ブログ引越しのお知らせ


突然ですが、Bloggerにお引越しすることにしました。
はてなさんの入力インターフェースや、記事幅を手狭に感じることが最近多くて・・・
こちらにこれからは描いていきます↓


http://masahideysd.blogspot.com/


今まで読んでいただいた方は、ここで脱落することなく、
是非是非、新しいブログのほうも愛読いただけたらこの上なく嬉しいです。
ちなみにどうやらはてなBloggerには過去記事ごとエクスポートできるようなので、
後日、トライしてみようと思います。


宜しくお願い致します。


2011.05.20 吉田 将英

【演じる】ことの持つ狂気性 〜ブラックスワン観ました〜




 今年前半の最大の話題作ともいえる「ブラック・スワン」。気になって気になってしょうがなかったので、仕事終わりのレイトショーで観てきました。ひとりで。

 

※なるべく直接的なネタバレは避けますが、それでも嫌だという人は読まずにパスしてください。




※そもそも、【白鳥の湖】のあらすじ、知ってますか??

白鳥の湖は、「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」と並ぶ世界三大バレエのひとつとされる有名古典演目のひとつ。ロシアで創られた作品で、作曲は、彼にとって最初のバレエ音楽だったチャイコフスキー。悪魔の呪いによって白鳥に姿を変えられてしまったオデットは、呪いを解く唯一の方法である真実の愛を、人間の王子に求める。月明かりの夜のみ人間の姿に戻れるオデットと王子は次第に惹かれあうものの、悪魔の化身である黒鳥・オディールが王子を激しく誘惑し、王子は花嫁にオディールを選んでしまう。絶望したオデットと、悪魔にだまされたことに気づく王子だったが、悪魔を討ち取っても尚その呪いが解けることはなく、失意の果てに二人は自ら命を絶つことによって永遠の自由を得て、来世で結ばれる・・・



〜〜〜


 純真無垢で臆病なオデットと、欲望と憎悪の化身のオディール。古くから両方の役をプリマドンナが一人で演じることが多く、正反対の性格の二役を演じ分けなくてはいけないという、精神的にも技巧的にもとても難易度が高い役柄として有名です。


 【ブラックスワン】の主人公ニナはNYのバレエ・カンパニーに所属する若きバレリーナ。元バレリーナの母親エリカから夢を託され、過保護に大切に育てられてきた。元来生真面目でプレッシャーに弱く、追い詰められると自傷癖が出てしまうニナは、次期講演「白鳥の湖」のプリマに抜擢されたことにより、それまで以上のプレッシャーに苛まれることになります。清廉な彼女はオデットは完璧に踊るものの、悪の化身オディールの表現に苦しみます。母親やライバルとの確執の中、役作りを通じて徐々に自分の持つ野心・劣情・憎悪・嫉妬・焦燥といった負の感情を暴走させていくニナ。精神が徐々に崩壊していき虚実の境目が無くなっていく中、講演初日を向かえて・・・ っていうあらすじ。



 【役者】であること、【演じる】ことは、その時間だけ表面的に「その人物っぽく」立ち振る舞えばいいということではなく、高みを目指せば目指すほど、”自分ではない誰かの人生を、自分自身の人生に内在させる”域に近づいていく。自分ではない人生をそのとき完全に生きることは、そのとき自分ではなくなること。何人もの人生を背負い表すこと。それがいかに本人のメンタルを追い込むものなのか。自らの中から黒鳥オディールを引き出そうとするあまり、”本来の自分”である白鳥オデットを”殺して”しまうニナをみて、そしてニナを演じるナタリー・ポートマンをみて思います。演じることとは、自分を失わせることである一方、ある種それをも自分であると認め自らの中から引き出すことでもあると。極度のプレッシャーと野心に苛まれながら役柄を追求したあまり、ニナにとって黒鳥オディールは、紛れも無く”本来の自分”となって自らを染めきってしまいます。白鳥の呪いから逃れることが出来ず絶望するオデットと、黒鳥からもはや戻れなくなってしまったニナ。身も心も黒鳥に染まりきってしまった狂気のパ・ド・ドゥと、白鳥に戻り身を投げ全てから解放される終幕。役と自分を完全にシンクロさせ、そこから自由になる唯一の方法を、虚実織り交じった中でニナは選択してしまい、映画は終わります。





