朝日新聞の歪んだ政治理解――「かんぽの宿」のオリックスへの売却をめぐって(追記あり)


 私は新聞記事を引用する際には基本的に朝日新聞からすることにしている。長年同紙を読みつけてきたからであり、読売・産経などの御用新聞とは異なり、日本の新聞の中ではまだしもましだと思っているからだが、しかし時々、特に最近ははっきりと、これはおかしいなと思う記事に出くわすこともないではない。


 その1つが、今日とりあげる1月18日づけ社説「かんぽの宿―筋通らぬ総務相の横やり」である。まず社説を引用しておくことにする。

かんぽの宿―筋通らぬ総務相の横やり


 日本郵政が全国にもつ宿泊施設「かんぽの宿」をオリックス不動産へ譲渡する話に対し、許認可権をもつ鳩山総務相が「待った」をかけている。


 日本郵政西川善文社長から説明を受けたが、鳩山氏は「納得できない」という。だが、理由が不明確で納得できないのは、鳩山氏の「待った」の方ではないのか。許認可という強権を使い、すでに終わった入札結果を白紙に戻そうというのなら、その根拠を明示する責任はまず鳩山氏にある。


 かんぽの宿は年間200万人ほどの利用があるものの、赤字続きだ。郵政民営化から5年以内に譲渡するか廃止することになっていた。


 日本郵政は前任の増田総務相が認可した08年度の事業計画にかんぽの宿の譲渡を盛り込み、昨年4月から入札手続きに入った。27社が応札し、2度の入札でオリックスに決まった。


 全国の宿70施設と社宅9カ所を一括して約109億円で売却する。資産の帳簿上の値打ちは141億円だが、借金を差し引いた純資産は93億円。落札価格は、これを16億円ほど上回る。


 鳩山氏が問題だと指摘するのは次の3点だ。なぜ不動産価格が下がるいま売るのか。なぜ一括売却なのか。なぜ規制改革・民間開放推進会議の議長を長く務め、郵政民営化を支持していた宮内義彦氏が率いるオリックスに売るのか。「国民が“出来レース”と見る可能性がある」として、譲渡に必要な会社分割を認可しないという。


 これに対して西川社長が説明した内容は、しごくもっともに思える。


 赤字が毎年40億〜50億円あり、地価が急上昇しない限り、早く売る方が有利だ。一括売却でないと不採算施設が売れ残り、従業員の雇用が守れない。全国ネットとした方が価値も上がる。最高額で落札し、雇用を守る姿勢が最も明確だったのがオリックスだ――。


 鳩山氏は譲渡価格109億円が適切か総務省に調査させるという。だが調査する前から「納得する可能性は限りなくゼロに近い」とも発言している。


 これはとうてい納得できない。明治時代の官業払い下げならいざしらず、競争入札を経た結果に対し、さしたる根拠も示さずに許認可権を振り回すのでは、不当な政治介入だと批判されても抗弁できまい。


 宮内氏は規制緩和や民営化を推進してきた。官僚任せでは構造改革が進まないため、当時の政権が要請したものだ。過去の経歴や言動を後になってあげつらうのでは、政府に協力する民間人はいなくなってしまう。


 自民党内では、郵政民営化の見直しの動きが続いている。鳩山氏はこれとの関連の有無について言及していないが、もしも「待った」の真意が民営化策の見直しにあるのなら、正面から堂々とそちらの主張をするべきだ。

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 この記事(社説)は2点で全く間違っている。1つは、社民党保坂展人議員がブログ(この記事この記事)で書いているように、公的資産だったものが民営化の名のもとで私企業に安く払い下げられている、しかも場合によっては叩き売り同然で払い下げられているという問題がここにはあるのだが、そのようなことに対する問題意識が同社説には全く見られないという点である。その点の検証を経ずに叩き売りがまかり通るようなことがあってはならない。まず必要なのは検証である。
(なお、付言すると、本ブログの過去記事で書いたことだが、自民党の政治家連中に同様の「叩き売りOK」という考えの持ち主がいることはここで指摘しておかなければならない。そもそも、無駄になるようなものをそもそも作った官僚の失政を全然咎めず、そしてそういうものを使って私腹を肥やすないしは自分の関係者に儲けさせることしか考えないのが、自民党のやってきたことなのである。)


