パーセントハンバーグは肉の味わいがあってうまい。後から来たお客さんが「食事の時間が終わっているのですが、それでよろしいですか?」と聞かれていたので、間に合った喜びも味わいのひとつになったかもしれない。


 腹を満たして、満を持して東洋文庫ギャラリーへ。階段を上がるとそこに写真で見た“モリソン書庫”が。正面と左右の壁が見上げる高さの書架となっており、薄暗い間接照明にそれが浮き上がっている光景は本好き、本棚好きにはたまらない。大英博物館でグレンヴィル・ライブラリーを見た時と同じような蠕動を身中に感じた。


 満足して東洋文庫を出ると、すぐ横に今日の目的のひとつである今年の年明けに開店したばかりの本屋・BOOKS青いカバがある。京都善行堂を思わせる青い看板が目印。店頭の均一棚を眺める。ただ本が挿してあるのではなくて、それなりにジャンルを意識した並びになっているのがわかる。文庫の棚から復刊されそうもないので持っていたいちくま文庫を一冊選ぶ。

 店内に入ると数名のお客さんが棚を見ている。思っていたよりも奥行きのある作りで、圧迫感がなく、ゆったりとした気持ちで本を探すことができる感じ。店内に入って正面に平台が置いてあり、そこに平積みや立てられた面陳の本を並べている。ここが店の顔を客に見せる場所なのだろう。隣の東洋文庫で“ロマノフ王朝展”をやっているのを意識してロシア関係の本がさりげなく置かれているのは店の気配りが感じられる。店内の棚を見て回るといい感じに肩の力が抜けていて色々なジャンルの本をバランスよく並べている。セレクトショップ感の強い店にありがちな息の詰まる雰囲気がないのがいい。

 それに対してレジ横に置かれている新刊本の棚には店のこだわりが感じられる。日々大量に出版される新刊の中から選ばれた本だけがそこに置かれているのだから嫌でも店の思いが出る棚になる。そこに並んでいる本を見れば、ここが信用のおける店であることがわかる。まあ、単刀直入に言えば自分好みの本屋だということなんですけどね。先ほどの均一本の他に、古書1冊、新刊1冊の計3冊を購入した。




Record Covers in Wadaland 和田誠レコードジャケット集

Record Covers in Wadaland 和田誠レコードジャケット集

古本屋ツアー・イン・京阪神

古本屋ツアー・イン・京阪神





 買った本にカバーを巻いてもらう。無地の茶紙のカバーに青インクでカバイラストと店名の入ったスタンプが押される。これがなかなかいい。気に入りました。



 冷たい風が吹く中をJR駒込駅まで歩く。そこから山手線日暮里駅へ。今日もう一軒行ってみたい新しい店があるのだ。舎人ライナーのある方の出口から出て、三井住友銀行が右にある通りを歩いて行くと左手にひぐらし小学校があり、その四角を右手に曲がり、スーパーいなげやの隣にお目当の“パン屋本屋”があった。

 パン屋本屋が同じ建物の中にあるのかと思っていたが、手前がパン屋で奥が本屋。その間に中庭のようなスペースがあるというちょっと贅沢な造りの店舗だ。奥の本屋へ。こぢんまりとした店内には子供連れの家族や若い夫婦が数組、その客層を裏付けるように絵本料理食べ物などの本が充実している。コンパクトな店だから、迷わず方向性を持ったセレクトをしていることを感じさせる店だな。レジ横の棚には店の名前に対応してパンの本がずらり。もちろん、木村衣有子さんの「コッペパンの本」(産業編集センター)も置いてある。その棚に村上春樹パン屋再襲撃」(文春文庫)が並んでいる遊び心がいいね。岸政彦「断片的なものの社会学」(朝日出版社)や植本一子「家族最後の日」(太田出版)が並べられている棚もあり、絵本パンだけの店ではないことをしっかりと教えてくれていた。気になるパンの本は持っている本ばかりだったので、パンに合うコーヒー関係の本を買う。




