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xenothの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-06-10

ガイギャックスとトールキン

しばらく前に、D&Dのデザイナー、つまりTRPGというジャンルの創始者の一人であるガイギャックスと、文学性について考えたことがありました。

お返事お待ちしてます - xenothの日記

その後、少し調べ物が進んだので、それを報告するものです。


さて発売当時のD&Dが、「指輪物語」人気に乗った作品であり、指輪ファンも熱狂的に遊んだことは事実である一方で、事はそう単純ではありません。

一つは、きちんと許可をとった製品ではないので、指輪物語の固有名詞使用に関して、トールキン財団とのやりとりがあり、結果としてホビットがハーフリングに変更されるなどの権利問題があったと言われています。*1

もう一つは、ガイギャックス本人が、あまり「指輪物語」を好きでなかったと述懐していることです。

このことについて、Wikipediaで調べると、Dragon誌にD&Dとトールキンに関するガイギャックスの記事があることがわかりました。

Dungeons & Dragons - Wikipedia

そのテキストを発掘してきたので、抜粋訳を紹介します。

D&DとAD&Dに関する、J.R.R.トールキンの影響について〜なぜ中つ国がゲーム世界の一部でないか〜

The influence of J. R. R. Tolkien on the D&D® and AD&D® games

Why Middle Earth is not part of the game world

by Gary Gygax

以下、抜粋訳。正確を期すために、英文も引用します。

(トールキンの影響力について)

 よくされる質問(あるいは質問もせずに決め付けられること)に、ロールプレイングゲームのD&D、AD&DにおけるJ.R.R.トールキンの影響力がある。その質問に対する答えは複雑なもので、二つに分かれている。トールキン教授のファンタジー作品が人気を博したことで、私も自分なりのファンタジー世界をつくろうと志した。一方、私の作品に、トールキン作品の影響はいくつか断片的かつ曖昧に反映されているものの、私自身は彼の影響力は全体としてごくわずかだと考えている。

A frequently asked question - or assertion,in the case of those who don't bother to ask - deals with the amount of influence of J. R. R. Tolkien on the creation of the DUNGEONS & DRAGONS® and ADVANCED DUNGEONS & DRAGONS® role-playing games.

The answer to the inquiry is complex, for there are two parts. The popularity of Professor Tolkien's fantasy works did encourage me to develop my own. But while there are bits and pieces of his works reflected hazily in mine, I believe that his influence, as a whole, is quite minimal.

(影響を与えた作家について)

 両方のゲーム(訳注:D&DとAD&D)を詳細に分析すれば、大きな影響は、R.E.ハワード、スプレイグ・ド・キャンプフレッチャー・プラット、フリッツ・ライバー、ポール・アンダーソン、A.メリット、ラブクラフトであることがわかるだろう。それにつぐ影響は、ロジャー・ゼラズニー、E.R.バロウズマイケル・ムアコックフィリップ・ホセ・ファーマー、そしてその他多くである。

A careful examination of the games will quickly reveal that the major influences are Robert E. Howard, L. Sprague de Camp and Fletcher Pratt, Fritz Leiber, Poul Anderson,A. Merritt, and H. P. Lovecraft.

Only slightly lesser influence came from Roger Zelazny, E. R. Burroughs, Michael

Moorcock, Philip Jose Farmer, and many others.

(指輪物語について)

ホビットの冒険は大変楽しんだのだけど、指輪物語三部作は……うーんと、退屈だった。

Though I thoroughly enjoyed The Hobbit, I found the Ring Trilogy ... well, tedious.

(内容の影響について)

ファンタジーアクション冒険小説として見た場合、トールキンの作品はダイナミックじゃない。ガンダルフは、たいしたことはない。時々剣を振るって、時々(D&Dの基準からすると)低パワーの魔法を使うだけだ。

 見ればわかる通り、ガンダルフもガンダルフの魔法もD&Dにはほとんど影響を及ぼしていない。

Considered in the light of fantasy action adventure, Tolkien is not dynamic.

Gandalf is quite ineffectual, plying a sword at times and casting spells which are quite lowpowered (in terms of the D&D® game).

Obviously, neither he nor his magic had any influence on the games.

