19-07-2009 (Sun) モノクロームの高雄からHONG KONG 1977へ
■[映画]『あなたなしでは生きていけない(不能没有你)』(戴立忍)[C2009-05]
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遅めに出京し、品川のエキナカで昼ごはん。それからJ先生は山へ芝刈りに、いえ、六本木へいづみさまを観に。わたしは川口へ、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭(公式)に行く。ほとんど埼玉県に行ったことのないわたしは、川口なんて遥か遠いところだと思っていたが、戴立忍(レオン・ダイ)監督の『あなたなしでは生きていけない』が上映されると聞き、調べたてみたら意外に近かった。
『あなたなしでは生きていけない』は、入籍していなかった妻が失踪して以来、ひとりで娘を育ててきた父親が、娘を学校に通わせるため戸籍登録しようとして法律の壁にぶつかり、次第に絶望していくというストーリー。身分証明書がないといえばアボルファズル・ジャリリの『ぼくは歩いてゆく』[C1998-16]が思い出されるが、少年本人が職を得ようと奔走する『ぼくは歩いてゆく』のほうがパワフルで明るかった。『あなたなしでは生きていけない』のほうは、とりあえず議員に頼んじゃったりするところがいかにも台湾っぽくておもしろかった。
といっても、この映画は、戸籍取得の問題を扱ったものというよりも、父と娘の深い絆を描いたものだ。世間との関わりをほとんど持たないふたりの日常生活では、父親、娘というだけでなく、互いに、母親、夫や妻、友人といったさまざまな役割をも演じている。戸籍問題によってふたりの穏やかな生活が脅かされはじめると、ふたりは、たったふたりだけで世界と対峙し、世界に向かって闘いを挑むパートナーの様相をみせはじめる。その姿は、微笑ましくも痛ましい。
無学な父親、李武雄を演じる陳文彬、娘の妹仔を演じる趙祐萱、そして武雄の友人を演じる林志儒は、いずれも映画初出演だそうだが、みんなすごくいい味を出していた。陳文彬は侯孝賢(ホウ・シャオシェン)を思わせる風貌で、林志儒は寺田農がとろけたみたいな雰囲気。妹仔は「この父親にこの娘が?」と思ってしまう利発そうなかわいい子だが、早く大人になることを余儀なくされる環境からか、時おり見せる大人びた表情が印象的だった。陳文彬と趙祐萱の父娘は、強い絆で結ばれながらも危ない雰囲気は感じさせないが(それでいいと思う)、監督の戴立忍が主人公を演じていたら、もっとヤバイ雰囲気になったかも。
主な舞台は高雄で、台北も少し出てくる。モノクロで撮られていて、ディジタルであるにもかからわず映像は美しかった。モノクロの台湾はほとんど見たことがないので新鮮である。主人公が住んでいる漁港は旗津だと思われ、対岸に東帝士85國際廣場がくっきりと見えていた。台北では、立法院と内政部警政署、總統府、それから忠孝西路の天成大飯店の近くの歩道橋などが出てくる。台北から高雄に帰る途中で風車が出てくるのは「またかよ」という感じ。シーンとしては悪くないが、台湾映画に風車はちょいと食傷気味。
總統府といえば、万策尽きた主人公がふらふらと總統府に向かっていくシーンがある。私服の警官がこの男を怪しいと思って密かに指示を出し、制服の警官が一斉に彼をとりおさえようとする。政府機関が集中するあのあたりでは、実際にこのような私服警官を何人も見かけたことがある。私服だけどすぐにわかってしまうので、一度目につくとだんだん気になってくる。行く先々で見かけたりすると、つけられているのではないかと不安になったりもする。ほんとうに怪しいと思われたらどうなるかを見せられ、リアルに感じると同時にちょっと恐くなった。
エンディングのクレジットを見たら、音楽を『時の流れの中で』[C2004-12]に出ていた蔭山征彦氏が担当していたが、音楽は過剰だったと思う。張作驥(チャン・ツォーチ)の映画みたいな感じだったらよかったのに。
上映後は、主演だけでなく製作・脚本も担当している陳文彬をゲストにQ&Aが行われた。特筆するような内容はあまりなかったが、モノクロにしたのは余計なものをそぎ落としてシンプルにしたかったからだと言っていた。陳文彬も戴立忍も、黒澤明が好きだというのにはがっかり。
