晩鮭亭日常

2016-04-11 昭和と東京。

昭和と東京



 昨日、一昨日と日が落ちてからの寒さを恐れて一枚多めの服装をしたことを後悔するような春の自己主張の暖かさであったことがまるで嘘のような今日の風の冷たさに少し猫背になる。


 野外仕事で冷えた体を屋内の机仕事で温めてから退勤。


 本屋へ。そろそろ出ているのではないかなと思って探してみるとこの2冊がエッセイの棚におさまっているのを発見する。



ここが私の東京 [ 岡崎武志 ]

昭和にサヨウナラ


 それぞれタイプの違ったセンスのいい造本といい、同じ時期に休刊した雑誌en-taxi』に連載していたものがベースになっていることといい、まるで二卵性双生児のような2冊。

 前者は、昭和の東京に上京してきた文学者漫画家ミュージシャンを中心としたポルトレ集。後者は昭和の東京で活躍した作家、役者、編集者たちへのレクイエム集。



 帰宅前に寄ったコンビニで『ビックコミック』4月25日号を買う。お目当ては巻頭カラー読み切りで載っている谷口ジロー「何処にか」と最近コミックスの8巻が出たばかりのジャズ漫画BLUE GIANT」の2作。「何処にか」は小泉八雲と思われる人物が明治三十年の東京を歩く。松江熊本神戸暮らしていた八雲も上京者のひとりと言っていいだろう。次号に続編が載るということなのでそれも読みたい。「何処にか」を読み終わって頁をめくると「BLUE GIANT」が始まる。主人公のサックス奏者・宮本大は仙台からの上京者だ。東京で一番のジャズクラブ演奏することを目指して物語は展開している。熱い漫画


BLUE GIANT 8 (ビッグコミックススペシャル)


 “昭和と東京”ということで言えば、最近毎日1編ずつ読んでいる片岡義男コーヒードーナツ盤、黒いニットのタイ」(光文社)もまさにそういう小説だ。1960年から1973年までの作者の自伝「勤労」小説と帯にうたわれている。今、1967年まで読み進めているのだが、ある意味この作品は神保町小説と言える側面を持っている。作者は、神保町の街角で小さなナイフで鉛筆を削り、その町の喫茶店をハシゴしながら原稿用紙に鉛筆で文章を書くことで生活している。そしてその周囲ではいつもアナログレコードが回転し、音楽が流れている。僕もレコード棚からアルバムを1枚抜き出して、ターンテーブルにのせてみる。先日京都で買ったJohnny Smith「Moonlight in Vermont」(roost records)だ。これは、昔読んだ油井正一ジャズ ベスト・レコード・コレクション」(新潮文庫)所収のエッセイ片岡義男氏が紹介していて知ったアルバムスタン・ゲッツが参加しているのもいい。昭和の東京ジャズ喫茶でもきっと流れていた一枚。



コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。

ヴァーモントの月

2016-04-03 肩と手と目で楽しむ京都。

精興社と誠光社。


 休みが取れるかはっきりとしていなかった日曜日だったが、土曜に「明日は休む」と決めた。

 そのため、土曜の仕事帰りに本屋へ寄り、『ひとりで歩く京都本』(京阪神エルマガジン社)を購入した。もちろん、翌日に京都へ行くためだ。


ひとりで歩く京都本 (えるまがMOOK)


 今日の朝、5時に起きて朝風呂に入り、さっぱりとしてモヤモヤ頭の後ろでわだかまっている仕事のことは忘れて、新横浜から8時の新幹線に乗って京都へ向かう。

 車中の読書読みかけのこの本。


その姿の消し方

 偶然手にした絵はがきに書かれていた謎の詩らしきものを書いた作者を探るモチーフを持った連作短篇からなる長編小説。もちろん、本文は精興社。数日前から1日1編ずつ読み始めた本をそのまま鞄に入れてきた。


 それぞれ独立した短篇として『yomyom』『新潮』『芸術新潮』『文学界』などに発表されたものなのだが、こうして発表順もバラバラに並べられてみると、それぞれの独立した境界(始まりと終わり)もなにやら不分明な曖昧模糊としたものに溶解して行き、それが少しまどろっこしいような心地よいような不思議な感覚に抱かれているうちに京都着となった。


 天気予報日中曇りであるがその後に雨という。レンタサイクルで目的の本屋を回ろうという計画なので、とにかく雨に追いつかれないように素早く行動したい。地下鉄電車を乗り継いでいつも利用している出町柳駅近くのレンタサイクルの店に向かう。まず、地下鉄京都駅ホームの混雑ぶりに驚く。日曜の京都を甘く見ていた自分に気づかされる。これじゃ東京の平日朝の通勤ラッシュと変わらないよ。

 出町柳で自転車にまたがる。古本屋が開くのはだいたい昼頃だから、まず確実に開いている新刊書店からせめることにする。鴨川沿いを三条方面へと走る。川沿いに並んでいる桜並木がキレイだ。桜の花咲京都に来たのなんていつ以来だろう。鴨川を渡って京都市役所前方面へ。三月書房から回ろうとしたが、店はまだ戸を閉めたままだった。すでに吹く風にかすかな水滴を感じていたので、すぐに別の店に向かう。


 もう一度鴨川渡り、平安神宮へ向かう。神宮前に『ひとりで歩く京都本』で知った蔦屋書店があるのだ。『京都本』で見る限り、代官山と同じコンセプトの店らしい。そしてその2階には“京都モダンテラス”というレストランがあるらしい。そこでちょっと早めの腹ごしらえもしてしまおう。目的地に着いてみると書店の横の広場では踊りのイベントをやっており、想像以上の人であふれている。蔦屋書店も混んでいたが、レストランも70分待ちということで早々に退散する。


 三たび鴨川渡り、丸太通から右折して入った路地に誠光社があった。最近できたこの書店に来るのはもちろん初めてだ。迷わずこれたのはこれも『ひとりで歩く京都本』の地図にちゃんと載っていたから。こぢんまりとした店なのだが、その昔からある建物の風情をうまく利用した居心地のよい店内と欲張らない棚作りは、先日行った荻窪Titleに共通するものがある。ただ、Titleには奥にカフェスペースが独立したカタチであるところが違っているけれども(そこで食べたフレンチトースがなかなかよかった)。気になった2冊を購入。





 外に出て自転車を漕ぎ出すとまた雨の気配が。先を急ぐ。四たび鴨川渡り二条の通りをまっすぐ進み白川通に打ち当たって左折、しばらく進んで左にファミリーマートが見えたところの先を右折するとホホホ座があった。ここも『ひとりで歩く京都本』の地図を頼りに無事到着することができた。もとガケ書房山下さんが始めたこの店で今夜その著書である「ガケ書房の頃」(夏葉社)の出版イベントがあると知り、ここに来ればその本が手に入るはずと思って向かってきたのだが、すでに店頭に並べた分は売り切れてしまった後であった。しかし、その様子をSNSで知った夏葉社島田さんが在庫を取り置きしておいてくれるようにホホホ座に手配をしてくれたので無事入手することができた。その親切に感謝しつつ、鶴見俊輔「『思想の科学』私史」(SURE)とともに購入。