コーヒーと小説

コーヒーと小説


 庄野さんは徳島にある自家焙煎の店“アアルトコーヒー”店主。ここの豆を何度か通販で買って飲んだことがあり、庄野さんの名前に馴染みがあった。この本は庄野さんが選んだ短編小説アンソロジーコーヒーが出てくるわけではなくて、コーヒーを飲みながら読んでほしい作品を集めたということらしい。何せ最後に載っているのが坂口安吾「夜長姫と耳男」なんだからコーヒーの出る幕はないよね。それが面白くて買ってしまった。



 並びのパン屋にも寄ってアンパンクリームパンラスクを買って帰る。







 帰宅して、昨日ポポタムで買った武藤良子さんの題字が目をひく「石神井書林古書目録100号 特集 練馬区関町」を眺める。「コーヒー小説」に小説「グッド・バイ」が収められている太宰治関係の本もあれこれと載っている。その他、名前の出てくる作家が、小山清井伏鱒二木山捷平上林暁尾崎一雄庄野潤三小沼丹とくればマイナーポエット好きにはたまらない目録だな。そういえばポポタムのキャラクターもカバだったなあと思う。

2017-01-02 富士とスニーカーの今日。

富士とスニーカーの今日。



 年が明けた。

 元日は風もなく、晴れた穏やかな日だった。例年通り、古今亭志ん朝「御慶」を朝風呂で聴く。おせち料理雑煮もないが、これで正月気分になれる。テレビニューイヤー駅伝を見て朝昼晩と食事を作って食べ、その片付けをしているうちに何となく1日が終わる。食料の買い足しに一度コンビニに行ったのが唯一の外出。その時、マンションの4階の廊下から富士山の一糸も纏わない姿を見る。御慶。


 テレビに飽きると音楽を聴きながら読書読みかけであったこれを読み終えた。


続 聞き出す力

続 聞き出す力



 BGMはこれ。







 今日は朝から箱根駅伝を見る。駅伝を見るのは好きだが、選手物語を聞かされるのは苦手。ただ、走らせてあげればいいのにといつも思う。



 午後、箱根駅伝が終わったので昼食を食べに街へ降りていく。今朝まで4食自炊だったので他人の作ったものが食べたくなった。今日も富士がよく見える。

 正月2日の駅ビルは思ったより空いていた。新春セールの無印も人はまばら。セール品の食器洗い用スポンジと半額のスニーカーを買った。



 本屋で今年の本の初買い。




吾輩は猫である (定本 漱石全集 第1巻)

吾輩は猫である (定本 漱石全集 第1巻)



 全集コーナーもない地元書店漱石全集が棚差しされていようとは思ってもみなかった。既に新書版の漱石全集と初出本文をベースにして出された平成版の全集を持っている身としては新たな全集を揃えようなどという気は毛頭ない。ただ、昨年の漱石没後100年に関する色々なイベントやテレビドラマ(「漱石の妻」NHK)などによって久しぶりに「吾輩は猫である」を読み返してみたくなったことと、20年以上前になるが毎年正月の帰省時に漱石全集を1冊持って行って読んでいたことを思い出し、今年の1冊目にすることにしたのだ。



 いつもは入口前に順番待ちの列ができている大戸屋も空席の方が多い。商売的にはよろしくないのだろうが、僕としてはこの方がうれしい。いつもの鶏と野菜黒酢あん定食を頼む。食事が来るまで携帯本の遠藤哲夫「理解フノー」(港の人)を読む。小さくて薄い本なので、こういったちょっとした待ち時間にさっと出してちょこっと読んで料理が来たらすっとしまえる。ちょうどいい。


理解フノー (四月と十月文庫7)

理解フノー (四月と十月文庫7)


