本格的な演劇は能くらいおもしろい

 大竹しのぶの「フェードル」は大竹の熱演ばかりが目立った。まぁ大竹の舞台なのだから大竹が前面に出てくること自体は否定しない。もともと持っている才能と言っていいのだろう。存在感がありすぎる。脇にいるだけで空間を歪めてしまうくらいの引力がある。「額」の中に納まらない大女優ということか。
 平岳大の滑舌はよくない。低音のいい声を持っているのだが、テレビなどで機械集音した声は聴きやすいのに、舞台での発声に慣れていないのかなぁ。低い声がくぐもって聴きづらい。
 キムラ緑子は上手い。フェードル后の侍女役なのだが、声も出ていたし、抑揚の効いた演技もよかった。随所で存在感を見せながら、ふっと舞台上で色を消して演者の邪魔をしない。バイプレーヤーとしては優秀だ。
 衣装はもう少しギリシア風にはできなかったのだろうか。靴なんかも今風のブーツで、ギリシアの為政者には見えなかった。もう少し工夫が欲しい。これがラシーヌの書いた「フェードル」に忠実なものだとするなら、ギリシア悲劇の「ヒッポリュトス」をベースとしながらも違う味付けにした劇ということなのだろう。なにしろこのあたりの演劇には造詣がないのでなんとも言えないけれど、大竹の熱演だけは20列目まで伝わってきた。
 リサ・ベルナールと大竹がどのくらい違っているのか、見比べてみたいものだが、それは叶わない。どこかにリサ・ベルナールの劇評が残っていないかなぁ。探してみようっと。

 午後3時過ぎに終演したので、それから飲むところを探すのが一苦労だった。さすがの飲み屋街も午後5時オープンのところばかりで、陽の高いうちからやっているところはない。それも企業城下町だから連休のさなかになおさらやっていないわさ。
 それでも30分くらいうろうろしていたら一軒の店が「開店前だけどいいですよ」と入れてくれて、そこでしこたま飲んで、久しぶりだったので、もう一軒はしごをして飲んだのだった。