 

 まだ、雨は本気で降ろうとはしていないが、いつその気になるかもわからないので白川通を銀閣寺方向に進み、善行堂を目指す。

そのカツカレーの消え方。


 白川通今出川通左折し、善行堂の前に至る。入口の均一棚の前にも数人、店内にも数人の人の姿が見え、山本善行さんがお客さんと話をしている姿も路上から見えた。今日訪ねる予定の本屋はここが最後と思っているので時間は充分ある。それに昼をとうに過ぎているのにまだ昼食をとっていないこともあって、ここは一旦善行堂を通り過ぎ、食事を済ませてからまた来ることにする。


 そのまま今出川通京都大学方面へ進んで行く。いくつかの店の前を過ぎるが、混んでいたり、糖質制限中の身にはあまり食指の動かない料理であったりと、なかなか店に入ることができない。気がつけば京都大学の前まで来てしまっている。ここまで来るとそこには進々堂がある。やはり、京都に来るとここに寄る運命なのかなと思い、店内へ。


 この店での食事となるとやはりカレーということになる。いつ来て頼んでも品切れだった“カツカレーセット”はついにメニューから消され、黒く塗りつぶされていた。結局一度も食べることができなかったな。頼んだのはカレーパンセット。パンスープのような液状のカレールーにつけて食べる。食後のコーヒーを飲みながら「その姿の消し方」の続きを読む


 腹を満たしたところで、改めて善行堂に向かう。店内に入ってきた僕を見た山本さんは少し驚いた表情で迎えてくれた。そこからはいつものように山本さんと話をしながら、棚を覗き、本を選んでまた話をするという流れになる。気がつけば2時間近くそんな風に時間を過ごした。商売のお邪魔をしていなければいいのだがといつも心配になる。もちろん、こちらも客として来ているので欲しい本を買って帰りたいのだ。仕事の資料用の文庫本2冊の他に次のようなものを買った。



中戸川吉二作品集


 「中戸川吉二作品集」はみちくさ市などでよくお話をさせていただく盛厚三さんの編著。埋もれた作家となってしまっている中戸川の作品を現代によみがえらせようという編者の気持ちが感じられる本。個人的には第二部に入っている随筆里見弓享、志賀直哉泉鏡花夏目漱石永井荷風久米正雄牧野信一などの文人に触れたものであるのが興味深かった。

 最後の2つは山本さんオススメのミニコミ誌。『窮理』には発掘された寺田寅彦の日記が、『些末事研究』には荻原魚雷さんの参加した鼎談が収録されている。


 店内から外の景色に目をやると、今出川通を挟んだ向こう側に桜の木が見える。満開のその桜を熱心に写真におさめる人々の姿があった。沢山の本と桜が見られて満足満足。

 

 話の合間に山本さんがJAZZCDをかける。最初にかかったのがこれ。


サンデイ・モーニン


 もちろん、日曜日ということを意識した選択だと思う。持っているCDなのだが、他所で聴くと家で聴くより数段良く思えるのが不思議だ。


 続いてはこれ。


ソニー・クラーク・トリオ(紙ジャケット仕様)


 こちらは愛聴盤だからどこで聴いてもやはりいい。



 JAZZを聴いていたら、本だけではなく、レコードも買って帰りたくなった。そこで山本さんオススメのレコード屋を尋ねてみると「“ワークショップレコード”がいいよ」と教えてくれた。



 善行堂に別れを告げ、出町柳で自転車を返し、電車京都市役所前に戻る。ここから木屋町通を歩き、左に路地を入った雑居ビルの3階にワークショップレコードがあった。店内にはびっしりとレコードが詰まっている。モダンジャズと表示のある棚をサッと覗くと、すぐさま欲しかったレコードが3枚見つかってしまう。神保町馬車道のDISCUNIONでは出会えなかったのにここではこんなに簡単に見つかるなんて。たちまちこの店が好きになる。

ザ・サウンド

ヴァーモントの月

タル



 店を出て、本の入ったデイバッグを背負い、手にはレコード3枚の入った包みを持ち、木屋町通四条方面に向かって歩く。高瀬川沿いの桜並木も満開の枝を川面に垂らしている。好きなものを肩に、手に、目に感じながら歩いていると、ああ幸せだなとふと思う。生きていれば当然あれこれあるが、少なくともこの瞬間に自分は幸せを感じることができる。それがうれしい。京都に来ると必ずこういう一瞬が訪れる。だから、何度もこの町を訪れるのだろうなと思う。


 木屋町通から右折し、新京極通寺町通を串刺しにして、錦小路通に入る。言うまでもなくここも人で埋まっている。錦市場の賑わいを満足するまで味わったら左折して四条通に出て、地下鉄京都駅へ。ここまで何度か折りたたみの傘を開いたり閉じたりしたがなんとか雨から逃げ切ることができたなと思う。


 駅地下の店で京漬け物を買い、夕食に特製カツサンドを選んで帰りの新幹線に乗り込む。カツサンドを食べながら「その姿の消し方」を読み継ぐ。進々堂で消えたカツカレーのカツをカツサンドのカツとして無意識に取り戻そうとしている自分の姿が夜の新幹線の窓に映っていた。

 

 

2016-03-11 目をつむり、耳をすます。

目をつむり、耳をすます。


 昨日は誕生日だった。


 自分が何歳になったのかすら正確に把握しておらず、むしろ同僚の方がちゃんと覚えていて「○○さんて、今××歳ですよね」と声をかけられて「そうか、もう××なんだな」などと驚いているくらいだから、これといった感慨はない。


 昨年までは恒例行事として3月10日の夜に母親から電話があり、この日が自分の誕生日であることを嫌でも認識させられていたのだが、その母も他界したとなればもうそんな確認行為を強いるような物好きもいなくなった。


 そんな中で自分の誕生日の日付を思い出させるのはその翌日の3月11日という日だけになった。


 職場で14時48分に黙祷があった。もちろん、形式的な黙祷に何か意味があるとは正直思ってはいない。しかし、あの大きな災害を忘れつつある自分にあの日のぞわぞわとした思いを繰り返し思い起こさせることには意味はあると思う。だから、黙祷もちゃんとやりたかったのだが、放送がうまく入らず、いつの間にかずるずると始まり、もやもやとしている内に終了した。



 退勤して本屋へ。


 

街場の文体論 (文春文庫)

本の雑誌394号

CULTURE Bros. vol.2 (仮) (TOKYO NEWS MOOK 529号)