■[映画]『ゴルゴ13 九竜の首』(野田幸男)[C1977-25]
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渋谷へ移動して、今週もシネマヴェーラ渋谷(公式)の「劇画≒映画」へ。J先生と合流して、野田幸男監督の『ゴルゴ13 九竜の首』を観る。あいかわらずガラガラ。
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千葉真一のゴルゴ13がすごい。わたしはゴルゴ13を知らないので、似ているかどうかは判断する術がないが、ゴルゴ13のかもし出す雰囲気がすごく劇画っぽくてよかった。なぜ劇画っぽいかというと、静止画だからである。ゴルゴ13は、各シーンで最初に登場したとき、ほとんど動かずしゃべらず、無表情な恐い顔で中空を睨んでいる。これがいい。もちろんずっとそうしているわけにもいかないので、やがて動いたりしゃべったりするのだが、そうするとだんだん千葉ちゃんっぽくなってきて魅力がうすれる。半端じゃなく濃い顔の造型やハデハデファッションも、徹底していてよかった。あと、「ゴルゴォォォ〜、ゴルゴォォォ〜♪」という妙なムード歌謡みたいな音楽も。でも、よかったのはそれだけ。ちなみに、「いい」といっても、かっこいいとか渋いとかではない。笑っちゃいます。
この映画を観ようと思った理由はふたつあって、軽いほうからいくと、ひとつめは鶴田浩二が出ているから。しかし、友情出演で登場シーンが少ないうえに、ひどくかっこわるい。最近、鶴田浩二出演映画を観るたびに、かっこわるい、かっこわるいと言っているようで恐縮だが、今回は年もかなり取っているし、活躍シーンがあるわけでもなくてほんとうに冴えない。本人はお気に入りだと思われる「戦後の日本になじめない戦中派」の役なので、ある意味思い入れたっぷりにやっているが、その演技が劇画タッチな全体の雰囲気に合っていない。
もうひとつの重要な理由は、この映画が香港ロケだから。90%くらい香港ロケで、70年代の香港が見られると思ってわくわくしたのに、これがまた冴えない。監督は、香港で撮るということにとりわけ興味がないのか、香港を魅力的に撮ろう、観客に香港を見せようという意欲がぜんぜん感じられない。いちおう澳門(マカオ)も出てきて、大三巴牌坊(聖パウロ天主堂跡)と大炮台(モンテの砦)が写ったけれど、それだけ。内容からいってもキャストからいっても、石井輝男が撮ってもよかった映画のように思われ、もし石井輝男が撮っていたら、もっとずっとイケてる映画になったに違いない。
内容的には、かなり台詞に頼ってぎこちなくストーリーが展開していき、いかにも原作のダイジェスト版という感じである。ストーリーにも人物描写に厚みがない。たとえば、宿敵であり、かつ味方ともいえるようなゴルゴ13に対する香港の刑事スミニー(この名前はいったいなんなの?)(嘉倫)の複雑な感情や、スミニーと林玲(志穂美悦子)との関係など、もう少しちゃんと描いてほしかった。それに悪役がみんな薄っぺらすぎる。
加えて、かなり問題なのは日本語吹き替えである。登場人物のほとんどは香港人で、あとはイギリス人やその他の西洋人、日本人。国際的な麻薬組織の話でもあり、イギリス統治下の香港だから、刑事は香港人でもボスはイギリス人だったりするし、外交官も関わっている。広東語と英語を中心に、その他の言語も入り混じってインターナショナルな雰囲気でストーリーが展開されているはずだが、映画はぜーんぶ日本語。ゴルゴ13は七ヵ国語を自由にあやつるらしいが、日本語しかしゃべっていなかったよ。吹き替えによってインターナショナルな雰囲気が失われるだけでなく、登場人物の大半を占める外国人俳優は、吹き替えの軽薄な台詞まわしによって、さらに人物に厚みが感じられなくなっている。吹き替え自体もかなりお粗末で、台詞の長さが合っておらず、台詞の途中で訳のわからない長い空白が入ったりしてほんとうにひどかった。
通りすがりの広島風お好み焼で晩ごはんを食べて帰る。「18時以降は映画を観ない、観るときは先にごはんを食べる」がモットーなのに、2週連続の夜映画で疲労困憊。
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