読書記録68

血の流れるままに (ハヤカワ・ミステリ文庫)

血の流れるままに (ハヤカワ・ミステリ文庫)

現代英国ミステリー界を代表するイアン・ランキンによるスコットランドエジンバラ
警察の<リーバス警部>シリーズの第7作。邦訳されたのは、第8作で’97年度、
英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」ゴールド・ダガー賞、(最優秀長編賞)を受賞した『黒と青』についで2作目だが、本国の発表順ではひとつ前の作品となる。’99年、「このミステリーがすごい!」海外編で第9位にランクイン
している。
時は厳寒期のエジンバラ。書き置きを遺して家出したエジンバラ市長の娘の誘拐犯と名乗るふたりの青年たちとリーバスとその上司の激しいカーチェイスのシーンで幕を開ける。追い詰められた彼らは橋の上から川に飛び込んで死んでしまう。
時を同じくして、銃身を短く切ったショットガンを持った釈放されたばかりの元服役囚がエジンバラ区会議員のもとを訪れ、それを口にくわえて自殺する。
リーバスは、一見何の関係も無い3つの死を調べるうちに、なぜか上層部から休暇
を言い渡され、各方面から捜査中止の圧力がかかる。そんなことでへこたれない
リーバスは部下を内密に協力させて捜査を続けるのだが、そこにはエジンバラ
含めたスコットランドに関る大規模な汚職があったのだ。
この物語の読みどころは、「謎解き」の興趣はさておき、何者も曲げることのできない不屈の正義感をもったリーバスが、社会の病巣とでも言うべき巨悪に立ち向かい肉薄する過程であり、“体制”という巨大な権力に対して一匹狼としてひるむことなく闘いを挑む姿である。
本書でイアン・ランキンは、従来の本格謎解きスタイルに重きを置いた伝統的な英国警察小説ではなく、ハードボイルド・アメリカ私立探偵的要素を取り入れ、強烈な個性を持ったリーバスを主人公に据えて、独特のミステリーワールドを作り上げている。