現実を見る

 戦場ジャーナリストを名乗っている渡部陽一さんの撮った写真は旅番組から切り取ったような写真ばかりで、本人の説明が加わらないとよくわからない。
http://yoichi-watanabe.com/galleries.html
兵士の立つジャングルの夕日はきれいだし、カメラを見つめる少女の瞳は澄んでいる。子供の横にさりげなくマシンガンが並べてあるが、これもあざといと言えばあざとい。
 この人に比べて戦場カメラマンの宮嶋茂樹さんの写真は凄い。
不肖・宮嶋inイラク死んでもないのに、カメラを離してしまいました。』(アスコム
http://randomkobe.cocolog-nifty.com/center/2007/03/in_65c6.html
は死臭と血だまりに満ちている。新車のBMW5の運転席の男はまさにハチの巣になって死んでいる。宮嶋さんの写真に感動的な風景など皆無だ。この写真集では死体はありふれた被写体である。この手の写真は、ネット上では見つからなかった。
 この写真集の中にバグダッドの「共和国橋」を横からロングで写したモノクロ写真が怖い。
 橋上にM1A1戦車が展開している。一台の砲身は橋の行き先(対岸)を向いている。その後に続く戦車の砲身はピタリとカメラに照準を合わせている。この写真を撮影した直後、宮嶋さんはカメラを投げ出して逃げ出した。残念ながらこの10分後、宮島さんの同業者2人がバラバラになって飛び散ったそうだ。
 渡部さんの写真には臨場感がない。どれもが美しい写真だとは思うが、「だからなんなの?」という写真ばかりである。
 一方、宮嶋さんの写真は、目を背けたくなるようなものばかりだが、これが戦場の現実なのである。
 戦場、戦争を考えるとき、常に宮嶋さんの視点を忘れないでおきたい。