城崎温泉

志賀直哉が「城の崎にて」を書いた城崎温泉へ行ってきた。この作品は、三木屋という旅館で書かれ、旅館は現在も営業している。志賀直哉が滞在した当時からは改装されたそうだが、外観からは趣を十分に残しているように見えた。志賀が執筆した部屋も現存していて、宿泊客であれば見学できる。
【三木屋】 http://www.kinosaki-mikiya.jp/

賑やかな表通りから一本奥に入った「木屋町通り」は、志賀直哉与謝野晶子も歩いた通りだそうで、静かで人通りも少なく、清らかな小川が緩やかに流れて虫の声も微かに聞こえて、心落ち着く雰囲気だった。私は川べりにあった三木屋近くのベンチに座って、この作品を読んだ。

「城の崎にて」は、洞察が深くて私も好きな作品だ。日本の名短編のひとつだと思う。志賀直哉の、死と生の境を曖昧にくゆらすこの小説を読みながら通りを眺め、いのちを産み、愛あるなかに育てる人生というものを思った。

温泉街の外湯は7ヶ所あり、私は「御所の湯」 に入った。滝の落ちる音を聞きながら湯に入り、この季節に、この町に来られて本当に良かったと思った。改装中の城崎文芸館を見学できなかったことと、地ビールを飲まなかったことが少し心残りだった。再び訪れることは、あるだろうか。