藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

プロになりたい。

調律のカリスマである辻秀夫さんにピアノのオーバーホールをお願いした。
といっても本当のオーバーホールというのは、作業場に本体を持ち込み、弦やハンマー部品を取り替える一大事とのことで、今回はその手前。
色んな摩擦部分の研磨やハンマーフェルトの整形、潤滑などをしてもらったが、それにしても六時間を越す重労働だった。

自動車のメカニックの人から以前「エンジンってのは、それぞれの部品が複雑に絡み合って"生き物"のようになってんだよ」と聞いたことがあるが、それを思い出すほど複雑で繊細な作業だったのである。

ところによっては一ミリを許さぬ調整とか、限りなく使われている部分のねじの締め付けとか、製造から四十年近く経つ楽器はドックに入るように総点検を受けていた。
出来上がりはそれは素晴らしく、ちょっと別の楽器かと思うくらいに柔らかく上品な音に仕上がっている。
ここひと月くらい「こんなに下手だったかな」と思うくらいに練習していても調子が出なかったのが嘘のようで、お稽古道具の手入れというのはこれほど大事なことなのかと認識を新たにした次第。

作業の合間の辻さんのお話は、また楽しくてことはピアノの歴史からピアノがテーマの漫画とか、調律業界やピアノメーカーの裏事情とかライブホールのこと、ひいてはプレイヤーの性質とか音質についてまで多岐にわたってまた勉強させていただいた。
徹底したその道のプロと直に話してみるというのは実に貴重な経験だ、と改めて感心している。

そう思えば、自分たちは本当のプロフェッショナルとじっくり話す機会というのはあまりない。
けれどどうも、聞いていると「プロにはプロ同士の会話がある」という気がしてならないのである。
それは多分、同じ道のプロでなくとも「何かを極めた人たち」に共通する言語のようなものではないだろうか。
自分も早く何かのプロになりたいと真剣に思うのである。