日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』感想(2015.11.21ソワレ)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 アルフレート=良知真次 サラ=神田沙也加 アブロンシウス教授=石川禅 ヘルベルト=上口耕平 シャガール=コング桑田 レベッカ阿知波悟美 マグダ=ソニン クコール=駒田一 ヴァンパイア・ダンサー=森山開次

今季3回目のTdVを観劇してきました。感想を一言でまとめると、
「これだから山口ファンは辞められない」
です。身も蓋もなくてすみません。

当日の座席は1階センターブロック下手通路寄り、つまり伯爵の入場通路側の場所でした。何度TdVを観ても、伯爵がしずしずと横を通り過ぎる際には「デカい!」と心の中で叫んでしまうのが困りものです。
その伯爵について、1幕は声に微かな疲れが出ている?と感じました。ただ、「神は死んだ」は少し声に軋みやかすれがある方が艶めかしく聴こえますし、また、1幕ラストのロングトーンでも朗々と声を響かせていましたので、もしかしたらあの声の変化は意図的な崩しなのかも知れません。

伯爵も流石に帝劇公演中日を過ぎてお疲れだろうか?と想像しましたがさにあらず、2幕において良い意味で裏切られました。
この夜の白眉は何と言っても「抑えがたき欲望」です。ヴァンパイアの生の営みに象徴される、繰り返される人類の飽くなき欲望と殺戮の歴史への深い哀しみと、それでも欲望の真っ只中で生き永らえることを止められない者の一員としての虚無とが、歌声は切なく静かなのに激流のように客席に流れ込んできて、尋常でなく心が震えました。まさに魂の一撃を浴びせられた感じです。歌が終わった後も客席は軽くショーストップ状態になっていました。私は舞踏会に場面が変わってもしばらく心が圧倒され、動悸が止まりませんでした。

その後の舞踏会では、欲望にしか生きられないなら徹底的に溺れてやると言わんばかりの手下どもへのシュプレヒコールを叫ぶ伯爵の歌声や、サラを喰らった後の雄叫び、そして人間どもを追い詰める時の人ならぬ者としての表情にも、何とも言えない狂気が漂っていると感じました。こちらはただ「祐一郎、恐ろしい子!」な心境で見守るばかりです。
しかもダメ押しで伯爵、カーテンコールのお出ましで2回転ターンというアクションなどを披露したものですから、最早客席が驚嘆と賞賛の坩堝に突入するのは誰にも止められませんでした。ターンを止めるときに若干足元が怪しかったですが、そういうのは気にしないことにします。
なお、この後から聞いた話によれば、伯爵のカーテンコールでのターンは他の日にも何度かトライされたようで、見事成功を収めた日もあったそうです。山口さんが密かに練習を重ねるお姿を想像すると、ファンとしては心をほっこりさせずにはいられません(^_^)。

以下は伯爵以外について見聞きした所や思った所ををつらつらと記してまいります。
禅教授。お城で伯爵と対面し名刺を渡す場面で、手をプルプル震わせなかなか伯爵に名刺を渡さない暴挙に出て、ついにしびれを切らした伯爵に腕を掴まれ、無理やり名刺を奪い取られていました。
気のせいか、良知アルフとの擬似親子的な情愛が増したように思います。アルフがヘルベルトに襲われた後にさり気なく、咬まれていないか首元をチェックしていたのが個人的にはツボでした。

良知アルフ。前回見た時に「面白いけど、少し走り過ぎかも?」と思った演技がだいぶ整理されて、お調子者と熱血漢、両方の性格のバランスが取れている印象を受けました。サラとのデュエットよりもソロの「サラへ」の方が良知くんの声の美質が生きているように思います。
沙也加サラは、2幕プロローグ〜愛のデュエットで声が平べったく聞こえる箇所があるのが惜しいです。それでも昔よりだいぶ音域が広くなったようですし、サラのこまっしゃくれた可愛らしさには本当にぴったりはまっていました。

クコール。クコール劇場はエリザの「ママ何処なの?」ネタでした。「かあさんからの手紙」にかの歌の歌詞を「勇気試すのでも猫は殺しちゃダメよ。狼はいいけど」などと巧みに織り込んで笑わせてくれる趣向でしたが、最後に「そのC列の辺りに……」と言っていたので、恐らく中の人のリアルお母様がいらしていたものと思われます。

阿知波さん。吸血された夫の寝台によじ登ろうとする出雲レベッカも本当に可愛らしかったのですが、阿知波レベッカに漂う、目と目だけで夫と分かり合える古女房感も大好きです。本来ヴァンパイアになるのはとても恐ろしい結末の筈なのに、阿知波レベッカに関しては、ああ、最後にシャガールと同じヴァンパイアになれて良かったね、とついホッとしてしまうのでした。

開次伯爵。優雅でしなやかな新上伯爵よりも若干身体が固いように見える所もありますが、あの疾走感と異形な雰囲気はやはりただ事ではありません。闇から風のように現れ、風の如く闇に消えてゆく存在であり、そしてダンス伯爵として、歌伯爵の冷え冷えとした孤独を肉体により代弁する存在でもあります。
そのダンス伯爵をサポートするだけでなく、時にクロロック城の番人、時に狼の群れとして活躍するヴァンパイア・ダンサーズですが、残念なことに今回は男性ダンサーが1人休演されていました。ほとんどの場面では巧みなフォーメーションで不在が目立たないようになっていますが、クライマックスの狼の群れが3頭しかいないのはどうしようもないのでしょうね。きっとご負傷だとは思いますが、1日も早い復帰を願っております。

以下は、「もしかして?」と妄想したことです。
上口ヘルベルトが1幕でまとっている赤と黒のコートですが、マイケル・ジャクソンが「スリラー」のPVで身につけている赤と黒の衣裳のイメージで作られたものではないでしょうか?もちろん素材やデザインは全く異なりますが、色が赤と黒であり、上口くんはマイケルのダンスをマスターしているそうなので、あながちあり得ない話でもない、と思っています。

早くもTdVの帝劇千穐楽まで残す所あと1週間となりました。千穐楽のチケットはありがたい友人のお蔭で無事確保できているものの、月末の平日と言う、労働者に取って微妙な日程です。しかし今回のように素晴らしい公演回を観てしまった以上、楽日は何としても見届けねば気持ちが治まるまい、と改めて心に誓っております。