村上春樹氏の原稿流出問題

昨晩の報道ステーションで、
村上さんの生原稿が
元編集者の手元から流出された問題が報じられていました。
村上さん自身がその事件について書いた記事が「文藝春秋」に掲載されて
明るみになったようです。
コメンテーターとして出演されていた佐山展生氏の、
「作家本人が損することはないと思いますが」
といった主旨の最後の発言が印象に残りました。
元編集者の行為自体は当然非難されていたのですが、
それについてわざわざ問題にするのはどうか?といった皮肉にも聞こえたし、
佐山氏らしい中立の立場に立った、客観的なコメントにも思えました。


なにはともあれ、文藝春秋の記事を読む。
既に他界されている中央公論社の元編集者が、癌で亡くなる「前後」に、
他の書物とともに村上さんの原稿を古書店に売っていたらしい。
「前後」というのは、死後遺族が元編集者の指示通りに書斎のものを処分していたこと、
また生前から元編集者が原稿を売っていたらしきことが、
古書店の証言する年数から判断できることから。
どちらにしても本人が故意に流したことになる。


村上氏は、当初、元編集者のことを好意的にみていたとも書いている。
裏表のある業界の中において、正直な人だったと。
だから彼を中傷する話や、関わりをやめるよう忠告する意見を聞いても、
意に介すことはなかった。
原稿流出の噂は以前から耳にしていたけれども、取り合うこともなかったと。


この事件に関して文藝春秋に記事を掲載した意図はなんだったのだろう?
極端な表現なのだろうけど、
原稿が100万近くの価格で売れるのなら、作家は出版社に持ち込まず、
直接古書店に持って行けばいい、といったことが書かれていたのは、
感情的であまり村上さんらしくない書き方だと思った。
それは書いた本人もよく分かっていることだろうし、
あえてこの怒りを世間に曝したのはどうしてなのか、いろいろ考え込んでしまう。


思い出したのは永井荷風の「来訪者」という小説。

浮沈・来訪者 (新潮文庫)

浮沈・来訪者 (新潮文庫)


(平成6年にこの文庫本の復刻版が販売されていました)
これはある作家が出入りの文士に、
自筆原稿の贋作を売られていた事件を扱った短編です。
実際、この事件は荷風の身に起こったことで、
2人の文士もモデルが実在していたそう。
小説自体になまなましさは感じられず面白く読めたし、
読了後に実話であったことを知りました。


私が村上氏に希望するのは、この事件でダメージを受けるのではなくて、
なんらかの形で作品として昇華させていってほしいということ。
あまり醜い形で問題が広がらないよう願っています。