藤原伊織 蚊トンボ白鬚の冒険

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あらすじ

倉沢達夫は配管工の助手をしている若者だ。世を拗ねる出もなく、仕事にきちんと精を出す、まじめな人物でもある。だが、その瞳は澄んでいると同時に暗い。そんな彼は不思議な体験をすることになった。頭の中に蚊トンボを飼うことになったのだ。蚊トンボは白髭*1と名乗り、自分は筋肉の専門家なのだと言った。事実、達夫が思っても居なかった事をやってのけていたことに違和感を持っていた。パチンコの玉を拳銃のように弾くなど、そんな真似は自分には出来るはずがないのだ。かつてランナーだった達夫は心臓疾患を患っており、その道を諦めていた。筋肉を自在に操れるのならばランナーとしての復活が見えるのではないか、そう思った達夫に返ってきたのは「無理」の一言だった。
白髭は達夫の直接的な思考を読み取ることは出来ないが、視覚聴覚を効率的に使い、瞬間的な筋肉強化が出来るのだそうだ。そのためにはカルシウムイオンを消費するため連続的な使用は無理という制限も勿論あった。また白髭が達夫の肉体を乗っ取ることも出来るはずなのだが、間借り人としての分をわきまえている白髭はプライバシーの侵害までには至らなかった。
その二人がぶつかったのは達夫の隣のアパートの部屋に住んでいる黒田という男だった。達夫がパチンコ玉でオヤジ狩りに合っている黒田を助けたことから始まり、黒田は偽名でヤクザがらみの危うい仕事をしていたらしいと言う状況が見えてきたのは助けた翌日だった。良く晴れた朝、達夫は行き当たりばったりに黒田を捜し当てたヤクザの車のタイヤめがけてパチンコ玉を弾き、とどめとばかりに窓にも一発ぶち込んだ。タイヤの破裂する音と共にバタバタとはい出してくるヤクザ。黒田はその隙をついて逃げ出したのだった。別に達夫にはヤクザをやり込めたり、黒田に義理立てをする必要は何もなかったのだった。いうなれば気まぐれと言う奴なのだろう。
その日の仕事で大工見習いが職人の分を外れていることをしているのが少し問題になった。その大工見習いは暴走族の頭をやっていたとか言っていて、施主の娘を口説いていたのだ。黒田はそれを諫めたのだが、それが大工の親方に伝わった事を知ると逆ギレで辞めていった。その代わり奇妙なことが一つ起こった。施主の娘の八木沼真紀は達夫に惚れたのだという。だから押し倒させろと迫ってきた。施主と手元*2の関係でそんなことをするのはお門違いという物だ。達夫は潔く退散することにした。帰り道、電車に乗る事を考え始めていたときに唐突な衝撃がやってきた。つい先ほど見習いを辞めていった半端物が四人の仲間と共にお礼参りにやってきたのだった。殴られたのは背中で獲物は金属バットと来ていやがる。激痛に朦朧としている達夫はずるずると人の来ない駐車場のあたりにまで連れて行かれ足先で何度か蹴られた。勿論こういう時の白髭である。仰向けの状態から腕を使って倒立し、バネのように力を込めて金属バットをふるおうとした男の顎に向かって両足を突き出した。見事にヒットしたのだったが、達夫は自身の体で起こったことに少し混乱していた。正直人間業には思えなかったのだ。残るは四人・・・と思ったときに警察に通報しようとする甲高い声が聞こえてきた。伸びている男を四人でつかみ、奴らは這々の体で逃げていった。一人残された達夫がふうんと呟いていると、そこに出てきたのは真紀だった。どんな因果かは知らないが一緒に飯を食う事になった。着いた先のファミレスで真紀に言われたのは「運命」だということだった。実感は全く湧かなかったが、見つめるその目にあるのはただ強い光だった。
ごたごたはまだ進行中らしい。真紀に送られて自宅に付くとバイク便が届いた。そんな物に用はないので一度も利用したことはない。疑念を抱き送り主を聞いた。黒田だという。伝票に受領のサインをしてして受け取った箱には品名に菓子と書かれていた。何とも軽いその箱の包装紙を開いて見るとマドレーヌと印刷されていた。中身にはただガムテープで留められただけの携帯電話がくっついていた。と、電話がかかってきた。でると勿論相手は黒田だった。彼はこれから会えないか?ということと、達夫の父親の事故について興味はないか?と切り出した。隣から盗聴もされているだろうし、達夫には尾行が付くだろうから勿論それを振り切ってくれとも注文が付いた。父親はすでに故人であるが事故については多少なりとも興味が湧いた。金属バットで殴られた背中がずきずきと痛むのだが、やむを得ないらしい。
達夫と白髭は冒険の扉をこじ開け始めたのだった。

