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ワーグナー聴けば聴くほど

2016-03-19 ヤナーチェクはフラットの多い調が好き?

相変わらずヤナーチェクに思いをめぐらしていたところ、前に「イェヌーファ」の第3幕の最後、なぜ変ロ長調の調号のまま、変ホ長調で終わるのかと疑問を呈したのですが、よく考えてみると、1つの場につき1つの記号という原則なので、単純に近親調だから変えていないだけのように思えてきました。また、第1幕の冒頭ですが、これは譜例の抜粋を見ると、変ホ短調の調号(フラット6つ)がついていたりするので、そう考えると辻褄も合うように思いました。

それはそうと、イェヌーファのボーカルスコアを見ると、シャープやフラットがたくさん付いている調号が多いので、気になって他の作品を見ると面白いことに気づきました。(基本、後期の作品は初めから調号がついていないケースばかりのようですが、もちろん無調というわけでもないので、ちゃんと調性はあります)

というのも、後期を代表する作品であるシンフォニエッタも、弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」も、変ニ長調です。マーラーの9番の終楽章もそうですし、リヒャルト・シュトラウス好みの調でもあるので、わりと後期ロマン派のイメージが強いように思える調なので、わりと意外です。また、ピアノ曲ですが、唯一のピアノソナタ「1905年10月1日」も変ロ短調だったりします。これだけ見ると、どうもヤナーチェクはフラットの多い調が好みだったような感じがします。(ストリングカルテットの1番はホ短調のようなので、もちろん全てではありませんが)

そう考えてみると、シンフォニエッタ冒頭で、金管がちょっとくぐもったような感じで鳴るのは必須かと思いますし、「ないしょの手紙」でも、わざと弦楽器が鳴りにくい調にすることで、独特の切なさが出ているのかなという気がします。

それにしても、これらが仮に、「シンフォニエッタ変ニ長調」とか「弦楽四重奏曲第2番変ニ長調」などというタイトルだったとすると、何かイメージが変わるような気がするので不思議なものです。

2016-03-06 新国立劇場「イェヌーファ」感想

昨日(3月5日)の新国立劇場『イェヌーファ』に行ってきました。上演水準については何の心配もしていなかったのですが、期待以上に良かったと思います。忘れないうちに取り急ぎ記載します。

何よりも、トマーシュ・ハヌス指揮の東京交響楽団は、ヤナーチェクの音楽を非常に高いレベルで解釈して表現していたと思います。同じモチーフでもダイナミクスコントラストで非常に細かい陰影まで出していたところや、弱音の表情など繊細さが求められる場面で、実に表現力に溢れていたほか、オーボエクラリネット声楽に寄り添う箇所などが非常に美しかったと感じます。

歌手は、イェヌーファのミヒャエラ・カウネさん、コステルニチカのジェニファー・ラーモアさん、それぞれ優れていましたが、とりわけコステルニチカの解釈が、容姿や声質とも相まって繊細な感じで、新鮮な解釈だったと思います。あと主役級では、出色だったのはラツァのヴィル・ハルトマン氏で、普段の男性的・攻撃的な部分と、いざという時の弱音の甘くやわらかな演技が使い分けられていて、大変好印象でした。これはラツァの役どころにピッタリという感じがしましたし、他の役でも聞いてみたいと思わされました。また、ハンナ・シュヴァルツさんは、おばあさん役ではありながら、若々しい感じで、さすが名脇役というべきか所々に光るものがありました。

全体を通して一番心に残った場面は、やはり第2幕のイェヌーファのアリアの箇所で、カウネさんの演技も非常に良かったですし、窓を開けて月明かりが入ってくる照明の具合も綺麗でしたが、指揮者が時々訪れるオケの沈黙の間合いを長く取ることも絶妙な効果を生み出していたと思います。背景で、ゆらぎを奏でる弦楽器には中声部から低音にかけて木管の響きが極めてうまくブレンドされていて、この場にふさわしい実に柔らかな響きだったと思います。

それに加えて、今までよく気づいていなかったのですが、プログラムに書いてあったので耳を澄ましていたのが、第2幕の最後の方でイェヌーファがラツァの求婚を受け入れる場面の、ソロヴァイオリンが何小節もホ音を持続する箇所。プログラムには、スメタナの「弦楽四重奏曲1番(わが生涯から)」終楽章の有名な耳鳴りの音と同じようにとあったのですが、この比較はなるほどと思わせるものがあり、この心理的耳鳴りを背景に、イェヌーファが半ば上の空でラツァを受け入れるというのは、セリフだけでは埋められない空白を音楽が埋めている典型的な例のように思い、このあたりの心理の綾が良く分かったのは得がたい体験でした。