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 「LEON」のマチルダ役で映画デビューしたナタリー・ポートマン。そのときたった13歳であの役をやってのけたナタリーは、本人自身、ずっと優等生キャラでラブシーンはご法度な女優さん。優等生であるがゆえに自分の負の感情とも必要以上に向き合ってしまい精神が壊れていくニナの役を自分の中の内在させてあそこまでの演技に昇華させられるのは、優等生で艶や面白みに欠けるという批判を受けることも少なくなかったナタリーが、自分の中から目覚めていない別の人格を苦しみながら引き出して「演じて」きた過程とシンクロするからこそなのではないかなと思います。


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 メソッド演技法という、演技のひとつの手法・考え方があります。ある役柄の特徴を表面的・箇条書的に押さえることによって振る舞いをその役柄っぽく仕立て上げる形式的・表現主義的な手法と異なり、演技をする過程において担当する役柄について徹底的なリサーチを行い、劇中で役柄に生じる感情や状況については、自身の経験や役柄がおかれた状況を擬似的に追体験する事によって、演技プランを練っていくのがメソッド演技法です。


 映画『波止場』で兄から銃を突きつけられ、なだめようとするマーロン・ブランドや、『エデンの東』で父親に泣きつくジェームズ・ディーンの演技がメソッド演技法として有名で、ポール・ニューマンダスティン・ホフマンロバート・デニーロらもメソッド演技法の系譜を次いでいる俳優といえます。ただし、メソッド演技法に対する最大の批判として、役作りのために自己の内面を掘り下げるため、役者自身に精神的な負担をかける点があります。アルコール中毒や薬物依存などのトラブルを抱えるケースも少なくなく、マリリン・モンローモンゴメリー・クリフトは役作りに専念しすぎるあまり、自身のトラウマを掘り出したがため、情緒不安定となり、以後の役者人生に深刻な影響を及ぼしたと指摘されています。


 「ブラックスワン」におけるニナは、振り付け師であるトマスに、結果としてメソッド演技法を強要され、元来脆かった精神を、生真面目に破壊してしまったとも言えるのではないかなと。ナタリー・ポートマン本人がメソッド演技法を意識的に実践しているかどうかはさておき、「演じること」の狂気を、黒板を爪で引っかいたような生々しく痛々しいニナというキャラクターで存分に繰り広げてくれた1本でした。音がとっても重要な演出をしていますので、是非是非、音響のいい劇場で見るべし。ただし、この映画そのものが、見る人にとって大きなトラウマになる恐れがある、それくらいの衝撃作だと個人的には思うので、心して。



茶道体験 〜おもてなしの真髄に微タッチ〜



 書こう書こうと思っていて大分時間が経ってしまったネタのエントリー。GW最終日の日曜日に茶道の体験をしてきました。かねてからうちが茶道に興味があるとのたまっていたのを会社の先輩が拾ってくれて、ずっと習っている先生の下に招いていただいてしまいました。人生初の茶道体験。


 場所は上野寛永寺の子院にあたる泉龍院。足元の苔までよく手入れされた静かなお庭に通されて、風炉開きの茶事を体験してきました。


 風炉開きの茶事・・・お湯を沸かすために床で火を起こすのが茶事では必須なのですが、冬と夏で火の起こし方が異なります。冬は、半分の畳を開けたところにある「炉」に火をくべてそこでお湯を沸かす(半畳が炉になっていることを「炉が切ってある」とも言います)のに対して、夏は「風炉」という、ポータブルな鉄の囲炉裏のようなものでお湯を沸かします。おそらく部屋を温める必要性があるか否かで季節によって切り替えているのだと思いますが。風炉開きの茶事とは、冬から夏へ、炉から風炉へ切り替わるときの時節の茶事というわけです。


 お庭から亭主に招かれるところから、掛物・炭手前・香合の拝見、懐石、中立ちを挟んで、濃茶・薄茶と、10時から15時まで正午の茶事を一通り贅沢に体験させていただきました。静けさに満たされた床で一つ一つ丁寧に進んでいくお手前の音、お道具や掛物、お花の美しさや、懐石・主菓子の美味しさ、濃茶・薄茶の味わい深さなど、自分自身が目や耳、舌や手で体感することひとつひとつが初めての体験で心地よく(正座は正直しんどかった・・・)、時間があっという間に流れてしまったことが、なんだかとても不思議でした。

