実録 亞細亞とキネマと旅鴉 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

24-11-2007 (Sat) 第8回東京フィルメックス第八日(参加5日目)

[]『最後の木こりたち(木幫)』(于廣義)[C2007-18] 『最後の木こりたち(木幫)』(于廣義)[C2007-18]を含むブックマーク 『最後の木こりたち(木幫)』(于廣義)[C2007-18]のブックマークコメント

朝から出京。有楽町イトシアにあるイタリアンバール、BARISSIMOでカフェマキアートをひっかけてから有楽町朝日ホールへ。今日の一本目、東京フィルメックス七本目の映画は、于廣義(ユー・グァンイー)監督の『最後の木こりたち』。『ドラマー[C2007-15]に続く、李心潔(アンジェリカ・リー/リー・シンジエ)ご出演映画。いや、ピンナップだけですが。

黒龍江省の木こり(樵と書くほうがふつうではないだろうか)を描いたドキュメンタリー最近注目度の高い中国ドキュメンタリーなので迷わず観ることにしたものの、「木こりのドキュメンタリーなんておもしろいのか?」という疑問も当然わく。ところがこれが滅法おもしろく、また心を揺さぶられた。

村の家を出発して山の中の伐採地へ赴くところから、ふたたび村へ戻るまで、木こりたちのひと冬を描いたもの。村から伐採地までは馬につけた橇などで4時間ほどの距離だが、旧正月休み以外は伐採地に作った小屋のようなところで共同生活をしている。映画は、木を切ったり切った木を運んだりといった労働の様子から、ごはんを作ったり酒盛りをしたりといった日常生活まで、木こりたちの毎日を写していく。必要最小限の説明がごく稀に入るだけで、インタビューは全くない。木こりの仕事に関するデータ的な説明もない。登場する木こりたちの名前も、ある木こりと別の木こりとの関係も一切説明されない。時が経つにつれて、なんとなく一人の聾唖の男性が中心になっていくが、最初から主要な人物が設定されているわけではない。わたしたちも彼らと一緒にひと冬を過ごしたような、そんな気になる映画であり、データ的なことは全くわからなくても、彼らの生活が具体的な実感としてよくわかる。

黒々とした木と雪景色コントラスト、白やこげ茶色の馬、地味な男たちの服装。カラーであるが、伐採地の様子はまるでモノクロ映画のようである。そこに挿入される新年を祝う映像の鮮やかな色彩が、ひときわ引き立っている。ひと冬のあいだに、少しずつ季節が移っていくさまも興味深い。そして何より心を動かされるのは馬である。伐採地は山の中なので、トラックが入れる場所までは伐採した木を馬で運ぶしかない。馬なくしては全く成り立たない仕事だが、重い材木を無理やり引かされる馬は、あるものは衰弱して倒れ、あるものは怪我で弱って別の馬と交代し、あるものは事故で死ぬ。馬を亡くした男たちの悲痛な表情には、馬に対する愛情だけでなく、金銭的な損失の痛手も含まれている。そして死んだ馬は肉となって彼らの胃袋を満たす。

昼間の外での作業の様子は少し距離を置いて淡々と、夜の屋内での様子は近いところから生き生きと撮られている。初日のところでは、多少カメラ意識している様子や、キメのところでカメラ目線になる(それはそれでおもしろかった)のが見られるが、その後はカメラはほとんど意識されていない。木こりたちと寝食をともにしながら、監督がほとんどひとりで撮り上げたということで、このようなことが可能になったのだろう。

上映終了後、于廣義監督ゲストにQ&Aが行われた。森林資源の枯渇により、この地での森林伐採がこの年(2005年)を最後に禁止されることを知った監督が、木こりたちの生活を残しておきたいという動機で撮った映画らしい。ドキュメンタリー運動などとは無縁のところで独力で作ったようで、作った当初はどうやって人に見せればいいのかわからなかったと言っていた。もともと版画家だということだが、すごくはっきりわかりやすく話す人だった。

