幸福な別れ

veatrice2010-08-05

今年の2月、夫の大学時代の友人の披露宴に招待された。50代大学教授の再婚で、しかもお相手は教え子の女子大生だと聞いていたので「コノヤロ〜」と、半ばカラカイ気分、ヒヤカシ気分で東京まで行った。

こじんまりとした感じのいいイタリア料理屋さんでの人前結婚式で婚姻届にサインをした「女子大生」の新妻は、こちらも子連れの再婚で、そして聾唖の方だった。

披露宴の招待客の半分は新妻の関係者なので宴会の進行は全て手話通訳付きだった。手話の表現力の豊かさのせいかもしれないが、友人達の祝辞はどれも率直で誠実で、新婦が聾唖学校の教員資格を取るために社会人入学した大学で新郎と出会い、二人で数々の障害をクリアーして夢を実現しつつあることがよくわかった。編集やヤラセのない本物の感動秘話だった。

私は恐らく何十回と結婚披露宴には出ているけれど、中でも一二番に感動した披露宴だった。「女子大生だとお〜」などと言っていた自分が恥ずかしくなった。

宴が終わって出口で招待客の一人一人とかたい握手をして見送る「中年の新婚カップル」は、本当に幸せそうだった。私も覚えたばかりの「結婚おめでとう」を手話で披露して、本当に幸せな気持ちで一杯になって帰ってきた。


昨日、その新郎が亡くなったという知らせが届いた。ガンだった。実はあの披露宴の時には既に進行していて治療中だったのだそうだ。覚悟の結婚披露宴。そうか、あの披露宴は、彼の生前葬だったんだ。

人生の締めくくりに友人や恩人に会って御礼を言うのなら、お見舞いに来てもらってやつれた顔で病室で言うより、元気な時に、そして一番幸せな笑顔を見てもらって一緒に喜びをわかちあえる場面でできたら最高だね。

最高に幸せなお別れの挨拶をして旅立った石黒健一さんのご冥福を心よりお祈りいたします。