 
 が、何よりもその場が成り立つに至るまでに、ご亭主である裏千家・青沼宗明先生がいかに心を尽くしてくださったかが、「おもてなし」の何たるかを考えるとても良質な気づきをもたらしてくれたように思います。掛物の語句【光明】や主菓子のモチーフ【若鮎】など、今回のお茶席のコンセプトは、『時世を明るく照らし、こんな時代だからこそ若人に飛躍してほしい』という先生の願いが込められているわけです。相手に心地よく充実した時間を過ごしてもらうべく慮る一方で、ご自身がお客様や世に望むことをそこに喧嘩させることなく忍ばせる。


 茶道は、それ自体が『インスタレーション』であり、ものではなく動きが作品となる『パフォーミングアート』だと、体験する前まではオボロゲに思っていた自分ですが、それ以上にもっともっとそこには感情の交換があるというか、亭主のお点前の所作と、その裏側にあるお心遣いに、気持ちいい方へ連れて行かれたような、上手く言葉に昇華できない温かい気持ちがあって。「もてなされる喜び」とはこういうことかと、身体で触れることができました。


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 千宗屋著 【茶 -利休と今をつなぐ-】の中で著者と対談している内田樹氏が言っていた言葉ですが、

 
 「ものすごくキレイにカラダを使っている人をそばで見ていると、その体感に同期して、気持ちよくなるんです。自分の中の体感密度も一緒に高まって、カラダの内側で何かイベントが起こる。 〜中略〜 場を主催する力というか、私の身体のテンションの変化に合わせなさい、体温の変化、呼吸の変化、細胞の動きの全てに反応しなさい、というものすごい”指南力”が来たんです。体感の指南力の凄まじく強い人に網をかけられ、ひっぱられていかれるのって、とても気持ちいいものなんです。」 


 この内容が、少し分かった気がします。美しい所作を見ていると、理屈ではない体の反応が内側で起こって、気持ちがよくなる。そして自分の立ち居振る舞いにもそれが伝播する。そうやって主客一体となって茶事というひとつのインスタレーションを共に創っていくことが、お茶の真ん中の価値なんではないかと、生意気にも少し思ったのです。


 普段広告を作る身として、消費者やユーザーの気持ちをどこまで慮れるか、日頃から大変な気を配ってきたつもりでしたが、今回、【自分の意思も込めてこそおもてなし】【そこから初めて、主客一体の無二の場が立ち上がる】ということを体験できたことは、目からうろこでした。自分をこめる。おそらく、「素直であること」に尽きると思うんですけど、どんな状況でも自分の中の素直さに正直でいることは実はとても難しいんでしょうねえ。これからの大きな課題です。


 一切の面倒くさいことを茶席の外に置いてきてその場を存分に楽しみ、心を静かに出来た、とても贅沢な昼下がりでございました。茶道オススメ。自分は是非、また体験したいと思います。



茶―利休と今をつなぐ (新潮新書)

茶―利休と今をつなぐ (新潮新書)

念願の鳥重に行って来た!


 食べログ評価4.23でTOP100入り。予約が数ヶ月取れないのは当たり前。一見さんはお断りなどなど。数々の伝説的なエピソードでかねてから行ってみたかったものの、行く足がかりが無かった渋谷のんべえ横丁の【鳥重】さんに連れてってもらいました!何たる棚ぼた・・・





 10人入ればもうギュウギュウ詰めになる狭い店内を、「おかあさん」が一人で切り盛りしてます。完全予約制で(というか人気がありすぎて必然的にそうなっている)で、しかも時間交代制。第一部【18:00〜19:30】 第二部【19:30〜21:30】 第三部【21:30〜】で決まっていて、それ以外の時間には都合してもらえないシステム。