 もう1つは、オリックスという企業の経営者である宮内義彦という輩に対する認識が、この社説においては極めてお粗末であるという点である。社説では「宮内氏は規制緩和や民営化を推進してきた。官僚任せでは構造改革が進まないため、当時の政権が要請したものだ。過去の経歴や言動を後になってあげつらうのでは、政府に協力する民間人はいなくなってしまう」とあるが、これに対して、例えば民主党桜井充参議院議員2004年11月のメルマガで次のように指摘している。

 規制改革・民間開放推進会議の議長は、オリックスの社長である宮内義彦氏である。混合診療の推進者である。もし、この制度が導入されれば、アメリカのような民間保険会社が必要になる。宮内氏はその準備を進めている、もしまだ準備ができていないとしても、保険業を営んでおり、その業務に参入してくることは明らかである。自分の会社の利益のために政治を利用している。とても許されることではない。これは「利害の抵触」に当たり、アメリカでは厳しく罰せられる。

 さらに、同議員は2007年3月のメルマガで次のようにも指摘している。

 小泉―竹中政権で、まちがいなく格差は拡大した。その最大の原因は、一部の人による規制改革会議の私物化であると考えている。これまで、オリックスの宮内さんが議長に就かれていたが、オリックスからの規制改革の要望は200件近くもあった。自分の会社にとって必要な規制緩和を要求し、自分が議長として規制の改正に取り組む。このことにより、自分の会社が利益をあげれば、利害の抵触にあたることは間違いない。

 うちの小林秘書曰く「反則ですよ」。これが、一般人の感覚だろう。しかし、政府の答弁は違っている。政治が一部の人だけに利用されれば、国民全体の利益につながらないのは明らかである。

 現に国会の場で、規制改革・民間開放推進会議側の主張と幾度も対決してきた議員が、このように言っていることの意味は重いと言わなければならない。宮内義彦は、政府審議会のメンバーという自らの地位を利用して、自らの企業の利益増進を図ってきた疑い、つまり、公けのものである政治を使って私腹を肥やしてきた疑いが、極めて濃厚である。


 ところが、朝日新聞のくだんの社説では、宮内氏は何か善意のボランティアでもあるかのようである。これはいかがなものか。不見識も甚だしいと言わざるをえない。宮内の企業に払い下げたいのなら、その前に宮内は国会の参考人質疑に応じて、自らのこれまでの身の処し方について弁明を行なうぐらいのことは当然すべきである。私の知る限り、そのようなことはこれまで行なわれたためしがない。


 ところで、最近の朝日新聞のおかしさはこれにとどまるものではない。例えば、竹中平蔵などという輩を何かにつけて新聞に登場させているのもその一つである。朝日新聞に属する個々の記者がおかしいとまで言うつもりはないが、どうも論説委員レベル(編集委員にはいろいろ変わり者もいるようなので措くとすると)ではいささか、否相当、おかしい連中がいるように思われてならない。


追記(1月21日)
 今回の売却がやはり胡散臭い話であることが、さらに確かめられた。社民党衆議院議員の保坂展人議員のブログから引用しておく。

ラフレさいたま」は「かんぽの宿」ではなかった(視察速報)
ニュース / 2009年01月20日


 国民新党が「ラフレさいたま」に議員視察団を派遣すると聞き、長谷川憲正副幹事長に頼んで、同行させてもらった。大型バスで昼過ぎに出発したが、民主党原口一博議員も昨夜、参加を決めたとのことで、「野党3党」の構図が出来た。さいたま新都心に現れた「ラフレさいたま」を見て、バスの中からは「オーッ」という声があがった。ホームページの写真で見る以上に立派な施設だった。


