予習が大事

 ちょいと休暇をとって歌舞伎に行ってきた。中村芝翫(しかん)の襲名興行である。芝翫といっても歌舞伎に興味のない方には縁がないかもしれぬ。三田寛子の旦那さんと言った方がとおりがいいかもね。1年前、中村橋之助の時代に、京都先斗町の芸妓との浮気が週刊誌にすっぱ抜かれていましたっけ。三田寛子の毅然とした釈明会見が、格好よかったですな。
 その三田寛子の三人の息子も「橋之助」「福之助」「歌之助」をそれぞれ襲名して、成駒屋さんもにぎにぎしいことでおめでとうございます。歌舞伎界で男子を三人もおつくりになったんだ。梨園の妻としては押しも押されもせぬ女将になったということでゲスな。
 八代目芝翫、五十を過ぎて頬に肉がついてきた。これまでは細長い顔だと思っていたが、いやなかなか中村芝翫、でかい面になってきた。昨日は熊谷直実を演じたが、赤っ面に二本隈(芝翫筋)を描いた顔の立派なこと。歌舞伎役者は顔がでかいほうがいい。遠くからでもよく見える。そういった意味では八代目芝翫、いい役者になりそうだわい。三人の子供たちは母親のDNAを継いだらしく、みんな丸顔で、祖父の七代目の二頭身とも言われた長い顔が出なくてよかったね。

 演目の「熊谷陣屋」のことである。今回は油断をした。あまりにも有名すぎる狂言だったので、仲間たちと事前勉強をせずに望んでしまった。ところが、「熊谷陣屋」は義太夫狂言だから、言っていることが理解できない。その上にいろいろな物語が輻輳しているので、人間関係が明確に見えていないと、何をやっているのかがわからない。義経と直実の関係は……ちょろっと出てくる梶原って……あの首は誰……弥陀六という爺さんはなにやっているの……。
 歌舞伎としては、古典的な格調をそなえた代表的な舞台である。見どころもあちこちに配されている。武士道の無常さを歌い上げた名作と言っていい。ぜひ、観る機会があったなら事前に少しばかり勉強をしていくといいですぞ。