 テーブルの下には常連のお客さんが作ったこんなものも忍ばせてあり、いろいろな”マナー”が書いてある。注文の段取りやお酒を頼むべきタイミング、適切な注文量や〆方、そして何よりも「おかあさん」とのコミュニケーションのコツが書いてあります。といっても、大人として失礼のない最低限の礼儀が守れてれば問題ないんですけどね。ただ普通のレストランか何かだと思って客だからといって横柄に振舞うとあまり得策じゃないかも。。。 でも何よりも緊張するのは注文かな。メニューないですし、しかも焼き物は最初の一発のターンで全部注文しないと追加はなし。周りの常連たちが軽快に、半ば呪文のようにオーダーしていくのが自分たちに徐々に回ってくるのは、なんともいえない緊張感があります笑


 そして、焼き始めていよいよスタート!




 まずはうずらおろし。醤油とゆず胡椒を混ぜて、焼き鳥の付け合せに。ジミにしっかりおいしい。





 1本目。レバー。写真じゃ分かりにくいですが、極太です。いきなり極旨





 2本目。心臓(ハツ)。これが一番、驚いたかも。今までのとは全然違うやわらかさとジューシー加減。





 鳥刺。モモとレバー。これも吃驚した。モモはしょうが醤油で、レバーはごま油でぺろり。美味なり。





 ささみ。中心が半生な焼き加減が絶妙に美味ナリ。ささみってこんなにジューシーなんやっていう、これも驚き。




 あとつくねと、鳥スープが出てしゅーりょでした(興奮しすぎて写真撮るの忘れたw)。たらふくでもう入らないっていうくらい。何しろ1本が太くてでかいので、いろいろな種類食べたいなら3人以上でトライするのが賢いかも知れないです。そんでしめて、なんと一人2000円切り!なんで?どうして?おかあさん大丈夫??なお値段です。ビールも飲んだし、結構食ったのに、ここが一番の吃驚かも知れない。


 食事中、終始「おかあさん」と雑談をしながら会は進んでいくんですけど、近々から営業時間を短くするようです。何でも膝を痛めてらっしゃるようで。確かに6時間以上ぶっ続けであの狭くて熱い空間で一人で切り盛りは大変そう。でも「いくら詰まれてもこの土地は売らん!」とも。なんか元気そうなのでまだまだ全然大丈夫でしょう。


 帰り際に「次はいつなら予約できますか・・・?」と恐る恐る訪ねたところ、10月!!だそうです。なんということだ・・・ でもおそらく、このお店はお客さんの中にもランク付けがなされているようで、常連認定を受けたらもっと優先的に予約が取れるのかも知れないです。一回目の人からはオーダーを受けてくれないメニューもあるみたいだし・・・ 


 ルールが多くて、正直なかなかストレスな名店ではあると思うけど、それでもあの味と値段は脅威的。一応、これでうちも一見さんではなくなったわけなので、理屈としては予約できるはずなので、また半年後くらいにトライしてみようと思います。いやー美味かった!



お探しの店舗のページはありませんでした


【文・写真 吉田 将英】

自分の一番、好きな服屋さん 【オーダースーツ 代官山TAGARU】




 今回は、個人的にとても懇意にしてもらっている代官山のオーダースーツのお店【TAGARU】のご紹介をエントリーいたします。僕自身、はじめはお客さんとしてフラリと立ち寄ったのですが、仕立てていただいたスーツに感動し、ご縁もあって現在は広告・PRアドバイザーとして宣伝のお手伝いをしています。


 今回はお店や商品についてのご紹介だけでなく、店主であり個人的な友人である山本健氏のインタビューを通じて、TAGARUでのオーダー体験の魅力を少しでもお伝えできたらと思います。(本当に腕のいい、親身になってくれるデザイナーさんです!)