[]築地本願寺 築地本願寺を含むブックマーク 築地本願寺のブックマークコメント

ごはんは、すごく久しぶりのデリー(公式)。どうして行かなくなったのかよく憶えていないが、久しぶりに行ったらやっぱりおいしかった。[食]カテゴリーで紹介したいけれど、がっついていて写真を撮るのを忘れたのでまた今度。

食後は築地本願寺(左写真)(公式)へ散歩に行く。伊東忠太設計、1934年竣工のこの建物はかなり好き。中に入って動物めぐりもする。

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それから、境内にできたカフェCAFE DE SHINRAN(右写真)(公式)でコーヒーを飲む。築地本願寺の境内にカフェができたと聞き、ぜひとも行ってみなければと思って来たのだが(実は昨日も来たが、お休みだった)、片隅にぽつんと建っていて、お寺の中にあるわけではない。お寺との関連を思わせるのは名前だけで、築地本願寺風のデザインでもなければ、店内に伊東忠太動物が棲んでいるわけでもない。

ここは「ソトコトが運営するロハスカフェ」で、わたしはロハスにはそれなりに賛同するが、ソトコトは買ったことがない。自然素材がウリのようだが、底冷えしそうなトイレには専用のエアコンがあって、26℃だったか、すごい温度設定になっていたのが非常に気になった。コーヒー機械淹れで別に美味くはなかったが、ごはんは一度食べに行ってみたい。

[]『私たちの十年(我們的十年)』(賈樟柯)[C2006-S] 『私たちの十年(我們的十年)』(賈樟柯)[C2006-S]を含むブックマーク 『私たちの十年(我們的十年)』(賈樟柯)[C2006-S]のブックマークコメント

今日の二本目、東京フィルメックス八本目の映画は、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の『私たちの十年』。次の『東(Dong)』がメインプログラムで、これはおまけの10分足らずの短篇。“南方都市報”(公式)の十周年記念で依頼されたものらしい。

舞台列車車両田原(ティエン・ユェン)が趙濤(チャオ・タオ)と同じ車両に乗り合わせるというシチュエーションが、十年にわたって何度か繰り返される。十年のあいだの変化は、田原が趙濤を写す道具(スケッチブックカメラポラロイドカメラつきケータイ)、人々のファッション、趙濤の連れなどによって表されている。趙濤の夫役は『プラットホーム[C2000-19]の梁景東(リャン・チントン)(だよね?)。具体的な年代を表すものはSARSしかわからなかったが、ほかにもあったのだろうか。家族が増えていった趙濤がふたたび一人になるのは、果たしてSARSのせいなのか、それとも中国家族観の変化を表しているのだろうか。

各時点のあいだに挿入される線路のショットが印象的。南方都市報は廣州の新聞社のようだが、この景色は南方には見えなかった。田原賈樟柯に出たと聞いて楽しみにしていた映画だが、期待に違わず田原はすごくかわいかった。彼女は本当に不思議な魅力がある。日本では(その筋の人にのみだけれど)けっこう有名な彼女だが、中国では無名とのことで、賈樟柯はなかなか目が高い。

[]『東(Dong)(東)』(賈樟柯)[C2006-43] 『東(Dong)(東)』(賈樟柯)[C2006-43]を含むブックマーク 『東(Dong)(東)』(賈樟柯)[C2006-43]のブックマークコメント

今日の三本目、東京フィルメックス九本目の映画は、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の『東(Dong)』。画家、劉小東(リュウ・シャオドン)を描いたドキュメンタリーである。劉小東は、王小帥(ワン・シャオシュアイ)監督の『ザ・デイズ(冬春的日子)』[C1993-64]に主演していた人。天安門事件後の閉塞的な空気のなかで、やがて精神バランスを崩してしまう美術教師を演じていた。そのためこの映画は、「その後彼は病を克服し、今は画家としてこんなに立派に活躍しています」というストーリーに見えてしまう。もちろん違うけれど。