 『本の雑誌』は出版社特集。“出版社最初の一冊”は面白い企画。その出版社が最初に出した本を並べている。講談社が「明治雄弁集」、岩波書店夏目漱石こゝろ」、筑摩書房が「中野重治随筆集」などというのはさもありなんだが、ミステリーを得意とする出版社のイメージがある原書房の一冊などはかなり意外。文芸社のものは時代を感じさせる著者と書名だ。リストを眺めているだけで楽しい。その他、ひとり出版社リアルと矜持を語った島田潤一郎「夏葉社の七年目」など読みどころ多し。



 『CULTURE Bros.』は“おそ松さんラジオ特集”。TBSラジオ「たまむすび」のPodcastを通勤途中のバスで聴くのを日々の楽しみとしている者としてラジオ特集は見逃せない。また、シンガーソングライター北村早樹子インタビューも掲載されている。その付録として彼女のメールマガジンを編集・発行している古書現世店主・向井透史さんの文章が載っていて彼女との出会いを語っている。最新アルバムわたしライオン」を持っている者として興味深く読んだ。時評コラムの頁をめくっていたら古書往来座の店員ののむみちさんが「名画座手帳2016」について書いていた。彼女が考えた名画座好きにとっての理想の手帳が現実のものとしてカタチを持った。僕も先日往来座でのむみちさんから1冊購入した。単純に手帳としてちゃんと仕上がっているし、weeklyの頁の下にはその週に生まれそして逝った映画人の名前が列挙されているし、付録頁も充実しているし、手帳に付いている帯がまたいいし、と映画好きにはうれしい手帳だ。




わたしのライオン

名画座手帳2016



 夕食は雑誌dancyu』に載っていた高橋みどりさんの“野菜のオイル蒸し”を作る。小松菜砂糖ざやを鍋に入れ、その上にベーコンを敷いて、オリーブオイルと塩をかけて蓋をして10分蒸すだけ。簡単にできて、野菜をおいしく沢山とれるのがいい。ただ、つぶしたニンニク一片を入れ忘れたのが画竜点睛を欠いた。



dancyu(ダンチュウ) 2016年 04 月号




 昼間、黙祷をうまくできなかった代わりに、今年もこの曲を聴いて自分なりの黙祷としたい。



D

2016-01-03 1冊でもにんじん。

1冊でもにんじん



 今日から野外仕事が始まった。ただ、新年の顔合わせがメインであるため、午後早くに終了。


 仕事始めの気分を高めようと今日は自転車で通勤した。徒歩約30分の距離も下りの続く行きはものの5分で着いてしまう。しかし、帰りはその急坂を避けて迂回路を通るため倍以上かかる。今日は正月とはいえ、箱根駅伝ランナーが脱水症状をおこすくらいに暖かいので自転車に乗っていても気持ちがいい。


 帰宅して自転車を置き、バスに乗って街へ買い物に行く。ユニクロや無印は新春セールで多くの人でにぎわっている。特に無印は改装前の全品売りつくし30%割引セールを行っているため、行くたびに棚から物がなくなり、そこに倉庫に眠っていたと思われる見慣れない品が並べられるのが面白くて毎日のように覗いている。愛用している修正テープのカートリッジなどは廃番商品となったとしてもしばらく困らないくらいのストックができたが、それもとうに棚から消えてしまった。全品3割引であるのだが、元々値札が30%offになっている商品はそこからの割引だから実質半額程度で買うことができる。昨日はカシミアセーターを半額で買った。今年の服の初買いである。


 文房具店にも寄り、本格的な机仕事の仕事始めに備えて筆記用具を新調する。愛用しているのは三菱uniのJETSTREAMというボールペンで、0.7mmの4色+シャープペンシルが1本になったもの。これの軸の色の新色が出ていたのでそれを購入。とうとう始まってしまう仕事へのあれこれの思いをこういうことで軽くしようとしているわけです。


 

 買い物から帰って、音楽を聴きながら読書


 読んだ本はこれ。




芸人と俳人



 暮れに読んだ中野翠「この素晴らしき世界!?」の月ごとの扉頁に中野さんの作った俳句が一句ずつ載っていてそれが面白かった。本によると日記代わりに毎日その日のことを詠んだ俳句を一句作っているとのこと。それが頭にあったので積読本の中から俳句関係のものを引っ張り出してきたというわけだ。

 芸人又吉直樹俳人堀本裕樹俳句いろはを教わるという体裁の本。芥川賞作家である芸人は、俳人の質問に対しても的確に正解を答える優等生で、その姿は「ブラタモリ」における専門家の問いをすべて無にしてしまうタモリの姿を彷彿とさせる。「定型」「季語」「切字」といったテーマごとに章が分けられいるので中高生の俳句入門としても手頃な感じ。とりあえず、歳時記アプリスマホダウンロードして、出てくる季語をチェックしたりしながら読んでいる。

 

 BGMはこれ。


  • 「いつか聴いた歌 スタンダード・ラヴ・ソングス

いつか聴いた歌~スタンダード・ラヴ・ソングス


 監修・選曲・解説・邦訳=和田誠。2枚のCDスタンダードナンバーが48曲入っている。厚めのブックレットには監修者の和田誠画伯による曲目解説と原詞と訳詞が掲載されている。同名の本との連動企画であるらしい。収録されている歌手がみな名うての人たちだから気持ちよく聴いていられる。


いつか聴いた歌 (文春文庫)

2016-01-01 4人で3P。

4人で3P。


 新しい年が始まった。

 このマンション暮らし始めたのが去年の元旦からだったからちょうど1年たったという訳だ。


 まずは朝風呂に入る。湯船につかりながら古今亭志ん朝「御慶」を聴く。


 9時に部屋を出ると4階の廊下から小さいがくっきりとした富士山が見えた。いい天気だ。

 電車実家へ。弟は仕事で留守。両親がいなくなったのを機に家業をたたみ、昔やっていた長距離トラックの運転手に転職したのだ。大晦日から元旦に掛けて関西へ荷物を運んでいる。仏壇に線香をあげ、姪と甥にお年玉を渡し、義妹に相続関係の書類を預けて帰る。


 行き帰りの車内で読んだ今年最初の本はこちら。





『罪と罰』を読まない


 ドストエフスキー罪と罰」を読んでいない4人が少ない情報をたよりにその内容を想像していくという座談会が収められている。僕が「罪と罰」を読んだのが大学1年の頃だからもう30年程前になるため、細部はほとんど忘れているから4人の迷走ぶりをほぼ同じ目線で楽しめた。この読書会を面白くしているポイントひとつ三浦しをんの適度な暴走ラスコーリニコフ(フルネームのロジオンロマーヌイチ・ラスコーリニコフは僕も覚えていた。ロシア語の表記ではすべてPで始まる名前なのをこの本で知った。)が殺したのが大家ではなく金貸しの老婆だと分かってからも何度も「大家を殺した」という発言を繰り返したりしながらも、彼女が積極的に読みを示すことで会話にリズムと勢いが出て話が弾むエンジンのような役割を果たしている。ニヤニヤしながら面白く読了。最良の「罪と罰」の読書案内だな。この本を読んだ未読者は「罪と罰」が読みたくなること請け合いだ。本を読む楽しさを感じさせてくれる本を今年最初の1冊に選んだのは我ながら正解だったと思う。今年の読書に弾みがつきそうだ。


