バンガロールに来ちゃったの(実録亞細亞とキネマと旅鴉) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

17-01-2009 (Sat) 熱海旅行第一日

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毎日寒くて生きていくのがイヤになりそうなので、今週末は温泉へ行くことにした。わたしは伊豆長岡に行きたいと主張したが、J先生は「雪が降りそうなところはダメ。湯河原、熱海、伊東」と言う。それならということで、あえて最も俗っぽい熱海を選ぶ。

熱海は2002年春につづいて二度目。熱海といえば『東京物語[C1953-01]が撮影された聖地である。しかしロケ地めぐりは前回やったので、今回は何もせず、温泉につかってのんびりするつもりだった。そんなとき、ふと思い出す。伊豆方面へ行くとき、山の上に束の間見える「秘宝館」のことを。いつも妖しくわたしを呼んでいる、あの看板のことを。

「そうだ、憧れの秘宝館へ行かなければ」。そう思い始めたとき、もうひとつ思い出したものがある。村上春樹吉本由美都築響一共著『東京するめクラブ 地球のはぐれ方』[B776]である。

東京するめクラブ 地球のはぐれ方 (文春文庫)

東京するめクラブ 地球のはぐれ方 (文春文庫)

これは前回の熱海訪問よりもあとで出て(2004年)、「熱海にはこんなに魅力的なスポットがあったのかぁぁぁ」と、わたしを地団駄踏んで悔しがらせた本だ。あらためて読み直してみると、秘宝館はもちろんのこと、村上春樹が熱く紹介する風雲文庫なる場所へ行かねばならぬ。その紀行文『風雲文庫 カフカエスクな妄執の迷宮』(『地球のはぐれ方』pp. 103-111)は、文体からして気合の入り方が違う。ほとんど小説の文体なのだ。そのあとの『熱海ナイトクルーズの密かな悦び』とは全然違っている。

そんなわけで、富士山がでっかく見える(下左写真)絶好の行楽日和の今日、熱海へと出発する。昨日の夜までほとんど準備をしていなかったうえに、朝から掃除や洗濯やCD作成などをしていたため、出発は遅れて10時近くになる。最近ほとんど渋滞がないのは不景気のせいだと思っていたが、単に時間が早かったからなのか、今日はふつうに渋滞。進まなくて困るほどではないが、いつもの場所でいつものようにノロノロ。久しぶりの真鶴道路旧道、熱海ビーチラインを南下し、ひとまず熱海を素通りして上多賀のそば処・多賀(下右写真)で昼ごはん。11時昼食予定だったのが1時間半遅れ。古民家を移築したお店で、国道135号のすぐそばとは思えない落ち着いたたたずまい。と思ったら、お客さんが次々に来て慌しく、古民家を堪能するゆとりはない。天せいろそばはけっこうおいしかった。

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午後の熱海観光はキワモノ篇。まずは山の中をくねくね走って風雲文庫へ。「風雲」といっても、鄭伊健(イーキン・チェン)や千葉ちゃんが出ている映画ではない。蒐集物をひっそり公開している個人博物館である。いったいどのような博物館なのか知りたい方は、上述の『風雲文庫 カフカエスクな妄執の迷宮』をお読みください。おそらくこれにまさる紹介文はないだろうから(ただしこれを読んでしまうと、実際に見たときのインパクトはかなり緩和されます)。

こんなスローガン(下左写真)があちこちにあるところで、こんな五重塔(下右写真)で展示とキンキラキンの神社を見て、それから本館地下の「ヒーローの家」なる胡散臭い展示を見る。これだけの物を集めるのに要する情熱や財力を考えると、たしかにこれらがホンモノであるかニセモノであるかはどうでもいいような気になる。そもそもヒトラーのズボンなんかに興味ないしね。でも『資本論』の初版本は、ホンモノだったらかなり高そうだ。