 帰宅して、先日スキャナーで取り込んだ昔職場の出版物に書いた自分の文章をワード文書に直す作業に没頭する。漢字の誤変換や文章の脱落や余計なスペースを直すのに思いの外手間取った。なぜ、こんなことをしているかというと、今年の自分自身への課題として今から20年前の1997年に職場の海外研修で一月ほどイギリスに滞在した時につけていた日記をリライトして(そのままでは意味の通る文章にならない)別ブログとしてやっていこうと考えているから。自分としてはほぼ最初の海外渡航であり、色々と思い出深い体験であったため、いつか文章としてまとめておきたいと思っていた。そこに新しい「漱石全集」と英国BBCでこの正月にドラマSHERLOCK」シーズン4の放映が重なり、これは丁度いい機会だなと考えた次第。とりあえず、リライトする必要のない、職場の会報等に書いた2つの文章をプロローグとエピローグとしてブログ漱石倫敦ホームズLondon。」(http://d.hatena.ne.jp/vanjacketei+johnwatson/)にアップしてみました。この題名にした理由はプロローグを読んでもらえればご理解いただけるかと思います。実際に日記に出てくるのは漱石関係ばかりでホームズ関係はほとんど出てくることはないのだけれど。ただ、ロンドンを歩きながら絶えず、ここがシャーロック・ホームズ舞台となったロンドンかという高揚感を抱いて過ごしていたのは紛れもない事実なのだ

 ほとんど自分のためのブログなのですが、もし興味がおありならたまに覗いてみてください。この「晩鮭亭日常」以上に不定期更新になるはずです。



 夕食は「土井善晴和食アプリで知った小松菜味噌汁小松菜ベーコンの炒め物を作って食べる。


 明日は職場に行かなければならない。「孤独のグルメ」新春スペシャルを観てから寝よう。


 遅くなりましたが、今年もよろしくお願いいたします。

2016-12-31 二個玉で大晦日。

二個玉で大晦日。



 気が付けばもう大晦日。


 大掃除は昨日の窓拭き等で一応終わったことにして、出かける。


 二子玉川のTOHOシネマで2度目の「この世界の片隅に」。

 前回、テアトル新宿で観た時はその印象を言葉にすることができず、心の中にモヤモヤとしたものが残った。その後、町山智浩映画ムダ話」を聴いたり、原作・こうの史代この世界の片隅に」(双葉社)を読んだりした。それぞれに感銘を受けたし、その素晴らしさを同僚に語ったりもした。それでもまだ、自分の中でうまく着地してくれた感じはなかった。


この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)


 大晦日でもあり、年越しのイベントのような感じでエグゼクティブシートを奮発した。ところが、周囲のエグゼクティブシートに座る子供の多さにこの地にはどれだけ金持ちの親がいるのだと贅沢の背徳感を下敷きにした自分の喜びがなんだか馬鹿らしいものに思えてしまう。アニメとは言っても小さい子供たちにはちょっと難しいのではないかと心配したが、みんな騒ぐことなく静かに観ていた。この映画の持つ力を過小評価していたと反省する。



 2度目はストーリー展開を知っていることもあり、素直に笑ったり、ハラハラしたり、そして涙を浮かべることもできた。映画館を出ると気持ちが軽くなった。ただ、「いい映画だな」と思う。「それでいいじゃないか」と思った。この映画に出会ったことで、こうの史代という魅力的な漫画家を知ることもできたし、「夕凪の街 桜の国」(双葉社)を読むこともできた。



夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)



 映画館の下にある蔦屋家電に入る。先日の知人宅での忘年会でここが本屋でもあるということを知ったため、是非寄っておきたいと思ったのだ。円環状の通路とそれに沿って設えられた本棚。思ったより本の量も多く、初めての僕にはまるで迷路のようにどこまでも本棚が続いているように感じられてちょっとゾクゾクした。夏葉社の本やミニコミ『ヒトハコ』も並んでいるのも好感が持てた。そこでこの2冊を購入。




神保町

神保町



 「冬の本」は2冊目。増刷したと聞いていたので贈答用に1冊買っておくことにした。


 それにしても二子玉川という街はドレスコードでもあるのかと思うほど街を歩いている人たちの服装が高価そうで余所行きで何となく僕には息苦しい。駅周辺はどこもかしこもピカピカで落ち着ける淀みのようなものがないんだよな。



 帰りの乗り換え駅である自由が丘で下車して昼食。この街はいい意味で少しくすんでいて居心地がいい。夜にご馳走を食べる予定なのでここはマクドナルドグラコロバーガーで済ませておく。この街に来るときは必ずよる駅前の不二屋書店で1冊。



ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 「移住×仕事」号

ミシマ社の雑誌 ちゃぶ台 「移住×仕事」号



 ミシマ社が以前にこの自由が丘にあったからだろう“地元出版社ミシマ社コーナー”があるのがうれしい。そのためミシマ社雑誌ちゃぶ台』の創刊号を買っておく。益田ミリ内澤旬子、ホホホ座、佐藤ジュンコといった執筆者もいい。




 最寄駅の駅ビルでいい牛肉を奮発し、しらたき、長ネギ白菜、焼き豆腐も買った。今晩はすき焼きだ。実家は昔から大晦日にすき焼きをする。弟が実家を仕切るようになってもそれは変わらなかった。ふた親がいなくなった実家に帰省することは昨年からなくなった。大晦日はひとり家で過ごす。でも、すき焼きはやっておきたいのだ。



 玉子を二個使ってすき焼きを食べ(牛肉がうまかった)、蜜柑をむきながら紅白歌合戦を見つつ年が暮れていく。


 今年もありがとうございました。こんな不定期で長期更新なしのブログを読んでいただき感謝しております。


 また、来年もよろしくお願いします。

2016-12-21 ロスとロスト。

ロスとロスト。



 昨晩は、ポストに届いていた『BOOK5』の最終号となる“特集 年末恒例アンケート 今年の収穫”を楽しんだ。この季節になると色々な雑誌・新聞等でこの手のアンケートが花盛りとなるが、sumus同人の方々だけでなく、ヨムネル(yomunel)・塩山芳明東川端参丁目・北村知之といった皆さんの名前が並ぶのはこの『BOOK5』だけだろう。なんともうれしいプレゼントだ。


 yomunelの表記で頭に刻まれているので最初“ヨムネル”って誰?と思ったが、アンケートの最初の一文を読んで、このアプローチの仕方は間違いない、あのyomunelさんだとニンマリする。こちらの期待の地平を裏切らないその後の展開にもウンウン頷きながら、いい仕事してますねぇと納得。

 塩山さんのアンケートが僕にとっての白眉の一編。この屈折した直球の評は塩山さんにしか投げられませんよ。「森卓也コラムクロニクル」を買ってよかったと思わせてくれます。

 東川端さんの「逃げるは恥だが役に立つ」と北村さんの昼休みに食べるパンはアンケートの中心ではなく周縁だが、その周縁がおいしいのだ。


 ついでに前年のアンケート特集(19号)も引っ張り出して眺める。去年の一番人気は岸政彦「断片的なものの社会学」。僕もこれを読んでそのしなやかな強さにポワンとしてしまったことを思い出す。そして今年は栗原康「村に火をつけ、白痴になれ」。これも今から読むのが楽しみだ。



断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝




 『BOOK5』はこれで終了ということだが、年に一度このアンケート号だけ別の形でもいいから出して欲しいと思う。



BOOK5 22号 特集:年末恒例アンケート 今年の収穫

BOOK5 22号 特集:年末恒例アンケート 今年の収穫


 その後、TVで「逃げるは恥だが役に立つ」の最終回を視聴。途中の「真田丸パロディに「真田丸」ロス状態の心が躍ってしまう。ミーハーな体質のため、「逃げ恥」ロスも加えて床に着くことになった。




 今日は、職場ではなく出張場所に直接行くため部屋で朝食をとる。パントーストし、ハムエッグを作り、昨日コンビニで買ったごぼうサラダを添えて食べる。


 午前中は武蔵小杉周辺で野外仕事。師走と思えぬ暖かな陽射しがうれしい。昼前に上がり、午後の出張場所へと向かう。


 乗り換え駅の神保町で下車。まだ、出張先の会議が始まるまで1時間以上あり、しかも場所はここから駅で2つとなれば、慌てることはない。比較的空いていたキッチンジローでハンバーグチキンカツの盛り合わせの昼食をとり、東京堂三省堂を回って数冊買い込む。




唐獅子株式会社 (小林信彦コレクション)

