全集 現代日本文学の発見

 戦後にでたアンソロジーで話題になったものというと、学芸書林から刊行
された「全集 現代日本文学の発見」というのがあります。小生は、たしか
高校の図書館ではじめて手にしたはずですが、粟津潔が装幀した箱にはいって
いて、それまでの文学アンソロジーとはひと味もふた味も違うのでした。
「考える人 20号」の「短編小説を読もう」の「川上弘美」のインタビューを
みておりましたら、彼女が次のようにかたっています。
「 今日、短編の話をするというので、思い出して持ってきた本があるんです。
 アンソロジーなんですが、いま思うと、わたしはこれにすごく影響を受けて
います。全集 現代日本の文学の発見というシリーズで、方法の実験と証言と
しての文学の二冊をもっていて、たしか古本市か何かで買ったんだと思う。」
 八木岡英治さんという編集者が中心になってつくられたといわれていますが、
これに収録する作品を集めていたときに、共産党系の文学者の協力を得ることが
できなくて、それが思い切った編集方針に踏み切る背景にあったとようです。
(この編集スタッフのなかに、伝説の編集者である久保覚さんがいました。)
 なんといっても、このシリーズで話題を集めたのは「埴谷雄高」の「死霊」で
ありますが、幻の作品というふれこみで、ひさしぶりに活字になったと記憶して
います。高校生であった小生は、この不思議な名前の作家をはじめて知ったのと、
(本名は般若豊ですから、もっと不思議。)、作品がちんぷんかんなのに驚き
ました。
 小生にとっては「物語の饗宴」というような巻にあった夢の久作「あやかしの鼓」
とか「完全犯罪」といった作品のほうにひかれました。
ネット古書店で安く、この全集がでているのをみて、なんとももったいないと
思うのでした。