藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

法律でも先進国。

アメリカ素描 (新潮文庫)

アメリカ素描 (新潮文庫)

司馬遼太郎アメリカ素描を特集したテレビ番組を見ていて「アメリカとは法律という概念で国家を作った国」という表現があった。

まさにそうか。
法律とか原理とか、新しい理屈とかを「まず試してみる文化」が国の成り立ちから形成されているとしたら日本などはなかなか変われないのは、その出自ゆえ無理もない。
「積み上げたり守ったり排除したり」してきて築いてきた文化とは、その素性がそもそも異なるから。

今のご時世、イノベーションと技術革新が最優勢だし、それって変化してゆく上では間違いではなさそうだからまだまだ米国の主導は続くだろう。
アメリカはさらに法律でも常に問い続ける。

アップル対FBIの戦いを、ただの「お約束」と見るか、「情報と国の新たな定義の試み」と見るか、「個人と国の再定義」と見るか。

何れにしてもそのとば口はまたしてもアメリカから開かれている。
またしてもそれを対岸からボーッと見ているのは情けない。

早晩、日本でもこうした議論が同様に起き、真剣に「情報とプライバシー」とか「自分と国」ということについて改めて議論が起きるべきだと思う。

などと書いてみたけれど、どうもリアリティがない。
かつて安保闘争で一時代を揺るがし、その前には大戦まで起こした国とは思えぬ無関心ぶりはどうしたことだろうか。

ひょっとしたら、常に平和を疑い、時の政権に懐疑的で反権力の視点を持って政治参加する、というのが「実は古い思想の残渣」でしかなく、特に今の先進国では「万一を考えて有事の準備に汗をかく」のではなく、もっと大らかに協調社会などを考えてゆくべきなのだろうか。

アップルはなぜFBI捜査に協力しないのか  編集委員 関口和
2016/3/6 6:30
日本経済新聞 電子版

 米IT(情報技術)業界で目下の話題といえば、アップルが米連邦捜査局FBI)の協力依頼に対し、それを強く拒んでいるというニュースです。テロリストが使っていたiPhone(アイフォーン)の端末ロックを解除し、直近の情報を入手したいというのがFBIの要請ですが、ティム・クック最高経営責任者(CEO)は「他の利用者のプライバシーまで侵害されかねない」として断固拒否しています。米IT企業はアップル支持に回っていますが、共和党から大統領選に出馬しているドナルド・トランプ氏はアップルの不買運動を呼びかけるなど、米国内の世論も二分しています。国家の安全保障を優先すべきなのか、個人のプライバシーを守るべきなのか、論争はしばらく続きそうです。

「アップルvsFBI」の論争は、FBIがアップルにパスコードを解除できるソフトを作ってほしいと依頼したことがきっかけだ=AP
「アップルvsFBI」の論争は、FBIがアップルにパスコードを解除できるソフトを作ってほしいと依頼したことがきっかけだ=AP

 ことの発端は昨年12月、カリフォルニア州サンバーナディーノの福祉施設で起きた銃の乱射事件にさかのぼります。14人が亡くなった大惨事でしたが、その際に犯人が使っていたiPhoneをFBIが証拠品として押収したところ、端末にロックがかかっていたため、アップルにパスコード(パスワード)を解除できるソフトを作ってほしいと依頼したことがきっかけです。

 というのもiPhoneは誤ったパスコードを10回入力すると、ロックを解除できないだけでなく、情報も消去されてしまう設計だからです。パスコードは設定した本人しかわからず、アップルも合鍵は持っていません。情報を取り出すには基本ソフト(OS)に手を加える必要があり、もしそうしたソフトを作れば他の目的に悪用されかねないというのがアップルの主張です。まさにバックドア(裏口)を作るわけです。アップルはライバルのAndroid(アンドロイド)端末に対し、セキュリティーの高さを売り物にしてきただけに信用を失いかねないことを最も恐れたのです。

