伊坂幸太郎 アヒルと鴨のコインロッカー

第25回吉川英治文学新人賞受賞作だそうな。本屋大賞3位、2004年末の週刊文春年末ミステリーベスト4位、このミス2005で2位と言うのもある。新進気鋭のミステリー作家というところか。

あらすじ

椎名(下の名前は語られない)は靴屋の息子で、大学に通うために一人暮らしをする事になり、引っ越してくるが、隣の部屋の住人に本屋へ辞書を強盗する計画を語られ、誘われる。

感想

ん〜巧く騙されました。余りに近視眼的なステレオタイプで固められまくった舞台配置は、予期とか予測とかそういう範囲を超えて、ただひたすらに怒りしか生まず、その怒りで満たされて周りが見えなくなっている時に、物影にするりと隠れて待ち伏せていたモノが後ろからガツンと殴った感じですな。それを認めたくなくて以下愚痴になってしまっているように見えるかもしれないが、さもありなん。そう思える以上負け惜しみと捉えられても別に構わない。ただ、正直な気持ちを綴っているのは確かだ。

これは全部意図的にやっているのかどうかこの人の本はこの本が初めてなので胡乱な事は言えないんだけど、えらいサヨク臭がする本ですわ。ガイジンとは仲良くしましょう、とか「男らしく」「女らしく」は差別だとか、受け答えに「それは差別だよ」と答えてみるとか、唯物論に走るとか。オブラートにくるんでるけど、メッセージとしては歪んでますなぁ。まぁ、仕掛けに使うという事があったので、こういうものが全てだとは思わないけれど、日教組が喜びそうなメッセージはどうかと思いますよ。ただ、宗教是認の方向性が示されてるようなので*1まだましだとは思いますが。もしかしてこういう所が春樹チルドレンと呼ばれる所以なのだろうか?だとしたらふざけた話だ。
ある種自己啓発本みたいな仕掛けが施されてるので、印象はよくないです。確かにステレオタイプでやる事*2は描く時に楽だけど、その人物の背景や来歴を軽視する行為だし、軽薄な世相を皮肉る意地の悪さを感じる。日本人的恥の概念を玩具にするあたりは寒気がする。ライトに物語を始め、ライトに物語は進み、ライトに物語は終わる。さわやか系とさえ言えるかも知れないが、そこにさわやかさとは無縁の怨念を感じるわけですよ。
ま、わたしゃ特殊でしょうがね。日本のサヨク*3の傍若無人さを知れば多少は共感を持てるかもしれないが、日本の教育に深く根ざしてしまった日教組の残した傷は果てしなく深く、修復には相当の年月がかかるだろうという事すら知らない人が大多数だろうし。
脱線したが点数は60点ってところかな。普通の人は80点以上つけるだろうけどね。

完全に余談ですが日本人は手品を見せられると騙されたと感じる人がかなりいるそうな。これはおかしいと思うんだけどね。大概の国は手品を見せられるとショーだとして楽しむけれど、日本人はどうにか「騙されない」様に「タネを暴こう」とするらしい。わたしゃ手品だとショーとして楽しめるわけですが、小説だと*4そうはいかないようですな。手品の種を暴こうとしている人と五十歩百歩。日々精進是有るのみですな。

参考リンク

アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂 幸太郎
東京創元社 (2003/11/20)ISBN:4488017002
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*1:輪廻転生はどっちかと言うと土俗的な信仰に成り下がってるような気もするけどね

*2:記号的にやる事

*3:左翼と書くと本家左翼に失礼だ

*4:ミステリーに限らず