また、合唱も、第1幕と第3幕にあるヤナーチェク・オリジナルの土俗的なコーラスを乱れなく力強く表現していて見事だったと思います。

さて、演出は、演出家(クリストフ・ロイ)の解釈はあるのですが、思ったよりオーソドックスで、このオペラの内容を深く読み込んでおり、私としては大変好感の持てるものでした。全体としては、コステルニチカが刑務所で過去を振り返るという解釈になっているのですが、いたずらに奇をてらうようなものではなく、登場人物の心理の動きを、シンプルな工夫で良く表現していたと思います。作品に即して素直に解釈するこうしたタイプの演出が高く評価されるというのは、良い傾向だと思います。

今回の上演で使用した版は、ややヤナーチェクのオリジナルに近いヴァージョンということで、第1幕でコステルニチカがイェヌーファにシュテヴァとの交際を禁止するシーンでのセリフが追加されているほか、いつも聴いているCDのコヴァジョヴィッツ版とは確かに違う感じがしました。最近の上演の主流はこちらということで、少し素朴な感じではあるのですが、このほうがいいと思える箇所が多々ありました。

それはそれと、日本語字幕を見ていると、私の訳がどうも誤訳ではないかと思われる箇所がいくつかありました。まあ、これは仕方がないとして、日本ヤナーチェク友の会の対訳版も会場で購入できたので、本当に大きな間違いがあったら、またいずれ手直ししたいと考えています。

いずれにせよ、私としては今回の上演を通して、『イェヌーファ』について、かなり深く理解できたように思うので、大満足でした。私だけではなく、観客の反応も非常に良かったように感じました。基本的にヤナーチェクはじめ東欧物は日本人に相性がいいように感じるので、これからもぜひ上演していただきたいところです。(順当に行けば、次は『利口な女狐の物語』か、『カーチャ・カバノヴァー』かと思われるので、首を長くして待っていようと思っている所です。)

2016-02-28 イェヌーファ 第1幕冒頭の音楽について

「訳者コメント」に書いたヤナーチェクの短い「叙情的モチーフ」ですが、改めて聴いてみると、『イェヌーファ』第1幕の冒頭のシロフォンが「カラカラカラ・・・」と打ち鳴らす音も、まさにそうではないかと思いました。これは水車が水流を受けて、カラカラカラと回る音を思わせるので自然描写でもあるのですが、一方で何とも言えない不穏な気分を醸し出していると思います。実際、このあと第1幕の最後に、ラツァがナイフを持ちながらイェヌーファに近づく場面でもこの音楽が再現されるので、どうも「嫉妬」という感情と結びついているように個人的には思います。「嫉妬」といえば、ヤナーチェクにはまさに『嫉妬』という本来このオペラの序曲に考えられていたオーケストラ曲があります。ここでは、印象的に何度も繰り返されるオフビートリズムと不協和音が、まさにラツァの嫉妬そのものを感じさせるのですが、曲としては大掛かりすぎてオペラの序曲にはふさわしくないと最終的に判断されたと見られます。その代わりにシロフォンから始まる現在の短い導入部が付け加わったのですが、この変ハ音と変ロ音がただ交替するシンプルなモチーフと、その後に続く流れるようなヴァイオリン半音階だけで、ただならぬ気分を全て表現できたという点が、凄味を感じさせる点だと思います。

ついでながら、冒頭をIMSLPのボーカルスコアで見ると、調性記号はフラット4つなのでヘ短調または変イ長調なのかと思いきや、さっきのシロフォンもバスも変ハ音を執拗に主張しているので、これはあえていえば変イ短調の音楽なのかなと思えます。変イ短調イコール嬰ト短調なので、むしろシャープ5つの調性記号のほうが楽譜が読みやすいのでは?と思ったりするのですが、この先もそういう箇所ばかりなので、どういう意図でこうなっているのか意図がよく分かりません。転調している箇所でも、調整記号がそのままになっている箇所も多いので、確かにこれぐらいなら初めから記号が無い方がむしろ読みやすいのではと思います。驚くのは、第3幕の終結つまり全曲の最後の箇所も、やはり第1幕冒頭と同じフラット4つなので、これは統一感という意味で分かるのですが、実際の音楽は変ホ長調和音が繰り返されで終わるということで、これもユニークです。この幕切れは、耳だけで聴いていても、何となく終止感が薄いように感じるので、あるいは完全なハッピーエンドを留保するという意味で、ドミナントのまま終わらせたのかも知れません。

