隣の大統領〜「私のスイス案内」を読みました。

                笹本駿二 著            岩波新書


 日頃通勤につかっている電車に乗ったところ、ふと、向こうにいる人品卑しからぬ中年男性。

 なんだか見覚えがある。

 あれ?内閣総理大臣の鳩山さんではないか。

 見つめていると向こうから挨拶をしてきて(「こんにちは」)、おいしいラーメンの話で盛り上がっちゃったらどうだろう。

 あるいはそれが、天皇陛下で、雑草の話で盛り上がっちゃったら?

 アナタはきっと職場や家庭でその話で持ちきりだろう。

 なぜって日本では、そんなことないからだ。すくなくとも滅多にない。



 ところがこういったことがあるのが、スイスという国だ。

 著者は、市電でスイスの公使館に通勤していた。そこで乗るときに人品卑しからぬ老紳士にお先にどうぞと順番をゆずられた。そこは日本人、(ま、この世代はまだ)老人を尊ぶ国民性である。「いえいえ、そちらがお先に」と譲り返した。
 その老人、市電に乗ると、「皆さん、おはよう」と挨拶した。
 市電にいた全員からかえってきたのが、「おはようございます、大統領」

 ええー!著者はびっくり、ま、まさか現役の大統領ではないだろう。上に日本の内閣総理大臣天皇陛下をあげておいたが、大統領といえば国家元首、国を代表するという意味では、日本のこの二人に匹敵する。

 びっくりする著者をよそに大統領はまわりの人と話しこんでいる。そして、「皆さん、良い一日を」と言って降りていった。

 公使館につくと、法律顧問のスイス人に今朝の出来事を伝え、確認した。まさか現役の大統領じゃないよね?

「あ〜、現大統領ですね。あなたのお住まいのところの近所に住んでいるんですよ」

 ・・・普通の家に住んでいる?そして市電で通っている?

 素晴らしい。

まさに、スイスがどんな国かを教えてくれる場面ですね。(とその人に言われた)

 
確かに。

この違いはナンだろう。考えてみた。


【政治の違い】

 この大統領、任期が一年しかない。

 これは腐敗する時間がない。

 政治学について、昔少々かじったことがあるが、一番印象的な一節(たしか一行目)はこうである。

「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する。」

 これは真理だと思う。

 時の権力者に対して疑いの目を持ち、その乱用が目に余る場合はひきずりおろす気概。これが大切なんじゃないだろうか。これこそが民主主義の真髄ではなかろうか。

 その手段が選挙である。(他にも、革命などがある)

日本では、間接民主制を採用しているため、一般国民が持っているのは、選挙権のみである。つまり、その仕事(議員・大臣など)につけるかどうかの決定に関与できるだけである。任免権と言い換えてもいいだろう。

 実はスイスは世界でもユニークな直接民主制に近いシステムを採用している。

 (↓  直接民主制について詳しく知りたい向きはこちらのエントリをご参照いただきたい。)

http://d.hatena.ne.jp/victoria-3rd/20090127


 スイスの成年男性(1971年以降は成年女性も)が有するのは、選挙権だけではない。法律・憲法に関する議案を票決する権利、イニシアティヴ・レファレンダムという二つの主要な権利を有しており、連邦憲法上も定められている。

 選挙権が立法の仕事につくかどうかの任免権にかかわることだとすれば、個別の立法や憲法改正という仕事もできるというのが票決する権利。イニシアティヴは、「じゃあこういう法律をつくれば?、憲法改正をすれば?」と提案できるのがイニシアティヴ。提案権だ。ちなみに、地方自治のレベルでは日本にもある。ちょっと、実際に行使するのはスイスより大変そうだが・・・。レファレンダムは国民投票住民投票といわれるものだ。日本でも原発など特定の案件について、みんなで投票してその賛否を決めることがある。あれ。
日本では地方レベルではよく行われている。よくでもないか、時々・・・。いや、あったような気が・・。


【共同体意識】

 スイスの基礎はコミューンとカントンにある。コミューンが町や村、カントンが州にあたる。

 スイス人は必ずどこかの、コミューンに属し、コミューンは必ずとこかのカントンにある。そして州民だけがスイス国民になるのだから、コミューンに属することはスイス国民である要件である。

 だからスイス国民になれるかどうかは、コミューンがその一員として認めるかどうかによる。

 この狭い地域の一員であるという意識は、日常生活の隅々に行き渡っている。そして、誰であってもその一員であるという意味で対等であり、見知らぬ同士でも挨拶をするのがならいだという。

 だから大統領と市電に乗り合わせた人達も挨拶したのだ。

 これはお互いに助け合うという意味でもある。商店主が、足の不自由なお客さんのために、荷物を届けてあげ、著者はその間お店に来たお客さんに「5分待ってください」というように頼まれたという。

 日本は残念ながら、少なくとも都会は、もっとギスギスしているように思う。

国民皆兵

 永世中立というと、「平和」な国というイメージがある。

 しかし、スイスが長らく平和を保ってきたのは、20歳から50歳までの男性全員に課せられた兵役義務と発達した金融のお陰だ。

 永世中立というのは、「攻撃されたら、相手が誰であろうと反撃するぞ!思い知らせてやるからな!」と周りを取り巻く強い国、ドイツとかフランスとか、にいう事。そしてその裏づけとなる軍事力を持っていることである。国民はすべて軍事訓練を受ける兵隊である。年齢で決められた訓練を受ける。といっても合わせて一年ぐらいだが。なお、女性は志願兵だそうである。
 
 スイスの銀行といえば、信頼できることで有名で、世界各国の金融資産を預かっている。どんなケンカっぱやい国でも自分の金蔵(かねぐら)を攻撃しない。困るから・・・。同じ意味でテロにも強そうだ。

 国民皆兵というのは、市民の権利には銃を持つ義務を伴うということでもある。だからこそ、女性には長い間選挙権などの参政権が与えられなかった。



 スイスと日本は、実は似ている面も多いと思う。どちらも山が多い。ま、スイスの方が高いようだが、山地の人は生活が不便なだけに独立心が高い。こういった独立心といか気概は、どちらにもあるように思う。
 また、どちらも、資源に乏しい。山だらけなのにも通じるだろうか、スイスは土地がやせている。日本にしても、いろいろ工夫はしているが、もともと土地ないし・・・。
 そのためだろうか、技術力が高い。スイスの時計といえば有名である。もっとも最近は日本のSEIKOなどに抜かされているようだ。もともと、ちょっと、どちらもヲタクっぽいのではなかろうか。
 
 とすると、スイスの行き方、参考にしてみてはどうだろうか。虫としては、共同体意識が素晴らしいと思う。