舞台は、前半が三峡で、後半がバンコク。劉小東は、三峡では解体労働者たちの、バンコクでは娼婦たちの、いずれもかなり巨大な群像画を描く。劉小東が絵を描いているところをメインに、時おり彼のインタビューが挿入されている。しかしそれだけではない。カメラは次第に絵から離れ、モデルたちの生活の中に入っていく。そこがこの映画の魅力である。三峡では、劉小東が事故死した労働者家族を訪ねるのに伴って、遺族たちを映し出す。バンコクでは、娼婦のひとりが故郷での洪水を知って帰省しようとするところを追う。三峡のシーンでは劉小東自身が遺族を訪ねるので、まだ劉小東を描いているといえるが、バンコクのシーンではカメラは劉小東を離れ、彼を置いてきぼりにして終わってしまう。劉小東を描くドキュメンタリーとしてみると、構成は破綻しており、劉小東の魅力が描かれているともいえない。しかしながら、全体としては破綻しているところが魅力で、魅力的なショットの多くは劉小東とは関係がない。劉小東といい、馬可といい、名目上の主役はほとんどダシに使われるだけのようで、よほど人間が大きくないと賈樟柯ドキュメンタリーには出られない。「オレを撮ってよ、オレ、オレ」みたいな人はダメである。

三峡の部分からこの後『長江哀歌』[C2006-21]派生していくことになるのだが、カメラが人々を生き生きと映し出すところにその萌芽のようなものが見られる。驚いたのは最初からしっかり韓三明(ハン・サンミン)がいたことだ。賈樟柯ドキュメンタリーに演出があり、フィクションドキュメンタリーの境界があいまいであることは、賈樟柯自身『無用』のQ&Aで認めていたが、最初から韓三明を連れて行ったのだとしたら、その意図などを聞いてみたいところである。

この映画で惹かれたのは、すでに『長江哀歌』で堪能した三峡よりも、どちらかというとバンコクだ。タイ映画はそれほど観ていないし、現代のバンコクの街の映像というのはほとんど観た記憶がない。この映画では、広い通りは台北のようで、夜の繁華街香港のようだった。とにかく、「暑い賈樟柯」自体、初めてである。駅へ向かう娼婦を追っていくときの、夜の街や駅の構内の蒸し暑そうな感じが、やけに印象的だった。

[]『アンジェラマオ 女活殺拳(合氣道)』(黄楓)[C1972-23] 『アンジェラ・マオ 女活殺拳(合氣道)』(黄楓)[C1972-23]を含むブックマーク 『アンジェラ・マオ 女活殺拳(合氣道)』(黄楓)[C1972-23]のブックマークコメント

ここまで中国映画を観て、これから香港映画というときは、やっぱり中華でしょう。ということで天津飯店で晩ごはん。そのあとの、今日の四本目、東京フィルメックス十本目の映画は、黄楓(ファン・フェン)監督の『アンジェラマオ 女活殺拳』(goo映画)。

アンジェラ・マオ 女活殺拳 [DVD]

アンジェラ・マオ 女活殺拳 [DVD]

有楽町朝日ホールは、ただでさえ椅子がボロいのに舞台前はさらにボロいので、舞台前は避けて前方席を取っている。しかしここからはすでにスクリーンがかなり遠い。しかも段差がないので、前に来る人の座高が生死を分ける。この映画DVD素材だから絶対に字幕は下なのに、前には岩のようにデカい男が…。上映前に茅瑛(アンジェラマオ)の舞台挨拶があり、結婚披露宴のように派手に登場。もうばあさんなのかと思っていたらまだ若々しく、とっくに引退しているとは思えない華やかな雰囲気。前の岩男は立ち上がらんばかりのフィーバーぶりで、茅瑛さんが見えません…。

