藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

顔相も科学。

フィンテックとかIoTとか、一旦「この方向」という流れが始まってしまえば、怒涛のごとく加速するのが今の時代の特徴だ。
どこまで統制された利用になるかどうかはともかく。
近い将来「全国民の顔」は個人情報と共に登録されてしまうだろう。
検挙率が上がって犯罪も減る。
買い物にも移動にもすごく便利にもなる。
しかし、ますます「プライバシーのない世界」になりそうだ。

しかも顔認証で「暴力的」とか「性的指向」、果ては「相手の心理状態」まで把握できるとなれば、ちょっとしたオカルトにも聞こえてくる。
「あなたと彼女とは相性は合いませんよ」とアドバイスされたらどうしましょうか。
街中の顔占い師よりもはるかに怖いことになりそうだ。

ここまで来た顔認証技術、光とともに影も
 人間の顔というのは見事な作品だ。驚異的なほど多様な顔立ちが存在するから、お互いに見分けがつくのであり、それにより複雑な社会が築き上げられている。しかも顔は、感情を伝達することもできる。無意識にほほを赤らめることもあれば、策略として偽の笑顔を見せることもある。人間は、起きている時間のほとんどを相手の顔を読み取ることに費やしている。オフィスや法廷、バーや寝室などで、相手の好意や敵意、信頼や偽りを表情から判断している。一方、自分の本心を偽ることにも多くの時間を費やしている。

 顔の表情を読み取る能力では、今や機械が急速に人間に近づきつつある。米国の教会では礼拝の出席者を把握するために、英国の小売りは過去の万引き犯を見つけるために顔認証を利用している。ウェールズでは今年、顔認証を使いサッカーの試合中のスタジアム近くで容疑者を逮捕するのに成功した。中国では、配車サービスの運転手の身元を確認したり、観光客の娯楽施設への入場を認めたり、笑顔を画面に見せるだけで代金を支払えるようになっている。

中国では画面を見るだけで代金を支払える飲食店が登場した=ロイター

 米アップルが12日に発表する新型「iPhone(アイフォーン)」は、顔認証でホーム画面のロックを解除できるという。

 人間が顔を認識する能力に比べれば、こうした進歩は微々たるものに思えるかもしれない。確かに有人飛行やインターネットといった画期的な発明の方が、人間の能力を劇的に変える。顔認証は、人間が持つ能力をデジタル化しているだけのようにも思える。

 人間の顔は個々人で異なるが、公開されているものなので、顔認証は一見、プライバシーを侵害するものとは感じられない。だが、あまりコストをかけずに膨大な数の顔の画像を瞬時に記録し、保存し、分析できるようになれば、いずれプライバシーや公平性、信頼性などの概念を根本的に覆すことになる。

■本人特定の精度は70%

 まずプライバシーの問題を考えよう。顔認証が、指紋などの生体認証データと大きく違うのは、遠くからでも認識できる点だ。携帯電話を持つ人なら誰でも、相手の写真を撮って顔認証プログラムに読み込ませられる。ロシアの「ファインドフェイス」というアプリは、見知らぬ人の写真をSNS(交流サイト)「VKontakte(フ・コンタクテ)」に上がっている写真と比べ、70%の精度で本人を特定できるという。

 米フェイスブック(FB)が持つ膨大な写真データは誰でもアクセスできるわけではないが、例えばFBは自動車のショールームを訪れた客の写真を入手し、顔認証で特定した本人のページにクルマの広告を流すこともできる。

 民間企業が画像と身元を結び付けることができなくても、多くの場合、国家なら可能だ。中国政府は、国民の顔写真のデータを保有しているし、米国では成人の半数の写真がデータベース化されており、米連邦捜査局FBI)はこれらを利用することが許されている。今や法執行機関は犯罪者を追うのに役立つ強力な武器を手にしているが、そのことは同時に市民のプライバシーに重大な危機が訪れていることを意味する。

 顔は、単なる名札ではない。名前以外にも膨大な情報を示しており、機械はそれらも読み取ることができる。このことには利点もある。例えば、アイドゥー・チェイニー症候群などのまれな遺伝的疾患を自動的に診断するために顔を分析している企業もある。顔認証技術を使えば、通常よりもずっと早く疾患を見つけられるという。また、人の感情を測定するシステムがあれば、自閉症の人にとって、認識しづらい社会的なシグナルが理解しやすくなるかもしれない。