やはりスコアを見てみると色々面白いのですが、ボーカルスコアしかISMLPに無いのは残念なところです。(ポケットスコアは1万円以上するようなので、ちょっと引いてしまいます)

orestkunorestkun 2016/02/29 19:15 twitterなどではイェヌーファの初日が大変、評判のようです。
嗚呼、無念

orestkunorestkun 2016/02/29 21:38 それはともかく...
調性と調号のご指摘は興味深いですね。
(ただ、全曲の最後の調号はフラット2つではありませんか?)
変ホ長調はキリスト教を象徴する調なので、変ホ長調で終わるのは納得ですが、調号と合わないのは気になりますね。
作曲家にとって調性と調号はこだわりと計算の塊ですから、何か意味があるのでしょう。
いずれ考えてみたいです。
そもそも、この結末は果たしてハッピーエンドなのでしょうか。

wagnerianchanwagnerianchan 2016/03/01 21:36 最後の調号はご指摘のように調号2つの変ロ長調ですね。失礼しました。そうなると、なぜこの調号なのか、なおさら謎が深まりますが・・・。結末については、ハッピーエンドというと語弊があるかも知れませんが、基本的には前向きな終わり方なように思えます。新国立は評判良いようなので、orestkunさんには申し訳ないですが、週末楽しみです。

2016-02-27

イェヌーファ ゲネプロの動画とDVDでの予習

23:14

Youtubeで、イェヌーファのゲネプロの抜粋がアップされているとのことで、見てみました。

https://www.youtube.com/watch?v=I_DKdGR1cNE

なるほど、舞台は結構シンプルですね。ハンナ・シュヴァルツさんは、全然「おばあさん」という感じじゃないので、初めはいったい誰の役かと思いました(笑)

シュテヴァは、どこかさえない感じなのですが、ミヒャエラ・カウネさんは、まんざらでもなさそうなのでウームという感じ。ただし、ラツァは「ランニング姿(?)」なので、なおダサい。これじゃ確かにモテないだろう。

おばあさんだけじゃなくて、コステルニチカも若づくりなのが面白いところ。イェヌーファと並ぶと、親子じゃなくて姉妹みたいな印象。ミヒャエラ・カウネさんなので、アラベラとズデンカみたいに見えます(笑) ただし、コステルニチカの歌はしっかりしているので、音楽を聴くと納得。

最初の画面で右端に出てくるのも、この若作りのコステルニチカだったのかと気づきました。どんな解釈でこうなっているのか、なかなか興味深い所ではあります。

合唱もソロもそうですが、東京交響楽団は、さすがヤナーチェクの演奏実績が随一なだけあって、しっかりとヤナーチェクの音色が出ていると思いました。たいへん期待が高まってきました。

さて、今週はDVDも見て、予習しておきました。

Jenufa [DVD] [Import]

Jenufa [DVD] [Import]

これが私の持っている唯一のこの作品のDVDなのですが、バルセロナ・リセウ劇場の2005年の公演ということで、指揮はペーターシュナイダー、イェヌーファはニーナ・シュテンメ、コステルニチカはエヴァマートンと、なかなか重量級のヒロイン2名です。演出は随所に工夫があるのですが、比較的オーソドックスですし、演奏も良いと思うので、最初に見るにはオススメかと思います。(すでにカウネさん主演のDVDもあるようですが、これは実演に接するまでは見ないでおこうかと思います)

圧巻は、やはり第2幕のヒロインそれぞれのアリア。このような演奏で聴くと、このアリアに限らず、第2幕はよくこんな風に作曲できたなと感心する最高の出来栄えだと思います。劇と音楽が完全に融合していて、ヤナーチェクはここで完全に突き抜けて、地方の音楽家から大作曲家へと脱皮したような印象を受けます。

2016-02-22

イェヌーファ対訳〜「訳者より」アップ

22:55

イェヌーファ対訳について、「訳者より」を掲載しました。

http://www31.atwiki.jp/oper/pages/3111.html

主に、ヤナーチェクの人生における「イェヌーファ」の意義と、登場人物の性格を述べたうえで、最後に音楽面について思う所を書いています。

音楽面については、何となく感じていたことはあったのですが、いざ文章にしてみると、なかなか上手く表現できませんでしたが、考えをまとめるという意味では良かったです。これを書き終わってから、あらためてこの作品を聴きなおしてみると、短い「叙情的モチーフ」が、ますますはっきりと聞こえるようになりました。時間があれば、もう少し音楽面については書いてみたいと思うのですが、できるかどうか・・・というところです。

orestkunorestkun 2016/02/27 11:29 wagnerianchanさん
こんにちは
イェヌーファが赤ちゃんを想って歌う音楽は本当に胸を衝かれますね。
wagnerianchanさんは、新国立劇場の上演には行かれるのですか。
youtubeにSPICEが撮影したゲネプロのダイジェストが上がっていますが、youtubeでも非常に充実した様子が伝わってきます。
素晴らしい上演になる予感がします。
私は仕事に大きな問題が起きていて、オペラを見に行く時間と心の余裕がありません。
非常に残念です。ビデオを見ていっそう残念な気持ちが強くなりました。

wagnerianchanwagnerianchan 2016/02/27 22:50 orestkunさま
私は来週見に行く予定です。youtubeご案内いただき、ありがとうございます。さっそく見てみました。確かに充実した公演になりそうです。orestkunさんは、お忙しいようで残念です。。。