 半蔵門線神保町駅三田線に乗り換え。ちょっと元日の神保町を歩いてみる。書店はみな店を閉めている。そりゃそうだ。ただ、diskunionは開いていたので寄ってしまう。中古レコードセールをやっていた。2枚買って帰る。



Sal Salvador Quintet [Analog]

ダウン・ホーム +6



 帰宅して買ってきたレコードを聴きながら過ごす。のんびりとした正月になった。





 

2015-12-31 師走の丹下左膳。

師走の丹下左膳



 暮れも押し迫って、なぜか対の物の片方がなくなるということが連続した。


 風の強い日の野外仕事中に目にゴミが入り、ハードコンタクトをした眼球に走る激痛に我慢できず、その場で右目のレンズを外した途端に強風は薄いプラスチック片をいとも簡単にどこかへ吹き飛ばして行った。


 23日に恵比寿ガーデンホールにアン・サリー畠山美由紀の「ふたりのルーツ・ショー」を聴きに行った。たまたまネットで当日券が何枚か出ることを知り、受付時間丁度に申し込んだら運良く一枚チケットが取れたのだ。会場のある恵比寿に着いた時にコートのポケットに入れておいたマーガレットハウエルの手袋の左手だけがなくなっていた。地元の駅で電車に乗る時は確かに両手が揃っていたのだが、どこで落としたのか。これまでの人生で買った手袋の中で一番高価なものだったのでちょっとショックだった。ショーの方は、無事に2人揃って登場し、アン嬢の歌う「sweet memories」にしびれた。ただ、アン・サリー信者の僕からみても、ショーの最高潮は畠山美由紀の歌う「歌で逢いましょう」だったと思う。2人が好きな歌をひたすら歌うというこのショーの主旨にこれほど合致した歌もあるまい。



D


 2つあるものが喪失するというと村上春樹を思い出す。例えば彼の作品における「双子」や「消える女性」といった道具立てが頭に浮かぶからだ。最近、第何次かの村上春樹ブームが自分の中に来ていると感じる。そのきっかけは先月末にkindleで読んだ「村上さんのところ」(新潮社)。単行本が出た時に買おうか迷ったのだが、カバー絵を見る度に安西水丸画伯の不在を強く意識させられるためなんだか手が伸びなかった(まさかフジモトマサルさんまでが鬼籍に入るとは思いもよらなかった)。そのため、カバーをあまり意識しない上に紙の本より収録量が多いというkindle版を選択した。kindle版では、「掲載日順」と「テーマ別」の両方の並びを選んで読めるため、興味のある「音楽について語る時」を何度も読み返した。僕の嗜好で主にジャズに関わるものを舌なめずりするように熟読玩味した。その結果、久しぶりにジャズアナログレコードを何枚も買い込むことになった。神保町のDISK UNIONでも何枚か購入した。おかげで神保町に行く回数が今後も減ることはなさそうだ。


村上さんのところ コンプリート版

ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集

 また、今月初めにあった海外出張には村上春樹ラオスにいったい何があるというんですか?」(文藝春秋)を持って行った。旅先で旅行記を読むのが好きで「旅の中の旅」と呼んで楽しんでいる。その面白さを覚えたのは20年程前にエジンバラB&Bで読んだ辺見庸「もの食う人びと」(角川文庫)だったな。



 先週は、2日続けて銀座映画を観に行った。初日は「007 スペクター」。2日目は「スター・ウォーズ フォース覚醒」。ともに過去の作品をスパイスとしてうまく利用している点とヒロインが魅力的であるという点がよく似ていた。ともに優れた娯楽作品だった。


 映画を観に行く車中と待ち時間に北村薫太宰治辞書」(新潮社)を読んだ。この本にたどり着くために「空飛ぶ馬」から「朝霧」までを読んできた。とうとうここまで来たかと心高ぶる。「私」はもう結婚もして中学生の子供もいる出版社勤務の大人の女性になっている。しかし、夫と子供にフォーカスが合うことはない。ピントは「私」とこれまでのシリーズに登場した人物たちに合わされており、「私」の家族の姿は背景としてボカされている。「花火」「女生徒」「太宰治辞書」の3編が収められているのだが、「私」が興味を感じる芥川龍之介太宰治の作品に関わる話が進み、円紫師匠がなかなか登場しない。「太宰治辞書」に至ってやっと登場。ただ、これまでの師匠とはちょっと違う役割のような気がする。「謎解き=ミステリー」という枠組みで考える人からするとこの作品はミステリーではないということになるかもしれない。だが、文学を題材としてこのような作品を書く作家がいてくれること、このような作品が読めることの喜びの方が僕には強い。



太宰治の辞書



 この前の日曜で年内の仕事は一段落ついたので月曜日に埼玉へ両親の墓参りに行った。火曜日には茨城へ友人の墓参りに行った。両日とも冬晴れのいい日だった。ともに車中の移動が長いため読書がはかどる。読んでいたのは坪内祐三「人声天語2」(文春新書)。2009年から2015年まで『文藝春秋』に連載したものが収録されている。その7年間にあったあれこれを思い出しながら400頁ほどの厚い新書を楽しんで読んだ。各文章には雑誌掲載時につけられた中野翠さんの描く人物画のイラストも載っている。中野さんと言えば年末恒例の『サンデー毎日』連載コラムをまとめた本が出るのだが、今年は中野翠「この素晴らしき世界!?」(毎日新聞社)で、これももちろん読んだ。毎年この季節に中野さんの本を読みながら、「そういえばあの事件も今年だったのだ」とか、「あの人は今年亡くなったのか」とか思いながら回顧モードに入るのが年の瀬の決めごとになっている。これからも続いてほしいもののひとつ


人声天語2 オンリー・イエスタデイ 2009-2015 (文春新書)

この素晴らしき世界!?


