2011-02-28 自己啓発本はなぜ流行るのか?
この前の続き。BRUTUS1月号で面白かったもうひとつの記事は速水健朗さんの自己啓発本ブームを取り上げたもの。
![BRUTUS (ブルータス) 2011年 1/15号 [雑誌] BRUTUS (ブルータス) 2011年 1/15号 [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51Z0QxrjhCL._SL160_.jpg)
BRUTUS (ブルータス) 2011年 1/15号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2010/12/15
- メディア: 雑誌
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記事によれば、昨今の自己啓発本ブームは1990年代のアメリカで始まったものである。資本主義のグローバル化、金融中心化の影響を受けて、アメリカの中流層の多くがリストラによって下流層へ転落し、格差が拡大した。そんな彼らが頼ったのが宗教であった。90年代以降、メガチャーチと呼ばれる超大型教会が急増し、仕事や生活を奪われつつある人々に対し、「信じれば救われる」といったわかりやすい教義を掲げることで、多くの信者を獲得した。これらメガチャーチには「宗教保守」が多く、ブッシュ共和党のアフガン・イラク戦争を強烈に支持したことでも知られる。
◆メガチャーチについて http://www.mapbinder.com/Map/World/USA/Info/MegaChurch.html
メガチャーチが掲げる「信じれば救われる」という教義=ポジティブ思考のルーツは、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』(1937)であると速水はいう。この本は、願望は考えるだけで叶うというもので、カルヴァン主義の現世利益を願ってはならないという重苦しい教えの反動から生まれた民間信仰である。この「思考(願い)は現実化する」という信仰は、現代の自己啓発本ブームの中でも最もメジャーなもののひとつ(ポップ心理学)になっている。

- 作者: ナポレオンヒル,Napoleon Hill,田中孝顕
- 出版社/メーカー: きこ書房
- 発売日: 1999/04/01
- メディア: 単行本
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そんなアメリカの「ポジティブ思考」が日本に本格的に輸入されたのは、デフレ不況、非正規雇用の拡大という局面を迎えた90年代末のこと。ポジティブ思考は、不況下において人々の不安が高まっている時期に浸透しやすい。そもそもナポレオン・ヒルが流行した30年代は世界恐慌後の不況の最中であったという。
つまり、ここ20年間の自己啓発本ブームの背景には、長期不況、格差拡大、失業率の増加など社会不安の高まりがあったということが分かる。さらにそのルーツがアメリカの宗教右派、さらには厳格なプロテスタンティズムの反動から生まれた民間信仰であるということ、つまり自己啓発とはすなわち「宗教」であるということも分かる。
自己啓発本は「あなたの人生がうまくいかないのは、努力が足りないからではない。成功者だけが知る成功の秘訣をあなたが知らないだけだ」と説く。つまり「努力せよ」ではなく、「成功の秘訣さえ知れば簡単に人生を変えられる」と教える。速水によれば、ほとんどの自己啓発本は以下の3タイプに分類される。
1)願えば叶う。
2)習慣を変えれば人生が変わる。
3)隠された潜在能力を掘り起こそう。
1)「願えば叶う」パターンで2007年にヒットしたのが、ロンダ・バーンの『ザ・シークレット』。この本は、プラトン、ガリレオ、アインシュタインなど過去の成功者たちが、ある共通の「秘密」を知っていたという内容。その秘密とは「引き寄せの法則」と呼ばれるもので、似たもの同士が引き寄せあい、未来について抱く思考が未来を創造する(=「思考は現実化する」!)という法則である。
このパターンを踏襲しているのが、「手帳に夢を記入する」というワタミの渡邉美樹『夢に日付を!』や、熊谷正寿『一冊の手帳で夢は必ず叶う』などの啓発書。手帳と啓発書をセットにして売り出すことで、双方の売上アップを実現するというビジネスにしてしまうあたりはさすが。

- 作者: 渡邉美樹
- 出版社/メーカー: あさ出版
- 発売日: 2005/10/24
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一冊の手帳で夢は必ずかなう - なりたい自分になるシンプルな方法
- 作者: 熊谷正寿
- 出版社/メーカー: かんき出版
- 発売日: 2004/03/22
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2)「習慣を変えれば人生が変わる」の代表は、スティーブン・R・コーヴィの『7つの習慣』。96年の刊行以来、今でも版を重ねるロングセラーになっているという。このパターンでの最近のヒットは、昨年流行した『新・片づけ術、「断捨離」』や『夢をかなえる「そうじ力」』などの「お掃除系」なのだという。興味深い。この分野のカリスマは、イエローハットの創業社長、鍵山秀三郎氏の『掃除道』。トイレ掃除を続けると真人間になるという宗教(信仰)だそうだ。自己啓発本ではないが、昨年ヒットした「トイレの神様」もこの系統に含めてよいのだろう。

- 作者: スティーブン・R.コヴィー,Stephen R. Covey,ジェームススキナー,川西茂
- 出版社/メーカー: キングベアー出版
- 発売日: 1996/12/25
- メディア: 単行本
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- 作者: やましたひでこ