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ここの館主はファシストで軍事オタクで権力志向と思われるが、そういった既存の枠組には収まりきれないところがあるようだ。「ヒーローの家」に入れてもらえた人は、ヒトラー、ムッソリーニ、ビスマルク、マルクス、レーニン、スターリンマッカーサー三島由紀夫と、思想の左右や職業では分類できない多様さだ。彼らがまさしく館主の考える「ヒーロー」なのか、それともたまたま遺品等を入手する伝手のあった人たちなのか、それとも蒐集物の真贋を問われにくい人たちなのかは不明である。残念ながら、蒋介石毛沢東の遺品も、北一輝とか大川周明とかの遺品もない。

ともかくも、ここで学ぶべきことは風雲の歴史などではなく、館主のディスプレイセンスである。名言の引用と独自のスローガン。それらが書かれた手書きのプレート。「豹は死して皮を残し/三島由紀夫は名を残す」と書いて、豹の毛皮を飾るセンス。「運命はこのように戸を叩く!」と書いて、『運命』のレコードを飾るセンス(実際に流れていることもあるらしいが、今日はBGMはなかった)。展示会を企画する人、ディスプレイやレイアウトの仕事に携わる人は、見てソンはないのではなかろうか。ただし1050円という安くない見学料が、右翼的な活動に使われるのではないかという懸念はある。サダム・フセインの遺品でも買うのならまあいいけれど。

ここの管理をしているおばさん(噂によれば館主の奥さん)は白い割烹着を着ている。それが単に彼女の普段着なのか、あるいは戦時下の清貧な母親像かなにかを象徴するコスチュームなのかは不明である。なお、五重塔は激しく寒く、地下室は妙な臭いが充満している。夏は夏でかなり苦しいことが予想されるため、気候のよい時期に訪問されることをお薦めする。

さて、笑いを噛み殺すのと展示物に圧倒されるのとに疲れて風雲文庫をあとにしたわたしたちは、この緊張を中和すべく、熱海秘宝館(公式)へと向かう。入場料は、風雲文庫よりさらにバカ高い1500円(クーポン使用)。カップルをはじめとする若い人たちで、なかなかにぎわっている。ボタンを押したり椅子に座ったりしないと秘宝が見られない仕掛けだが、わざわざボタンを押して、人形の股間を見てどうする。いまどきH系の情報や画像や映像は巷にあふれているというのに、案外みんな盛り上がっている。飲みながらの与太話で思いつくような、超低レベルの展示ばかりなので、そのアホらしさ、脱力感がウケるのだろう。

秘宝館を満喫したあとは、予定より1時間遅れの16時ごろ、本日の宿、大月ホテル和風館(公式)へ到着。思いがけのう庭に小さな露天風呂(下左写真)がついている部屋だったが、まずは大浴場へ。お風呂はいちおう3つあるが、全部同じところにあるので、結局ひとつと同じである。しかも岩風呂は冷たくて入れなかったので、広い内風呂と、いちおう外にあるが隙間のある板で壁と屋根をつけた高野槙風呂。

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晩ごはんは部屋食の懐石料理。料理の良し悪しは、まず前菜で判断する。ちょっと変わっていておいしくて苦手な食材がない(あってもおいしく食べられる)ときは、だいたいあとの料理もいい。その基準でいくと今回はかなりダメダメだったが、あとはそれほど悪くもなくて、全体としてはまあまあ。デザートのリキュールトマト(上右写真)がおいしかった。食事のあとは、『貴族の階段』[B1328]を読んだり、また大浴場へ行ったり、庭の露天風呂に入ったりする。

この旅館は、浴衣のサイズが選べたり、部屋に露天がついていたり、いまどきの和風旅館のスタンダードレベルだが、いまひとつ細かい心配りがないというか、特徴的なところ、ほかに比べて「この点はいいよね」というウリが見当たらない。大浴場が別の建物にあるなど、大月ホテル本館がホテル・ミクラスになる前の遺物がそのまま和風館にくっついているのも気になる。偏見かもしれないけれど、このあたりが熱海なのかも。

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