民主党の経済・財政政策への注文


 以前、選挙直後に勝手に閣僚名簿を考えたことがあり、その際私は財務大臣として藤井裕久氏を考えていた。財務省のことをよく知っており安定感がある、というぐらいの理由でそう考えたのだが、ただどうも、この方は今の日本の経済状況がどういうところにあるか、よくわかっておられないのではないか。先の円高容認発言といい、以下に引用する朝日新聞の記事に見られる発言といい、少々(相当に)不安にさせるものがあると言わざるをえない。

国債増発、今年度必要ない」 藤井財務相、税収減でも
2009年10月9日22時17分


 藤井裕久財務相は9日、「今年度も(国債を)増発する必要はない。(税収が)減っても、いろいろな手法はある」と述べ、景気悪化に伴う税収減の穴埋め策として国債発行に頼らない考えを示した。記者団の質問に答えた。09年度の新規国債の発行額を、麻生内閣が計画した約44兆円以下に抑える考えだ。


 09年度予算では46兆円の税収を見込んでいるが、法人税の落ち込みなどで数兆円の下ぶれが起きるとの見方が出ている。藤井氏は財政規律を重視する立場から、借金に頼らず、まずは既存予算の歳出カットや使い残しなどで生まれる財源でやり繰りする考えとみられる。


 また、藤井氏は同日の民放テレビ番組の収録で、「国債は麻生政権では44兆円出している。それよりは減らさなければ、国債市場の信認にこたえることにならない」と発言。すでに鳩山由紀夫首相が示した方針通り、10年度予算でも国債発行を09年度の予定額より減らす考えも示した。

 昨今電車に乗るとすぐに目につくことだが、車内の広告が非常に減ってきている。東京に住んでいる私の場合、既に私鉄では数か月前(或いはもっと前)から、当の鉄道会社の広告が目につくようになっていた。言うまでもなく、広告の掲示を水増しして、車内が閑散としたイメージをつくらないための努力なのだが、最近では(利用者が比較的多いと思われる)JRでもこれが目につくようになり、しかもそれでもなお広告が少ないと思える時がある。


 さらに、田原総一朗氏のブログを見ると(念のため言うと、私はジャーナリストとしての田原氏を全然評価していない)、テレビ局も新聞も広告が減って困っているとのこと。同じようなことを出版関係者(兼ジャーナリスト?)も言っており、これらから見て明らかに、広告宣伝に対する企業の支出は激減しているようである。もちろん、テレビ・新聞だけが広告減となっているのなら、既存の媒体での広告宣伝をやめて新たな媒体に移っている、という可能性もあるだろうが、むしろそうではなく、広告減は今の景気の冷え込みを如実に反映していると考えるほうが当たっているように私には思われる。


 こういう時に民主党は財政の無駄をカットする。もちろん、それは国民が民主党に期待していることであり、結構なのだが、しかしそれだけをやっていたのでは、景気を余計に落ち込ませる可能性が確かにある。よって、予算の無駄をカットする一方で、大規模な景気対策の可能性は決して否定すべきでないと思う。


 それなのに、藤井財務相は「財政規律を重視する立場から」国債増発に対しては否定的だとのこと。財政規律を重視する立場に立っていた橋本内閣の失政が何をもたらしたか、本当によくわかっているのだろうか。自殺者がそれまでの2万人台から3万人台に跳ね上がったのは、橋本内閣の失政の結果という面が確かにあったのである。ここでその二の舞をやろうものなら、(その先はあえて言わないが)それこそとんでもない事態になりかねない。率直に言えば、私などはむしろ、新規国債の日銀引き受けといった、通常なら禁じ手とされる政策の出動すら、今の状況では必要なのではないかと思っているのだが。


 民主党政権はくれぐれも間違えないでいただきたいと切に願う。



 ところで、朝日新聞の記事で「亀井・返済猶予案、町工場で聞いてみた」というのが目にとまった。内容は各自でご覧いただくのがよろしいだろうが、亀井大臣の発案に対するもっぱら否定的な声を「町工場の声」として紹介するこのような記事は、作ろうと思えば正反対のものもできるというたぐいの記事であり、極めて恣意的な、したがって低級な記事だと言わざるをえない。この記事を書いた石田博士という記者の見識を大いに疑わせる代物である。


 ただ、その中で、地元の産業振興協会の理事の考えとして、
小泉政権期に金融庁の検査が「国際会計基準」に合わせて厳密になったことが中小企業を追いつめた」
ということが述べられていたのはたぶん当たっているのだろう。そして、この関連で、私は不思議でならないのだが、以前に民主党桜井充参議院議員が「諸悪の根源、金融検査マニュアル」という文章をメールマガジンで送っていた。まさに金融検査マニュアルこそが、中小金融機関を含む金融機関の上記のような貸し出し姿勢(より正確には、貸さない姿勢)を生み出してきたのであり、そしてそれを変えるためには、桜井議員の言葉によれば「税金を一円も必要としない」はずなのである。それなのになぜ、民主党政権は、金融検査マニュアルの改訂を行なわないのだろうか。ここは、どう考えても理解に苦しむ。


 できる施策を総動員することが、今の不況(或いはむしろ、大不況)への対処として必要なのではないか。民主党政権はもっともっと危機感を強く持って、事に当たってもらいたいと希望する次第である。