 こうしたアップルの姿勢に対し、FBIカリフォルニア州の連邦地裁決定により、3つのことを要求しました。つまり自動消去機能の解除、入力遅延機能の解除、それに遠隔操作によるパスコード入力の容認です。入力遅延機能というのは、誤ったパスコードを入力した場合、しばらく次のパスコードを入力できないというものです。実はFBIはiPhoneのロック解除を必要とする捜査案件をほかにも多数抱えており、今回の件で容易にロック解除ができるようになれば、その後の捜査活動のスピードアップにつながると考えたようです。

■NY州裁判所はアップル側を支持

関口和一(せきぐち・わいち) 82年日本経済新聞社入社。ハーバード大学フルブライト客員研究員、ワシントン支局特派員、論説委員などを経て現在、編集局編集委員。主に情報通信分野を担当。東京大学大学院、法政大学大学院、国際大学グローコムの客員教授を兼務。NHK国際放送の解説者も務めた。著書に「パソコン革命の旗手たち」「情報探索術」など。
関口和一(せきぐち・わいち) 82年日本経済新聞社入社。ハーバード大学フルブライト客員研究員、ワシントン支局特派員、論説委員などを経て現在、編集局編集委員。主に情報通信分野を担当。東京大学大学院、法政大学大学院、国際大学グローコムの客員教授を兼務。NHK国際放送の解説者も務めた。著書に「パソコン革命の旗手たち」「情報探索術」など。

 ところがアップルはこの要請に反対し、法廷論争に持ち込まれることになりました。さらに興味深いことに、麻薬密売事件で端末ロック解除の是非が争われたニューヨーク州の別の訴訟で、同州の連邦地裁が今年2月、アップル側の主張を認める決定を下したのです。米国内の世論だけでなく、司法当局内部でも意見が分かれるという事態に発展してしまったのです。

 そこで議論になったのが1789年に制定された「All Writs Act(全令状法)」と呼ばれる法律です。「裁判所は法執行のために必要なあらゆる令状を発行できる」といった内容の法律で、FBIはしばしばこの法律を根拠に様々な捜査令状を裁判所から得てきました。カリフォルニア州のテロ銃撃事件の地裁決定もこの法律が根拠になっています。しかし別件にあたったニューヨーク州連邦地裁は、法律が制定された227年前と今とでは経済や社会の状況が大きく異なり、携帯端末のロック解除にこの法律を適用するのは法の拡大解釈にあたると判断したのです。

クックCEOはiPhoneのロック解除のための情報提供を拒否している=AP
クックCEOはiPhoneのロック解除のための情報提供を拒否している=AP

 こうしたアップルとFBIとの論争に対し米国内の世論も分かれています。アップルのクックCEOは合衆国憲法の「言論の自由」や「プライバシー権」を盾に反対の論陣をはっていますが、グーグルのスンダル・ピチャイCEOも「企業の顧客データを政府が入手できるようにするのは問題だ」と主張。IT業界ではありませんが、フォード・モーターのマーク・フィールズCEOも「データは顧客のものであり、企業はそれを守る責任がある」とアップルを応援するような発言をしています。

 米研究機関のピューリサーチセンターが実施した調査では、米国民の51%が「アップルはロックを解除すべきだ」としていますが、ロイターなどメディアによる調査では、アップル支持派の国民のほうがFBI支持派を上回っています。大統領選に出馬した米不動産王のトランプ氏がアップルの不買運動を言い出したのは、米国内の保守派の人気を取り付ける狙いだといってよいでしょう。

■スノーデン氏が暴露した政府の顧客情報収集

 実は今回のロック解除問題でアップルが米政府への反対姿勢を貫いていることにはわけがあります。それは2013年に起きた「エドワード・スノーデン事件」にさかのぼります。米中央情報局(CIA)の職員だったスノーデン氏が、アップルやグーグル、マイクロソフトなど米IT企業から米国家安全保障局(NSA)が顧客情報を定期的に収集していたことを暴露してしまった事件です。情報収集のために「PRISM(プリズム)」という情報システムが2007年に構築され、米IT企業9社が顧客に内緒で情報を米政府に提供していたとして、世界的にも大きなニュースとなりました。