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 代官山駅から歩いて3分、路地を奥に入ったところにあるショッピングモール【sarugaku】。ギリシャのミコノス島をイメージした白壁の空間の2Fにひっそりと隠れ家のようにTAGARUはあります。




 店内は決して広くは無いものの、静かで落ち着いた心地よい雰囲気で、ついつい長居してしまう独特の空間です。入り口が階段を上った2Fという、若干入りづらい店構えであるが故に、一度入るとまた来たくなってしまう様な、個人的にはとても好きな空間です。商品は、オーダースーツ・オーダーシャツ・オーダーポロシャツがオーダー商品で、メンズ・レディース両方ともオーダー受けています。特に女性モノでお求め安く作れるのはあまり無いと思うので、とてもいいんじゃないでしょうか(実は元々、レディースのデザインをメインにやってた方なので、女性モノはとても上手いわけです)。他にはレディメイドのネクタイ、シャツ、パンツ、ジーンズなども一部あり。でもやはり、目玉はオーダーメイドだと思います。






 そして彼が店主でありデザイナーの山本健氏。柔和でお茶目なお優しい方です。とても几帳面で真面目な人柄で、出来上がりがお客様のイメージ通りにならない恐れも十分にあるオーダースーツという商品特性ながら、安心して任せられる、そんな方です。TAGARUの魅力や今後の展望、将来の夢について伺いました。


 
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【学生時代 〜ファッションデザイナーとしての原体験〜】



 『小さい頃から、いわゆるサラリーマンにはならないだろうと思っていました』



 父親は大阪でオートクチュールのデザイナー、母親はフラワーデザイナーとデザイナー一家に生まれた山本さん。ご自身も小さい頃から手を動かしたりものづくりをしたりするのが大好きで、父の背を見て、追うように大阪文化服装学院に進学します。


 ご自身いわく、授業の成績は悪かったものの、在学中に仕立てた作品の数は他の学生の群を抜いていたという山本さんは、在学中に同級生と二人で【ナルシス】というブランドを立ち上げ、一時はTシャツ1枚に5〜6万円の値がつくほど人気を博します。



 『デザインはもちろん、モデルスカウトからショー企画まで全て自分たちでやりました。何日も何日も学校に寝泊りする日々。一からブランドを作る喜びを濃く味わえた、僕のデザイナー人生の原体験です』



 学校卒業と共に次へのステップアップを目指し、【ナルシス】は解散。相方がアパレルブランドに就職していくのをよそに、山本さんは就職しない道を選びます。通常、ファッションデザイナーのキャリアステップは、学校などで基礎の勉強をした後に既存のブランドに就職し、実力や人脈、箔などを着けながらステップアップしていき、機が熟したところで独立し自らのブランドを持つというのが一般的です。なぜ山本さんは就職しなかったのか。



 『学生時代に味わった、“全て自分たちでブランドを作っていく喜び”に取り付かれてしまったんです。もう一度、自分のブランドを一から起こしたい。父親も同じように、どこにも属さず一人で身を立ててきた人間で、最も身近で参考にしてきた人間がそうだったことも大きかったです』



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フリーランス時代 〜苦労と経験の10年〜】


 卒業後、数年間は父親の元で手伝いとして働き、24歳の時に上京。芸能プロダクション勤務の兄のツテで新人タレントやアーティストの衣装デザインを手がけるものの、当時はちょうど、芸能業界にスタイリスト文化が盛り上がり始めた頃。田原俊彦松田聖子、光GENJIのように番組出演の度にその都度、衣装をゼロから仕立てていた時代は終焉を向かえ、既存ブランドの服をスタイリストの手によっていかに編集するかが、ファッション誌での特集記事なども含めた一大商業圏を作り始めていた頃です。オーダーメイドで生計を立てていた山本さんも芸能界の時代の波に逆らうことは出来ず、ほどなくして一般のお客様向けの商業スタイルに変更していきます。


 お客様間の口コミだけを頼りに礼服や個人商店の制服、パーティー衣装などを受注する傍ら、それだけでは生計を立てることが難しくカフェや食器店でのアルバイトも並行して行う日々が約10年続きます。その間、何度か自分のブランド設立の計画が持ち上がり実際に始動したこともあったそうなのですが、どれも上手く軌道に乗りませんでした。とりわけ20代後半に知り合いのパターンナーと組んでブランドを立ち上げた経験は山本さんに大きな教訓と決意をもたらすことになったそうです。



 『実際にモノを作って着々と準備していたが、二人ともモノ作りの考えしか持てていなかったんです。モノはどんどん作るものの、それを世の中にどう出していくか、考えがない。結局、日の目を見ることなくブランドは自然消滅。かなり大きな挫折感を味わいました。』



