浦賀和宏 学園祭の悪魔 ALL IS FULL OF MURDER

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あらすじ

穂波留美の同級生である私は学園祭でクラスの催し物であるフランクフルトの売り子をやっているときに安藤君に出会う。正直に言って私にとって驚きだったのはクラスでは目立たず暗い性格で独りぼっちのはずの穂波さんに彼氏が居ることだった。なんだかんだ言ってクラスでムードメーカー的な位置にいて明るいはずの自分にはそんなロマンスなんて欠片もないというのに。慕ってくれているの男子は多いけれど、どれも問題外なんだもん、しょうがない。そう彼女は思っていた。
でもこれはクラスを揺るがすゴシップでもあったので広めないわけにはいかない。結果格好の笑いの種になった。それが私は愉快だった。
安藤君は寡黙で穂波さんと同じく暗い。そこに何故かしら滑稽さを感じながら私は安藤君に惹かれ始める。暗い者同士よりは明るい私の方が安藤君に似合うはず、ヒモの両端、極端同士はくるりと繋げることが出来るんだから。
私は安藤君が穂波さんに何かを書かれた紙を手渡しているのを見て思った、恋文だなと。そして学級崩壊を起しているかのようなホームルームの最中、不注意で穂波さんのバックの中身をこぼしてしまう。そこで私はあやまりながら中身を拾って入れていった。ただ、先ほどの恋文らしき紙は咄嗟に盗んでしまった。少し罪悪感を感じながら二人がどんなやりとりをしているかに興味がなかったなどと言えば嘘になっちゃう。無造作な筆跡で書かれた言葉はこんな感じだった。

JUDE 4151 A
TWIST SHOUT 145A
PLEASE ME 145 IN
NOWHERE MAN 1451A

なんのことやらさっぱり解らない。一体何の暗号なんだろう。
放課後、私に好意を寄せているらしいやかん君(可愛い女子に近寄ったり話しかけたりすると真っ赤になる)とダラダラ寄り道しながら帰宅する途中に渦中のカップルを見かけた。勿論面白そうだから追いかける。二人はブティックホテル、所謂ラブホへ入っていった。まだ私は処女だというのに!やっぱりやることはやっている。私にとってはとてもショックだった。いたずら心が湧いてくる。穂波さんの携帯の番号を知っているのでかけてみた・・・繋がる。『はい』、冷静沈着な声だった。淫行条例で警察に通報するという言葉もどこか白々しさを帯びていた。『言えば」、穂波さんは素っ気なく言った。言いようのない嫉妬と悪意が渦巻く。でも結局通報するのは止めた。自分たちも同じようにホテルのあたりに来ているのが気まずかったのだ。敗北感を胸に秘めながら私は帰っていった。
現在家の中は大変なことになっている。お父さんはリストラされて次の職が見つからないままだ。お母さんはそんなお父さんを言葉で虐めて物を投げる。夫婦げんかはここ最近の常態だった。私は自分の部屋にうずくまって映画のDVDを見ながら愛犬の力丸を抱いて静かにじっとしている。両親との食事は苦痛以外のなにものでもない。帰り道にやかん君とモスバーガーを食べてきたのはそのせいだ。
お父さんが悪い訳じゃないのはわかってる。でも職はそんな簡単に見つからない。歳のせいもあるけれど、リストラされたことのトラウマが癒えきっていないのだ。そこにお母さんが塩をすり込む。このままでは失業保険も切れるだろう。唯一の楽しみである映画鑑賞も外食も無しになってしまうかもしれない。それが私の不安を煽った。
三日ある学園祭に安藤君はきちんと全部参加していた。一緒に来ていた軽薄そうな飯島君と穂波さんのお兄さんは初日だけだった。安藤君は一体何をしている人なんだろう。そう私は思って疑問をぶつけてみた。ぼそぼそと低い声で語った安藤君によると大学生だという。飯島君は既に社会人でこれないらしい。
私は穂波さんにも興味がわいていたので色々と話しかけるようになっていた。そこで安藤君は「名探偵」だということを聞いた。そこで私は近所で起こっている犬の惨殺死体事件について安藤君に聞いてみた。