唐獅子株式会社 (小林信彦コレクション)



 “特集・こうの史代”は、明日ようやく仕事帰りに映画この世界の片隅に」を観に行けることになったため、鑑賞後の楽しみに買っておく。

 “『シン・ゴジラ』とはなにか”は、『ユリイカ』を毎号並べている地元書店にいつまでたっても入らないので、辛抱たまらずこちらで購入。

 「唐獅子株式会社」は「極東セレナーデ」に続く、フリースタイル小林信彦コレクションの第2弾。予定より遅れてやっと出ました、買いました。これまで親本、新潮文庫版と読み継いで来たが、唐獅子シリーズが1冊本としてまとめられたのはこれが初めて。


 時間があまりないので、三省堂の隣の上島珈琲店に入ってコーヒーを飲みながら「唐獅子株式会社」をちょっと読む。冒頭、出所した“不死身の哲”こと黒田哲夫が、自分の所属する二階堂組の変貌に驚く様子が描かれるのだが、これがうまい。これから須磨組の大親分の勝手気儘のハチャメチャ振りに翻弄されて行くことになる哲を取り囲む状況が寸分の無駄もない会話の連続で読者の目の前に次々と現れてくる。味わい深いのにサクサク読める。小林信彦という作家しか書けない良質の仕事。おかげで初めて飲んだ上島珈琲店のブレンドの味を全く覚えていない。


 2時から始まった会議は1時間半ほどで終了。本日の業務はここまで。


 もう一度乗り換え駅の神保町で下車し、今度は本屋ではなくレコード屋へ。


 お馴染みの名盤たちをお手頃価格で手に入れる。


 帰りの車内では先程買った「唐獅子株式会社」の続きを読む。インテリやくざの原田、元プロレスラーのダーク荒巻、生臭坊主の学然など懐かしいメンバーと楽しく再会しているうちに駅に着く。慌てて降りて地元本屋を流している時に手にディスクユニオンの袋を持っていないことに気づく。電車の網棚の上に置いたまま忘れて来たのだ。急いで駅の窓口へ。あれこれあってその荷物は武蔵小杉の駅に届いているとわかる。もう一度武蔵小杉へ。無事入手。




 帰宅して、夕食をとり、買って来たレコードペプシスペシャルゼロを飲みながら聴く。コーラを飲むたびに正面のテレビに立てかけてある「スプリット・キック」の瓶のミルクを飲むゲッツと目が合ってしまう。その黄色いジャケットを見ていると、ダンディ坂野のギャグ、“ゲッツ”と黄色いスーツの衣装はこのレコードからきているのではないかという妄想が湧いてくる。いかんな、どうも疲れているようだ。



スタン・ゲッツ・オン・ルースト Vol.2

 

2016-12-11 マイスターたちとの宴。

マイスターたちとの宴。


 今日は何もない日曜日。8時まで寝ている。


 朝風呂に浸かりながら、「角川映画主題歌集」(EMI)を聴く。「人間の証明」、「野性の証明」、「スローなブギにしてくれ」、「セーラー服と機関銃」、「探偵物語」、「時をかける少女」、「愛情物語」、「メインテーマ」、「WomanWの悲劇”より」など懐かしい曲がてんこ盛り。先日、フジテレビ歌番組薬師丸ひろ子原田知世角川映画主題歌を歌っていたのを観て、思わず聴き直したくなってしまった。自分の学生時代角川映画とともにあったことを実感する。


角川映画主題歌集

角川映画主題歌集



 コンビニで買っておいたチーズグラタンとごぼうサラダ冷蔵庫にあった卵で作ったオムレツを添えた遅い朝食を食べてから家を出る。


 父親の命日がつい先日だったので、今日は墓参りに行くつもりなのだ埼玉までそれなりに時間のかかる道中となるため、ゆっくり本が読める。今日は町山智浩「最も危険なアメリカ映画」(集英社インターナショナル)をカバンに入れる。