 ただ単にいいものをデザインしていくだけではビジネスとして立ち行かない。それはつまり、丹精込めて書き上げたデザインが世に出ず、人々に伝わらないまま消えてしまうことを意味します。挫折から大きな学びを得た山本さんはファッションデザイナーという枠にとらわれず、精力的に様々な経験をしていきます。アルバイト先の食器ブランドの社長の勧めで、ウェブサイト、ブランドロゴ、食器の図面などなど、持ち前のデザインセンスを活かしファッション以外のフィールドでいろいろな力を培っていきます。「このままこの食器ブランドの一員として働いていくのかも」そう思った矢先、転機が訪れます。


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【TAGARU設立へ】


 30歳前半に差し掛かった頃には、その食器ブランドの社長から、「私の思ったとおりにデザインを仕上げられるのはあなただけだ」と言っていただくほどになり、デザイナーとしての自信を少しずつ抱けるようになっていた山本さん。ちょうどその頃、今まであまりやってこなかったスーツの仕立ての仕事を請けることが増え、お客様からもとても好評をいただけていました。それと同時に、スーツの仕立ての仕事を通じて神田の老舗服問屋の方々と知り合う機会に恵まれていた山本さんは、高齢化が進み衰退しつつある紳士服業界の実態を目の当たりにしていました。



 『ほとんどの方が60歳前後の大ベテランばかりで若い人はほとんどいませんでした。社会的にもビジネスシーンにおける服装はどんどん自由になっていく一方で、神田のベテラン紳士服仕立ての方々と世のビジネスシーンに大きな乖離を感じたんです。』



 「まだ若く、スーツの経験が浅い自分だからこそ、新しい風を吹かすことが出来るかもしれない」 普通の感覚ならば、ともすれば斜陽業態として忌避するであろうオーダースーツの世界に、半ばひらめきのような直感をそのとき感じたと山本さんは言います。逆風だからこそ、そこにチャンスややりがいを見出し飛び込んでいくのは、既存のアパレルブランドに就職せず一人でデザインをやってきた山本さんらしい判断だったと言えるかも知れません。
周囲の大反対を受けながらも、食器店の社長や懇意になった神田の生地店、そして結婚して間もなかった奥様の後押しに勇気付けられ、2009年にブランド設立を決意。準備に奔走し始めます。



 『それまでの人生で一番怖かったです。学生時代のブランドも、20代のときの挫折も、だれかいつも一緒にやってくれる賛同者や協力者がいて、あれよあれよと前に進んでいく感じだったので。誰に聞いても“上手くいくわけがない”と言われた今回は本当に心細かった。奥さんの“このままでもダメなんだから、いいからやってみれば?”という言葉は大きかったです。』



 事業計画、収支目標の立案から不動産選定、ブランドロゴやタグライン、ウェブのデザインまでほとんど全て一人でこなしていった準備期間。学生時代のゼロからのブランド立ち上げ経験や、アルバイト時代の幅広いデザイン経験をフルに活かし、自分の思いを濃く投影したブランドの形を徐々に形作って行き、2010年6月13日、オーダースーツブランド【TAGARU】を代官山猿楽町にオープンしました。


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【TAGARUにこめる思い】


 【TAGARU】というブランドネームは、「〜〜したがる」という、人の持つポジティブな衝動や向上心に由来しています。たとえばフランス語で響きだけはカッコよくても意味が伝わりにくい名前にするのではなく、あくまでも日本語由来の言葉にこだわったと山本さん。そしてこのブランドネームは、服飾デザイナーとして山本さんが最も大切にしてきた価値観の象徴でもあります。



 『服は身体の外側にありますが、ある意味で最もその人の内面が出るものだと常々思っています。“自分はこうありたい”“こんな自分でいたい”という、前向きでポジティブな向上心や自己実現の欲求は服にこそ強く投影される。良い服、その人のお気に入りの服であればあるほど、その人自身のポジティブな願望や欲求などといった、内面を引き立たせるものであると思います。そんな服をゼロから作るオーダーメイドのデザインは、その人の内面をどれだけ分かってあげられるかが、最も重要だと私は思います。』



 そんな山本さんが一番大切にする工程が、【お客様との対話】だそうです。その人のファッションの好みはもちろん、性格、趣味、仕事、年齢などなど。あらゆることを対話と観察から慮り、一着のスーツに落とし込んでいきます。




