屋根の上から

 ワシャん家(ち)は、今、屋根と外壁の塗装を直している。築20年だから、もう屋根が苔むして「やあね〜」な状態になっていたのである。だから、梅雨明けから、足場を組んで、友人の塗装業者に入ってもらっている。
 1951年以降に日本上陸をした台風197のうちで始めて東から西へ走った台風12号がやってきたでしょ。東海地方に襲来するのは夜になってから深夜にかけてということだったので、昼過ぎから足場にかけてあるシートをまとめる作業に入った。シートを張ったままだと、それこそ風をはらむ帆のようになって、足場を倒したりして危険だからね。友人は、午前中に来てくれて、シートに風がはらまないように、結束部分を何箇所か解いていってくれた。風でビラビラしているけれど、「これで大丈夫」と言って帰っていった。おそらくそうなんだろう。友人は、その道のプロだ。何十年と現場に入って、風や台風とも対峙してきた経験則を持っている。
 しかし、ワシャも自分を防災のセミプロぐらいだと思い込んでいる。市内にやはり同じように足場を組んでいるところを知っていて、買い物に出たついでに、その現場を見て回った。そうすると、シートは完全にまとめ上げられて、ちょうどブラインドを上げきったかたちにしてあった。
 じゃあそうしようと思った。友人も忙しいだろうから自分でやることにした。これが楽しかった。
 鉄の足場は、家を取り巻くように組み立てられている。それが家の形状や入り口や窓のあるなしで、複雑に組み合わされて、屋根まで覆っているのだから、大掛かりなジャングルジムと言っていい迫力だ。これに登って作業をしたが、メチャメチャ楽しいですなぁ。汗はかきまっせ、つねに3点で自分の体重を支えなければならず、シートをまとめてタフロープで縛るのも重労働である。いつも机に座って、顎だけで仕事をしているなまっちょろい身には堪えますぞ。でもね、達成感が生半ではない。足場に登ったり降りたりして、2時間くらい遊んでいたかなぁ。シートに覆われていた家が徐々に姿を現していくのは、やってみると解るけど、とてもワクワクするものなのである。小さい頃にジャングルジムや木登りで遊んでおいてよかった。

 それにしても今回の台風は変だった。ワシャも防災関係をやったころに、天気図とか過去の台風の経路をかなり勉強したのだが、東から西に進む台風というのは初めてだ。だって台風が目の前まで来ているというのに、夕焼けが出ているなんて経験したことがない。マスコミや気象庁は、西日本の大水害があったばかりなので、過剰なまでの反応をしていたが、あれにも踊らされてはいけない。注意はするべきだが、東京の快適なテレビ局のスタジオで書いておるとおりに言っているだけで、雨も風もなんにも感じずに言っているだけなんだから。
 どこかの港からの中継が入るけれども「以前に増して波が高くなっています」とか言っているアナウンサーの足元に、チャプチャプとさざ波に毛が生えたくらいのものが映し出されている。その後、風も雨も感じない快適なスタジオに切り替わって、「ただちに安全を確保してください。ご自身や家族の命を守るためにすぐに対応を始めてください!」と司会者が真顔で言っている。あまりにも鬼気迫った表情で、逆に臨場感を失っている。そんなアナウンサーの臭い演技より、きっちりとした天気図で解説してくれたほうがどれほど解りやすいか。
 夜の番組に森某という天気予報士が出てきて「台風の過ぎ去った後は、大雨に注意してください」とか、これも真顔で言っていたが、少なくとも三河はいい天気になっている。
 ことほど左様に天気の予報は難しい。人の言動に惑わされるのではなく、自分で判断して、自分で行動する。その結果も自分の責任だ。
「天気予報が晴れだといったから出かけたのに雨が降った。責任を取れ」ではないのだ。天気予報など中らない。出かけるのはあくまで自己責任で行く。人の言動ばっかりをあてにして、責任転嫁しているんじゃないよ。

 そんなことを屋根の上で風に吹かれて思っている。
 また今日も屋根に登っているんでヤンス。