 最近、寝る前に山崎ナオコーラ「かわいい夫」(夏葉社)の文章を数編読むのが日課となっている。これまで彼女の本をまともに読んだことがなかったのだが、最初の表題作(といってもエッセイだが)「かわいい夫」を読んでむうっと唸ってしまった。山崎ナオコーラという作家のみごとさをまざまざと見せつけられた感じがしたのだ。もっと早く読むべきだったと後悔した。

 これは本業の小説も読んでみなければと思い、書店員である“かわいい夫”との馴れ初めにもなったという本屋小説「昼田とハッコウ」(講談社文庫)を昨日地元本屋に探しに行ったら何故か上巻だけが2冊並んでいて下巻がなかった。仕方がないので片っぽの上巻だけ買って家に帰った。

 

かわいい夫

昼田とハッコウ(上) (講談社文庫)


 例年であれば、大晦日に実家に帰り、母親と一緒に紅白歌合戦を観るのであるが、その母もいないので、今年は久しぶりに自宅でひとり紅白を観ながら新年を迎えようとしている。



 この日記をお読みのみなさま、今年もありがとうございました。来年もまたよろしくお願いいたします。



 では、古今亭志ん朝師匠の「芝浜」を聴きながら今夜は寝ることにします。

2015-10-25 シングルの夜。/ダブルの旅。

シングルの夜。/ダブルの旅。


 昨日は、朝から出張野外仕事。


 朝は肌寒い感じだったが、昼に近づくにつれ日差しが照りつけ、半袖一枚で大丈夫という気温になり、午後日が陰り始めると風の強さも加わってすぐにまた肌寒くなった。この時期の気温の上下動はやはりめまぐるしい。


 夕方5時過ぎに仕事が終わる。いつもならこのまま帰宅するのだが、7時半から横浜駅近くの焼肉屋で知人たちと待ち合わせをしているため、少々時間をつぶさなければならない。


 時間つぶしとくれば迷わず本屋へ。西口地下街有隣堂に行く。




気まぐれ古本さんぽ

気まぐれ古本さんぽ

古本屋ツアー・イン・首都圏沿線

古本屋ツアー・イン・首都圏沿線




 地元本屋では手に入らなかった2冊が平積みで並んでいた。よしよし。内容・装幀ともに兄弟のような雰囲気の本だが、やはりそれぞれ異なる個性を持っている。まだ、ちゃんと読んでいないので大雑把な言い方になるが、前者が事典とすれば、後者は辞書辞書には辞書の、事典には事典の味がある。


 まだ、待ち合わせには時間があるので、地下街を出て西口の先にあるあおい書店へ。以前に一度来てその品揃えの見事さに感服した店なのだが、駅から少し離れているうえに周囲が僕があまり好きではない繁華街なので足が向かなかった。それを反省させるに充分な店として健在だった。ただ、建物全体が古く、照明も暗めで客もまばらなのがちょっと気になる。地元本屋になかった文庫新書を1冊ずつ購入。僕の後ろにも客がいるのに、若いバイト店員(と思われる)2人が、もうひとつのレジを閉めて両名で僕の相手をしていたのもちょっと不思議。大丈夫だろうかとも不安になる。いい店だからこれからもあってほしいと思う。


 あおい書店の下にレコファンが入っているのを知り、寄ってみる。いきなり入口に1枚100円のEP盤の入った箱がどかっと置かれていて面食らう。中に入ってみるとCDもあるが、レコードにかなり特化した店だった。最近、またアナログ盤でジャズを聴いたりしているので心が躍る。中古アルバムが大量に置いてあり、とても手持ちの時間で全部は見切れない。気になるプレーヤーの所だけ箱を漁ってみたが、欲しいと思う物がなかった。手ぶらで帰ろうと思ったとき、壁に新譜が並んでいるコーナーがあることに気づいた。そこにソニー・クラーク「リーピン&ローピン」(BLUENOTE)の輸入盤が置いてあるのを見つけてこれを買う。CDは持っているのだが、アナログ盤は持っていなかったのだ。ついでにEPの箱から昔持っていたさだまさし「雨やどり」とアルバムしか持っていなかったサザンオールスターズ「yaya あの時を忘れない」も購入した。シングル盤を聴くなんて何年(何十年)振りだろう。胸が踊るな。



 そろそろ7時半となったので入店待ちの若者が列をなす焼肉屋に入る。こちらは予約済みなので待たずに入れるのだ。遅れて今年大学卒業したばかりの女子3名が到着。今日は彼女たちの遅ればせながらの就職祝いの会なのだ。久しぶりの再会なのだが、土曜の夜の焼肉屋は90分の時間制を敷いているため、挨拶もそこそこに、まずは何よりも肉を頼み、肉を焼き、肉を食わなければならない。スポンサーのいる安心感で彼女たちは普段頼まない「特上」メニューを連発、こちらも先日観た「孤独のグルメ」の焼肉屋のシーンが頭にちらついて焼肉モード全開のため、「特上」メニューどんと来いである。ひたすら焼いて食べながら、それぞれの職場の話と僕の糖質制限生活の話を口休めにする。今日の食事代を払う人間なので彼女たちは僕の話をふんふんとよく聞いてくれる。焼肉の効果とはすばらしい。彼女たち3人とも今彼氏がいないと嘆く。まあ、こちらもシングルだから「今日はシングル4人の会だな」と言ったら苦笑していた。


 帰宅して、アルバム1枚とシングル盤2枚を聴いて満足。




Leapin & Lopin

Leapin & Lopin




 今日は休み。本日の予定は数週間前に買った自転車に乗って遠出をすることだ。糖質制限+運動でより効果的に中性脂肪悪玉コレステロールを退治してやろうというわけだ。この前ホコリをはたいた20年以上前に買ったMTBは職場で野外仕事用に使うことになり、今は職場の駐輪場にある。さすがにメンテナンスもろくにしていなかった20年もので遠出は不安がある。そこで雑誌ネットで今時の自転車(今は「バイク」と呼ぶのですね)を眺めていたら、英国のメーカーのクロスバイクロードバイクマウンテンバイククロスオーバーということらしい)を見つけて思わず衝動買いしてしまったのだ。もちろん、新しい自転車を買えば、いやでも乗らざるをえないだろうという見込みもあった。


 さて、ではどこへ行こうと考えたのだが、自分の行きたいところとなるとまず浮かぶのが本屋である。では、自宅から自転車で多少遠くても行ける距離にあってまだ行ったことのない場所ということで思い浮かんだのが代官山にある蔦屋書店だった。そこで本日横浜の自宅から代官山まで自転車を走らせることになったわけである。


 昼前に自宅を出て一路代官山を目指す。天気はいいが、風が強いのが気にかかる。多摩川を越えて東京都へ入るとき、強烈な横風を受けてふらついてしまう。横には自動車が走っているのだからヒヤヒヤものだ。道路交通法が改正され、自転車に関する規制も強化された。自転車は歩道を走ってはならず、道路の左側を走行しなければならない。しかし、自動車の側から見れば、横をふらふらと自転車に走られていたら邪魔くさくてかなわないだろう。もちろん歩道を走れば歩行者にとって邪魔者であることは言うまでもない。しかもそれは法令違反なのだ中原街道には所々、車道に自転車専用レーンがあったり、歩道と平行して自転車走行ゾーンがあったりするのだが、それは突然現れ、そして突然消えてしまうのでその度に自転車素人となった僕は右往左往する。そして、路肩の自転車専用レーンには自動車が駐車しており、歩道横の自転車ゾーンには普通に歩行者が歩いているのだ。久しぶりに自転車に乗ってみて自転車乗りが感じているだろう思いが少しわかったような気がした。


