2017-08-31 鎌倉の復習。
■鎌倉の復習。
今日は代休。
朝から霧雨のような雨が降り、風も吹いているが予定通り鎌倉へ出かける。今年の春、年下の知人が亡くなった。今の職場に勤めて野外仕事を始めた頃に知り合った。大人しくて真面目な青年だった。数年を経て彼の環境が変わり、この20年近く会うことはなかった。彼の父親は野外仕事の業界では有名な人で毎年正月にあるイベントのテレビ中継でその姿を観るたびに息子である彼は元気にしているかなと思い出すのが新年の恒例になっていた。
今年の春、彼の友人で僕の知人でもある人物からメールがあった。彼が亡くなったという内容だった。すでに葬儀は親族だけで済ませたということ、そして彼が近年精神的に辛い状況になってほとんど家にこもった状態であったことを知った。
その後、知人の有志で彼の家への弔問や墓参りの企画があったのだが、仕事の関係で参加できなかった。それがずうっと心に引っかかっていた。
鎌倉までの道中は、林望「役に立たない読書」(インターナショナル新書)を読みながら行く。リンボウさんの本を読むのは久しぶりだが、スタンスは相変わらず。共感できる部分とそうではない部分もある。それでも読書に関する本を読むのは楽しい。雨の平日ながら鎌倉へ観光へ行くらしき人々の姿が目につく。さすが鎌倉。
鎌倉駅前からバスで鎌倉霊園へ。初めて訪れた霊園の広さに驚く。見渡す限り墓石が続き、周囲は濃い緑の丘が包むように広がっている。平日の昼に訪れる人は少なく、広大な敷地に自分ひとりだけがいるような気分になる。供花を買い、なだらかな丘陵を登って行く。霊園は住所のように細かい地番が付されているため、広い園内でも迷うことなく目的の場所に着くことができた。雨のため、線香はたかず花を供えて手を合わせる。墓石の裏に刻まれている彼の年齢を見て自分より10歳も若いことに今更ながら気づく。彼にとって短い人生だったのか、それとも充分過ぎるくらい長い時間だったのかはわからない。ただ、彼のことを思う友人たちが大勢いることを思い、それを彼と自分の慰めとしようと思う。
バスで鎌倉駅まで戻る。鎌倉に来るのも久しぶりなので、本屋巡りをする。江ノ電側へ出て、たらば書房へ。この小さな街の新刊書店はいつ来てもいい店だ。すべての街の駅前にこんな本屋が一軒ずつあれば、すべての駅で途中下車したくなるだろう。ベストセラーも地元の本もマニアックなミニコミも置いてあるのだから。
- 「小津三昧」(遊映坐文庫)
- 『アルテリ』四号
やはり鎌倉なので小津安二郎関係の本が充実している。「小津三昧」は“小津安二郎監督生誕110年&没後50年記念イベント”に合わせて出されたものらしい。文庫より少し小ぶりな小冊子。山内静夫、香川京子といった小津映画に関係のある人の聞き書きが入っている。『アルテリ』は熊本で出されているミニコミ誌。石牟礼道子、町田康、伊藤比呂美、坂口恭平、渡辺京二といった人たちが寄稿している。
もう昼を過ぎているので空腹を覚える。横須賀線沿いにある古書ウサギノフクシュウの下に食堂があるのでまずはそこで腹ごしらえ。鎌倉ハンバーグの店でつなぎに豆腐を使ったヘルシーメニューが売りのようだ。チェダーチーズがかかったものを選ぶ。肉だけのものと違い軽さのあるハンバーグで味も悪くない。つけだしにしらすのかかった冷奴が出るのも豆腐ハンバーグの店らしい。
食事を終え、その店の2階にある古書ウサギノフクシュウへ。こぢんまりとした店内は僕のようなサイズの人間が動くのは少し気を使う。本はしっかりと選ばれているなあという感じ。中央の棚の上にミニコミ誌や委託本が並んでおり、そこから2冊と棚に面陳されていた古書を1冊。