布地やシャツ型の見本表。無限通りの組み合わせの中からお客様一人一人に最適のチョイスを、丁寧な対話を通じて探り出します。



 『中にはオーダーメイドに慣れていらっしゃって、ご自分で全て指定されるお客様もいますが、大半のお客様は“何となくの好みは分かっているが、どうすればそのイメージが形になるか分からない”方。そんな方の“なんとなく”を、じっくりと対話していく中で少しずつ理解し、こちらから提案していく。オーダーメイドはお客様とデザイナーが共に作っていくもので、そこに醍醐味を感じています』


 何よりも対話、何よりもコミュニケーションを大事にしている山本さん。そのスタイルは、既存ブランドに就職せずに、目の前のお客様の要望に一人で全力で応え続けてきた山本さんだからこそ可能なスタイルなのかも知れません。プレタポルテ(既製品。オーダーメイドの反対語)の既存ブランドに就職していては出来ないような、ある種“遠回り”なデザイナー人生を歩んできた山本さんならではのオーダーメイドの真髄を感じました。





 山本さんが最も大切にする【対話】の現場がこの机。じっくりと相談しながら、世界にたった一つだけの自分のためだけの一着を山本さんと一緒に作っていきます。TAGARUの心臓部とも言える、お客様との一着一着の思い出が集積していく素敵な場所です。


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【今後の夢・目標】


 今後の展望として、短期の目標としては「従業員を1人でもいいから雇いたい」という山本さん。従業員の増員や店舗の拡大をすることによって、よりいろいろな地域のいろいろな方々にオーダーメイドの心地よさを体感してほしい、これまでのオーダーメイドスーツに対する人々の、「古臭い」「おやじくさい」「高そう」「難しそう」といった敷居を下げて行きたいと語ってくれました。若い自分にこそ、オーダースーツの業界を変えることが出来る。ブランド設立時のひらめきを実現することが当面の山本さんも目標になりそうです。



 『ゆくゆくは、プレタポルテのラインも拡大していきたいんです。靴やバッグ、ネクタイなどなど。オーダーメイドだけで全身のアイテムをカバーするには限界があります。自分のブランドで全身のトータルコーディネートが提案できるようになれば、本当の意味でのその人の内面を存分に引き出せると思います。そこまでいければ嬉しいですね』


 プレタポルテのブランドを創るといっても、安価で大量生産のブランドで儲けたいという発想ではなく、トータルコーデを実現したいことこそ山本さんの本当の目的。



 『お客様の顔を見るのが大好きなんです。一緒にひとつのスーツを作っていく過程でお客様の顔が徐々に、「自分の欲しかった形はこれだ!」ってなっていくのを間近で見れるのが本当に好きで。それがやっぱり、僕にとってのオーダーメイドの醍醐味ですね。



 あくまでも【対話による内面の表現】を追及し続ける山本さんとTAGARUの今後に注目です。


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 インタビューしていて感じたことは、ファッションデザイナーとして山本さんは【異端児】であり、【異端児】にしか切り開けない新しい世界は必ず存在しているのだなあということです。既存のブランドに就職せず、長く孤独な下積み時代を経て、自分にしかできないオーダーメイドのスタイルを確立した山本さん。実際にTAGARUに行って注文してみると分かると思いますが、決しておしゃべり上手ではない山本さんの純朴でゆっくりとした、しかしながらオーダーメイドに対するこだわりや情熱がところどころ垣間見えるその【対話】の背景には、数多くの苦労や挫折があったのだと今回初めて知りました。


 本当に丁寧に、自分のイメージする一着を対話によってつむいでいく山本さんは、まるで抽象的なオーダーから望みどおりの髪型に仕上げてくれる腕のいい美容師といったらいいでしょうか。「相手が自分でも言語化できないような、深層心理にまで心を慮りコミュニケーションしていく」ことが広告マーケターの真髄だと日頃自分に言い聞かせている私ですが、【対話する】ということについて人生の先輩から大きな学びを得たような、充実感あふれるインタビューでした。