 そして、思っていたよりも道の起伏があり、ちょっとした坂がどんどんとボディブロウのようにきいてきて少し意識が遠のくような感じになる。思い起こせば、今から20年以上前、まだ20代だった僕は買ったばかりのMTBに乗って冷夏と言われていたとはいえ横浜から埼玉実家まで夏の日中に6時間ほどで走っていったことがあるのだ。そしてその時もこの中原街道を通っていった。そしてその時は途中の日比谷公園まで一度も休憩なしでサクッと行った記憶がある。ああ、あの時は若かったのだなあとしみじみと感じる。ふらふらと倒れるようにまだ走り始めて30分ほどなのに街道沿いのコンビニで自転車を止め、休憩をしながら昔の自分に羨望の目を向けてしまう。年齢はあの頃よりダブルスコアで勝っているが、体力や気力はダブルスコアで完敗だ。



 途中道に迷ったりしながらも、20代の体力はないが、GPS機能付きのスマートフォンはある現在の僕はなんとか代官山蔦屋書店に到着した。ほぼ2時間を要したことになる。自転車を停め、店内に入る。思っていた通り、おしゃれな店におしゃれな人たちが闊歩している。汗をかいたスポーツウエア姿の僕はちょっと浮いている感じ。予想していたのと違ったのは店内がコンパクトだったこと。もっとゆったりとした空間を作っているのだと思っていた。ガラス張りの外向きの明るい部屋と間接照明のように意図的に薄暗いトーンにしている部屋をつくっている。昨日いったあおい書店のやむにやまれぬ薄暗さとこの店の薄暗さの違いを思う。


 この店を好きかどうかと聞かれたら、今日の僕は好きでも嫌いでもないと答えるだろうか。これはただこの店だけの問題ではなく、この店のある代官山周辺の街の雰囲気が、あまりに自分とそぐわないという現実の影響もあるだろうな。20代の頃なら憧れたかもしれないが、今の僕にとっては地に足の着かない場所としかこの街は見えない。なんだか現実ぽくなくて、信号待ちの時に、サドルの上で街を見ながら、ちょっと笑ってしまった。


 ただ、この蔦屋書店のような店もあおい書店のような店もどちらもあってほしいし、本屋はそういう振幅のある場所であってほしいとも思う。


 せっかく来たので何か1冊かって帰ろうと本棚を眺めていてこれを見つける。






 白水社創立百周年記念復刊の帯が付いている。横浜からここまでの道のりは自分にとっては旅のようなものであったから、旅のスペシャリスト2人の対談本を選んでみた。地元本屋では見なかった本なのでここで手に入れてもおきたかった。



 蔦屋を出て、恵比寿にある英国製自転車を扱う店に寄る。ここに来るのも今日の目的のひとつ。このメーカーの直営ショップは神戸とここの2カ所しかないのだ。ここでもちょっとした買い物をする。



 帰りは目黒通りを走り、多摩川にぶつかって左折し、しばらく多摩川沿いを走っていく。河原では草野球をする人たちの声、道路脇の店は外にまでテーブルを出してバーベキューの様なことをしている。ああ、休日なのだなあと思う。人々はこのようにして休日を過ごしているのだなあとヘンなことに感心する。



 中原街道に戻り、横浜に向かう。自分が自転車を買うまではまったく気にしていなかったのだが、道には多くのロードバイククロスバイクMTBが走っていることがわかる。その内のほとんどの人がヘルメットをかぶり、僕の自転車よりもギア数の多い、ロードバイクに乗っている。いつの間にこんなに増えたのだろう。自分の視点がちょっと変わるだけでこれまで見えていなかったことが見えてくるのが面白い。



 地元駅前に着き、自転車を駐輪場に停めて駅ビルに入る。ここから自宅まではずうっと坂を登らなければいけないので、疲れた足をすこし休めたかったのだ。地上に降り立った僕の足は可笑しいくらいカクカクして創成期のロボットの様である。


 とりあえず、本屋に寄る。もう今日はなにも買わないのだが、やっぱり一日一回は地元の店にこないと落ち着かない。欲しい本があったり、なかったりする店だけどこの店もなくならないでほしい店のひとつだ。



 帰宅して蔦屋書店でもらってきた紀伊国屋書店PR誌「scripta」37号を読む。“出版部60周年記念特集”ということで真ん中にカラー頁があり、岡崎武志さんが紀伊国屋新書のことを書いている。木皿泉荻原魚雷さんの連載もあるし、充実した雑誌だ。頁をめくっていて都築響一「ROADSIDE DIARIES」に目がとまる。6月17日〜21日の記述が『CREA』9月号で読んだ「村上春樹 熊本旅行記」のスピンオフの様なものになっていて面白い。旅行前に配られた吉本由美作成の「旅程表」が引用されているのもうれしい。



 その後、昨日録画しておいた「ブラタモリ」の富士山編を観てから風呂に入り足の疲れをほぐした。



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 先日書きました10月31日のアン・サリー・アコースティックライブのボックス席の件ですが、まだ席に余裕がございます。

 もし、ご希望の方がいらっしゃいましたらメールもしくはダイレクトメッセージをお送りください。

 

2015-10-10 昔の名前で晴れてます。

昔の名前で晴れてます。


 今年も1年に一度訪れる海辺の街での野外仕事の日が来た。

 雨が心配されたが、やはり元“体育の日”、晴れの特異日であるだけになんとかもってくれた。

 曇りがちの涼しい天気がいい方に影響して、心配していた仕事の方も予想以上の結果を残せた。よしよし。


 この海辺の駅に来たときに必ず駅前本屋に寄ることにしている。ところが、店はシャッター下りている。高齢の夫婦がやっている店だけについに店を閉めたのかと思う。シャッターには張紙があり、駅前の再開発工事のため近くの場所に移転した旨が書かれていたので、ほっとする。


 張紙にあった地図をたよりにその場所へ行くとそこは昨年にはなかった新しい商店街で、長屋のような真四角な長方形建物に店が並んで入っていた。駅前にあった商店は軒並みここへ引っ越してきたらしい。お目当ての本屋もそこにあった。その真新しい建物が店の記憶に不似合いなのが残念だが、レジ奥におばあさんの元気な姿が見えたのでよしとする。






 又吉直樹火花」と羽田圭介スクラップ・アンド・ビルド」の芥川賞受賞作2作を掲載した『文藝春秋』9月号に昭和2年9月の“芥川龍之介追悼號”が付いた特装版ムック。今、芥川龍之介の作品をめぐるミステリーである北村薫「六の宮の姫君」(創元推理文庫)を読んでいるので芥川の追悼号が付属しているこのムックを探していたのだが、地元本屋ではすでに売り切れてしまい手に入らなかったのだ。この店では運良く売れ残っていてくれたらしい。店内を見回すと棚の文庫はみな真新しい背を見せて並んでいるが、単行本は前の店の時と同じ日に焼けた姿で並んでいる。前の店の雰囲気をそこに感じることができてうれしい。来年もまた来よう。