「のんべえ春秋」の最新号が出たことは知っていたのだが、これまで手に入れられずにいた。ここで出会えてよかった。基本、飲まない人間なので“どこでもビール号”という特集はストライクではないのだが、木村さんの撮った写真を眺めているだけで楽しいし、愛用している佐藤吹きガラス工房のコップの事も出てくるので興味深い。『港のひと』は鎌倉の出版社・港の人のPR誌。創立20周年記念特集号だ。『sumus』同人の扉野良人さんのエッセイも載っている。「するめ映画館」は映画についての対談集。対談相手が、和田誠、村上春樹、都築響一、中野翠、武田花、川本三郎、安西水丸と充実している。
店を出て、踏切脇にある游古洞に行く。狭くて棚がぎっちり詰まっていて本の他に陶器なども置いてある小さな古本屋であるが、雨のために外に並べるものを店内通路に入れているため、ただでさえ小さく狭い店内に入って棚を見る事叶わず、早々に退散する。昼食後で少し胃も重く、眠気も出てきたのでコーヒーが飲みたくなる。鎌倉でコーヒーというとまず思い浮かぶのが踏切を小町通り側へ渡って左手にあるカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ。以前に来たことがあり、オンラインショップでここの豆やオリジナルコーヒーグッズを購入したこともある。しかし、木曜日は定休日であった。残念。
そこで、小町通りに出て、出たことを後悔するような人混みの中を藝林荘へ。こちらも小さな古本屋だが、端正で落ち着きのある店構えは相変わらず。文庫ワゴンから吉川幸次郎「詩文選」(講談社文芸文庫)を購入。同じシリーズの「他山石語」は持っている記憶があるのだが、こちらは曖昧。先ほど読んだリンボウ先生の本に本の重複買いを恐れるなと書かれていたので、恐れることなく買っておく。最近、横山光輝「三国志」を読み終えたばかりの僕にとって「三国志実録抄」といった文章が入っているのはツボである。
もう一度江ノ電側に線路を渡り、御成通りから国道に出て公文堂書店に向かうが、ここも木曜日定休日であった。もう一度残念。
気を取り直し、下馬の交差点を過ぎてまた線路を越えて左に曲がったビルの2階にあるbooks mobloへ行く。こちらは開いていた。開いていたのはいいのだが、店内に店の人が誰もいない。店主がいなくて普通に店の入口が開いているというのがなんだか古本屋らしい。絵本や洒落たビジュアル系の本も多い趣味のいいおしゃれな店なのに昔ながらの古本屋のようなこの感じが楽しい。ここもミニコミが充実している。棚を眺めていたら店の人が帰ってきた。
『はま太郎』は“横濱で吞みたい人の読む肴”を標榜したミニコミらしい。横浜市在住だが知らなかった。これも吞みの方ではなく、南陀楼綾繁さんの「古本屋発、居酒屋行き(横浜版)」というエッセイに惹かれて購入。
その南陀楼さんも同人の『sumus』のバックナンバーが並んでいた。それだけでもこの店の出自の良さが窺われるという気持ちになり、もちろん持っているのだが、ダブりを承知で第1号である“三月書房”特集を買う。この最初の号だけ背が平らではなく、丸い造本になっているんだなということに気づく。
こことウサギノフクシュウは以前に来た時にはまだなかった古本屋だ。それぞれ本や棚にしっかりと目配りをしたいい本屋だった。以前にはあった古本屋が数軒なくなった。その代わりこれらの新しい古本屋がまたできた。今日は、鎌倉の古本屋事情の復習をしたような気になる。
その後、若宮大路に面した大きな新刊書店の島森書店が健在なのを確認して帰る。
雨の鎌倉駅で電車を待ちながら、小津安二郎が鎌倉を舞台に撮った「晩春」や「麦秋」に雨の鎌倉が出てきたことがあっただろうかとふと思った。
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