 D.W.グリフィスが「國民の創生」でKKKを復活させ、ウォルト・ディズニーが「空軍力の勝利」で東京大空襲を招来しているうちに霊園の最寄駅に到着。駅前のコンビニで線香とお供え用の缶ビール缶コーヒーを買ってタクシーに乗る。霊園まではワンメーターで到着。川沿いにあるこの場所は冷たく強い北風が吹き抜けて行く。最近弟家族が訪れた後らしく、墓周りは綺麗に掃除され、花も供えられている。これでは、不肖の兄貴はほとんど何もすることがないな。北風に歯向かうように身を屈めてどうにかこうにか線香に火をつける。花と供え物を入れ替え、冷たい水で濡らした雑巾で墓を拭く。天気はいいが、風が冷たいこの午後に墓参りにくる人影はほとんどない。冷たい手を手袋に包み、タクシーで来た道を帰りは歩いていく。寒さを見越して上下とも防寒の肌着を着込んでいるため、歩いているうちに体が温まって来て、駅に着く頃にはうっすら汗をかいていた。


 この最寄駅から数駅埼玉の奥に入って行くと姫宮の駅があり、そこに知人のパン屋がある。せっかくここまで来たのだからお目当のシュトーレンを買って帰ろう。それにちょうどこの週末にその店が開店2周年の感謝フェアをやっているのだ。


 店の前の駐車スペースは車でほとんど埋まっており、店内は人で賑わっていた。2周年記念の特別メニューを並べるための棚にはすでにパンの姿はなかった。通常品からあれこれ選び、そしてお目当てのシュトーレンもゲット。先日持って行ったクリスマスソングCDが流れる店内のイートインコーナーで今買ったパンをあれこれ食べていると知人が厚切りの食パンクラムチャウダーカレーを乗せたものを持って来てくれる。用意したパンがほぼそこをついてしまったので、とりあえずこれを出して急場をしのぐとのこと。繁盛なのは結構、結構。今日持って来たクリスマスソングCDを1枚置いて店を出る。




 帰りの乗り換え駅の神保町で下車。東京堂へ。地元で買えない欲しい本をごそっと買い込む。






おすすめ文庫王国2017

おすすめ文庫王国2017

気がついたらいつも本ばかり読んでいた

気がついたらいつも本ばかり読んでいた

花森安治装釘集成

花森安治装釘集成




 3冊で1万越えの買い物をしたためか、これまでもらった記憶のない東京堂の手提げ紙袋に入った本たちを渡されてまた一層気持ちが高まる。



 本来なら、この後信山社岩波ブックセンターによるところなのだが、倒産ニュースを知ってしまっているため寄る足も出ない。



 神保町からの車内では『おすすめ文庫王国』から坪内祐三「年刊文庫番 集英社文庫の『ポケットマスターピース』は小さな図書館だ」と片岡義男文庫本オールタイムベストテン 言葉のなかにだけいまもある『日本』をさまよう」に目を通す。



 帰宅して、白菜鶏肉油揚げを入れた味噌仕立てのキムチ鍋で夕食。

 食後のデザートはドイツで8年修行してパンマイスターの資格を得た知人の作ったクリームチーズ入りのシュトーレンと本や装釘マイスターたちの手になる本を味わう。


 「気がついたらいつも本ばかり読んでいた」の色違いの四角いタイル状のパターンが並んでいるカバーと「花森安治装釘集成」の色違い水玉模様が並んでる帯の意匠がよく似ていることに気づく。それぞれまるで色とりどりの星がまさに綺羅星のごとく並んでいるようだ。そう思ってみたら『おすすめ文庫王国』の表紙にも色とりどりの猫が並んで描かれているではないか、しかも星の絵まで添えてあった。偶然を楽しむ。

2016-11-17 眼福と口福と。

眼福と口福と。



 仕事帰りに本屋へ。



漱石全集物語 (岩波現代文庫)

漱石全集物語 (岩波現代文庫)

獺祭書屋俳話・芭蕉雑談 (岩波文庫)

獺祭書屋俳話・芭蕉雑談 (岩波文庫)