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2009/12/17
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- 作者: 舛田光洋
- 出版社/メーカー: 総合法令出版
- 発売日: 2005/07/23
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鍵山秀三郎「一日一話」―人間の磨き方・掃除の哲学・人生の心得
- 作者: 鍵山秀三郎,亀井民治
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2004/02/01
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3)「隠された潜在能力を掘り起こそう」の近年の代表は、勝間和代だろう。『無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法』や『勝間和代のビジネス頭を創る7つのフレーム』など。さらに「速読術」や「レバレッジ勉強法」、「Google活用術」なども近年の流行のひとつだ。情報処理業界を中心として、いかに作業を簡便かつ効率よく行うかを主眼とした仕事術を「ライフハック」というが、このライフハックに自己啓発的なメッセージをブレンドさせたものがヒットしやすい傾向にあるようだ。

- 作者: 勝間和代
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2007/04/05
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- 作者: 本田直之
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2007/09/25
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- 作者: 津田大介,菊池俊輔
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このようなポジティブ思考が商品化され、ビジネス書の棚を占拠するようになったのは、たかだかここ10年のことであると速水氏はいう。なぜここまで自己啓発本が人気を呼ぶのかといえば、それはこうした本が知識ではなく「高揚感」を提供してくれる効果があるからだと速水氏は分析する。しかし、「賢い消費者ならポジティブ思考が一瞬のカンフル剤でしかないことにも気づくべきである」とも。
先にも書いたように、自己啓発のもともとのルーツは「宗教」にある。社会の不安感が高まれば、人々は安心を得ようとして、一瞬の高揚感にすがりつく。しかしその高揚感は持続しない。それゆえ、ヒット本に飽きたころに新種の自己啓発本が出てくると、自己啓発的な人々はまたそれに飛びつく。こうして同じような自己啓発本が手をかえ品をかえながら出版され、そのたびごとにそれなりのヒットを生むことになる。このような薬物依存的な構造が、ここ10年の自己啓発本ブームを支えているということなのだろう。
裏をかえせば、ついつい自己啓発本を買ってしまうビジネスマンや主婦たちは、普段からそれに呼応する不安や不満を日々の生活のなかに感じているということではあるまいか。昨今の不安定な国内・世界情勢から察するに、もうしばらく自己啓発本ブームの波は続きそうである。
手軽でわかりやすくなったことで読まなかった層が読むようになり本が売れたということも流行った理由にあげられると思います。
本当は読んでないんじゃないの?それとも、僕ががきんちょなだけ?
>なぜここまで自己啓発本がにん子を呼ぶのかといえば、それはこうした本が知識ではなく「高揚感」を提供してくれる効果があるからだと速水氏は分析する。
見れば分かるからじゃないですか?勘違いで書いていると思われるところは
指摘してあげた方がよいでしょうけど、単なる入力ミスならわざわざ指摘し
なくてもいいのでは。教師でも上司でもないですし、公的な文書でもないで
すし。ご本人も同じ間違いは二度しないでしょ。
そうじゃなければ、京大のしかも院にまで行ってるにしては頭が悪い文章を書いている。
学歴が院以上の人でも頭でっかちタイプに見られる様に、内容も幼稚だ。
誤字指摘どうこう以前に、こんなのを有難がって★付けたり、はてなブックマークしたりする人が多いのは問題だ。
最近特にはてなのトップページ経由で見るページのレベル低下が著しい。
「京大院生の……」なんてタイトルは自慢?
在学中から学歴をひけらかす様では後が知れてる。
親の顔が見て見たい。
そもそも、「自己啓発とは宗教である」、という表現は
おかしい。自己啓発=自己を向上させる事とすると「自己を向上させる事とは宗教である」となってしまう。
「最近の自己啓発本の中で広く信じられている思想は、宗教の教義みたいなの」という表現が最低限納得できるレベルかと。
一応言っておきますが、自己啓発本に書かれている内容の中には一種の民間信仰と化しているものがある、というのには同意してます。
単純に不安感を煽って、一時的な高揚感を提供するなら、「健康食品」や「何とかイオンの家電製品」だってそうじゃないかな。あと持つだけで先端を行く人みたいに云われていた一時期のi Phone や i Pad とか。
とにかく、自己啓発本に見られるような、ある種の精神的な営みまでを大量消費の流れの中に組み込んでしまうのは、何かすごく資本主義的だと思います。ええ、それはアメリカのTV伝道師に象徴されるメガチャーチについてもそうですよ。
なるほど、最近の自己啓発本がどんどん薄くなっているのにはそういう理由があったのですね。まぁ分厚い啓発本も最初の3章くらいの繰り返しだったりしますものね。