感想

浦賀和宏六作目。そして安藤直樹シリーズ六作目。今回は今までの一連の作品と比べると一気にページ数が減っています。大体400ページはあるノベルス判が普通だったのにその半分しかありません。
しかしあれやね、著者近影の変遷を見ていくと作者は順調に肥えていってますな。インドアなお仕事だけに体重管理はしっかりした方が佳いかと(余計なお世話)。
あとがき、まえがきを一切しない、作者の言葉は作品に込められている作者の声をちょっと聞いてみたいところですなぁ。
今回は漫画ネタとか取り入れてきています。その延長上で気がついたんだけど、金田と飯島って大友克洋の『AKIRA』からきているっぽいね、実に今更だけど。『AKIRA』の鉄雄と金田っていう取り合わせは元々『鉄人二十八号』から採られた物なので二重引用だったりしますし。あと視点人物の「私」が例えているやかん君はさくらももこの『コジコジ』から採られています。あと何個か有ったはずですが忘れました。加えて安藤直樹というキャラクターについての言及はありませんでした。
今回のテーマは『両極端故に近しい』、『探偵は胡散臭い』あたりかな。懐疑的になることで事件が見えてきます。それにしても視点主人公が女子高生という設定のため前回の文語的文章から一変して頭が軽そうな文章になっていました。ちょっとホッとした一面、くどいなぁとも思ったのですが、これは単にわがままなだけか。
本書はまた推理物のアンチテーゼを披瀝しています。もうこれで三度目かな。これは効果を狙った物なのか、それとも作者の照れ・衒いなのか判断が付きづらいところです。でもこれを使うことによって本来その分野に興味が無い人でもすんなりとけ込むことが出来るということを狙うことは出来ますね。ただ、多用するとあざとい気がしますが・・・。なお、事件を解決するが結末を知った物はある意味で破滅する、壊れるというのは引き継がれています。
それにしてもショッキングだね。今まで主人公の安藤直樹は無気力で外的な刺激に対して興味がなかったはずじゃなかった?。唐突に想像の埒外って奴を具現化された気分ですわ。それにしても執着の理由がはっきりしない。復讐とは違う気がする。では何を求めているのか。事態の収束だろうか。それならまず萩原を狙えと思ったりするんだが・・・。
明確なのはシリーズの断絶感ですね。ライトなミステリーに限らないユーザー向けからコアな本格ミステリーへと作品の方向転換がシリーズ五作目以降行われているように思いました。一応四作目も加えたいところですが、どちらにも属さないニュートラルなインターミッションを思わせるので保留。これはシリーズに色々と付属していた謎の数々がどんどんと解明されるに及んで相関するネタの払底が起きているからでしょう。それゆえに飢餓感のような物を感じます。まるでモザイク画を書いていた画家が唐突に印象派絵画に転向したかのようです。
しっかし自信満々に十戒破られてもなぁ。最近の作家さんは余さず全てのネタを絡めようとするから深読みしすぎる質の私からすれば披瀝すればするほど読めちゃうんだよなぁ。特にこの本は全く意味のない迷彩が一切無いから論理的に考える必要もなくこじつけで結末部分が読めちゃったし。持ち味の食い残しの謎をちりばめて欲しかったなぁ。やっぱりそういうのって嫌われるんだろうか?
本書を読んだことで早いところシリーズ打ち切ってしまった方が佳い気がしました。その方が安藤と荻原という対立構造になっているはずのシリーズの緊張感が損なわれないだろうしね。今のストーリー進行はあまりに歪んでいます。このままじゃ残骸になる一方かと。
残る一作を読むのはちょっと先になりそう・・・なにしろこれじゃあねぇ。
55点
普通の本格に飽き足らなくなってきている人向け。この程度のグロはもう耐性付いてるから私は大丈夫だったけど、駄目な人は駄目かも。

参考リンク

学園祭の悪魔
学園祭の悪魔
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浦賀 和宏
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