日本文化な一日

 昨日は充実した一日だった。
 午前中から名古屋の駅前のホテルで、小唄の家元の襲名披露会があって、小唄の会と言っても県知事や御園座の社長が臨席する会で、どうだろう延べにすると500人くらいは来場しただろうか。
 ワシャはその会から大向こうを頼まれたのである。
「まってました」「家元」「三代目」「たっぷり」「名調子」などなど、声をかけてまいりましたぞ。
 このところ「三井寺」や「飛雲」など能の話が続いていたでしょ。実は宝生流の定例会があって、その予習を日記上でやっていたんですね。その日付も昨日だった。能のチケットの入手を遅かったんだけど、大向こうの依頼も日程を間違えていたりといろいろあって、結局、2つの会を同日に梯子をするはめになった。
 まず午前10時30分に西口前のホテルの8階の会場で打ち合わせ。「私の時にはこう声をかけてくれ」「わしは町名で呼んでくれ」と出演者の方から細かい注文が来る。それを全部プログラムに書き落として、11時30分から開演。仲間2人とともに最後部の席から声をかける。仲間2人は素人なので(というワシャも素人なのだが)、微に入り細を穿った指示を出す。「なかむらや」は「な」を抑え気味に「…かむらや」くらいが格好いいよ、な〜んてね。
 12時45分、会場を飛び出して、ホテルの前でタクシーを拾う。「名古屋能楽堂の北の入り口」とだけ告げて、メールを打つ。
 すでに能楽堂には友だちが席を取ってくれている。おそらくこの時間だとギリギリになる。能が始まってから図体のでかいのがうろうろすると他のお客さんの迷惑になる。あらかじめ席の場所を聴いておいてピンポイントで着座できるようにしておかないとね。
 友だちからメールが帰って来る。おお、席は正面の4列目の中央あたり、ワシャの好きな席ですな。舞台全体が見渡せ、床面より少し高い席なので足の運びがよく見える。橋掛かりでの能も視線の移動だけで済むし、目付柱がさほど邪魔にならない。ラッキー。
 能楽堂についたのが1時ちょうどだった。あたふたと中にはいると、まだ地謡が着座していなかった。「ごめんやっしゃごめんやっしゃ」と席をまたぎ、なんとかシテが登場する前に着席しましたぞ。
三井寺」は期待していたのだが、本当に静かな能で、先週一週間の疲れがどっと出たんでしょうね。しっかりと寝入ってしまった。夜は寝られないけれど、能ではぐっすりだ(笑)。しかし、地謡、四拍子を聞いていると、幽玄の世界に引き込まれていくのである。能面に表情が現われ、影が自由に舞い始める。これほど気持ちのよいうとうとはない。
 トリの「飛雲」は能に強弱があって、おもしろかった。そもそもが妖(あやかし)ものなので、シテの舞も、ワキの動きも目が離せない。こちらの方は一睡もせずに堪能できた。
 能が終ったとたん能楽堂を飛び出して、やっぱりタクシーに飛び乗って、名駅西口のホテルに急ぐ。タクシーの中から連絡を取ると、会は大幅に遅れているとのこと。それならばまだ仕事ができそうだ。
 午後4時40分くらいか、もう時計など見ている暇はない(ってワシャは時計をしていないけれど)。そのまま会場入りをして大向こう仲間と合流する。
 それから2時間、声をかけまくって咽がつぶれましたぞ。
「打ち上げもどうぞ」と誘われたが、それは遠慮をして午後7時過ぎにホテルを出た。あ〜つかれた。でも楽しかった。