道路特定財源をめぐる真実


 他にいろいろあるブログの例にもれず、本ブログでも、メディアについて書く場合には批判的なことを書くことがもっぱらである。しかしたまには、褒める記事を書いても良いかもしれないと思う。例えば、朝日新聞の次の記事である。

道路特定財源、「支持」署名した引退市長たちのホンネ
2008年04月08日03時03分


 道路特定財源一般財源化の是非について、昨年引退した全国の市長に朝日新聞が聞いたところ、回答した35人のうち約半数の17人が一般財源化を支持すると答えた。特定財源維持の署名に全国ほとんどの市町村長がサインしたのとは大きなずれ。自治体のかじ取り役の本音が見えた。


 「首長にとっては一種の踏み絵。あえて署名しないなら相当なプレッシャーを覚悟しなければならない」。昨年4月に引退した中條弘矩(ちゅうじょう・ひろのり)・元香川県東かがわ市長(60)は語った。


 現在、自身の考えは「地方を見捨てないでほしいと思う半面、巨額すぎてむだな使われ方の多い特定財源制度が好ましいとは思えない」。しかし、署名という形で二者択一を迫られたら「現役当時はサインしただろう」という。


 道路行政にかつてない厳しい視線が注がれる中、国土交通省をはじめとする維持派の大きなよりどころとなっているのが、同省と関係の深い「道路整備促進期成同盟会全国協議会」(道全協)が昨年11月に集めた署名だ。


 「道路特定財源はすべて道路整備にあて、08年度以降も暫定税率を延長する」ことを求める内容に、1800人の全市町村長のうち、署名しなかったのはわずか6人。冬柴国交相(71)は「維持すべしと直筆で署名したものが(ファイルで)3冊ある。首長さんは続けてもらいたいとおっしゃっている」などと国会や記者会見で盛んに取り上げた。


 しかし、今回の取材に対しては35人のうち13人が「完全一般財源化」、4人が「一部一般財源化」を支持すると答えた。「道路使用にかかる税そのものの廃止」を訴えた人も1人いた。一般財源化支持の17人については、ガソリン税などの暫定税率についても「廃止」を望む人が10人にのぼり、「暫定税率のまま維持」を唱えたのは1人もいなかった。


 署名時に現職だった人は3人。うち2人は自説通りに署名。もう1人も署名したが、今回は一般財源化を支持するとした。


 一方で、引退前に署名を求められたらどう対応したかを聞くと17人中12人が「意に反して署名したと思う」。


 「地元に迷惑がかかるから」と匿名を条件に取材に応じた西日本の元市長は「中央省庁のやり口ですわ。あんなもんがみんなの本心と思ってもらったら困ります」。同じく匿名の東日本の元市長は「予算を人質に取られている立場で本音は言えない」と語った。かつて道全協の役員を務めたことのある光武顕(みつたけ・あきら)・元長崎県佐世保市長(77)も「首長の立場ではあらがいがたい」と話す。


 「ああいうものには目に見えない圧力がある」=亀田良一・元広島県尾道市長(81)=、「不本意ながら足並みをそろえた人が多いと思う」=上原公子・元東京都国立市長(58)。そんな声も相次いだ。


 道路行政の歴史的な転換点を目前にしたいま、元市長らの中には、公の場で率直な思いを語り改革を後押ししようとする動きもある。


 非営利の政策シンクタンク構想日本」が3月31日夜に都内で開いたフォーラムには、福嶋浩彦・元千葉県我孫子市長(51)、西寺雅也・元岐阜県多治見市長(64)らが出席。「予算の個所付けや補助金を通じて国が地方をコントロールする仕組みが残ったら、一般財源化しても意味がない」と抜本的な改革の必要性を説き、聴衆と意見交換を繰り広げた。


 福嶋元市長は言う。「特定財源を解体してひもつきでない財源を寄越せ。現役の首長らこそが、勇気を出してそう叫ばなくてはならない」


      ◇


 昨年中に任期満了に伴い選挙に出馬せず引退した約45人の元市長のうち、38人に電話で取材し、35人が回答した。

 本ブログでは以前に、道路特定財源の維持を求める地方の首長からの署名に関する朝日新聞の記事を話題にしたことがある(本ブログの記事はこちら)。その時の新聞記事と、今回引用した新聞記事の著者が同じかどうかは、私にはわからない。しかし、それがどうあれ、2つの記事は同じことを問題にしており、そして、前の記事が言わば「現職の壁」に阻まれて迫れなかった実態に、今回の記事は、引退したばかりの首長(つまり、「ほとんど現職」と言える首長)に尋ねることを通して、迫ることに成功したと言ってよいのではなかろうか。調査報道とまで言えるかどうかわからないが、少なくともこのくらいの粘りは、真実を引き出すためには必要なのではあるまいか。


 道路特定財源に限らず、世の中にはびこる欺瞞(特に、権力と結びついた欺瞞)を明らかにすることが、メディアの使命なのだと改めて思った次第である。