ちなみにガイギャックスではないですが、Dragon誌#5に、「ガンダルフは、5レベルマジックユーザーだ!GANDALF WAS ONLY A FIFTH LEVEL MAGIC-USER」なんていう楽しい記事もありました。初期のフリーダムな空気が伝わってきます。日本のTRPG雑誌とかでも、昔よくありましたね、こういう考察。*2

この他、サウロンキャラ立ってないよね、とか色々楽しい話があり、オークやトロール、エルフドワーフ、ハーフリングといった種族について、本来の民話での姿、トールキンの独自解釈とD&Dにおける設定についての比較が進められてゆきます。


(指輪物語の利用について)

 ゲームに見られる類似や影響は、どっちかといえば、当時のトールキン作品の大ブームを、資金化しようと研究した結果である。はっきりいうなら、そうしたトールキンの読者を引き寄せるために、また、プロトタイプのD&Dを遊んだプレイヤーたちからの求めもあって、一部の名前と設定を、注意を引き寄せるためだけの目的で、表面的に取り込んだ。

The seeming parallels and inspirations are actually the results of a studied effort to capitalize on the then-current craze for Tolkien's literature.

Frankly, to attract those readers - and often at the urging of persons who were playing prototypical forms of D&D games - I used certain names and attributes in a superficial manner, merely to get their attention!

(実際のプレイについて)

D&Dとトールキン作品の両方をよく知っている人間ならすぐわかる通り、二つの作品に共通点はないし、D&Dのゲームシステムの範囲でトールキン的なファンタジーを遊ぶことは不可能に近い。

As anyone familiar with both D&D games and Tolkien works can affirm,there is no resemblance between the two,and it is well nigh impossible to recreate any Tolkien-based fantasy while remaining within the boundaries of the game system.

お茶目なガイギャックスさん

相当なぶっちゃけぶりに驚いたのではないでしょうか。私も読んで腰を抜かしました。


もちろん、これらは単純にそのまま受け取るだけではなく、当時の状況や背景を振り返る必要があります。

一つには、先に述べた通り、D&Dには指輪物語との権利問題が絡んでいたところ。

仮にガイギャックスが「指輪物語をリスペクトしています」と思っていたとしても、公式には、そう書けなかったのかもしれません。


また日本でもあった問題ですが、当時のD&Dにおいて「指輪物語では○○の設定が××だからD&Dでもこうだ/こうでないのはおかしい」的な議論が、よく起きていたわけです*3

それらに釘を刺す意味で、「D&Dと指輪物語は別物だから一緒にしてはいけない」と発言する必要性もあったでしょう。


一方で、そうしたD&Dの独自性を主張するだけなら、もう少し他の書き方もある気はします。

2008年のインタビューでも、やっぱり「指輪物語はトロい」とおっしゃってるので、そのへんは一貫した感想なのではないかと思います。

no title


もちろん、指輪物語への態度は、ガイギャックスの文学全体への態度を表すものではありませんが、D&Dというゲームにおいては「ファンタジーアクション冒険小説」の部分を大切にしたというガイギャックスの姿勢は、今の私たちにとって共感できるものです。

また、この記事であげられた影響を受けた作家達の作品を検討することも重要でしょう。

ファンタジーと現代性

ガイギャックスが書いているように、(この記事執筆当時の)D&Dは、戦闘と成長がメインのゲームであって、「トールキン的なファンタジーを遊ぶことは不可能に近い」と言っていいでしょう。


D&Dは戦闘と成長がメインである以上、主人公達は成り上がりであり、戦闘を通じて、どんどん強大な力を得て行くことになります。

対する指輪物語は、王家の血筋を引くものが復権する物語であり、戦いによって多くのものが失われ、最終的には一つの神話が終わって魔法の力が世界から失われる物語です。

相反していますね。

ではD&Dに向いている物語は、どんな物語でしょうか?

