瑞々しく、優しく、幸せな“似たもの同士”達の日々 - 「この靴しりませんか?」

仙石寛子水谷フーカの単行本が発売とあっては、一時的にでも復活せずにはいられないな!(2回目)
という訳で、前回は「三日月の蜜」(仙石寛子)感想を書いた。
[仙石寛子][4コマ] 丁寧にありのままに描かれる移り行く想い、変わらない想い、純粋な想い - 「三日月の蜜」
そして、本日10/12は、「この靴しりませんか?」&「うのはな3姉妹」(水谷フーカ)の同時発売日!!
そこで、今回は「この靴しりませんか?」の話、次回は「うのはな3姉妹」の話!


「この靴しりませんか?」は、今年7月に「GAME OVER」で脚光を浴びた水谷フーカ初のつぼみコミックス。
この靴しりませんか? (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)
『つぼみ』掲載の読み切り作品5本と描き下ろし2本を収録。
登場人物それぞれの何気ない日々,青春,友情,恋愛(?)模様が、水谷フーカらしさで彩られる。


  • 表題作「この靴しりませんか?」
    虫歯治療のために久々に外出した在宅ワーカー:千晶は、歯医者で誰かに靴を片方だけ履き間違えられてしまう。
    靴を返してもらおうと日々奮闘する内に、千晶は、その“靴子さん”が気になり始めて…。
    英語の副題 "Like a cinderella" が示す通り、水谷フーカ版シンデレラ?
  • 全員集合な表紙
  • 「オオカミの憂鬱」
    エレベーターガール:桜井嬢は、自身の美貌であらゆる女性を魅了することが毎日の楽しみ。
    しかし、ある日エレベーターに乗って来たゴスロリ服の少女は、桜井嬢のことなど歯牙にも掛けず…。
    作者の前作品「GAME OVER」を彷彿とさせる愛しい戦いの一幕。
  • 「わたしのアヒルの子」
    親鳥白鳥のように美人で人気者:美加と小鳥アヒルのように暗くて地味な千穂は、いつも一緒の幼馴染。
    けれど、学祭を前にして唐突に、千穂が独り立ちをしようとある決心をして…。
  • 全員集合な裏表紙
  • 雪の女王
    人見知り一匹狼の看板女優:河合マナ、今回の舞台の相手役は見知らぬ客員役者:広木翔子。
    マナは最初こそ戸惑うも、共に舞台が大好きな2人はどんどん仲良くなっていく。
    しかし、順風満帆に思われたマナの演技には、ある異変が…。
  • 「はみだし音楽隊」
    四人四色の事情でないがしろに扱われている吹奏楽部補欠4人衆。
    ある日、唯一自分達に優しく接してくれていた副顧問:門野先生の寿退社が決まる。
    先生へのプレゼントに最高の演奏を、と“はみだし音楽隊”を目指して多忙な雑用の合間に奮闘するが…。
  • その他、描き下ろし2編(後日談&サイドストーリー)とあとがき収録。


あらすじや内容を一見した限りでは、各作品の登場人物達は、てんで似ていない。
そして、どの作品でも自分にないモノを持っているから、相手に惹かれるという面はあると思う。
でも、読んで行く内に、それぞれが実は“似たもの同士”だから惹かれている所もあるんじゃないかなぁと。


「この靴しりませんか?」では、千晶・靴子さん共に、まだ見ぬ相手にどんどん惹かれ、毎日が色付いていく。
「オオカミの憂鬱」では、桜井嬢・ゴスロリ娘共に、相手が敗北を認め、自分に振り向くまで果敢に攻める負けず嫌い。
「わたしのアヒルの子」では、美加・千穂共に、お互いに相手のためを想って一人立ちしようと試みるけれど、やっぱり二人一緒が自分達にとっての最高の関係。
雪の女王」では、マナ・翔子共に、役の自分と本当の自分の境界線が曖昧になる程、強く強く芝居を愛している。
「はみだし音楽隊」では、実は4人全員が、自分の想いが報われなかったとしても、誰かの幸せを真摯に願い、全力で頑張り抜く。


更に、この“似たもの同士”な関係を彩るのが、水谷フーカらしさ
キラキラを凝縮させたような瑞々しさ。
おとぎ話のような柔らかくて優しい雰囲気。
コロコロ変わる豊かな表情。
絶妙なタイミングでの赤面 etc.
この水谷フーカらしさの調和で、どの作品にも心地良く惹き込まれるのだろうなぁと。


圧倒的幸福感やニヤニヤ笑顔が間違いなしで、読書(漫画含む)の秋にマストバイの一冊。
ちなみに、描き下ろし2編も読み応え十二分&表紙を捲った時の仕掛けも素晴らしいので、『つぼみ』で掲載作品を読んでいた人にも是非是非。
そんな全力のオススメの言葉と共に、本日は締め。
次回は、また一味違った魅力を持つ「うのはな3姉妹」の感想をお届け!


【当ブログ関連感想】
[水谷フーカ][楽園] 互いを想い合うからこその“対等であろうとする関係” - 「GAME OVER」
水谷フーカに心打たれたキッカケで、今回感想を書いた「この靴しりませんか?」と同じくらいオススメだったり。
未読の人は、「この靴しりませんか?」と「うのはな3姉妹」の2冊同時発売の所、「GAME OVER」を加えて3冊購読して幸せ無限大に!



以下、描き下ろし「金の靴、銀の靴」について。
※描き下ろしの“サイドストーリー”につき、特におまけ&ネタバレ度が高いので、一応伏せ。
英語の副題は "The Honest Princess" で、靴子さんから見た「この靴しりませんか?」のサイドストーリー。
本編でほとんど全てが謎に包まれていた靴子さんは、実はお嬢様。
と言っても嫌味な人物ではなく、凛とした態度、誠実な気持ちを持つ、まさしく姫君。


そんな靴子さんは、偶然靴を履き間違えた日から、その靴のことについて考えずにはいられなくなってしまう。
そして、他のことが疎かになるくらいに、靴探しに没頭するようになる。


どうして自分はこんなにも靴を見付け出したいと思うのか?
その答えが分からず、悶々とした気持ちを抱えていた彼女は、ある日遂にあのポスターに辿り着く。
そこで、彼女は楽し気に思い切り笑って、自分の本当の気持ちに気付いてこう語る。
分かったわ
わたし 靴なんていらないの
「この子に会いたいのよ」
このラスト数ページの流れは、本当に圧巻の一言。
幸福感と感心の気持ちが混ざって溢れてきて、読む度に圧倒されて、何度でも涙が零れそうになる。


前単行本「GAME OVER」(特に描き下ろし最終話)でも思ったけれど、水谷フーカの魅せ方の上手さには、惚れ惚れを通り越して、ただただ感服。