 米国ではもともとスパイ対策のため1978年に「外国情報監視法(FISA)」という法律が制定されており、スパイ行為を働く外国人の情報を傍受することが認められています。さらに2001年に起きた米同時多発テロをきっかけに「Patriot Act(愛国者法)」が制定され、米政府は有事の際にはIT企業や通信会社などから顧客情報を入手することが認められるようになりました。ただ、いつが有事なのかはずっと傍受していなければわからないため、それを手っ取り早く入手する手段として開発されたのがPRISMです。インターネットはもともと米国内のネットワークが世界に広がったもので、トラフィック(通信量)の8割は米国を経由しています。そこに傍受システムを構築することは米政府としては簡単なことだったわけです。

 そうした事件が起きた際に世間の批判の矢面に立たされたのが、アップルやグーグル、フェイスブック、ヤフー、ツイッターといったIT企業だったわけです。各企業とも共同で新聞に意見広告を出すなど火消しに躍起になりましたが、そうした過去の経緯があったことから、クックCEOとしては今回のような毅然とした態度をとったといえるでしょう。

 逆説的になりますが、実はスノーデン事件があったことから今回のような問題が発生したともいえます。iPhoneで使われる「iOS」はスノーデン事件があった翌年の2014年に発表された「iOS8.0」からセキュリティー機能が大幅に強化されました。もともとアップルは一般消費者に人気の商品でしたが、このころになると政府や企業などでも広く使われるようになったためです。企業のメールシステムやカレンダーシステムとの親和性を高めたのもそのためです。つまりスノーデン事件がきっかけとなってiPhoneのセキュリティーが強化され、そのためにFBIの捜査が難しくなり、今回のような論争に発展したといえます。

ブラックベリーの教訓

 クックCEOにはもうひとつ侮れない教訓があります。それはアップルやグーグルのアンドロイド端末の追い上げから経営危機に陥ったカナダのリサーチ・イン・モーション社(RIM、現ブラックベリー)の経営判断の過ちです。オバマ米大統領も愛用していた同社の携帯端末「BlackBerryブラックベリー)」は欧米の企業向けスマートフォン市場では常にトップの座にありました。理由は企業情報システムとの連携とセキュリティーの高さです。したがって政府職員や外交官、弁護士、金融関係者などから絶大な支持を得ていました。

 ところがそのセキュリティーの高さが後に災いするようになってしまったのです。BlackBerryが提供するメッセージング機能は暗号化により各国当局の閲覧なしにグローバルに情報交換できたことから、テロリストも愛用するようになったからです。結局、FBIをはじめ各国政府はRIM社に対し情報開示を求めるようになり、当初は言論の自由やプライバシーを理由に拒んでいたものの、最終的には各国政府の要請に従ってしまいます。消費者の好みがiPhoneのようなタッチパネル式の端末に移っていったことに対応できなかったのが最大の敗因ではありますが、売り物であるセキュリティーの高さを放棄したことで一気に法人ユーザー離れを起こしてしまいました。アップルはそうしたブラックベリーの失敗のおかげで法人市場を手にしたわけで、同じ間違いをしてはならないとクックCEOは思ったに違いありません。

下院司法委員会の公聴会に出席したコミーFBI長官(1日、米ワシントン)=AP
下院司法委員会の公聴会に出席したコミーFBI長官(1日、米ワシントン)=AP

 では「アップルvs FBI」の論争は今後、いったいどうなるのでしょうか。まずカリフォルニア州では、アップルが連邦地裁にロック解除命令を撤回するよう求めており、3月22日から両者の審問が始まります。米連邦議会では司法問題を扱う下院司法委員会がコミーFBI長官やアップルの法務責任者を招き、3月1日に公聴会を開きました。全令状法などの法解釈について立法府としての方向性を示す必要があるからです。いずれにしても議会や裁判所でのやり取りは今後もしばらく続きます。言論の自由を預かるメディアも格好の取材対象としていることから、結局はアップルのユーザーである米国民自身が自国の安全保障と個人のプライバシーを天秤(てんびん)にかけ、重要だと思った方向に議論は収束していくことになるでしょう。