茶の葉

大阪市のマンションで身元不明の男性の他殺体が見つかり、殺人事件として捜査が始められました。


遺体が見つかった部屋は、直接の借主が他人にまた貸ししており、しかも遺体はそのまた貸ししていた人とも別人の可能性が高いとのこと。家賃も滞納されていて電気・ガスも止められていたといいますから、そんな荒涼とした現場で遺体を見つけた、マンション管理会社の人もそうとうショックだったことでしょう。


で、遺体の状況について新事実が。


http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090905/crm0909051344011-n1.htm

腹部周辺にコーヒー粉? 大阪・浪速区の男性遺体

 大阪市浪速区戎本町のマンションで男性の遺体が見つかった事件で、男性には腹部以外にも背中などに複数の傷があったことが5日、捜査関係者への取材でわかった。腹部の傷周辺には、コーヒーのような粉がまかれていたことも判明。府警捜査1課は、男性の身元の特定を急ぐとともに、司法解剖して死因を調べる。

 府警によると、男性の腹部には刃物で縦に切られたとみられる数十センチの傷が見つかっているが、腹部以外にも背中などに複数の傷があったという。腹部の傷口周辺にはコーヒーのような粉がまかれており、府警は成分を鑑定している。

 男性は上半身にカッターシャツのみを身に着け、浴室の洗い場であぐらをかくような姿勢で倒れていたという。また、室内には家具はなく、段ボールやごみなどが散乱していた。玄関や窓は施錠されていたが、鍵は見つかっていないという。また関係者によると、この部屋は電気やガス、水道が止められていたという。

 直接の借り主とみられる男性は、府警に「他人に貸していた」などと説明しており、この男性からも部屋の住人や出入りする人物について事情を聴く。

浴室で、傷口にコーヒーの粉が付着した遺体が発見されたというのだから、古典ミステリファンであればジェプスン&ユーステスの『茶の葉』を思い浮かべるのは当然のことだと思うです。

世界短編傑作集 3 (創元推理文庫 100-3)

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エドガー・ジェプスンとロバート・ユーステスの合作による1925年の短編『茶の葉』は、サウナ風呂で刺殺体が見つかり、凶器がどこにも見つからないという一種の密室トリックを扱った名作で、多くのアンソロジーに収録されています。傷口に付着していた茶の葉の破片が手がかりとなって、意外な凶器と真相が明らかになるのは有名ですね。


原文はこちらで読めます。


http://gaslight.mtroyal.ca/tealeaf.htm


お風呂は裸で入る場所なので凶器を持ち込めない、というシチュエーションは時代劇などによく登場しますね。『シグルイ』にもありましたし、『必殺仕置人』でも、第11話「流刑のかげに仕掛あり」で、強敵である岡っ引きの今井健二風呂屋におびき出し、念仏の鉄と棺桶の錠が二人がかりで仕留めるという話がありました。でもこのときも今井健二は得物である分銅つき十手を手放さないので、二対一でも大苦戦するんですけどね。

必殺仕置人 VOL.4 [DVD]

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漫画『花の慶次』およびその原作『一夢庵風流記』には、前田慶次が、サウナに集う色とりどりの褌を締めた傾き者たちに腹を立て、彼らをからかうために脇差に見せかけた竹光を持ち込むというエピソードがありました。
一夢庵風流記 (集英社文庫)

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これは慶次の著書である『前田慶次道中日記』にもあるエピソードで、いちおう史実とされていますが、ユーステス&ジェプスンも、もしかしてこのお話から『茶の葉』の着想を得たのでは…ということはありえないでしょうね。