 野外仕事の荷物を抱えて職場に戻り、仕事をいくつかこなして夕方退勤。


 本屋へ。“まだ行くの、あなたも好きねぇ”という感じ。そうですね、本屋が好きなんです。






 とりあえず、堀江敏幸&阿部公彦は名前買いをすることにしている。「幼さ」をキーワードにして文学を語った文芸批評エッセイ面白そう。



 野外仕事の重い鞄を背負いながら、自宅への坂道を登る。糖質制限と歩くことで体重は72キロまで落ちた。ただ、内蔵脂肪率はまだ二桁。一桁になるまでとりあえず歩くのだ。

2015-10-04 MUTOな日曜日。

MUTOな日曜日


 今日は休み。

 午前中はゆっくり過ごす。朝食はウイダーインゼリービタミンソイジョイ。朝風呂にゆっくりとつかる。湯船で落語を聞きながら汗を流す。聞いたのはCDを集めている春風亭一之輔の「不動坊」。二つ目時代からTVの「落語者」やポッドキャストの「ニフティ寄席」などでチェックしていたが、真打ちになっていつのまにかCDが7、8枚出ていたのに最近気づいて集め始めた。夏前にラジオの「たまむすび」で彼の「堀の内」を聞いてその古典落語の枠を維持しながらも充分にはじけている噺にバスの中にいるのに思わず笑いを抑えられなくなった。日蓮宗のお題目がラップになるその異様さをおかしさと異常さのぎりぎりのラインでさばく腕は見事だと思う。


春風亭一之輔 真打昇進記念



 風呂でたっぷりと汗をかいて、水分補給をしたあと体組成計に乗る。体重は71キロ台になった。もちろん、一日の終わりに乗れば、73キロ台まで戻っていると思うが、それでもこのひと月で6キロ近くは落ちたことになる。糖質制限の効果は一応出ていると言えよう。



 午後から出かける。昨日、絵の額装を頼んでいた額縁屋から完成したとの連絡が入ったので隣の駅まで取りにいくのだ。8月まではバスに乗っていた駅までの道を今は歩いている。風は涼しいが日差しは強い。少し汗ばみながら駅まで歩き、電車で隣町へ。額縁屋はブックオフの並びにあるためまずはブックオフを覗いてみる。



六の宮の姫君 (創元推理文庫)



 今、自分が読んでいる本なのだが、知り合いにあげるために108円棚から買っておく。



 額縁屋に行って額装なった2点の絵を受け取る。以前に目白ポポタムで行われた武藤良子さんの個展で買った絵である。それぞれの絵の色合いに合わせて額縁屋の主人と相談しながら額縁などの色を決めた。イメージ通りの仕上がりになって満足だ。


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 地元駅に戻って駅ビルの普段入らない肉料理レストランに入る。ランチタイムのためメニューはセットのみ。糖質制限炭水化物を避けているので、セットのスープとパン・ライスを断り、メインの黒毛和牛ハンバーグとセットのアイスコーヒー(無糖)で済ます。仕方ないことだが、同じセットメニュー料金を払わなければならないのが寂しい。まあ、だったら糖質制限無視して飲み食いすればいいのだが、自分に科したルールを守るという遊びをしているようなものなのでとりあえず我慢する。




 帰宅して引っ越し以来駐輪場(屋根付き)に放置してあったMTBの掃除をする(運動量を増やすため久しぶりにツーリングをやろうかと計画中)。それから、額装した絵を出して眺めたり、録画した「孤独のグルメ season5」の第1回を観たり(そうだ焼き肉なら食べられるんだよなと思う)しながら過ごす。


 ハムエッグ(卵・肉はOK)と鶏肉ゴボウサラダの夕食を済ませ、「モヤさま」のロンドン編を観ながら二十年前に行ったケンジントンガーデンズを思ったりした。


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【お知らせ】

 10月31日(土)の夜6時15分から横浜赤レンガ倉庫近くにあるモーションブルー横浜で行われるアン・サリーアコースティックライブのボックス席(4人)を確保しました。この日記をお読みの友人・知己の方々で同行をご希望の方がいらっしゃいましたらメールもしくはツイッターのダイレクトメッセージ等でご連絡ください。ブログコメント欄を使ってのやりとりは避けたいと思いますのでご了承ください。詳細は返信にてお知らせいたします。人数に限りがありますので、席が埋まりました時はご容赦ください。

http://www.motionblue.co.jp/artists/ann_sally/index.html

2015-09-22 夜の蝉、いきいそぐ。

夜の蝉、いきいそぐ。



 夏が終わると太っていた。


 ストレスをいろいろと感じる夏であったためもあったろう、体重が成人してから数度しか経験していない80キロにのろうとしていた。体が重かった。


 母親の葬儀を済ませてすぐにあった健康診断の結果が夏の終わりに届いた。“コリンエステラーゼ”、“総コレステロール”、“トリグリセライド”に標準値を上回る数値が並び、腎機能や尿検査の一部にも注意を喚起するアステリスクが付いてきた。エコー検査には“脂肪肝化”という文字が踊っている。


 おって職場から“血中脂質”の再検査を指示する旨の通知が出た。そこまで正面から来られたのでは仕方ない、体重や体脂肪を落とし、悪玉コレステロールとやらを減らしてやろうではないか。そこで糖質制限ベースとした減量活動を9月に入って開始した。カロリーをあまり気にしない緩い糖質制限なので3週間で4キロほど体重が落ちるというペースである。できればあと2キロほど落としたいと思っている。ものの本によればこの糖質制限でも悪玉コレステロール対策になるとあるが、念のためエゴマ油オリーブオイルを使用し、間食にアーモンドを食べるという方法も併用している。体重や体脂肪は家にある体組成計で計測できるが、コレステロール値の方は自分ではできないため、効果が出ているかは再検査をしてみるまではわからない。



 糖質制限とともに9月の声を聞いて俄にハマったものがもうひとつある。それはこれだ。



空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

太宰治の辞書


 “円紫さんと私”シリーズと呼ばれる作品を初めて読んだ。理由はこの春に出たシリーズ最新刊太宰治辞書」(新潮社)をその題名に誘われて購入してみたもののこれまでの作品を読まずに手を出すのはどうしてもはばかられ、以前からその評判だけは耳年増のように聞きつけていたこのシリーズにようやく着手したという次第。


 信頼を置いている読み手の方々が褒めているし、探偵役が落語家であり、それに絡む語り手が日本文学を学んでいる女子大生という設定が自分好みでないはずはなく、読めば絶対面白いだろうなと前々から予想はしていたのだが、まさにその通り。作中でも〈私〉が同じことを言っているが太宰治の読者が感じるような“自分だけに語りかけているような作品”ではないか。