>mczknrts、xs4
ご指摘ありがとうございます。完全なる脱字です。恥ずかしながら修正させて頂きました。
>なまえどうでもいいけど
なんかいろいろすいません…。とりあえずブログを使った小遣い稼ぎは一切していません。
>のの
確かに自己啓発=宗教というのはかなり大雑把な言い方で、正確に言うと「ここ10年の自己啓発本ブームのルーツは宗教にある」「現代の宗教が自己啓発を布教のツールとして利用するようになった」ということだと思います。すべての自己啓発本がイコール宗教本だというわけではありませんし、また宗教だから悪いという意味でもありません、念のため。
>hamlet-r
>単純に不安感を煽って、一時的な高揚感を提供するなら、「健康食品」や「何とかイオンの家電製品」だってそうじゃないかな。あと持つだけで先端を行く人みたいに云われていた一時期のi Phone や i Pad とか。
仰る通りだと思います。ただ上にも書いたように、ここ10年間の自己啓発本ブームのルーツが(アメリカ発の資本主義的かつ右派的な)宗教にある、自己啓発が不況+宗教と相性が良い、という速水さんの指摘は重要だと考えています。
アムウェイの販売員は、常々「ポジティブ」「凄い」「感謝」「ワクワク」などを文章に多用します。
山崎拓巳という作家をご存知かと思いますが、彼の書く本は須らくアムウェイ信者のマインドコントロールに応用されています。
マルチ商法と自己啓発セミナーが両輪である事は、周知の事実なのですよ。
山崎拓巳氏は、アムウェイに続く有名なニュースキンのディストリビューターです。
マルチ嫌いな人が、その事を知らずに彼の本を絶賛しているのが少し笑えますが。
『やる気のスイッチ』のDVDで、苫米地の「ホメオスタシス同調」なるオカルト理論をもとにした自己啓発メソッドを語っていました
やっぱり自己啓発はみんな底で繋がってるんでしょうか
ちなみに、苫米地英人はインチキ自己啓発の極北だと思います
本稿最後の数節、なるほどと感じました。
自己啓発本とそのマーケティング的勝利という文脈は確かに看過できません。
出版イコール利潤追求という前提に立つなら当然の行為であるし、
出版イコール著者のセルフ・ブランディングとみるなら、
自己啓発本はまさに「かまってもらいたい」層を籠絡する、いわば名刺代わりの第一声といえなくもない。
つい先月、Amazonでこういう新刊書へのカスタマー・レビューを見つけました。
「広告メディアの失速と展開・・・[事例広告]の閃光を前にして」2011年2月23日( 評者:的場正信氏 )
http://www.amazon.co.jp/gp/cdp/member-reviews/ANDFVYJ88GRRU/ref=cm_pdp_rev_title_1?ie=UTF8&sort_by=MostRecentReview#RHDUX8DX630X7 .
この中でも自己啓発本の出版の所以(?)が言及されていますが、
「京大院生」さんと何か共通する問題意識を感じました。
個人的には、あまり「買わせやすいから自己啓発書を書く」というのは、イマイチすっきりとアグリーできませんが。
今後も示唆に富んだblogging、期待しております。
>自己啓発が、マルチ商法信者に対するマインドコントロール手法として利用されている事に言及して欲しかったな。
たしかにマルチ商法ではそのような手法がしばしば用いられているのでしょうね。
ただ誤解されがちなのですが、僕は自己啓発を一方的に批判したくてこの記事を書いたわけではありません。ときには自己啓発を自分を奮い立たせるためのツールとして使うのはアリだと思います。僕も時々やっています。ただ、その効果は一次的な高揚感によるものだ、というのが速水さんの指摘ですね。なので、自己啓発=マルチ商法という印象を与えたくはありませんでした。
>犬じろお
山崎拓巳さんは名前だけ存じていましたが、どんな主張をされている方なのかは存じあげておりませんでした。夢実現プロデューサーですか。http://www.taku.gr.jp/たしかに自己啓発的な香りがしますね。ただ繰り返しになりますが、僕は必ずしも自己啓発的な手法を批判しているわけではありませんので。念のため。
>猿三郎
僕も苫米地英人さんは苦手です(笑)たしかに自己啓発が好きな人たちどうしは仲良くなる可能性が高いと思います。その逆も然り。
>ogt_CGMA
コメントありがとうございます。
自己啓発が「かまってもらいたい」層へのマーケティングという指摘は興味深いですね。
今回の記事には僕自身のオリジナリティはほとんどなく、BRUTUSの速水健朗さんの記事を面白い!と思ったのでまとめさせてもらっただけです。本記事には大きな反響があったので、速水さんの着眼点はさすがだなと思わされました。この記事を多くの方に見ていただけたのも、速水さんにtwitterでリツイートして頂いたのがきっかけでしたし。http://twitter.com/#!/gotanda6
自己啓発や自己トレーニング類のものは、普通に考えて、一般化、商法化が
多分に含まれると思います。
(自分で書けばおそらく、わかるようになるかもしれないことですが、
多分、本を出版社を通じて出版するということ自体がそうだと思います。
マーケティング戦略という知識を知っているかどうかではなくて、現実的なプロセスを追えば、誰でもわかります。)
自己啓発の問題は、個人的には、知識に偏った教育、自分の意見を押し殺す
ような文化のせいで、
一般的な知識や単なる記号でしかない言葉を、真実であると感じてしまう、
メンタルにあるのではと考えています。
(真実は、多分、自分の実感にしか無くて、そこで生じる問題は、多分、
本を読んだくらいで解決できないというリアル感が薄い気もします。
それが分かってて買う人は、単に気休めと分かっていて分かっているんだと思いますが。)