R.E.ハワード、スプレイグ・ド・キャンプ&フレッチャー・プラット、フリッツ・ライバー、ポール・アンダーソン、A.メリット、ラブクラフトであることがわかるだろう。それにつぐ影響は、ロジャー・ゼラズニー、E.R.バロウズ、マイケル・ムアコック、フィリップ・ホセ・ファーマー

D&Dに影響を与えたとされる、これらの作家群を見て、xenothが感じるのは、ファンタジー性と現代性の同居です。


ヒロイックファンタジーのジャンルを切り拓いたハワードのコナンは別格として、フリッツ・ライバーの二剣士シリーズは、(異論はあると思いますし作品ごとにも違いますが)中世的、ファンタジー的な性格もあると同時に、非常に現代的な部分があるお話です。

「ランクマーの夏枯れ時」は、ハリウッドのショービジネスを舞台にしたとおぼしき新興宗教ビジネスの話で、ファファードが祭壇を抱えて、ヒットチャートを文字通り、登ったり下ったりする中で、裏で宗教マフィアみかじめ料取立てに暗躍するという現代人にも親しみが持てる皮肉な面白さがあふれた作品です。

スプレイグ・ド・キャンプとフレッチャー・プラットの代表作は、「ハロルド・シェイシリーズ」で、これは現代人がファンタジー世界に移動して、文化人類学の知識で大活躍するといった作品。

ポール・アンダーソンの、「魔界の紋章」や「魔王作戦」(こちらは、D&Dの発売とほぼ同時期ですが)といった作品群も現代人+ファンタジー設定です。

ゼラズニーやムアコックも、現代人的な視点と神話的な視点を混ぜる面白さで知られています。


D&Dを遊ぶ際、結局のところプレイヤーは現代人なので、ファンタジーキャラとして遊びつつも、キャラクター、ロールプレイに、当然、現代人的な側面も当然出てくるし、それでいいんだ、というのはxenoth的には、しっくりくる理解です。


これは限られた資料から導いた意見に過ぎないので、不充分な、牽強付会に近いものではあると思います。資料を増やした、より一層の研究が待たれるところです。*4

せめぎあい

私も覚えがありますが、D&Dが指輪に向かないシステムである上で、「無理矢理、指輪物語をやりたがった」プレイヤーも、また沢山いると思います。


そうした意志や結果が、やがてフィードバックされ、指輪物語的なゲームも遊べるTRPGが様々な方面から生まれてきます。

アラゴルンをやりたいから*5、ロストロイヤル*6や、レクスコロナのアルカナ*7や、その他様々なルール、システムが生まれたわけです。本家D&D自体にも、そうした試みは数多くあります。


そうした試みは、無論、最初から全部成功したものばかりではなく、無茶だったり、とってつけたようであったり、やりたいことはわかるんだけどプレイするのが大変だったりするものもありつつ、徐々に磨かれて、よりよくなってきたわけです。


そうやって新しい世界が生まれる一方で、アクションいっぱいの冒険やりたいよね、というガイギャックスの気持ちも大切ですよね。

元々のD&Dのコンセプトである、コナン的な、成り上がり冒険譚の面白さも、時とともにますます磨かれてきています。


遊びたい人が遊ぶことによって、TRPGの裾野が今後とも増えることを望みたいものです。

*1:ただしこれは通説で、実際にトールキン財団ともめたかどうかの、証拠は探せませんでした。あるいは規模が大きくなったことで、D&D側が自粛したのかもしれません。

*2:念の為に書き添えるなら、これはD&Dの基準で指輪物語の魔法を測ってはいけない、ということだと思います。それはそれとして、こういう身も蓋もないツッコミや、色々な物語をとにかくRPGシステムで解釈する遊びは、楽しいものですよね。

*3:Dragon#41 の読者コーナーでも、ドワーフ女性には髭があるか? という懐かしい議論が、トールキンの記述と絡めてされています。

*4:たとえばメリットやラヴクラフトなどの幻想・怪奇系の影響がどこにでてるかは興味があるところです。

*5:より正確に言うならば、アラゴルンの物語は貴種流離譚の一つに位置づけられるもので、これらのシステムもアラゴルンだけを意識したものではないでしょうけれども。

*6:『ローズ・トゥ・ロード』の種族。上古の血を引くもの

*7:コロナは『ブレイド・オブ・アルカナ』のアルカナ(クラス)の一つで王や王族、貴族を表す。同ゲームでは、過去・現在・未来に合わせて3つのアルカナを設定するので、「過去、王家であったが王座を失ったもの」や「未来に王となる運命の者」などを作れる。※指摘いただいて修正。レクスは、追跡者でした。

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