 この日曜に埼玉に移転した知人のパン屋を訪ねた。その時の車中のともが「空飛ぶ馬」だった。『砂糖合戦』を読みながら自分の糖質制限について思ったりした。『赤頭巾』で〈私〉は、神保町から定期券のある秋葉原駅まで歩いて地下鉄日比谷線に乗っている。これはまるで学生時代の自分自身ではないか。その後、私鉄に乗り換えているが、これは東武伊勢崎線(現在は東武スカイツリーラインと呼ばれている)だろう。これも僕が埼玉実家にいた頃に使っていた路線である。調べると北村薫埼玉県春日部高校の出身で杉戸生まれだと知る。知人のパン屋杉戸駅(現在は東武動物公園駅)の隣にある姫宮駅近くにある。たぶん〈私〉も僕と同じ行程をたどっているのだ。



 『赤頭巾』のひとつ前の『胡桃の中の鳥』の舞台山形県上山市蔵王温泉そして蔵王の御釜であるが、僕は東日本大震災があるまでの約20年間毎年夏に仕事で上山市内から御釜に向かう途中にある坊平高原に行っていた。これも作品への親近感を強くしてくれた。



 そしてカバーの〈私〉を描いた絵が高野文子画とくれば、もうハマらない理由はない。昨晩、「空飛ぶ馬」を読み終えて、早速第2作「夜の蝉」にかかろうとしたのだが、昼間地元本屋の棚から並んでいた残りのシリーズ本をごっそり抱えてきた中に見当たらない。どうやら「夜の蝉」だけは売れて棚になかったらしいのだ。なんということだ、明日は必ず買おうと決意して床についた。


秋の花 (創元推理文庫)

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

朝霧 (創元推理文庫)


 今日は川崎等々力緑地で野外仕事だった。午後早く仕事が終わったので近くにある川崎市民ミュージアムの前を通ると“木村伊兵衛写真展”という看板が目に入る。おお、木村伊兵衛の写真なら大好きだ、これは見ておこうとチケット売り場へ。そこでよくよく見直すと展示は“木村伊兵衛写真賞40周年記念展”であった。木村伊兵衛の写真ではなく、木村伊兵衛写真賞を取った写真家の写真展であったのだ。ちょっと落胆したが、そのメンバーを見ると藤原新也岩合光昭北島敬三、星野道夫武田花都築響一ホンマタカシ長島有里枝蜷川実花HIROMIX川内倫子佐内正史梅佳代、川島小鳥と多士済々。もちろん、チケットを買って入る。50人近い写真家の作品を観ながら、不思議と今の自分は人間を写したものにはあまり強い関心を持てず、むしろ建物や街といった人工物を写したものの方により強く感応するのだなあと思う。


 その後、武蔵小杉駅へ出る。この街本屋で「夜の蝉」を手に入れるつもりだ。まずは、駅に隣接している東急スクエア内の有隣堂へ。ここは思ったより文庫棚が少なく、出版社毎ではなく作者別の陳列。しかし、北村薫創元推理文庫は「空飛ぶ馬」しかない。


 次に向かったのは駅を出たところにあるイトーヨーカ堂内の中原ブックランド。ここには創元推理文庫がほどんどない。あきらめて近くにある中原ブックランド本店へ移動する。ここは以前に一度来て街の本屋としてはなかなかの品揃えの店という印象がある。「夜の蝉」もあるだろう。しかし、ここでは創元推理文庫の棚すらなかった。どうした創元推理文庫、大丈夫か創元推理文庫、という気持ちになる。この文庫アガサ・クリスティーABC殺人事件」を読んでミステリーにハマり、その後この文庫ポアロ物の他作品やドルリー・レーンの悲劇物へとすすみ、僕のミステリー歴はほぼこの文庫とともにあったと言っていいくらいなので少しさびしい気分になる。


 次に向かったのは最近できた大型商業施設“グランツリー武蔵小杉”。以前にTVでこの施設の紹介を観たことがあるが、入ったのは初めて。ここの3階に紀伊国屋書店がある。思ったより広い店舗に面食らいながら3階フロアを紀伊国屋へ向かって歩いているとその途中にKENTショップがあるのを見つける。あのVANJACKETの兄貴分にあたるブランドである。もちろん、石津謙介の作った会社は既になく、その後ライセンスを持っていたレナウンも手放し、今はイトーヨーカ堂グループがライセンスを取得して店舗展開をしている。ここはKENTブランドだけでなくVANブランドのものも置いてある。ヴァンヂャケットと聞いて素通りはできない。思わず、VANロゴが入った布製バッグとセール品のTシャツを買ってしまう。

その後、紀伊国屋へ。なかなかのフロア面積を持つ店内に期待を抱くが、ここにも「夜の蝉」は置いてなかった。


 ここまで来ると意地でも今日手に入れたくなる。武蔵小杉をあきらめて自由が丘へ向かう。駅前の不二屋書店なら置いてあるはずだ。久しぶりにあの好きな本屋にも行ってみたい。店は変わらずそこにあったが、「夜の蝉」はそこにない。ここもダメか。もう仕方ない。もう空振りはしない。確実に手に入る場所に行こう。そう、神保町だ。




 神保町にたどり着き、最初に入った東京堂書店で「夜の蝉」を見つけた時は正直ほっとした。平台にあったこちらも購入。




夜の蝉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

善意と悪意の英文学史: 語り手は読者をどのように愛してきたか



 時刻はもう3時を過ぎている。まだ昼食をとっていない。ただ、糖質制限の身には、カレーライスうどん牛丼も選択肢にない。外食の選択肢はライスやパンをつけない肉料理あるのみである。そこで三省堂地下の放心亭を目指す。途中、書泉ブックマートの前に来た時、この店が9月で閉店になることを思い出した。中学生の頃、初めて神保町に足を踏み入れた。地元では買えなかった『現代用語の基礎知識』や田中美知太郎編「プラトン著作集」などを確かこの店で買ったはずだ。そうだ、僕の神保町はこの店から始まったのだ。閉店前にせめて1冊買っておこうと店内に入る。1階はコミックス売り場になっていた。中学時代とはずいぶん変わってしまったこの店の様子を感じながら1冊選ぶ。





猫の草子 (ビームコミックス)

死者の書(上) (ビームコミックス)



 先日同じ著者の「死者の書 上巻」を読んで、やはりこの人はよい書き手だなあと思いを新たにしたので、未入手のこちらをレジに持っていく。カバーをつけてもらった。



 放心亭で単品の肉料理を食べてから帰路につく。車内で「夜の蝉」を読み始めるが、最初の『朧夜の底』の途中で、疲れが出たのか座席にもたれてウトウトする。せっかく手に入れたというのに。そういえば、思いついたことや文章の構想を書くノート学生時代に作っていてそこに「夜のセミ、なぜ生き急ぐ」という一文を書いたことを思い出す。あれは自分で書いたのか、それとも何かからの引用だっただろうか。



 帰宅して、この日記を書きながら、しばらく前から夜に蝉の声を聞かなくなったことに思い至る。昼間の日差しは暑くても、もう秋なのだ