火野正平がいない

 俳優の火野正平さんが、日本中を自転車で走り回っている。NHKの「にっぽん縦断こころ旅」である。
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 この中で火野さんがときおり「元俳優の火野正平で〜す」と口にする。現役の俳優じゃん……と思ってはみたものの、そういえば最近、火野さんの姿をドラマでお見かけしていない。
 週の初めごろ、日野さんは鳥取の境港を走っていた。水木ロードに差しかかって、そこで「こなき爺」のブロンズ像を見つける。その像に自分の眼鏡をかけさせて「似ている」と爆笑していた。確かにつるりとした頭や人をなめたような目が似ていなくもないような。
 春日太一『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)の第5章に「火野正平がいない」という項がある。春日さんは「最近の時代劇に、火野正平のようなあくの強い個性的な俳優がいなくなったので、時代劇自体がうす甘くなった」と言う。ワシャもそう思う。
 火野正平というのは芸名である。この芸名をつけたのが、池波正太郎というからかなり由緒のある芸名だ。火野さんがNHK大河の「国盗り物語」に準主役で出演したときに、それまで本名でやってきたのを改めて火野正平になった。昭和48年のことである。その時の配役は個性的だった。平幹二朗露口茂西村晃、大友柳太朗などのベテラン俳優は言うに及ばず、20代30代の若手だけでもこの顔ぶれである。
高橋英樹(29)
松坂慶子(21)
三田佳子(32)
山本陽子(31)
火野正平(24)
樫山文枝(32)
松原智恵子(28)
米倉斉加年(39)
江守徹(29)
杉良太郎(29)
竹脇無我(29)
林隆三(30)
伊吹吾郎(27)
佐藤友美(32)
中野良子(23)
近藤正臣(31)
などなど。
 これに比し今年の大河『軍師官兵衛』はどうだろう。柴田恭兵竹中直人寺尾聰片岡鶴太郎などが脇を締めてはいるが、20代30代の俳優陣はどうであろう。
岡田准一(34)
中谷美紀(38)
松坂桃李(25)
内田有紀(38)
二階堂ふみ(20)
生田斗真(30)
桐谷美玲(24)
濱田岳(26)
速水もこみち(30)
高橋一生(33)
塚本高史(31)
永井大(36)
金子ノブアキ(33)
田中圭(30)
 女性陣、主役の岡田准一濱田岳あたりに個性を感じるが、その他はすらりとしたイケメン俳優ばかりが並んでいる。濱田くんにしてもギラリとした悪役面じゃない。火野正平がいないのである。
 NHK大河ですらこの有様である。映画やテレビ時代劇は推して知るべし。隣の国の捏造時代劇を喜んで見ている場合ではないのだ。