 是非一度、代官山にお立ち寄りの際はフラっと寄ってみてください。人懐っこい笑顔で山本さんが出迎えてくれると思います。



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 TAGARUのこの夏のイチオシはオーダーポロシャツ。節電の影響で酷暑が予想されるこの夏、身体のサイズにあった涼しげなポロシャツはビジネスシーンでも活躍すること間違いなしでしょう。私も今度つくりに行きます。




また、セール情報や代官山情報をツイートするtwitterアカウントも絶賛フォロワー拡大中です。私もアドバイザーとして運営に携わっていますので、良かったらフォローしてみてください。@TAGARU_sarugaku です。


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TAGARU 〜Personal Order & Lively Motion〜
〒150-0033東京都渋谷区猿楽町26-2sarugaku-e棟2F
TEL: 03-5428-6020
FAX: 03-5428-6070
営業時間:11時〜20時 
定休日:水曜日(祝祭日は営業)
代表 山本健


オフィシャルサイト:http://www.tagaru.jp/
twitter : http://twitter.com/#!/TAGARU_sarugaku
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DAIKANYAMA market street [sarugaku] : http://www.sarugaku.ne.jp/


【文 • 吉田将英】

【イベント告知】5/29 <to U> @渋谷Guilty


 久々にライブやります。何気に今年初。本当は3月の予定だったイベントですが、地震の諸々で延期になり、5月末の開催と相成りました。以下詳細↓↓↓

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

to U
5/29(日)
open16:30 / start17:00
渋谷Guilty (MAP詳細はコチラ → http://www.guilty.ne.jp/access.html
チケット:1500yen(学生500yen)+ドリンク


 自分たちのバンドはトリの出演予定で、20:30頃から出演します。MISIA絢香Bank Bandなど、デュエットの名曲をずらずらとカバーしていくバンドになる(予定w)
 
vo.森下礼奈
vo.山賀祐
key.吉田将英
key.山田真維
gt.中石達
bs.甲原潤之介
ds.中村一
sax.生明尚記

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 もしよろしければ是非是非お越しくださいませ!メール、コメント、ツイッター、何でも結構ですので、ご連絡いただけたら幸いです。宜しくお願い致します!

竹の葉の擦れる音


 GWは遊び倒し、一度もPCを開かなかったという日々でした。PCなんか無くたって、人間死にはしないよね。相当不便になることは確かだけど、スマホがあれば相当のことは事足りる。せっかく休みだったから、あえてPC断ちして、もっと人間の普遍的で原始的な癒しとか体感を思い出そう、なんていう日々でした。


 鎌倉に行った日に寄った報国寺がとても素敵だったのでご紹介。



 鶴岡八幡宮から北東に歩いて10分ほどのところにある報国寺。1334年創建の由緒あるお寺で、室町時代にはこの寺で自刃した侍もいるというちょっと悲しいお寺ですが、庭の美しさは素晴らしかった。



 正門くぐると苔生した庭園。五月の頭で新緑と花で静かでみずみずしいお庭でした。木が鬱蒼としていて日が入らないような、涼しげな空気。
 




 報国寺で最も有名なのは、孟宗竹の森。ここだけ有料(200円)かかるんだけど、壮麗なので必見です。休みの日だとさすがに混雑していて静けさに身をゆだねるのは叶いませんでしたけど、それでも竹の葉が風でこすれる音に耳を澄ますあの感覚は貴重な時間でした。





 で、出たところにも庭園。岸壁が間近にせり出ているんですけど、祠なんかあったりして、確かにちょっと物騒なお寺なのかもとか後で思いました。でも、緑深く風の通り抜ける、のんびり静かないいスポット。オススメ。本当は平日の午前中に静かに行くとかが一番、気持ちいいんでしょうね。地元民うらやましい。鎌倉に住みたい笑


 という鎌倉。家でごろごろするよりも外に出たほうが確実に体力回復になります。脳ストレス解消にも、非日常体験はとてもいいらしいので。いい小旅行でございました。


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 本日の一曲:


 報国寺で竹に囲まれたときにふとよぎった曲で。この人のつむぐ旋律は何となく、自然への畏怖とか憧憬とか、そんな慎み深さを感じる。それはジブリの影響なのか、ジブリがその作風を求めて彼に行き着いたのか。まあどっちでもいいけど好き。