感想

藤原伊織二冊目です。『テロリストのパラソル』で相当いい目を見せて貰ったので、期待して読んでみました。あそこまでは及ばないものの独特の筆致で楽しんで読むことが出来ました。今回のテーマは人間に他の生物が侵入して超人的な力を得るってタイプで、岩明均の『寄生獣』の系統ですね。ただ、エッセンスとして用いているだけなので単なるパクリ・オマージュ・インスパイヤと断ずるのは早計だと思います。この要素が有るためどうにも漫画的・非現実的になっているんですが、同時に中高生に読みやすい読み物に仕上がっているとも思います。そう、年代を少し上げたジュブナイルの様相なんですよ。そこに筆者ののらりくらりとした闇が透けてみるノワール的要素、そして任侠・義侠物の義理堅いキャラクター性を追加したのがこの話と言えます。『テロリストのパラソル』でもそうでしたが、時代遅れな主人公が現代にどうにも馴染めないまま彼なりの義理を貫いていくのです。彼は口にしたことは基本的に破ろうとはしません。どうしようもないと思えば、当人にわざわざ一言入れてからにします。近頃忘れ去られてしまった義理ですが、これは実は裏返せば果てしのないお節介でもあります。主人公はそのお節介のために苦況に追いやられてしまうのです。ただ、そこには力強い味方である白髭がいるので工夫しながら未知との敵と対決することになります。まぁ、こう言っちゃうとアレなんですが主人公は格闘漫画並みの馬鹿ですw。ただ、あえて敵を作ろうとしてないんだけど、お節介が何故か自分のみに返って来るという嫌な感じの因果応報を地でいってます。必死に頑張れば報われるというのはこの作品の方向性ではないのでそれを求めている人には勧められません。あくまでも一個の冒険として楽しめる人のみが読むべきなのではないでしょうかね。清濁陰陽で言えば清い陰ですので、這いずり回るタイプじゃないんですらすら行きますが、基本底流を見間違えていると多分痛い目を見ちゃうかと。
作中に何回か出てきますが「邯鄲の夢」という故事があります。

〔出世を望んで邯鄲に来た青年盧生(ろせい)は、栄華が思いのままになるという枕を道士から借りて仮寝をし、栄枯盛衰の50年の人生を夢に見たが、覚めれば注文した黄粱(こうりよう)の粥(かゆ)がまだ炊き上がらぬ束の間の事であったという沈既済「枕中記」の故事より〕栄枯盛衰のはかないことのたとえ。邯鄲の枕。邯鄲夢の枕。盧生の夢。黄粱一炊の夢。黄粱の夢。一炊の夢。
三省堂提供「大辞林 第二版」より引用

この故事はこの作品のはかなさをあらかじめ伝えています。「現実の成功には大した意味はない」とあらかじめ言っているのです。これに承服できない人も読まない方が無難かと。
でもそれでも大丈夫な人は冒険の扉を開いた方がいいでしょう。大変面白いですから。600ページ近い本ですがページタナーの本領発揮です。
85点。

蛇足:自分であれだけ垂れておいてなんですが、結末にもう少し余裕が欲しかったなぁ。蚊トンボだけに尻切れトンボの気がしてなりません。
書き忘れてましたが、何故か死語が沢山出てきます。でもそれに違和感がないんですね。阿吽の呼吸というか近頃テレビでも見かけないような悪態などを読むと何故かにんまりしちゃうのはなんででしょうねぇ。

参考リンク

蚊トンボ白鬚の冒険
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藤原 伊織
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*1:白鬚橋から名前を取ったらしい

*2:助手と言うこと。この場合は配管工の親方の助手というのが正確か

firefox1.07リリース

http://www.mozilla.org/products/firefox/releases/1.0.7.html
によると

Specific changes in Firefox 1.0.7

  • Fix for a potential buffer overflow vulnerability when loading a hostname with all soft-hyphens
  • Fix to prevent URLs passed from external programs from being parsed by the shell (Linux only)
  • Fix to prevent a crash when loading a Proxy Auto-Config (PAC) script that uses an "eval" statement
  • Fix to restore InstallTrigger.getVersion() for Extension authors
  • Other stability and security fixes

らしい。
意訳では

  • ホスト名にソフトハイフン*1が付いているサイトを読み込み中の時の潜在的バッファオーバーフロー脆弱性修正
  • shellによる構文解析から外部プログラムからのURLパスを渡してしまう問題についての修正(Linuxのみ)
  • "eval"命令を使用したときのProxy 自動設定スクリプトをロードした時のクラッシュ修正
  • 拡張を書いている作者のために"InstallTrigger.getVersion()"を復元する修正
  • 他の安定性と複数のセキュリティ修正

こんな感じだろうか。セキュリティのフィックスメインだが、安定性にも着手しているらしい。問題は・・・日本語のMozillaサイトでまだ日本語版が出てないことかな。

*1:行末の単語の分綴を示す物