世界樹の迷宮 二十一階

ディスプレイに表示された第五層の名前を見て、思わず唸った。いままでストーリーはほとんどなく、たまにあっても読み飛ばしてきて、ただダンジョンの地図作りのみに力を傾けてきたというのに、その名前を見ただけで、世界設定や長の意図や時代背景などを一気に想像させられてしまった。まったく思いもよらなかった意味のある名前に直面して、それを理解するために辻褄の合うストーリーや設定を頭の中で急ピッチで作り上げていったという感じだ。名前を引き金に急速に内から広がるストーリー、真相。これは楽しい。ひとつの名前にここまで揺さぶられるとは。
マップの変化もおもしろい。3DダンジョンRPGというのはマス目による直線的なマップを探索するものだから、世界樹の中という曲線的な見た目の場所は舞台としてあまり相応しいとは思えなかったんだけど、それが第五層で一転して、直線的な構造の、3Dダンジョンに相応しい場所に変化した。さらに、第四層とは違って第五層には仕掛けの類がなく、形も単純なので、まさにスタンダードな3Dダンジョンといった按配で、「第五層こそがこのゲームの本来の舞台なのだなあ」という気持ちになった。
名前とマップの構造というダンジョン探索に付随するものでストーリーまで語ってしまうなんて驚きだぜ。人は何も語っていないのに。
ところで、いま思えば、複雑な第四層というのは、第五層のカタルシスのための抑圧なのだから、それに面倒くさいなどと文句を言っていたおれはお預けをくらった犬さながらであって、アトラスの手腕で踊らされていた愚かな畜生に過ぎないというわけだな。ああ、おかげで第五層が楽しいよ。愉快じゃ愉快。終わりまであと少し、最後まで踊ったる。