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2010年09月27日

医師の給料は政治で決まる 03:24 医師の給料は政治で決まるを含むブックマーク

医師の年収ってどのくらいかというと、まあ働く病院や人によって(バイトの有無によっても)差はありますが、卒後5年ぐらいまでは300〜700万ぐらいが多いです。なぜかというとこの期間はトレーニングの期間であって、まだ一人前ではないからです。卒後5年から10年ぐらいは500〜900万弱ぐらいの人が多いでしょうかね。医師としてはとりあえず一人前だが、専門医としてはまだまだトレーニングの時期ですから。大学病院では日雇いのような非正規雇用のところも多いですね。

卒後10年を越して民間病院の医長クラスになってくると、1000万の大台を超える人が出てきます。大学病院はカネがないので助教クラスでも600万とかその程度なんですが。そこから先は業績や勤務先の財務状況、院内での地位によって給料は大きく変動します。卒後20年ぐらいで1200万、卒後25年の部長クラスで1200万〜2000万ぐらいがいいところです。大学病院にいるともっと安いです。

時々みかける年収3000万とか5000万というのは、要するに訳あり物件です。たとえば僻地で誰も住みたがらないとか、海岸線沿い300kmに産婦人科医が一人しかいなくて年中無休状態でやらないといけないとか、麻酔科医が足りなくて手術ができないので、すぐにでも確保したくて病院が高給を提示したりとか。時々これが標準と思っているおバカさんがいるので困るんですが・・・。そこまでもらえる人がたくさんいるのは、アメリカに代表されるような一部の欧米先進国ぐらいです。

開業すると倒産廃業のリスクは常にありますし、経営とか広告は基本的に自分でやらないといけませんが、やりようによっては2000万から3000万ぐらいの年収を確保することができます。町の中小企業と同様に、一部の物品を経費として算入して節税することもできますからね。でも最近の都心部では開業密度が高く、1000万いかない人も結構多いです。二層化しているようですね。

さて、このようにまあ標準的な医師の給料というものを提示してみましたが、そもそも医師の給料は診療報酬によって大きく左右されます。医療機関が治療行為を行った時にトータルで支払われる料金のことです。診療報酬は原則点数で決められており、1点が10円。手術や検査の項目ごとに細かく定められており、日本のほとんどの医療機関はこの厚労省が決めた診療報酬に沿ってサービスを行ない料金を徴収しています。いわゆる保険医療機関という立ち位置です。

たとえば平日の通常時間に特に健康に大きな問題がない人が風邪をひいて初診で昔ながらの開業医にかかり、胸部X線検査を受けて、処方せんを書いてもらったとすると、初診料270点(2700円)、胸部単純写真撮影が60点(600円)、胸部単純写真診断(読影)が85点(850円)、フィルム代10点ぐらい(100円)、処方せん交付が68点(680点)なので、合計で4930円(病院の設備・人員配置によって加算が生じること有)となります。これが医療機関がこの患者について総額で貰える額です。(初診は診察カードやカルテを作らないといけなかったり、問診や診察前の情報収集に手間がかかることもあり、やや高めに設定されています。同一疾病の再診では50点ぐらいです)

日本の保険では若い人は3割負担なので窓口での支払いは1500円弱ぐらいになりますね。残りはレセプトを通じて、加入している公的な健康保険組合から支払われます。高いと思いましたか、妥当だと思いましたか、それとも安いと思いましたか?

飲食店などの通常のお店で一回3000円とか5000円と言われれば高い気もしますが、一台何百万もする(しかもメンテも必要)高額機械が沢山置いてあり、建物も専門基準に沿って設計、看護師や受付スタッフも何人もいると思えば、(健康のことを扱っているということを抜きにして)経営的に考えてもそこまで高いとは思えません。応援医師看護師といった専門スタッフの人件費だってバカになりません。飲食店なら数人のスタッフで同時に20人近い客をさばくこともできますが、診療所ではせいぜい診察、採血、点滴等で3人さばくのが精一杯でしょう。実際、病院の多くはこれでも赤字なのです。

さて、この診療報酬を上げ下げすることで日本の医療制度は成り立ってきました。厚労省が「次の医療はBではなくA+Bにしたいなぁ」と思えば、「Aという行為をやったら30点加算、そのかわり今までのBの点数を20点下げるからね」とするわけです。そうするとBに加えAをやった場合は10点の増収になり、やらなかった場合は20点の減収になるので、医療機関はこぞってAをやるようになります。そしてAが全国の医療機関に浸透して償却分をだいたい回収できたら加算を廃止し、Aを加えることをBの報酬条件に点数を元に戻すのです。

この診療報酬の金額は全国一律なので、自由診療でもしない限りぼったくられることはまずありません。加算をすべきかしないかとか細かい条件でモメることはありますが、普通の安ワイン一本10万円とかそういうことはないのが特徴です。一方でどれだけ腕の良い医者が診療しても点数は変わらないので、共産主義的な側面はかなり強いです。私は常に「日本の医療共産主義」と言っています。でも、医療についてはそれでいいとも思ってます。はっきりした理由もなく、共産主義というだけで目くじらを立てるのは一種の思考停止だと思います。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。医師の給料が診療報酬によって大きく左右されることは分かりましたが、診療報酬を左右するのは一体なんでしょうか?

それは政治です。診療報酬中医協中央社会保険医療協議会)という厚労省諮問機関で方針が決定されますが、この中医協は病院や医師会といった医療提供側、健康保険組合、中立的立場として公益委員の集まりで構成されています。かつては医師会の発言が強かったのですが、汚職事件への反省や医療費抑制政策を目的として、最近では公益委員の数が増えています。また与党による政治的影響が強い委員会で、自民党時代には厚生族議員が水面下の協議をしていましたし、民主党政権になってからは民主党候補を推薦した数少ない医師会の会長が中医協委員になっています。(民主党がクリーンだと思ったら大間違いということはこういうことです。自らの権力掌握のために自民党同様に政治的な小細工はやっています)

ただし、中医協はあくまで細かい診療報酬の配分を決める委員会であって、その上部には日本の医療費の総額目標を決める組織や人々が存在します。小泉時代であれば経済財政諮問会議であり、民主党の場合ははっきりしたものは存在しませんが内閣が政治的に決めています。(政治が決めないといけない理由は日本の医療費支払いの大部分が、公費や公的保険料に由来するからです。そういう点では医師は私立病院勤務であっても準公務員のようなものです)

つまり、日本の診療報酬は政治によって大きく左右されるのです。ということは・・・当然ながら医師の給料も政治によって大きく左右されます。

かつての自民党政権であれば政治が安定していたので、診療報酬も安定していましたが、昨今は政治が不安定なので診療報酬にも不確定要素が増しています。日本の場合、医療制度の上部には必ず政治が存在しているので、国民の風潮や政党の風潮によって医師の給料は変わります。

一部で他の先進国並みに医師給料の大幅な増額を求める意見が出ていますが、医師の給料が国民感情をベースとした政治に大きく左右され、日本の国民感情が妬みや批判に支配されている昨今の状況を考えれば、大幅な増額は揺り戻しや反感を生む原因であり、慎重に対処すべきという意見です。むしろやって欲しいのは医療補助職の増加と、そのための診療報酬増額です。

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