 岩波が「定本 漱石全集」を出すのに合わせた企画と思われる上記2冊を購入。漱石と子規の取り合わせ。

 『東京バスで散歩』は京阪神エルマガジン社。同じようなバス旅企画の特集雑誌は何度か見かけたが、信頼を置くエルマガジン社の名前と表紙の写真にやられてレジへ持って行く。



 書店の袋を鞄に詰めて町の中華料理店で夕食。野菜炒め餃子を注文する。麺や白飯炭水化物はなし。とりあえず、1年以上平均67キロを維持している。去年の夏が79キロだったので12キロ減だ。

 料理が来るまで、『東京バスで散歩』を眺める。13ほどのバスルートによる町歩きが載っているのだが、「都バス【草63】【上58】で食う読む読む読む遊ぶ。◎浅草三ノ輪→道灌山下千駄木護国寺早稲田」を開くと、そこにはカストリ書房、ひるねこBOOKS、往来堂書店古書ほうろうなど本屋がいっぱい登場している。おやおや、と思っていたら“取材・文 南陀楼綾繁”の文字が。なんだ、ナンダロウさんではないですか。それで納得。買って正解。続く都バス【白61】(取材・文 稲田豊史)には青聲社、ブックギャラリーポポタムも登場し、“わめぞ”まで出てきて楽しめる。やっぱり、こういう雑誌二次元電子書籍ではなく、三次元の紙として手に持っていたい。

 最近、同じように感じたのは、『Casa BRUTUS』12月号の本屋特集。最初は電子書籍の“dマガジン”で読んだのだが、タブレットPCの画面では隔靴掻痒の感否めず、翌日大判の持ち重りのする『Casa BRUTUS』を本屋で買ってきて部屋でじっくり眺めて満足した。眼福。



 野菜炒めとジャンボ餃子を腹に入れ、店を後にバス停へと歩き出す。この時、不思議といつもフンワリとした幸福感に満たされる。口福感と言ってもいいかもしれない。この町で外食して店を出る時、一番幸せを感じさせてくれるのがこの中華屋なのだ。いつまでもこの“町中華”が営業を続けてほしいと願う。

2016-11-16 谷崎ジャンクション。

谷崎ジャンクション


 仕事帰りの本屋で、漫画コーナーの平台に1冊だけ残っていたこの本を慌てて取り上げる。





 中央公論新社HPweb連載されていた頃から書籍化されるのを楽しみにしていたもの。発売になったと聞いてから地元本屋で毎日のようにチェックしていたが、昨日まで影も形もなかった。それが今日突然その姿を現し、しかも最後の1冊になっていたのだから手も伸びるというものです。


 帰宅すると通販で購入したLPが届いていた。





 早速、ターンテーブルに載せて、それをBGMにしながら「谷崎万華鏡」。お目当ては高野文子「陰影礼賛」と山口晃「台所太平記」のふたつ。全11作を通読してみて、それぞれなかなかのクオリティの作品が揃っているが、やはり印象深かったのは高野&山口作品だった。

 高野作品は漫画というよりは、「陰影礼賛」の本文につけられた挿絵のよう。漱石作品の挿絵のような、淡い墨絵風の愛らしい絵を見ながら本文を読んでいるうちに谷崎潤一郎の文章がいつの間にか高野さんが書いた文のように思えてくる不思議。

 1枚の淡彩画のような高野作品に対して山口作品はまさに大河小説。谷崎本人を思わせる千倉磊吉の家に勤めた女中たちの回想録なのだが、それぞれの女中たちのキャラクターがしっかりと造形されており、ひとりひとりが興味深くこちらに迫ってくる。特に最初の女中である“初”は鴨川つばめマカロニほうれん荘」の“きんどーさん”そっくりの顔立ち。これがなんとも愛すべき存在で印象深い。美形なのに自転車で川に飛び込み、額から血を流して上がってくる“銀”も忘れがたい。女中たちそれぞれの姿を追っているうちに千倉家の時間が流れて行き、最後の頁にくると長編小説1冊を読んだような噛みごたえのある作品になっている。谷崎の書いた「台所太平記」は未読なので、これはちゃんと読んでみないとと思わせる力のある作品だ。