■差別が日常化する可能性

 だが、この技術は脅威にもなりうる。米スタンフォード大学が実施した研究によると、同性愛者の男性と異性愛者の男性の写真を見せたところ、アルゴリズムは本人の性的指向を81%の精度で言い当てたが、人間の判断による場合は61%にとどまったという。同性愛が犯罪とされる国で、ソフトウエアで性的指向を顔から推測できるとなれば重大な問題をはらむ。

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 そこまで乱暴な形でなくても、差別が日常化する可能性はある。現在、既に雇用主が偏見に基づき採用を却下することはありえる。だが顔認証があれば、そういった偏見が当たり前になり、企業はすべての応募者を人種だけでなく、顔に表れている知性や性的指向の兆候によってふるいにかけるようになるかもしれない。ナイトクラブやスポーツの試合を行う施設では、入場者の顔をスキャンすることで暴力的な人物を見分けるよう要求されるようになるかもしれない。ただ、機械学習の性質上、顔認証システムというのは「その可能性がある」という確率しか示せない。

 しかも、そういった顔認証システムは、白人以外に対してマイナスに働きがちになる可能性がある。というのも、白人の顔を中心とするデータで学習させられたアルゴリズムは、他の人種についてはうまく機能しないからだ。こうしたバイアスは、裁判所で保釈や判決について判断を下す際の参考情報として使われているアルゴリズムによる自動評価にも表れている。

 人々の顔の映像が常に記録され、コンピューターによってそれらを活用したデータ分析が進み、実世界の生活に反映されるようになると、人間関係というものが本質的に変わってしまうかもしれない。

■夫婦間や職場にも影響

 人間は、お互い相手の本当に考えていることを知ることができないからこそ、円滑に日常生活を送れているともいえる。相手の話に関心がなく、こっそりあくびした瞬間をパートナーにみつけられたり、イライラして顔をしかめた瞬間を上司にすべて把握されたりするようになったらどうなるか――。結婚生活や職場の人間関係は、裏表が一切ないものになるかもしれないが、円満ではなくなるだろう。

 しかも、人間関係は信頼に基づく約束の上に築かれたものではなくなってしまう。そして、コンピューターが顔写真に結び付けた情報からはじき出したリスクと報酬の見積もりに基づいたものに変わるかもしれない。その場合、人間関係は合理的判断に基づくものになる一方で、何事もビジネスのようにプラスとマイナで判断するようになってしまうだろう。

 少なくとも民主主義国家では、法律によって顔認証システムの利点と欠点のバランスを修正することはできる。欧州連合(EU)では、規制当局が2018年5月に施行する一般データ保護規則(GDPR)の中で、顔認証も含む生体認証情報は、本人に帰属するものであり、使用には許諾が必要だとの原則を打ち出している。つまり、FBがクルマのショールームの訪問客向けに広告を売ることは、米国では可能でも欧州では不可能ということだ。

 また、企業に採用の際に候補者の画像を精査することは、人種差別になるとして法律によって制限することもできるだろう。ビジネス向けの顔認証システムを提供する企業に、意図せずして偏見を助長するようなことをしていないと証明するよう監査を受けることを求めてもいい。とにかくこうした顔認証技術を利用する企業は、相応の責任を負うべきだ。

■偽装もAIで見抜ける

 ただ、こうした規則を導入しても、顔認証技術が進んでいる方向を変えることはできない。ウエアラブル機器の普及で、カメラは身近な存在になる一方だ。顔写真を撮られても、画像データが明確にならないようにする特殊なサングラスをかける、あるいは特殊な化粧で顔認証システムを混乱させるなどの手立ては、既に対策が講じられている。英ケンブリッジ大学の研究で、偽装しても人工知能(AI)を使えば本来の顔を再現できることが証明されている。

 米グーグルは、非民主的な国家に悪用される恐れがあるとして、顔認証技術の利用には慎重な姿勢を示している。だが、他の技術系企業は、顔認証技術が悪用されるかもしれない可能性をそれほど気にしていないようだ。米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトは自社のクラウドサービスを使い、顔認証システムを提供しているし、FBにとって顔認証は事業計画の中核をなしている。

 各国政府も顔認証のメリットを手放したくはないだろう。従って早晩、変化が訪れるのは必至だ。この問題には正面から立ち向かうしかない。

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