 日本郵政の有本眞介ラフレ埼玉館長が私たちに向けて説明を行った。
「平成5年に、地元の県知事、浦和、大宮、与野市長から宿泊施設建設の要望があり、平成12年9月にオープンしました。187室、223名の宿泊が可能で、満室率は75%です。毎年21億〜22億円の収入がありますが、昨年は9000万円の赤字(内6500万円が原価償却)です」。私は質問をさせてもらった。土地・建物の初期費用はいくらだったのか。有本館長はつぎのように答えた。


土地 平成5年3月 61億8000万円
建物 平成4年11月 216億4000万円(合計で278億2000万円)
 それに、備品は含まれていますか、と聞くと、「含まれていません。今、手元に数字はありません」とのことだから、おそらく300億円は超えているのだろう。もうひとつ、質問をさせてもらった。


 借り入れ金はあるのですか。また、初期費用の300億円はどのように捻出されたのでしょうか。


 日本郵政の本社から来た担当者が答える。
 「そもそも、この施設は簡易保険福祉事業団が、簡易保険の余剰金から建設してきたもので、運営費については国からの交付金も出ていました。ですから、借り入れ金はありません」

 
 とすれば、100%「簡易保険加入者の共有資産」ではないか。もし、日本郵政が売却するのであれば、市場価格を下回らない価格をつけて、現在のかんぽ生命を通して簡易保険加入者(5000万件)の国民に配当するべきだろう。「ラフレさいたま」の1カ所だけでオリックスは丸儲けだ。他の「かんぽの宿」とは比べようもない資産価値がある。郵政出身の長谷川憲正議員が鋭い質問をした。
 「民営化される前と後で、この施設で変化したことはありませんか」


 有本館長は正直に答える。「ひとつだけあります。ここには健康診断の施設がありした。常勤のドクターと看護士がいて、身体状況をチェックしていました。これを民営化後に廃止しています」。私の頭の中には、雇用保険を原資とした豪華ホテル『スパウザ小田原』が浮かんできた。ここも、健康診断施設の名目で建設されたが、売却前にこの診断室は廃止されている。「ラフレさいたまは『かんぽの宿』ではないような気がするが、『かんぽの宿』なのかどうか」と聞いてみた。


 「ここは簡易保険総合健康増進センターとしてつくられましたので、『かんぽの宿』とは違います」と有本館長。手元に配られた封筒を見ると、確かに「ラフレさいたま」の下に「簡易保険総合健康増進センター」と書かれた文字が白テープで消されていた。オリックスへの一括売却リストの中に、「かんぽの宿」ではない「ラフレさいたま」や社宅がなぜ入りこんだのが不透明な印象を受ける。


 雇用を守るという条件で、一括譲渡したという説明も怪しくなってきた。ここで働いている職員(正社員)はわずかに5人。ホテル部門はウェルネス総合サービス、スポーツクラブはセントラルスポーツという委託先と契約を結んでいる。また警備や設備保守、清掃などは請負契約だ。つまり、アルバイトやパートでもなく、間接雇用の人たちで、事実上このホテルは運営されている。日本郵政オリックスとの契約では、正社員は「期間の定めのない雇用とする」という一般的な条項があるだけで、しかもこの条項に該当するのは正社員である5人だけということも判明した。


 まさに「百聞は一見にしかず」だ。この、タイムリーな視察を組み、突然の参加申し入れを快諾してくれた国民新党に感謝、感謝だ。原口議員も「予算委員会、総務委員会で徹底的にやりたい」と闘志満々だった。「小泉構造改革」の本丸と呼ばれた「郵政」が、インサイダー情報による「利権の本丸」となっていないかどうか、徹底審議を求めたいと思う。

 やはり、である。宮内の会社が公的な資産を不当に安く買い受けて私腹を肥やそうとしたことは明々白々である。そもそも「かんぽの宿」に含まれていないはずの「ラフレさいたま」が含まれているという奇妙なことに照らしても、今回の譲渡は無効とされるべきである。