岡崎の行列 2

 岡崎に足を運んだのは細見美術館の行列を見るためではありませんです。岡崎にある
京都国立近代美術館」で開催中の展示を見るのが目的でありました。

 志村ふくみさんの作品展となります。文化勲章受章記念とありました。
最近は、草木染めというのが静かなブームでありまして、先日の手作り市でもあちこち
のお店に草木染めによる小物商品が販売されていました。
 志村さんの作品は、日本古来からの自然染料を利用することで糸を染め、それを織り
あげて、着物に仕立てたものとなります。古典に学び、古典を超えるものづくりです。
 当方は、今回はじめて志村さんの作品を目にすることができたのですが、そのお名前
を知ったのは、今から40年ほど前に書かれた大岡信さんの文章によります。
元々は「ユリイカ」に連載されていた「文学的断章」で発表されたものですが、その後
にまとまって「逢花抄」として刊行されたなかに、それはあります。
 その文章は、「染織作家志村ふくみの名は、その道の人なら知らぬ者もないほどだが、
ユリイカ』の読者の多くにはまだ耳新しいかもしれない。」と始まります。初出は77
年のことですから、当方はもちろん、その名前を知らずでした。
ここには、76年10月東京資生堂ギャラリーであった志村さんの個展に寄せた大岡さんの
文章があげられていました。この志村さんの個展に寄せた大岡さんの文章は、「何人か
の人から、まるで恋文のようではないかとからかわれた。」とあります。大岡の文章と、
大岡が引用する志村さんの過去の文章が呼応するようにおかれています。
 ここで、大岡さんの恋文部分から引用してみます。
「志村さんの染め、織った作品を前にすると、涼しい藍に、たとえば頭蓋の中を海の微風
が吹き過ぎるのを感じ、妖しいまでに密度の濃い蘇芳には眼球の奥が上気して感情が熱し
てくるのを感じ、苅安や山梔子の明るく張りつめた黄色を見ればひろびろとひらける大陸
の地平線を思うが、それらの思いは、初めて志村ふくみ展を見たときと同じように、うま
く理窟にならない。私はただ深ぶかとしたものにひたっているだけだ。けれども私はその
とき、動かしがたく確かな幸福の実感というべきものを身内に感じている。」
 上に掲載したちらしの一番左下にある<紅襲(桜かさね)>という作品が、1976年制
作のものとあります。たぶん、大岡さんが文章を寄せた個展で発表されたものでしょう。