冒頭の舞台日本統治下の朝鮮。いきなり『唐獅子牡丹』がインストで流れてのけぞるが、悪徳日本人BGMとして使うのはやめて。中国から合気道修行に来ていた美しいヒロイン、茅瑛=藤純子、ちょっと気が弱い気味の兄弟子、黄家達(カーター・ワン)=大木実無鉄砲脳味噌なしの弟弟子、洪金寶(サモ・ハン)=長門裕之の三人は、日本人に目をつけられて身の危険が迫ったため、中国へ帰って滄州で道場を開く。しかしこの街にも悪徳日本人がのさばっており、日本人が館長の黒熊武館という道場の門弟たちが非道の限りをつくしていた。ここの館長が九段吾郎(この人は大映俳優ですか?)=若山富三郎、一番強い弟子が白鷹(パイ・イン)=天津敏。お竜はん主演なのに若山富三郎が敵役なのはおかしいが、顔がそっくりなのでしかたがない。それに実際強そうなので、金子信雄や安部徹では役不足である。黒熊武館のいやがらせにも、合気道師匠、池漢載(チ・ハンサイ)の‘忍’の教え(脳内メーカーのように‘忍’の字が並ぶ師匠の部屋には笑った)を守って我慢しようとする三人だが、黄家達は手を不自由にされ、洪金寶は殺されて、ついに茅瑛の怒りが爆発する。そこへ朝鮮から兄弟子、黄仁植(ウォン・インシク)=高倉健助っ人に来て、ふたりで黒熊武館へ乗り込んで敵をやっつける、というのがおおまかなストーリー。せっかくのヒロインものなのに、ロマンスの香りがぜんぜんないのが淋しい。

当時の香港俳優には詳しくないが、このメンツで誰を応援するかといわれれば、そりゃあ白鷹でしょう。『迎春閣之風波』[C1973-21]や『忠烈図』[C1975-23]ではいい役だったが、『血斗竜門の宿』[C1967-22]では悪役で、この映画もそう。しかも日本人の手下だから応援したくはないが、強さもかっこよさも際立っている。

この時代の香港映画を観ていていちばん物足りないのは、敵役はみんな最初から最後まで悪役で(一度漢奸になったら更生の道はない、という価値観の表れか?)、設定が単純すぎるところ。ここは東映任侠のように、途中からこちらにつく人がいてほしい。この映画では、日本人の道場の門下に中国人がいるのだから、そのような設定にはお誂え向きである。たとえば、なんらかの事情で黒熊武館に身を寄せてはいるが、日本満洲への侵略に怒りをおぼえ、日本人館長の横暴に心を痛めている男がいる。彼は実は黄家達の幼なじみで、二人はある日偶然再会する。あるいは、反目する道場の人間とは知らずに街で茅瑛と知り合い、蜜柑を拾ってあげたりしてひそかに恋に落ちる(こっちのほうがいいわね)。そんな役はもちろん白鷹である。悪役なのでやむなく天津敏をふったが(天津敏は天津敏で好きだけど)、本当は池部良のほうがぴったりだ。

こんなどうでもいいことを考えても考えなくても、アクションを思いっきり堪能する楽しい映画で、夜の上映にはぴったりだった。今年のわたしのフィルメックスはこれでおしまい

yuzukiri815yuzukiri815 2007/11/27 23:10 はじめまして。いつも楽しみに読ませていただいております。
白鷹=天津敏、というのに膝をたたきまくりです。この人のかっこよさをなんとあらわしたらいいのだろうと思ってました。
あのように二枚目なのに徹底してただ悪役、っていうのも確かにちょっともったいないような気もします。

xiaogangxiaogang 2007/11/28 23:09 yuzukiri815さん、はじめまして。
わたしとしては苦渋の選択でしたが、膝をたたいていただき、ありがとうございます。

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